2-7 選別と殲滅
『ガーン、ガーン、ガーン……』
長めにならされる、鐘の音。
夕暮れに包まれるラープス村に響き渡った。
「おやぁ、もう大丈夫ってことかい。」
怪訝そうに、しかし笑みを浮かべて老婆は呟いた。
自宅の中に招き入れたファナとララに手伝ってもらいながら、ドアに立て板を取り付けようとしたところ、その鐘の音を聞いて板を壁に立てかけた。
「おばあさん、もう大丈夫って?」
ファナが不安そうに尋ねると、老婆はニコニコと笑顔になって頷いた。
「村の危険が無くなったってことさ、お嬢ちゃんたち。心配掛けちまったね。」
老婆は家のドアを開けた。
間もなく日が南から西へとそびえる霊峰に掛かり、夜が訪れる。
その前の、赤と橙のコントラストが映える夕暮れが広がっていた。
「さぁ、もう大丈夫だからお家にお帰り。」
「ありがとう、おばあさん!」
ファナとララは何度も頭を下げて、老婆にお礼を告げた。
そこに、
「ファナ! ララ!」
駆けつける、一人の少年。
その声、その姿を感じて、ファナとララは満面の笑みで紡ぐ。
「アロン!!」
「お兄ちゃん!!」
二人も駆け出して、アロンへ飛びつく。
小さい身だが、同じ年の少女と、背の低い妹を何とか受け止めた。
「もう、どこへ行っていたのよ!」
笑顔だが、涙目で怒るファナ。
隣のララも顔をグシャグシャにして泣き出しそうだ。
「ごめんごめん。ほら、鐘の音が聞こえてないお年寄りがいたかもしれないだろ? 鐘が鳴ったぞ! って外の人たちに報せたんだ。」
事実、15歳で教えられる鐘の意味。
同時に、それが聞こえない、聞こえにくい場所もある。そこに耳の遠い年寄りが居たら、報せてやるのも村人同士の “助け合い” だと教わるのだ。
だが、基本は “自分の身は、自分で守る” が鉄則。
危機を察したら、助け合いよりも自身を優先させよとも、叩き込まれる。
「アロンが、そんな事をしなくても……でも。」
瞳に涙を溜め、顔を赤らめながらファナは告げる。
「そんな優しいアロンが、大好き。」
ギュッ、とアロンを両腕で抱きしめる。
アロンも、ファナの無事を噛み締めるように優しく抱きしめた。
それが少し面白くない、妹。
「もぉー! ファナちゃんも、お兄ちゃんも、私も無事で良かった!」
そのまま、アロンとファナごと、短い腕で抱きしめるララに、アハハハハ、と笑い声が響く夕暮れとなった。
◇
(さて、やる事が多いな。)
母リーシャと妹ララが寝静まった深夜。
アロンは久々に、夜を起きていた。
三歳児の頃は辛かった夜更かしであるが、11歳にもなると多少は平気だ。
それでもまだ幼い身体、無理はしたくない。
アロンは母と妹の様子を確認した後、次元倉庫から装備を取り出した。
そして、ステータスを確認する。
―――――
名前:アロン(Lv24)
性別:男
職業:剣 神
所属:帝国
反逆数:なし
HP:162,600/162,600(+20,000)
SP:20,670/20,670(年齢補正中)(+20,000)
STR:1 INT:1
VIT:139 MND:1
DEX:1 AGI:1
■付与可能ポイント:0
■次Lv要経験値:7,660
ATK:18,035(年齢補正中)(+18,000)
MATK:5,035(年齢補正中)(+5,000)
DEF:1,795(+800)
MDEF:818(年齢補正中)(+800)
CRI:20%(年齢補正中)(+20%)
【装備品】
右手:神杖剣ヴァジュール
左手:なし
頭部:なし
胴体:守眼の首輪LX
両腕:守眼の腕環LX
腰背:布の腰巻
両脚:布の服(下)
【見た目装備】
右手:なし(正装備品表示)
左手:なし
頭部:黒頭巾
胴体:黒装束(上)
両腕:なし(正装備品表示)
腰背:黒装束の帯
両脚:黒装束(下)
【職業熟練度】
「剣士」“剣神(GM)”
「剣士」“修羅道(JM)” “剣聖(JM)”
「武闘士」“鬼忍(JM)” “武聖(JM)”
「僧侶」“魔神官(JM)” “聖者(JM)”
「魔法士」“冥導師(JM)” “魔聖(JM)”
「獣使士」“幻魔師(JM)” “聖獣師(JM)”
「戦士」“竜騎士(JM)” “聖騎士(JM)”
「重盾士」“金剛将(JM)” “聖将(JM)”
「薬士」“狂薬師(JM)” “聖医(JM)”
【所持スキル 72/72】(年齢補正中)
【内、使用可能スキル:6/72】
【剣士】
スラッシュ
クイックオクス
パリィ
バーンスラッシュ
剣士の心得
【剣闘士】
剣闘士の心得
【書物スキル 4/4】
1 永劫の死
2 次元倉庫
3 装備換装
4 ディメンジョン・ムーブ
―――――
(よし。)
さらにアロンは、背中の皮袋の中に “サンダーシェル” を3つ、そしていざと言う時のための、“ハイキュアポーション” を2つ入れた。
いくら、“デスワープ” があると聞いていても、攻撃を受ければ痛みがあるだろうし、万が一、死にきれなければ発動せず、帰ってこられないかもしれない。
――むしろ、本当に “デスワープ” そのものが発動することに懐疑的なアロンであるのだ。
アロンをファントム・イシュバーンの世界へ転移させたこと、そして再度イシュバーンへと転生させた “神力” のある御使い達の事は信頼できるが、試したいなど思わないのであった。
アロンは、片目を瞑ってディメンション・ムーブの視覚効果を確認した。
それは、攻撃を当てたカイザーウルフの様子だ。
サンダーシェルで怯んだカイザーウルフに投げ当てた小石こそ、アロンの攻撃。
そして、映り出す光景。
想像通り、ブルーウルフの生息地よりもさらに奥深いところで、配下にしたブルーウルフを侍らせ、身体を休めるカイザーウルフであった。
(本当の縄張りはもっと奥だろうけどね。)
“邪龍の森” のカイザーウルフは、本来、森の最奥付近にいる。
だが、一夜でその縄張りまで辿り着くことは無い。
むしろ、巨大かつ素早いカイザーウルフであったとしても、順調で10日は掛かるほど奥地なのだ。
基本的に、屈強なモンスターは縄張りの外へ出ることが無い。
そのため、“邪龍の森” の手前は脆弱なモンスターの巣窟であるため、ファントム・イシュバーンの世界では “ハズレダンジョン” など揶揄されるのだ。
だが、実際は “まともにプレイしていたら奥地には辿り着かない” ことを、アロンは知っている。
チュートリアルでしか出ないような脆弱なモンスターを払い除けながら奥へ進むと、うんざりするくらいの物量で襲い掛かってくるブルーウルフの群れが出迎えてくる。
このブルーウルフが曲者なのだ。
“森の臆病者” は、出会えば集団で襲い掛かってくるが、一匹でも倒されるとすぐさま逃げの一手を取る。
それを追いかけると、まるで森の外へと誘導されるように、ラープス村の手前まで来てしまう。
広大な邪龍の森の、厄介者払い。
それがブルーウルフであった。
だが、そのブルーウルフを上手く殲滅することが出来れば、さらに奥まで進める。
それこそ、ハズレダンジョンと呼ばれる邪龍の森の、真の姿を露わにするための条件であったのだ。
そこから先。
討伐危険度BやAといったモンスターが蠢く、まさに “邪龍の森” と言わんばかりに、森は突如として牙を剥き始める。
それを掻い潜り、さらに奥へと進むと。
“番人” のように、カイザーウルフが鎮座している。
それも、群れを成して。
“聖国” にある “マルコシアスの迷宮” の主であるカイザーウルフが、まるで雑兵扱い。
それも当然。
その奥に居るのが、かの “邪龍” なのだから。
(さすがにカイザーウルフの群れは相手に出来ない。)
討伐危険度Aランク。
集団討伐推奨レベル250。
これがカイザーウルフの個体の評価。
“邪龍の森” の最奥には、それが群れを成して、嵐のように襲い掛かってくる。
普通のパーティーなら、一瞬でデスワープが発動するだろう。
だが、それを超えたのが【暴虐のアロン】だ。
今は11歳、それも “年齢補正中” という制限が掛かる身。
――いずれは、とも考える。
しかし、今、やるべき事は別だ。
(作戦、そして予想通り。……あとは。)
――殲滅する。
アロンは静かに、心の中で唱えた。
(ディメンション・ムーブ)
◇
『グルルルル……。』
森の隙間。
青白い月明かりに照らされて、カイザーウルフは寛いでいる。
それは、明日の “狩り” に備えての、休息だ。
カイザーウルフは、群れの “斥候” であった。
天敵たるライトニングディアの気配が消えたことを受け、群れの “長” の命により、怨敵の生死の確認と、長年触れずにいた森の先への探索を行っていたのだ。
数年掛けて徐々に範囲を広げ、矮小なブルーウルフの群れを傘下に収めた。
聞くと、さらに北へ向かった先に、人間の集落があると言うではないか!
“人間の身は、旨い”
遥か昔、縄張りへ迷い込んだ人間の群れを蹂躙し、噛み砕いた時の、得も言えぬ旨さ。
味を占め、仲間たちと共に人間の集落を襲おうと提案した。
しかし、それを長が止めた。
何でも、最奥に居る “番人” がその事を良しとしなかったという。
“邪龍”
いや、腰抜け。
そんな腰抜けなど、若いカイザーウルフにとってどうでもよかった。
ただ、大恩ある長の命だ。
その時は大人しく従った。
が、今は違う。
この群れの “長” は自分だから。
人間と遭遇することに期待を込めて。
ブルーウルフを率いて北へ北へと進んだ。
そして、遂に人間の群れに出会ったのだ。
それらは、生意気に刃を向けてきた。
傘下のブルーウルフに、狩れ、と命じた。
刈り取られた命は、本来、刈り取った者にその権利が与えられる。
だが、この群れの長はこのカイザーウルフなのだ。
殺した端から、美味たる人間の肉を味わう。
その光景を想い、悦に入っていたところ、
迸る閃光と、爆音。
かのライトニングディアを彷彿とさせる、雷の力。
躰は縮こまり、本能が “逃げろ” と叫んだ。
“帝王” たるカイザーウルフに有るまじき、撤退。
だが、やむを得ない。
生涯で初めて受けた衝撃であったからだ。
しかし、この場で冷静に自分自身と配下を確認するが、特段、攻撃を受けた痕も無く、単なるこけおどしであったと理解した。
ならば、再度人間の集落へ向けて進軍すべきだ。
同じ手を受けて怯んでも、脆弱な人間の刃如き、この美しく輝く銀の毛並みを傷つけることなど不可能だ。
牙を剥き出して、四つの悍ましい瞳を輝かせる。
その気配に、配下のブルーウルフ達がさらに震えあがる。
すでに、落ち着きを取り戻した。
大空に浮かぶ “月” が、人間の血を、肉を、求めよと照らす。
カイザーウルフは、静かに立ち上がった。
即ち “行くぞ” という合図だ。
躰を休めるブルーウルフの群れも、即座に立ち上がる。
その決定に異を唱えることも、ましてや従わないなど、あり得ない。
この神々しい銀の狼こそ、帝王なのだから。
“さぁ、仕切り直そう。宴の時間だ。”
カイザーウルフは、天に向けて咆哮を上げた、その時。
『バアアアアアァァァァァァァァァンッ!!!』
雷の閃光と、轟音。
夕暮れに受けた、あの衝撃が再び身を貫いた。
『ギャウワンッ!』
『ギュワッ!?』
身を縮こませるカイザーウルフと、ブルーウルフ達
まさか、この休息の場でも、あの光が襲い掛かってくるなど夢にも思わなかったからだ。
『バシュッ、ザシュッ、ドシュッ』
光で目が眩み、音で耳鳴りが止まない中。
わずかに聞こえる、割く音。
同時に、全身に走る激痛。
『グ、ギッ、ギャアワワアワンッ!』
叫ぶ、カイザーウルフ。
巨大な全身を右へ左へ、無造作に暴れ、その痛みの元を解き放とうとする。
「く、やっぱ、この程度じゃ死なないか!」
辛うじて聞こえた、甲高い声。
それは、かつて聞いた人間の子どもの声であった。
『な、何事かぁ!?』
人間の言葉で、叫ぶカイザーウルフ。
上位に位置するモンスターの一部は人語を解す。
“神” が、そう創ったから。
人間も、――モンスターも。
まだ視界が定まらない中、躰をよじらせて暴れる。
その甲斐あってか、先ほどの痛みが、これ以上増えることが無かった。
しかし、その代わりのように。
『キャンッ!』
『ギャワンッ!!』
配下のブルーウルフの、悲痛な叫び声。
気配から、その数を見る見る減らしていると感じる。
無慈悲に、正確に。
先ほどの光で目が眩む中にも関わらず、死を齎すとなれば、光の犯人はそいつだ。
未だ目が開かぬ中、カイザーウルフは四肢で地面を踏みつけ、死の気配のする方を正面に見据えた。
そして、その大きな口を開き、
『ブワアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
無数の石礫と土が混ざる、ブレスを吐き出した。
同時に、前足に魔力を通し、前方の地面から巨石の針を無数に突き出したのだ。
『ギャッ!?』
『グギュッ!』
少しばかり配下が巻き込まれたが、些事だ。
今は、異常なまでの光と音を生み出した元凶を屠ることが先決だ!
しかし。
「こっちだ!!」
その声は、カイザーウルフの足元から響いた。
ギョッとして前足を上げようとした、が。
『ドシュッ!!』
一本。
右前足が中ほどまで切り刻まれた。
『グギャアアアッ!?』
ズドン、とバランスを崩して倒れこむカイザーウルフ。
倒れた衝撃で、切り刻まれた右前足が、千切れた。
その痛みと、屈辱。
漸く、視界が晴れた。
カイザーウルフの目の前には、小さく、白く輝く短剣を構えた、黒装束のチビが居た。
声と姿から、人間の子どもであると理解した。
だがそれ以上に、驚愕した。
その事実は、千切れた前足の痛みなど忘れるほどの衝撃であったのだ。
叫ぶ、カイザーウルフ。
『な、な、何故、貴様がぁ!? それを持っている!』
全身が震える。
目の前の黒装束が持つ、短剣。
それは人間、いや、生きとし生ける者に赦された物では無い。
“純潔の天龍” が守護する、“主” の所有物。
世界に存在する72の迷宮の一つ “アスモデウスの迷宮”
唯一、“裏” のある迷宮。
その真の姿。
“アスモデウスの大迷宮”
そこの最奥に居る “主” が保管する、神器の一つ。
“この世に存在してはならない武器”
それが、目の前の黒装束が持つ短剣なのだ。
「教える気は無い。」
黒装束は、冷たく言い放った。
構える、淡い光を放つ神々しい短剣とは対照的に、その姿は死神そのものだ。
唸る、カイザーウルフ。
四つの瞳が周囲を見渡すが、どうやら配下たちはこの黒装束と、自身の土魔法に巻き込んでしまったために、すでに全滅している。
『我を……殺すのか?』
震える声で、尋ねる。
すでに配下も居ない。
居るのは、満身創痍の自分と、命を刈り取らんとする黒装束だけだ。
“帝王” の矜持から外れる行為。
それは、命乞い。
一瞬、その行為に走ろうとするが、本能が拒絶する。
『やるなら、やるがよい!!』
叫ぶ。
『我を殺してみよ! さすれば、最奥より我の眷属が、貴様や貴様の群れを蹂躙しよう!』
さらに、叫ぶ。
『我らが主、“邪龍” マガロ・デステーア様が、必ずや報復の鉄槌を下すだろう!!』
それが、帝王の矜持だ。
しかし。
「そうか。」
まるで興味の無い、呟き。
目を丸くさせるカイザーウルフ首を、跳ねるのであった。
◇
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。さすがに、きつい……。」
静寂の森の広場。
月明かりが照らす中、黒装束の頭巾を取り、汗だくのアロンが座り込む。
周囲は、ブルーウルフの死骸。
そして目の前には、カイザーウルフの死骸だ。
“作戦成功”
いくら、サンダーシェルで追い払ったとは言え、帝王たるカイザーウルフが率いる群れなのだ。
臆病なブルーウルフなら二度と近づかないだろうが、再び、ラープス村まで襲撃してくるのは火を見るよりも明らかだった。
その証拠に、アロンが到着したのとほぼ同時に、行動を開始しようとしていたのだ。
時刻は真夜中。空が白む前に村は蹂躙され、どれだけの人がその牙の犠牲になったことか。
そして、アロンの作戦はそれだけでない。
「どれだけレベルが上がったかな。」
最大の目的は、レベリングだった。
“カイザーウルフ” という、単身で倒せば相当な経験値が約束されたモンスターであったのだ。
多少危険が伴うとしても、万全を期すれば攻略可能だと考えた。
その結果、手持ちのサンダーシェルを乱発せず、右手で握る “神杖剣ヴァジュール” 一本で、ほぼ倒し切ってしまったのだ。
息を整え、逸る鼓動を抑え。
アロンは静かに、呟いた。
「ステータス、オープン。」
―――――
名前:アロン(Lv130)(+106)
性別:男
職業:剣 神
所属:帝国
反逆数:なし
HP:173,200/173,200(+10,600)
SP:21,730/21,730(年齢補正中)(+1,060)
STR:1 INT:1
VIT:139 MND:1
DEX:1 AGI:1
■付与可能ポイント:636
■次Lv要経験値:94,280
ATK:18,035(年齢補正中)
MATK:5,035(年齢補正中)
DEF:1,795
MDEF:818(年齢補正中)
CRI:20%(年齢補正中)
【装備品】
右手:神杖剣ヴァジュール
左手:なし
頭部:なし
胴体:守眼の首輪LX
両腕:守眼の腕環LX
腰背:布の腰巻
両脚:布の服(下)
【見た目装備】
右手:なし(正装備品表示)
左手:なし
頭部:なし
胴体:黒装束(上)
両腕:なし(正装備品表示)
腰背:黒装束の帯
両脚:黒装束(下)
【職業熟練度】
「剣士」“剣神(GM)”
「剣士」“修羅道(JM)” “剣聖(JM)”
「武闘士」“鬼忍(JM)” “武聖(JM)”
「僧侶」“魔神官(JM)” “聖者(JM)”
「魔法士」“冥導師(JM)” “魔聖(JM)”
「獣使士」“幻魔師(JM)” “聖獣師(JM)”
「戦士」“竜騎士(JM)” “聖騎士(JM)”
「重盾士」“金剛将(JM)” “聖将(JM)”
「薬士」“狂薬師(JM)” “聖医(JM)”
【所持スキル 72/72】(年齢補正中)
【内、使用可能スキル:23/72】
【剣士】
スラッシュ
クイックオクス
パリィ
バーンスラッシュ
トライオクス(New)
エアドファング(New)
ブラストスイング(New)
剣士の心得
【剣闘士】
オーガスラッシュ(New)
カタトロフオクス(New)
チャージルバーン(New)
ストームファング(New)
剣闘士の心得
【剣豪】
ソードカウンター(New)
魔法剣発動(New)
剣刃纏い(New)
秘儀・残像剣(New)
剣豪の闘気(New)
【侍】
抜刀術・一閃(New)
飛翔術・鷲斬(New)
連撃術・燕返(New)
剛腕術・鬼殺(New)
侍の威圧(New)
【書物スキル 4/4】
1 永劫の死
2 次元倉庫
3 装備換装
4 ディメンジョン・ムーブ
―――――
「ブッ!?」
思わず息を吹き出してしまった。
「レ、レベル、130!? そんなに!?」
レベル24から一気に106も上昇した。
それに合わせて得たステータスポイント、“636”
アロンは呆れ半分、笑い半分といった表情だ。
そして、それが指し示す事実は、一つ。
三歳の時、レッドグリズリーを倒して得たステータスポイントを全て “VIT” に振り込んだ際に得た情報。
“数値が100を超えると、年齢補正中が解除される”
あと半年。
12歳になれば、自然と解除される事になる。
が。
(メルティが転生者なら……油断は出来ない。)
あの “意味不明” の言葉。
あり得るとしたら、一つだけ。
ファントム・イシュバーンの世界の、言語だ。
ファントム・イシュバーンの世界に5年も居ながら、何故その言葉がアロンに通じなかったのか。
それは、アロンが元々イシュバーンの住人だからだ。
アロンがファントム・イシュバーンの世界の言語を理解できていたのは、男の御使いから得た “転移特典” の一つ、言語理解のおかげであったのだ。
再びイシュバーンの世界へ転生する際、あちらの御使いこと女神が与える三つの特典の内の一つが “イシュバーンでの言語理解” であったが、元々イシュバーンの住人であるアロンにとって無用の長物であったため、その代わりに書物スキル “ディメンション・ムーブ” を得る事になった。
同時に、アロンがファントム・イシュバーンの世界へ渡った際に得た言語理解は解除させられた。加えて、代謝固定や不眠不休といった人外スキルも解除されたのだ。
仮にイシュバーンへ舞い戻る時にも言語理解を得ていたなら、メルティの言葉も理解出来たのであった。
言語理解は、滞在するその世界で使われる言語の全てを理解する能力。
超越者がそれなりに存在するイシュバーンでは、超越者同士が元々の世界の言語で会話したり、文書でやり取りをしたりと、ある種、暗号として使われることがあった。
即ち、すでに “イシュバーンの言語” として成り立っていたのだ。
尤も、アロンが “言語理解” を得ていたとしても、結果は変わらなかった。
――メルティが、超越者であるという事実。
アロンにとって。
“選別” と “殲滅” の対象であるという事実。
(メルティが、ボクのようにファントム・イシュバーンの知識を駆使して、レベリングをしていたとなると油断ならない。)
すでに、アロンも “超越者” だという確信があるのだろう。
元々、向こうの言語で話しかけてきたくらいだ。
そして、今日の夕方。
アロンのディメンション・ムーブの移動を、目撃されてしまった。
アレが何かは、ファントム・イシュバーンのプレイヤーなら、分かる者は分かる。
“すでに断定されたという前提で動くのが正解だ”
前世、あまり記憶の無かったメルティ。
それは、“転生者” という孤独からか。
絶大な力が割れること、漏れることを恐れいたからか。
12歳で適正職業が判別されるまで、息を潜めていた。
そして、帝都へ渡った理由。
超越者として帝国軍へ登用されたのだろう。
だが、今世。
前世とは違い、派手に、周囲を魅了する少女となった。
本来はファナの立ち位置であったクラスの中心が、メルティとなった。
そして、同じ転生者たるアロンへの過度な接触。
ファナの嫉妬心を煽り、飄々と躱す。
まるで自分が被害者であると、映るように。
ファナが、悪者になる。
周囲から顰蹙を買い、徐々に孤立し始めた。
つまり、わざとそう仕向けていたという事だ。
何故なら、メルティの中身は “大人” なのだから。
だが、どうしてそういう行動に出たのか?
考えらえるのは、アロンに対する同郷の想い。
――仲間意識だ。
しかし、それは完全な勘違いだ。
――アロンは、元々イシュバーンの人間なのだから。
我が物顔で、イシュバーンの世界を “ゲーム” だと宣う。
生きる人々をNPCと呼び、人間扱いしない。
ファントム・イシュバーンで得たスキルと適正職業を盾に、自由気ままに、好き勝手に生きる。
イシュバーンで生きる人々など、顧みず。
理不尽を齎し、世界を、大切な者を、蹂躙する存在。
まさに、害虫。
それが、超越者だ。
メルティが転生者だと勘付いた時は、思わず殺意が漏れてしまった。
しかし相手は、幼い頃から共に学び合った学友。
それも、前世でも知っている存在だ。
だから、もし彼女が他の害虫と違うようなら、見過ごすつもりでもあった。
――ファナに対する、態度や行動が無ければ。
前世、そして今世。
思い起こせば思い起こすほど、それは怒りに変わった。
(なんて……卑劣なんだ。)
“それが、転生者”
アロンは、改めて覚悟と決意を心に固く誓った。
(もし、メルティがファナに対する行動を改めなければ……。)
“選別”
そして。
(あいつ等と同じなら。)
死と血の匂いが漂う、月明かりに照らされた森の中。
アロンは、決意を口にした。
「メルティを、“殲滅” する。」