1-1 訪れる者
剣と魔法の世界 “イシュバーン”
イースタリ帝国、通称【帝国】の真ん中を流れる大河と大きな森を背に、その農村はあった。
農村の名は “ラープス”
肥沃な土地と緩やかに流れる大河、そして大きな森から取れるきのこ類や山菜、食用モンスターの恵みもあり、豊かに栄える。
また、帝都イースタリへの街道とも面しており、宿場村としても有名。
時折、森に現れる屈強なモンスターは、訪れたハンターや村常駐の帝国兵、村の自営団と協力して退治できるほど自治能力も高い。
いずれ、村から町へと格上げになると囁かれる裕福な村だ。
アロン、15歳。
ふわりとした金髪猫っ毛、くりっとした優し気のある紺の瞳。
同世代よりも背が低く、少し軟弱な印象があるが明るく活発な少年だ。
アロンは、この村に住む元帝国兵の父と農家の母の元で生まれ、2つ下の妹と共に4人家族で仲睦まじく暮らしながら学校へ行き、父や母の農業の手伝いをよく行う。
容姿は特に整っているわけではないが、明るく元気で、そして屈託の無い笑顔を向けて老若男女分け隔てなく接する高いコミュニケーション能力のおかげで、村人たちからの評判はすこぶる高い。
そんなアロンには、心に決めた女性がいる。
幼馴染の、ファナだ。
◇
「ねぇ、アロン。もうすぐ卒業だけど……卒業したら、貴方も帝都へ行くの?」
さらさらの茶髪の先端を胸元あたりで束ねて掴み、不安そうに尋ねるファナ。
サファイアを彷彿とさせる大きな青の瞳が少し潤んでいるようにも見える。
ただでさえ傍に居るだけでアロンの心は跳ね上がり、平静を装うので精一杯だというのに、そのように請われる表情をされてしまうと、例え帝都へ行くつもりでも『行かないよ!』と答えてしまいそうになる。
最も、アロンは帝都へ行く気など更々ない。
生まれ故郷のこの村で、父母と共に畑を守り、川の恵み、森の恵みを享受して次代に繋いでいく。
まだ若いが、ある意味達観した考えを持つアロンは、帝都へ赴き敵対する “聖国” や “覇国” との戦争に巻き込まれて犬死するつもりなど無い。
そんな英雄願望や、栄光の道など、興味が無い。
ただの村人として、ただただ、平和に生きていきたい。
それが、アロンという少年だ。
「ねぇ、どうなの? 貴方も他の男の子たちみたいに、帝都で兵士になって、武勲をあげようなんて考えているわけなの?」
平静を装うのに精一杯のアロンに、ズイッと近づいてなおも尋ねるファナ。
アロンは顔を真っ赤に染め上げて、横へと背ける。
上目遣いで眺められるのも耐えられないほど可愛げがあったが、こうも近づかれると平静という仮面が一気に剥がれ落ちそうになる。
そんなアロンをジトッと眺め、一つため息を漏らすファナ。
「はぁ。私ね。さっきリーズル君に告白されたの。」
背けたはずの顔が、バッ! とファナを見る。
呆れ顔のファナはさらに続けるのであった。
「リーズル君の前には、ガレット君。その前はオズロン君で……。」
「ス、ストップ! ストップ! ファナがモテるのは分かっている!」
制止するアロン。
その態度が気に入らなかったのか、頬をぷくりと膨らませてファナはアロンをじとりと睨む。
「で、皆言う事一緒なの。“帝都で名を馳せたら、結婚してください!” だってさ。」
うっ……、とアロンはたじろく。
自分には、その勇気が無い。
村に残る、英雄願望や栄光の道に興味が無い、というのは半分嘘だ。
本当は、勇気が無いからだ。
闘うのが、怖いからだ。
先ほどまで、緊張と興奮で心が跳ねあがっていたのに、今は喉から鉛を呑み込んだように心が重い。
「……で、ファナは、誰に応えたの?」
村で一番のイケメン、リーズルか。
それとも体力自慢の、ガレットか。
頭がよく、魔法の素養もある、オズロンか。
誰でも、美しいファナとはお似合いだなと思ってしまうアロン。
気を抜くと涙が零れそうだ。
だが、ファナは俯き加減でポツリと呟いた。
「……全員、断ったわよ。」
顔を真っ赤に染めるファナを眺め、「えっ……?」、と気の抜けた声が漏れてしまった。意外過ぎる答えに、アロンの頭は混乱している。
「どうして??」
そう尋ねるのが精一杯。
そんなアロンをキッと睨むように、ファナはその理由を答える。
「どうして?? 何で、そういう対象として見ていない人の気持ちに応える必要があるのよ! それこそ失礼じゃないの? 私は、ね。」
そこまで伝え、顔を真っ赤にして震えるファナ。
言葉を言いよどんでいる様子が、分かる。
ゴクリ、とアロンは唾を一つ飲み込む。
その様子を目の当たりにして、アロンの脳裏に過る過去。
度々この幼馴染ファナは、自宅でアロンの大好物のアップルパイを焼いてきては手渡してくれた。
そして、どう食べたか、感想はどうだったか、と本人でなく、妹のララに尋ねては一喜一憂していた。
ある日、アロンは食べ切ったアップルパイが盛られていた皿を返すと共に、手紙を付けたことがあった。
その内容は、変哲もない、ただ『ありがとう、美味しかったよ。ファナの作るアップルパイが世界で一番だよ。』と書いただけ。
そしてそれは、ファナにとって変哲でなく、ただ書いてあっただけの内容では無かった。
皿を手渡したその場で、豪快に開けられる手紙。
一文字一文字を、じっくりと眺め、そして全身を真っ赤に染め上げて、涙を流しながら自宅へ走り去っていってしまった。
“何か、やってしまった!?”
アロンは焦ったが、妹ララに『絶対、大丈夫』『お兄ちゃん、よくやった!』と喜ばれた。
事実、翌日には何事も無いように接してくるファナであった。
そして、ララから告げられた。
『ファナちゃん、あの手紙を一生大切にするんだってさ!』
何故、自分に彼女はパイを焼いてきてくれるのか。
いつももらってばかりで悪いと思い、感想を正直に、手紙にして渡した時の反応はどうしてなのか。
村で一番モテるはずのファナが、同世代の多くの男子の求愛を跳ねのけてアロンの前に立つのか。
何故、今、顔を真っ赤に染め上げて目の前にいるのか。
「ファナ。さっきの答えだけど……。」
心臓が張り裂けそうになりながら、アロンは紡ぐ。
「う、ん。」
「ボクは、帝都には行かないよ。若い人が皆、帝都に行っちゃったら、村は子供と年寄りばかりになっちゃうからね。父さんも母さんもまだ若いけど、畑のこと、河のこと、森のこと、色々教わらなくちゃいけないことがたくさんあるし。誰かが、この村を守っていかなくちゃいけないから。」
それが、アロンの結論。
帝都に行けば、確かに名声を得られるチャンスはある。
だが、同時に死の危険が付きまとう。
遥か太古から、それこそ何時から始まったのか、何故争うのか、その理由すらはっきり分からない三大国の戦争。
水際で守る兵士たちがいるからこそ、平和に、幸せに暮らせると理解するが、争いに必要となる物資もまた、生み出す人材が居なければ “国” として立ち行かなくなる。
『英雄は、大多数から数人しか生まれない。
だが、その大多数の支えがあるからこそ、英雄が生まれる。』
“英雄” になれず、傷を負って村へ帰って来た父の教えだ。
支える側として、村人の役目を全うする。
アロンは、若いなりにその人生を選択した。
「やっぱり……アロンは、アロンだね。」
涙をふき取り、笑顔を見せるファナ。
背に刺す夕暮れの西日も相まって、その美しさが栄える。
「ファナ!」
思わず、声が大きくなってしまった。
「な、なぁに?」
「ファナ! ボクは、君が好きだ!!」
アロンの耳元まで音が聞こえるほど、心臓が脈打つ。
全身が震える。だが、アロンは続ける。
「ファナ! ボクとずっと、この村で一緒に生きよう! そしてまた、あの世界一のアップルパイを作ってくれ! ボクは、それをララに言わせる前に、君に、美味しかったよって伝えるから!!」
言い切った。
だが、一生一代の告白で、“アップルパイを作ってくれ” とは図々しいもほどがある。
悔やむ、アロン。
もっと他に告げる言葉があったはず……。
その時。
「ファナッ!?」
アロンの全身を包む温もり。
顔を真っ赤に染め上げた、ファナがアロンに抱き着いた。
「アロン……私も、貴方が好き。……大好き。」
肩に、ファナの涙がボロボロと零れる。
だがアロンは、優しくファナを抱き寄せて、呟くように告げる。
「ずっと、大切にするね。ファナ。」
「うん……。アップルパイ。いっぱい、作るね。」
夕焼けに染まる空の下。
二人は結ばれた。
――――
アロンとファナが結ばれ、2年。
村に住み続けると決めたアロンは17歳となり、より一層仕事に励み、村に住む者にとって無くてはならない貴重な人材となりつつあった。
その隣に立つのは、村一番の器量持ちのファナだ。
二人は先日婚約しばかり。
婚姻の儀式は、村の教会で定期的に訪れる神官の来訪に合わせて執り行う予定だ。
“家庭を持つ”
ますますアロンは励むのであった。
「よぉ、アロン! 今日も張り切っているな!」
豪快な笑顔で声を掛けたのは、村一番の力自慢であるガゾッドだ。
むきむきの筋肉に日焼けした身体、そして頭はスキンヘッドだが、まぶしい笑顔と共にむき出しになる健康的な白い歯のコントラストが美しくさえも思える。
こう見えてもまだ25歳。日焼けした身体と風貌の所為か、40歳代にも見えるが至って本人は気にしていない。
「ガゾッドさん。ボクもいよいよ家庭を持つんだ。ファナに苦労は掛けさせたくないからね。」
畑仕事に木こり、モンスター退治にと精を出すアロンはこの2年で見違えるほど成長した。背丈も伸び、ガゾッドまではいかないが、全身に美しい筋肉が宿る。
「がははははは!」と豪快に笑い、ガゾッドはアロンの頭をガシャガシャと乱雑に撫でる。
「ちょっと! やめてください!」
「いいじゃねぇか! この前までナヨッとしていたのに、こんなに成長しやがって! 前も言ったが、春先になったらお前らの新居はオレに任せろ! 村で一番熱々の新婚夫婦に相応しい家をおっ建ててやるぜ!」
ガゾッドは村専属の大工でもあった。
コソッと、アロンに耳打ちする。
(夜のお勤めも、外に声が漏れないようにしてやるからな!)
ボワッと顔を真っ赤にするアロン。
「ちょっと、ガゾッドさん!?」
「がははははは! さぁ、仕事だ、仕事ぉ!」
――――
「超越者?」
その晩の夕食後。
元帝国兵だったアロンの父が、語り始めた。
「ああ。お前も間もなく家族を持つ。ならば知るべきだと思ってな。」
父は冷えた蒸留酒を一口飲み、告げる。
「お前も知ってのとおり、人は生まれながらに “適正” がある。」
「うん。12歳の時の “お告げ” だよね?」
“イシュバーン” では、12歳以上となった子供に対して “お告げの儀式” が行われ、そこで魂に宿るとされる “適正職業業” を見定められる。
それは、全部で8種類。
武器の扱いに長ける者。
武術に長ける者。
治癒や破魔に長ける者。
属性を操る魔法に長ける者。
魔物や獣を操ることに長ける者。
斧や槌といった重武器に長ける者。
強靭な肉体で防ぐことに長ける者。
薬草を駆使することに長ける者。
アロンは、武器の扱いに長ける者、“剣士” だった。
基本的に、この適正を見定めた後、その適正に沿って自身を磨くのが一般的である。アロン本人も、帝都に行く気はなくとも剣技を磨き、森の小型モンスターなら単独でも対処できるほどの腕前ではある。
再度蒸留酒に口を付けて、父は告げる。
「超越者とは、適正の先の領域へ辿り着いた者の総称だ。」
「先の、領域!?」
初耳である。
驚くアロンに頷き、父は続ける。
「私が帝国兵として働いていた時……たまたま懇意にした人物が、超越者だったのだ。何でも、帝国に物凄い人物が居るそうで、その者を探すために遠い国から流れてきた、と言っていた。」
木の器を右手に持ち、軽く揺する。
立ち込める蒸留酒の豊潤な香りを堪能し、アロンを見る。
「その者が言うには、8種の適正の先には、それぞれ3種の “上位職” が存在するそうだ。そこに、生まれながら辿り着いている者。……それが超越者だ。」
愕然となる、アロン。
即ち、この世界に生まれた人物は誰もが “平等” ではないという事実に他ならない。
例え村民でも、貴族でも、“お告げ” で得られる適正職業業は8種と決まっている。
それが世界の常識だ。
そこから努力し、生かすも殺すも自分次第。
さらに……。
「8種類の “お告げ” それぞれに、3種の上位種ってことは……それは、24種も存在しているということ!?」
「そうだ。」
“信じられない”
それが、アロンの正直な感想だ。
父はアロンの気持ちを汲みつつ、事実を述べる。
「私が会ったのは、“治癒や破魔に長ける者” 即ち、僧侶であった。……だが、その者は上位種であった。その与えられた適正職業は、司祭。」
目を見開く、アロン。
司祭とは、教会の催事を司る者で基本的に一つの村や町に、必ず一人は常駐する。
婚礼や大事な祝福などはその上位である神官が執り行うが、出産やお告げの儀式、葬儀は司祭の役割だ。
即ち、仕事としての役職。
“僧侶” や “魔法士” が就くことが多い役職だが……。
それが適正職業として存在するとは、思いもしなかった。
木の器の蒸留酒を飲み干して、父は呟く。
「まぁ、その者でも私の傷は癒せなかったのだが……。その者が探しているという【真の超越者】ならば、私の傷など立ちどころに治してしまうだろう、とのことだ。」
震えるアロン。
父が受けたのは、“聖国” との戦争で、敵兵に受けた “呪怨魔法” だ。
この魔法の厄介なところは、深い火傷のようにダメージが浸透するだけでなく、その痛みを直接脳に記憶させ、きっかけさえあれば思い起こさせることだ。
その痛みを思い出すと、動くことすらままならなくなる。
敢え無く、父は戦線を離脱することとなり、生まれ故郷のラープスに戻ってきた。
父が帝都へ出稼ぎに行っている間、母とアロン、妹ララとの3人暮らしであったため、アロンもララも喜んだが、当の父は自分の不甲斐なさでしばらく伏せていた。
それは、こうして今も根深く心に影を落としている。
その、父を救うような治癒魔法を【真の超越者】が使えるというとなると、可能性として浮かぶ事実は。
「……上位職よりも、上の職業があるってこと?」
「信じられないが、そういう事になるなぁ。」
木の器に蒸留酒をつぎ足し、父は答える。
「適正職業を司る、“善神エンジェドラス” 様のお導き。それは我々人の想像を遥かに超えるものである。何故、そんな適正職業があるのか……8種だけでなく、上位の存在もお赦しになられることがあるのか。あるいは、3国の戦争も……。」
“ああ、酔ったな”
父は、酔うと自身の思考を独り言で漏らしてしまう癖がある。
普段は寡黙な父であり、帝国兵時代も部隊を任される “百人隊長” だったが、寡黙さと生真面目さで、優秀な部下が先に昇進されることを許してしまった経過もある。
アロンは蒸留酒の入った陶器を手に持ち、席を立つ。
「父さん、お酒はここまでにしておこう。明日の朝も早いし、また二日酔いで母さんやララに叱られるのも嫌だろ?」
うぐっ、と硬直する父。
木の器に残った蒸留酒を愛おしそうに眺め「わかった」とだけ呟いた。
「おやすみ。父さん。」
――――
翌日。
いつも通り、畑仕事を終えたアロンが昼食のために自宅へ戻る、途中。
「君、ちょっといいかな?」
突然、背後から声を掛けられた。
バッ! と目を見開いて振り向くアロン。
そこに居たのは、見慣れぬ3人の男。
適正職業は、“剣士”、“僧侶”、“武闘士” と判別できる身なりと風貌だが、纏う装備品はアロンが今まで見た事が無いほど豪奢で、力強い “圧力” を感じる、どれも一級品であるように見えた。
この世界で、そんな装備品を身に纏う存在は、二者だけ。
貴族か、遥か上位の武勲者だ。
「し、失礼しました! 何なりと!」
慌てて膝を着き、頭を垂れるアロン。
貴族や上位の者には、最大の礼を以て尽くす。
それが、この世界の常識だ。
頭を垂れるアロンに、ニヤニヤと笑う3人の男。
「あはは。そんな畏まらなくて良いよ。村人君。」
村に常駐する司祭や、たまに訪れる神官よりも遥かに豪勢な白法衣を纏う僧侶の男が、目を細めて笑う。
頭にはズケットのような帽子を被り、手には煌びやかな装飾が施された杖が握られている。
「いいじゃねぇか、ソリト。こいつらはそう出来ているんだろ? やりたいようにやらせりゃいいんだよ。」
僧侶の男やや前。
細身の身体に黒ずくめの装束、青銀に輝くプレートアーマーを着ける軽薄そうな男……、武闘士というよりは、闇に紛れる “族” といった風貌の男がアロンを見下して告げる。
「そうだねぇ」と呟く、僧侶ソリト。
その二人を少し制する形で、剣士の男が口を開いた。
「まぁ、ソリトもブルザキもそこまでにしておきなよ。時間が勿体無い。」
「あぁ、悪かったな。レントール。」
剣士の男、レントールは膝を着き、アロンに尋ねる。
僧侶の男ソリトと同じような、白い装備。
真っ白の軽装鎧に同じく白のガントレットとレッグガード。
金の刺繍が施された白い外套を纏う、煌びやかな優男だった。
レントールは長い金髪をかき分けて、ほほ笑む。
「驚かせてごめんね? 実はボクたちは今日、この村に着いたんだ。」
その言葉で理解する、アロン。
彼らは、“冒険者” だ。
冒険者とは、帝国直轄の冒険者連合体に加盟して “ライセンス” が与えられた者たちの総称である。
特定モンスターの退治から素材採取、中には子供お使いのような “依頼” をこなしたり、自らモンスターが多く生息する危険地帯を探索したりする。
ライセンスがあれば、帝国内なら禁踏地以外どこでもフリーパス。
領地ごとに必要となる入領税の免除など、優遇措置が多い。
その代わり、国直轄の依頼は絶対である。
敵対する “聖国” や “覇国” との戦争に駆り出されることもあり、どんな内容であろうとも、名指しで依頼された冒険者は、受注しなければ問答無用でライセンスは剥奪されてしまう。
こうした優遇や条件のため、冒険者は粗暴な者が自然と多くなる。
そのため冒険者を指して “帝都の狗”、“荒くれ者集団” など揶揄されることもある。
そうかと言って、冒険者全般が “荒れくれ者” ではない。
中には特定の町村を拠点として専属ボディーガードのように勤める冒険者も居れば、人助けを専門とする勇者もいるのだ。
ただ全体的にみると、やはり “荒くれ者” が多い。
「冒険者様。ようこそ、ラープス村へ。」
跪きながら頭を下げるアロン。
目の前の冒険者、剣士レントールの頭よりも遥か下へ、と。
それは、目上の者に対する礼節というよりも、むしろ、荒くれ者から理不尽に因縁や暴力を吹っ掛けられることを避けてのことだ。
ここでトラブルを起こされても、敵うはずがない。
ならば、頭を垂れるなど雑作でもない。
そんなアロンの心情を察してかどうか分からないが、
「実は、この村の村長に用があって来たんだ。案内してくれるかい?」
柔らかな笑みで、レントールが紡ぐ。
顔を上げ、アロンは笑顔で「畏まりました」と応える。
丁寧で、物腰柔らかな剣士レントール。
それに対し、アロンを見下したように被虐的な笑みを浮かべる僧侶ソリトと武闘士ブルザキ。
ちぐはぐした、冒険者たち。
何か、得も言われぬ違和感を覚えるアロンであった。
――もし、この時にアロンが “違和感” を正確に判断できていれば。
未来は、変わったかもしれない。