表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/116

2-10 解放

「は?」


まばらに沸き起こる拍手の中、メルティは自分だけが世界に取り残されたような錯覚を起こした。


祭壇の上で神官に跪き、生まれ持った “適正職業” の鑑定を受けた “憧れの人” に告げられた職業は、平凡な基本職、剣士だというのだ。


神官は、神託と宣うが、使ったのは鑑定薬。

薬士のスキルで生み出せるアイテムで、任意の相手の職業を表示させる効果があるものだ。


鑑定薬を使ったこの儀式で、憧れのアロンが、剣士系最強 “剣神”(ディバインソード) だと告げられると、疑いもしていなかった。

彼こそが、VRMMO【ファントム・イシュバーン】で最強のアバターと称された、通称【暴虐のアロン】であり、メルティと同じ超越者(転生者)と、証明される。


―――はずだった。




「アロンはやっぱり剣士だったね!」


祭壇から降りてくるアロンに、満面の笑みで出迎えるのは婚約者のファナだ。


鍛錬用の木剣を握った姿が様になっていたアロンだから、神様から授かる職業は、きっと剣士だろうと予想していた。


「やった! オレと師匠、同じだ!」


同じく笑顔で出迎える、自称弟子のリーズル。


彼もまた、剣士を授かった。

かつて命を救ってくれた偉大なアロンと同じ適正職業を得られた事にリーズルは心底嬉しそうだ。


このように、すでに鑑定を受けた子どもたちは小声ながらも話を弾ませる。

同じ職業だった者、相性の良さそうな職業同士の者、それぞれが得た職業について夢を膨らませるのだ。


儀式も終盤。

弛緩した空気が流れる、その時。



「嘘よっ!!!」



メルティの怒声が響いた。


静まり返る聖堂内。

鑑定を行っていた神官も、これから神託を受けるために跪いていた子も、思わずメルティへと振り向いた。


メルティは、ズカズカと足音を立てて、アロン達の許へ近づく。


その形相と気迫。

思わずリーズルは道を開けてしまい、ファナは険しい顔でアロンの腕にしがみ付く。


「メルティ。儀式の途中だというのにどうしたの?」


ただ一人、アロンだけは平然と尋ねる。

メルティは歯を食いしばり、拳を握りながら真っ直ぐアロンを睨んでいた。


「貴方が、ただの剣士!?」


責め立てる言葉。

その言葉を聞いて、周囲の子どもたちは一瞬ポカンとしたが、すぐに、クスクスと笑い始めた。


それは、イシュバーンに住む者たちにとって “意味を成さない問い” だからだ。


適正職業は “善神エンジェドラス” によって全ての人間に授けられるもの。

それは生まれながら備わっており、12歳を迎える年の神託の儀によって、明らかにされるもの。

その職業は、全八種であり、それぞれ役割や得手不得手が存在する。


同じ職業同士で、優れた者、劣った者は必ずいる。

しかし、職業間で “どれが優れた職業か” は無い。


ましてや、神からの授かりものである適正職業に異を唱えることは、この世界ではタブーどころか失笑ものの発言であるのだ。


人の誕生日や星座を尋ねて『そんな馬鹿な、そんなはずは無い』と指摘するほど、おかしな言葉だ。



「ただの、剣士? 剣士は剣士じゃないの? 何を言っているんだい、メルティ。」



間もなく12歳の子どもらしく、そして元よりイシュバーンの住人であるアロンは呆れたように、メルティへ尋ねた。


そこで変に冷静に反論したり返答したりすれば、元の木阿弥、せっかく “アロンが施した適正職業の神託の儀を欺く作戦” が台無しになる可能性があるからだ。



もちろん、アロンは “ただの剣士” ではない。


本来得ている職業、このイシュバーンへ転生した時に与えられたのは、ファントム・イシュバーンでの職業、剣士系最強 “極醒職” 【剣神】なのだ。


それがこの儀式で明らかになれば、大混乱となる。

職業に “神” が名付くなど、前代未聞だ。


“良くて皇帝直属の兵”

“最悪は神の名を騙る悪魔として処刑”


イシュバーンの世界に舞い戻ったのは、理不尽によって失うことになった最愛のファナ、家族、村人たちを守ること、そして “選別” と “殲滅” によって、イシュバーンに蔓延る害虫のような超越者(転生者)を間引くためだ。


それにも関わらず、持ち得た職業が目的に対して障害となっては元も子もない。


そこで、この場だけでも切り抜けること。

つまり、周囲や鑑定する神官の目を欺くことだ。


それを可能としたのが、ファントム・イシュバーンから持ち込んだアイテムだ。


その名も、“転職の書”


ファントム・イシュバーンでは、アバターにとって必須アイテムであり、ありふれたアイテムの一つだ。


入手方法は、冒険を進めることによって手に入る “確定分” と、 “幻想結晶” を使用した “課金アイテム” のどちらかだ。


“幻想結晶” は、貴重なアイテムや武具、スキルの書などが手に入る可能性のある、“ガチャ” と呼ばれる、くじ引きのようなシステムを使う(回す、と言う)のに必用となる。


冒険を進めることや、所属を “聖国” にすることで定期的に入手できるが、最も簡単なのが、“課金” だ。


課金アイテムとは、この “幻想結晶” を数個~数十個使うことで入手できるアイテムを指した用語である。


“転職の書” を使えば、基本八職ならいつでも変更可能。

ただし、レベルは下がることは無いが、JP(ジョブポイント)やスキルは引き継がれない。

また元の職業に戻れば、得たJPやスキルはそのままの状態へと戻れるが、全く新しい職業だと、一からJP稼ぎを行わねばならない。


加えてゲーム上システムで、レベルが上がるほど、入手できるJPが目減りする。


例えば、討伐危険度Gランクのフォレストラビットをレベル1のアバターが倒すと、得られるJPは500であるが、レベルが10上がるごと、10%ずつ減少する。

レベル10の者だと、JPは450。

20の者だと405、と……。


強いモンスターであればあるほど、得られるJPが高く、この減少分も強さに応じて5〜10%とモンスターごと設定されている。

しかし強いモンスターと対峙する時は、総じて高レベルのため、最初から目減りした状態になってしまう。


ただしJPは、同じく敵を倒すことで得られる経験値とは違い、パーティーを組んで敵を倒しても、得られる数値は変わらないのである。


例えば6人でパーティーを組んだ状態で敵やモンスターを倒すと、得られる経験値は均等に6分の1となるが、JPはそれぞれのレベルに応じた分量が振り込まれる。


つまり、JP稼ぎはパーティープレイがお得なのだ。

しかもレベルの低い者であれば経験値分散でレベルが急激に上昇することなく、効率よくJPが稼げるので、新規プレイヤーを低レベルで上位職へと底上げさせるプレイヤーも居たりする。


“養殖” と呼ばれる行為だが、早く強くさせるには非常に効率的なやり方になる。


そして、スキルを全てレベルMAXにすることで、ジョブマスターと呼ばれる状態となる。

この状態で “転職の書” を使用することで、基本職なら3つある上位職のどれかへの転職、上位職なら他の2つの上位職に、そして3つの上位職を全てジョブマスターにした時に使用すれば、覚醒職への転職が可能となる。


そして、誰もやらないが……。

“逆” も可能だ。


つまり、上位の職業から下位の職業へのランクダウンが出来る。

その場合、得たJPやスキルが消えることは無いが、上位の職業のスキルは扱えなくなる。


単なる、戦力ダウンでしかないのだ。


もちろん、JPが得難い状況でも構わないという覚悟があるなら、違う基本職系からやり直すことも可能だ。


例外は、最強職である “極醒職” になった場合。


他の基本職系への転職が不可能となり、転職できるのは、同じ基本職系の上位、覚醒、そして基本職だけとなる。


アロンは、極醒職の “剣神”

つまり、転職の書を使って変更可能な職業は、連なる剣士系に限定されてしまっている。


だが、現実のイシュバーンで、この儀式を欺くには何の問題も無かった。


アロンは、ファントム・イシュバーンで得た書物スキル【装備換装】で、“転職の書” も持ち込んだ。

即ち、極醒職 “剣神” から、基本職 “剣士” に変えて、この儀式に臨むことを予め想定していた。


その結果、単なる “鑑定薬” では転職後のアロンの職業しか見ることが出来なかった。



尤も、その上位スキルで生み出すクリエエイトアイテム “上級鑑定薬” を使われると、職業に加えて、現在の6つのステータス値も暴かれることとなる。

つまり、職業だけ変更しても、レベル130のアロンが振り分けた780ものステータス値が暴かれる可能性もあった。


前世でもこの儀式を経験したアロン。

そしてファントム・イシュバーンの経験から、儀式は “鑑定薬を使ったもの” と予想は出来た。


問題は、何の鑑定薬を使われるか、だ。


鑑定薬の種類は、全3種。

職業だけを見る、鑑定薬。

職業とステータス値、現在のHPとSPを見る、上級鑑定薬。


そして、職業とステータス値、ATK(攻撃力)などや扱えるスキル、正規装備品までも明らかにする “神眼薬” がある。


あとは例外的なアイテムとして、ギルド戦での大人数プレイヤーバトル “攻城戦” での敗者側のギルドへ配られる “敵対鑑定石” がある。

しかし、入手条件が “負ける事” で、使えても一人に対して一個と効率が悪い。


後は、薬士系の覚醒職 “狂薬師” が作り出せる “愚者の石” がある。

一度使えば、一定時間、一人と言わず目視できる範囲内に限り “神眼薬” と、ダンジョン等のフロアマップが表示されるアイテム “探求の地図” の効果が得られる。

その代償として、効果発動時間中は被ダメージが2倍になるという特殊な状態異常が発生してしまうのだった。


“神眼薬と、あとの二つは、絶対にあり得ない”

そう判断したアロンが警戒したのは、上級鑑定薬。


それすらも欺くために使用したアイテムが、“数値初期化の書” であった。


使用すると、振り分けたステータス値が、一旦全て1に戻り、レベルアップによって得たステータス値をもう一度振り直す事が出来る課金アイテムだ。


ファントム・イシュバーンの中で、最も “幻想結晶” を要する課金アイテム。

つまり、一番高価なアイテムなのだ。


数値初期化の書と転職の書。

アロンはそれぞれ30冊ずつ持ち込んでいる。


まず、アロンは転職の書で職業を剣士にした。

続いて、数値初期化の書で、一旦全てのステータスを “1” に下げて、6つある項目をそれぞれ “5” まで上げた。

一般的な12歳ならそれくらいが妥当では無いか、と根拠のない判断であったが、あながち間違いでも無かった。


しかし、上級鑑定薬が使われないと判明した後は、メルティの件もあったため、全てのステータス値を元に戻したのであった。



これが、アロンの擬態(・・)の全てだ。

当然、メルティにはそんな擬態のことなど、想像すら出来ていない。


ファントム・イシュバーンをやり込んだ彼女は “転職の書” も “数値初期化の書” の存在をもちろん知っている。


しかし、ファントム・イシュバーンへの転生の際、バッグと倉庫のアイテムは全て消えるというミスリード、思い込みから、まさかアロンが【装備換装】でアイテムを持ち込んでいたなどと、夢にも思わない。



結果、彼女が下した判断。



「……偽物。」


憎々しい表情のまま、呟いた言葉。

意外な言葉で、アロンも怪訝な表情となってしまう。


「はい?」


「お前は……アロン様を騙る、偽物。私を欺き、ここまで、惑わした、偽物ね。」


見る見る、メルティの表情が能面のように冷たく、落ちていった。


「意味が分からないな。前から言っているけど、君は一体、なんなんだい?」


「黙れ! 偽物!」


叫ぶ、メルティ。


“裏切られた”

“騙された”


ドス黒い感情が身を焦がす。

能面から、憤怒の表情に様変わりした形相に、周囲の子どもたちが距離を置いた。


チッ、と舌打ちをして、メルティは再び静かに紡ぐ。


「……滑稽だわ。この私が、お前のようなNPC(モブ)に振り回されていたなんて。この素晴らしい人生の汚点だわ。」


そして、アロン、ファナを睨みながら口角を上げる。



「汚点は……雪がなくちゃ、ねぇ。」



ゾワリ、と周囲が震えるほどの悪寒。

メルティの全身から溢れる、殺意。


その時。


「メルティ、メルティ! いないのか?」


神官が、呼ぶ。

いよいよ、儀式も最後。

メルティの番となった。


「ここにいるわ。」


苛立ったまま、メルティは神官が立つ祭壇へ向かった。


「……どうした、神聖な儀式ぞ? 跪きなさい。」


神官の目の前で立ったままのメルティに、憮然と告げる神官。

だが。


「うるさい。すぐ、そんな口が利けなくなる。さっさと鑑定しなさいよ。」


神聖な儀式を司る、帝国各地を回る偉大な神官に対する尊大な物言い。

何を言われたか一瞬理解出来なかった神官が、見る見る顔を真っ赤に染め上げた。


「な、何たる無礼な! それで、神託が授かると思っているのか!?」


大声を上げる神官に、はぁ、と溜息を吐き出す。


「馬鹿じゃないの? いいから、さっさとしてよ。……殺すよ?」


あまりの言葉に、唖然となる。

目の前の美しい少女らしからぬ、暴言。


神官は、手を広げて言い放つ。


「お、お前は! 悪魔の子か!? 良いだろう、その正体、私が暴いてやろう!」


だが、すぐさま神官の顔が青褪めていく。

「あ、あ、あ、」と震え声をあげる。


「どう? 見えたのでしょ、私のこと。」


暗い笑みを浮かべ、メルティが紡ぐ。

神官は震えたまま、呟いた。



「ま、魔聖……?」



その言葉に、はん、と小馬鹿にした笑みを零す。


「そんなダサい言い方やめてよ。“魔聖”(スペルマスター)、それが私の職業よ。」


メルティ達のやり取りに、子どもたちもざわつく。

“魔聖” などと、聞いたことが無い言葉であったからだ。


だが、アロンだけは理解した。



(やはり。……確定か。)



メルティは、転生者。

それも、このイシュバーンを “ゲーム” と言い放つ。

他者を、NPC(モブ)と呼ぶ。


見た目は、可憐な少女。

前世も知る、クラスメイト。



だが、その正体は、害虫(転生者)であった。



「くふっ、あは、あはははは!!」



突然笑い出す、メルティ。

激しい感情の起伏、悍ましい殺意。

女の子の何人が、余りの恐怖で泣き出した。


「解けた、解けた、解けたぁ!!」


目と口を大きく開き、叫ぶメルティ。

その意味は、アロンだけが分かった。



(年齢補正中……制限されていたステータスとスキルが、解放されたか。)



くるり、とメルティは祭壇の上から、クラスメイト達を眺める。

その目線の先は、アロンとファナだ。



「よくもぉ……私を、散々コケにしてくれたわね? モブ共が。」



“バチバチ”、とメルティの右手に電撃が走る。

「ひい!」と叫び、腰を抜かして倒れこむ神官。

メルティは神官を見下し、


「邪魔。本当に殺したくなるわ、モブめ。」


吐き捨てた。

その言葉で、這いずるように逃げ出す神官。


常軌を逸脱した光景に、子どもたちもパニックになる。


「に、逃げろ!」

「あいつ、何かするつもりだ!」


メルティの異様な雰囲気を察し、逃げ出す。

その中、アロンだけがメルティを睨む。


「……メルティ。君は今、何をしようとしているか理解しているのか?」


「ふふふ……モブが何を言おうが私には関係ない。この世界、私のような人材は少ないのでしょ? 世界が求める存在を前に、有象無象が多少消えようとも、些細な事よ。」


もはや、正気ではない。

右手に迸らせる青い電撃が、見る見る大きくなる。


そこに、


「メルティさんっ!?」


教員のアケラが駆け込んできた。

教え子たちの神聖な儀式だからと聖堂の外で待っていたのだが、勢いよく逃げ出す子どもたちから異常事態だと察し、駆けこんできたのだ。


そこに居たのは、見たことも無い凶悪な魔力を迸らせるメルティ。

目の前に相対しているのは、アロンとファナ、そしてリーズルとガレット、オズロンであった。


「ああ、先生……いや、もはや私にとって教員でもなんでも無いわね。」


冷たく言い放つメルティに、愕然となる。

病気(・・)になる前は、明るく物腰柔らかく、クラスの中心人物であった彼女。成績も優秀なまさに理想的な優等生であったメルティらしからぬ、言動。


「や、やめなさい……メルティ、さん。」


「あら、先生まで私をコケにするの? 教師だからって、見下しているんじゃないよ、このアマァ!!」


『バチチチチチチチチッ』


右手を突き出すと同時に、放たれる青い雷。

その雷は真っ直ぐ、アケラ目掛けて飛んできた。



『ズガンッ!』



「うわあああああっ!」

「きゃあああああ!!」


迸る青白い閃光。

その場に居た、全員が目と身体を伏せる。


だが、全員、無傷。


「ア、アロン!!」


その電撃は、アケラの前に飛び出したアロンに直撃したのであった。


ブスブス、と黒い煙がアロンの身体から立ち昇る。

だが。


「いててて。さすがに、痛いな。」


一張羅は顔面の前に交差して突き出した両腕の部分がはじけ飛んだ、だけだ。


身体は、まるで無傷。


「え?」


唖然とする全員。

特に、魔法を放ったメルティ自身も呆然となる。


「先生。」


アロンは振り向きもせず、後ろにいるアケラに声を掛けた。


「ファナ達を連れて、外へ逃げてください。ボクが、時間を稼ぎます。」


その言葉、アケラだけでなくファナ達も驚き戸惑う。


「な、何を言っているのアロンさん!?」

「ダメ、ダメよ、アロン!」

「師匠っ!?」


だが、笑顔で振り向くアロン。

にこやかに、ファナ達に告げる。


「大丈夫です。任せてください。」


それでも、了承など出来ない。


躊躇するファナ、そしてアケラやリーズル達を眺め、アロンは頷く。

それは、改めて “覚悟” したからだ。



「……これは、皆には内緒にしていてください。」



そう言い、アロンは右腕を、“トプンッ” と空中の何も無いところに、腕を突っ込んだのであった。


「えっ!?」


歪む空中に溶け込む、アロンの右腕。

そこからアロンは、一冊の本と、鍛錬用の木剣を取り出した。


「え、え!? それ、どこから取り出した!?」


最も勉強ができ、最も常識人のオズロンが目を丸くさせる。

脳みそ筋肉のガレットも、あまりに非常識な光景に口をポカンと開けて驚く。


リーズルも、ファナも驚きのあまり声が出ない。



ただ一人、メルティだけが理解した。



「何でっ、何でよ。それ、次元、倉庫……?」



アロンはメルティを無視するように、本を開いた。

すると本がボヤッと光り、アロンを包んだ。


同時に、本がボロボロと朽ち果てる。


「さて。」

アロンは木剣を構えて、メルティに向ける。



「覚悟はいいか、メルティ。」



震えるメルティ。

すぐさま自身も右手を空中に突っ込んだ。


そこから取り出したのは、メルティの父からくすねた魔石を取り付けた、自作の杖であった。


「メ、メルティも……?」

「一体、どうなっているんだよ!」


非常識な光景。

しかし理解できる事。


アロンは、メルティを止める気だ。


「ファナ。」


改めて、今度はファナに声を掛けるアロン。


「ボクを信じて。皆と一緒に逃げてくれ。」


ギュッ、と両手握りしめるファナ。

“一緒に逃げて欲しい” が、異常な雰囲気のメルティがいる。


先ほどの魔法、突然使えたにしては、慣れた様子。

しかもその威力は、見たことも聞いたことも無いほどだった。


つまりメルティは、この場の誰よりも強く、危険。


それでも、アロンは生身でその魔法を止めた。

――アロンもまた、強い。



“やっぱりね”



絶体絶命の場面にも関わらず、ファナは笑顔で紡ぐ。


「うん。アロンに、任せるね。絶対、無事に戻ってきてね。」


「ああ、任せろ。」


アロンはメルティを見据えたままだから、表情は分からない。

だが、間違いなく笑顔だ。


「……帰ったらアップルパイ、焼くね。」

「ありがとう、ファナ。楽しみにしているね。」


ファナは未だ呆然とするアケラの腕を引っ張り、リーズル達の顔を見る。


「行こう! アロンの邪魔をしちゃいけない!」


「ファナさん!? 何を言っているの! アロンさんも逃げるのよ!?」


叫ぶアケラだが、その腕を掴むもう一人。

リーズルだ。


「先生。ここは師匠に任せましょう。おら、行くぞガレット、オズロン!」


リーズルはアケラを引っ張るように出口へと向かわせる。

そのリーズルに合わせて「あ、ああ。」と恐る恐る同意するガレットとオズロンであった。


「逃がすか、ファナァ!!」


メルティが自作の杖に魔力を籠め、今度は炎の魔法を放った。


「“シールドオブイージス!”」


しかし、同時に動いたアロンがその炎を木剣で弾き返すと、まるで紙屑のように霧散した。


「なによ、それぇ!?」


両目が血走り、叫ぶメルティ。

そのように魔法が防がれるなんて、意味が分からないからだ。


アロンは木剣を構え直し、メルティを睨む。



目の前にいるのは、クラスメイトでは、無い。

このイシュバーンに蔓延る、害虫の一人だ。



改めて、アロンはメルティに告げる。



「覚悟はいいか。……超越者(転生者)。」



前世、絶望と失意、そして憎悪を胸にファントム・イシュバーンへ移り渡り、絶大な力と武具を持ってイシュバーンへ再度、転生したアロン。


この日、その全てが “解放” された。


“選別” と “殲滅”

その二つで、超越者を間引く。



後に【暴虐のアロン】と呼ばれる男が、全てを解放させる、始まりの日となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ