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2-1 実地訓練

アロン、転生して八度目の誕生月。


夏前のじめじめとした雨季。

外は、しとしと舞う霧雨だ。


アロンは学校へ向かう準備を整え歯を磨く。

その隣には、アロンの真似をするように、鏡に映る自分と兄であるアロンを交互に見ては、シャコシャコと歯を磨く妹のララだ。


アロン、8歳。

ララ、6歳。


二人はこれから、通学校へ向かう。


「おにーちゃん! “あいあいがさ” で行こうー!」

「はいはい。いいよ、ララ。」


歯磨きを終え、自宅から出るアロンとララ。

ララも自分の傘を持っているが、大好きな兄へ甘えたいから、こうして雨の日は相合傘を所望する。

前世のアロンなら “そんなの嫌だよ! 自分で傘をさせよ!” と断っていただろう。


だが、実年齢8歳、トータル年齢30歳を迎えたアロンは、ララが可愛くて仕方がない。

母リーシャに『あまりララを甘やかせないで』と言われることもあるが、父ルーディンが帝国兵として帝都に出稼ぎに行ってしまっている中だ、ララの父替りとしてもアロンは精一杯ララと向き合う。


その結果、前世でも若干そうであったが、現時点では重度のブラコン妹となってしまった!


前世の最期。

目の前で最愛の婚約者ファナと、大切な家族のララが、超越者の手で凌辱される中で事切れたアロンは、大好きな妹が、極度の兄依存となったとしても、それはそれでも構わないと思っている。


ただ、それによって変化が生じることも。





「あー! ララちゃん、また私の(・・)アロンと相合傘しているー!」


しとしと降り続ける雨の中。

住宅街の合間を縫う通路の先、自宅の屋根で雨宿りしながらアロンを待っていた、未来の婚約者ファナが、相合傘で仲睦まじく腕を組んで歩いてきたララを指さして怒号を上げた。


私の(・・)って。ララがおにーちゃんのおよめさんなんだから、当たり前でしょー?」

私の(・・)! アロンは、私と結婚するの!!」


降りしきる雨など、何のその。

ファナは傘もささず、ドカドカと大股でアロンとララの許へ。

そして、ララを一睨みして、アロンを挟んで反対側へと回り、アロンと腕を組む。


「ちょっとファナちゃん! だれが入っていいよって、言ったの!?」

「アロンがいい、って言ったの! ね、アロン!?」


キーキーと騒ぎながら、アロンの腕を引っ張り合うファナとララ。



――前世では、本当の姉妹のように仲良しだった二人。

アロンを巡って、ここまで騒ぐ程の喧嘩など、絶対にしなかった。


“何故だ?”

頭を抱えるアロンだが、その原因は全て、アロンにある。



物心付く前から、それこそ生まれた頃から常に一緒に育ったアロンとファナ。

どんな遊びでも、常にファナの要望に応えてくれる、素敵な王子様。

物心付く前、そして物心付いた後も、『将来はこの人と結婚するんだ』と確信めいた想いを宿し、その感情を包み隠さず、常にアロンに告げてきた。


それが、多少、男女の性差で遊びも関係も異なってくるだろう年齢に達したにも関わらず、相変わらずファナはアロン一筋で、誰にも彼にも『アロンのお嫁さんになる』と告げて回るのであった。


精神が大人なアロンは特段、咎めも恥ずかしがりもしていない。

多少はくすぐったい気持ちにはなるが、少女特有のおませな行動だと思うだけで、何より、事実前世ではアロンとファナは婚約者同士であったので、そういう意味ではアロンの望む未来へと進んでいる。


そして、咎めも恥ずかしがりも止めもしないアロンに、ますますファナは “相思相愛” であると確信し、その愛情を深めていくのであった。


――若干、病み気味に。



問題は、ララだ。

生まれた頃から兄に可愛がってもらい、まだ物心付く前に父不在、所謂 “父性” に渇望しているララがアロンに依存するのは火を見るよりも明らかであった。


アロンとファナの遊びにも混ざり、アロンの妹ということでファナからも可愛がってもらっていた。

ところが、アロンとファナの関係性、そしてファナの “将来はアロンのお嫁さんになる” 発言で、アロン大好きの妹ララは、ファナに対して敵対心を見せるようになってきた。


具体的には、“私こそおにーちゃんのお嫁さんになる!” 発言だ。

最初は大好きなアロンの妹の、可愛いままごとだと思っていた。


ところが、日に日にエスカレートしていった。

そして始まる、ファナに対するライバル心。


一つ屋根の下で暮らすララによる、“おにーちゃんといっしょにねんねした!”、“おにーちゃんといっしょにおふろ入った!”、という家族特有のスキンシップを、それは盛大に誇張してファナに告げる日々であった。


さすがのファナも、大好きなアロンの可愛い妹だとしても幼心に炎が宿ってしまった。

ついには、妹ララを恋のライバルとして認め、いがみ合うようになったのだ。



“どうしてこうなった?”



3人で入る相合傘は狭く、キーキー言い合うララとファナは雨で半分ほど濡れている。

もちろん二人とも自分の傘を持っているが、ここで自分の傘に逃げたら負けなのだ!


前世のように、本当の姉妹みたいに仲良くしてほしい。

ただ、“喧嘩するほど仲が良い” とも思うアロンであるので、いずれこの二人は姉妹のように、仲睦まじくなるだろうと考えるのであった。


……現実を直視せず、願うだけであった。





「あ! 今日もアロンが女に囲まれてきているぜー!」

「ヒューヒュー!」


学校の玄関に着くや否や、クラスメイトの男子二人が、アロンを茶化す。


「ああ、おはよう。」


それを意に介していないように、笑顔で挨拶を返す。

そんなアロンに、ギャハハハハ、と笑いながら玄関を走って去っていった。


「何よ! 男子ってあんなことしか言えないんだから!」

「ほんとう! うらやましいだけなのにねー!」


仲違いしていたファナとララが結束したように、先ほどの男子二人に文句を言う。

……本当は仲が良いのでは? と安堵するアロン。


(アレが、将来ファナに言い寄るんだから、世の中分からないよね。)


その男子二人。

村一番のイケメン男子のリーズルと、力自慢のガレットだ。


アロンとは違って、将来、同世代や下級生の女性からも人気を集める二人だというのに、こうして見るとまだ子供なんだな、と優しい気持ちが溢れるアロン。

将来のライバルではあるが、トータル年齢30歳、しかも子供好きのアロンは彼らも可愛くて仕方ないのだ。



「じゃあ、ララちゃんはクラスが別だからここでお別れねー。」

「あー!! ずるい、ファナちゃん!」


木とレンガで造り上げられた学校は二階建て。

学校に通う生徒は、10学年で全210人。

各学年で20人ほどだ。


それぞれの学年ごとに教室が分かれており、1階は最下級生である6歳クラス、そして最上級生である15歳クラスから、14歳、13際、12歳となっている。

2階は、7~11歳までの5学年だ。


最下級生は階段の上り下りが厳しいという事と、いざという時、上級生クラスに守ってもらうという配慮からだ。


最下級生であるララは学校の階段を上ることは禁じられているため、階段下で兄とファナと別々になるのはやむを得ないことなのだ。


「さぁ、いきましょ! アロン♪」

「あ、ああ。」


ファナはこれ見よがしにアロンと腕を組み、階段を上ろうとする。

「あーっ!」と叫ぶララに、にやりと笑みを零して無情に、二階へと上がるのであった。


“どうして、こうなった……”


心の中で頭を抱えるアロンであった。





「さぁ、今日は雨降りだけど、予定通り “実地訓練” を行います。」


細長い眼鏡を掛けた、キリッとした表情の女性教師。

アロンのクラスの担任、アケラ先生だ。


癖のある黒髪に、対比したように輝く琥珀色の瞳。

幼心に “綺麗な先生” と思っていたアロンは、転生後の中身大人状態で再開した今、先生の美貌とスタイルの良さに改めて気付くのであった。


元は帝国軍の魔法士として “百人隊長” を歴任した猛者。

まだ若く将来を有望視された女傑であったが、縁談のため帝国兵を退任、ラープス村へ戻ってきた。


だが。

縁談は、最後の最後で実を結ばなかった。


あと一歩で婚姻というところで、相手の男は、実は他の女性とも関係があることが発覚し、元百人隊長は激怒するなか、その男と縁を切ったのだ。


その男がどうなったかは、村の誰も知らない。

知っていても、知らない事になっている。


幹部候補生でもあった地位を捨ててまで村に戻ってきたのにも関わらず、男ともうまくいかなかった。

そんな失意に暮れる彼女は “教師をやらないか?” と持ち掛けられ、以来数年、ラープス村の学校教員として働いているのだ。


強く美しく、知性的な彼女を慕う生徒は多い。

ただ、何故か適齢の男性との縁が無い。

もうすぐ二十代後半という彼女は、今日も独りだ。



「やったー!」

「ええええー!?」


“実地訓練” の言葉で、子どもたちの反応は半々。

男子生徒は、浮足立った様子。

女子生徒は、嫌々という表情だ。


“パンパン”、と手を叩き、静かにさせるアケラ。


「雨の日だから、よ。獣の匂いも紛れてしまうけど、こちらの匂いも紛れる。その中、一人ひとりが注意深く目当ての物を採取できるか、油断せず作業をするのが目的です。」


8歳クラスの実地訓練は、初歩的な “採取” だ。

薬や食用となる草や実を集めることで、身をもって覚える。

兵になろうとも、冒険者になろうとも、そして村人として支える側になろうとも、生きていく上で必要となる知識だからだ。


「今日は森の手前、ナユの花畑よりも、少し奥へ向かいます。そこで皆さんには、“ヒリン草” の採取を行ってもらいます。」


アケラは、教室の正面に掲げられていた、表面を焼き黒く煤けさせた一枚板に、石灰で固めた棒状の筆でガリガリと音を立てながら、ヒリン草の特徴を書いていった。


「ヒリン草はこの前に勉強したとおり、根本から葉が巻き付くように生えています。花の部分は青白いススキのように広がっています。さて……ガレットさん。ヒリン草の効能は?」


突然、“この前に勉強した事” を尋ねられる、脳筋ガレット。

「ぶぇっ!?」と妙な声を出して、あたふたする。


そこに。


“かいふく”


と、書かれた紙切れをガレットの机に差し出す者。

隣の席の、アロンだ。


「か、回復、です!」


「よろしい。正解です。」


汗だくになりながら、ホッとして椅子に座るガレット。

チラッとアロンの方を向いて


(サ、サンキュー。アロン。)


と、礼を述べた。

アロンは軽く笑みを浮かべて、気にしないで、と頷く。


「では……そのヒリン草。回復薬としてはそのままでは使えません。どうすれば使えるようになりますか、アロンさん?」


今度は、先ほどとは難易度の上がった質問。

“答えを教えた” ことを見抜いたアケラなりの、懲らしめだ。


ちなみに、それはこの教室内では教えていない。

学んだことに興味を持ち、保護者に尋ねるか、自分自身で調べなければ分からないことだ。


だが、アロンは当然ながらすでに知っている。


「ヒリン草は、軟膏にしないと効果が得られません。そのため、水分を足しながらすり潰していくか、緊急の時は……。」


ここまで答えて、“やばい” と思った。

とても、8歳の子どもから出る答えでは無いからだ。


言い淀む、アロン。

え、っと……とわざと、困った表情を浮かべる。


「……続き、オズロンさんは分かるかしら?」


アケラは、クラス一番の秀才、オズロンに尋ねた。

丸眼鏡をキラリと輝かし、オズロンは、


「どうしてものときは、口に入れて良くかんで、ぬれるようにします。」


と、自信満々に答えた。


「さすがオズロンさんね、正解よ。」


おおー、と歓声の上がるクラス。

少し恥ずかしそうに、本へ顔を向けるオズロン。

そこに、席に座ったアロンが、少し後ろへ振り向いて、


(さっすが、オズロン!)


と、小声で褒めた。


(か、簡単だったから!)


さらに恥ずかしそうにするオズロン。

そんなオズロンにほほ笑み掛けて、アロンは前へ向く。



前世のアロンは、学校では大人しく、自分を出すタイプでは無かった。

実地訓練ではイケメンのリーズルが一番だったし、模擬戦ではガレットには歯が立たなかった。そして勉学やテストではオズロンを抜くことは出来なかった。

その劣等感からか、どうしても彼らの方が優秀に見えて、自分にいまいち自信を持つことが出来なかった。


前世の記憶と知識を持つアロン。

しかも【ファントム・イシュバーン】のシステムスキルが適用されている超越者として、いくらでも身体能力を向上させることが出来る。

さらに、持ち込んだ数々の武具やアイテムを駆使すれば、例え大人だろうとアロンの敵では無いのだ。


だが、それはしない。

大切な村や、大好きな家族、そして愛するファナを守ることがアロンの最大の目的であり、転生して得た力を揮う理由である。


決して、自らの力を誇示するような真似はしない。

“そんな事をしたら、他の超越者(転生者)と同じ”

アロンにとって、嫌悪すべき、慎むべき行動だ。


その代わり、同世代の仲間との関係性は高めようとしている。

もし前世のアロンならガレットが答えに窮していても助け船など出さなかったし、先の問いで “わざと” 答えに窮してオズロンが代わりに答えられたとしても、称えることなどしなかった。


精神は30歳という年長者、それこそ教員のアケラよりも実際は年上であるアロンは、今度こそクラスに溶け込もうと、自分をさらけ出していこうと心に決めて、実際よりも遥か年下のクラスメイト達との交流を密に行っているのだ。


その結果。


「さぁ、実地訓練へ行きます。訓練はいつも通り4人一組。男の子2人と女の子2人、もしくは男の子3人と女の子1人で組みます。仲の良い子だけでなく、自分たちに足りないものを補ってくれるメンバーで、組んでください。」


20人なので、5チームに分かれる。

チーム編成は子ども達が自主的に行うのも、実地訓練の一環だ。


アケラの説明が終わるとほぼ同時に、叫ぶ女子。


「アロンは私と同じチームね!」


ファナであった。


「ずるいっ、ファナちゃん!」

「私もアロン君と同じチームになりたい!」


女子たちが、アロンを巡って言い争う。


「オレもアロンと組みたい!」

「待てよ! ボクもアロンと組みたい!!」


男子たちも、同様だ。


アロンはいつの間にかクラスの中心人物となっていた。

明るく、誰にも気さくに声を掛け、知らず知らずに細やかなフォローをしてくれるデキた男。

子ども特有のでしゃばる行為も無く、数歩下がった位置で全体を眺めながら、収集付かない時やクラス内で発生した喧嘩など、トラブルが発生しても、アロンが中心となって解決に導き、纏め上げていた。


当然、その行動は教員たちの目にも留まる。

とても8歳の少年とは思えないほど達観した性格で、本当はもっと実力があるはずだが、それをひた隠しにしながらも周囲に良い影響を与える、貴重かつ将来が楽しみな人材。


天才、秀才ともまた違った、独特な才能。

そんなアロンを指して『人生二度目じゃないか?』という冗談を言う教員も居たくらいだ。

--当然ながら、誰もそれが真実であるとは夢にも思わぬことだが。



「アロンは、もちろん私と(・・・・・・)チーム組むよね?」


にこやかに、だがドロドロした感情をあふれ出しながら、ファナが尋ねる。

周囲の女子たちもドン引くくらい、悍ましい笑顔だ。


「も、もちろん!」

「えへへ、やったぁ!」


人目憚らず、ファナはアロンと腕を組む。

ここで拒否したものなら、後が怖い。


「もー! アロン君はファナちゃんばっかり!」

「仕方ないよー。ふうふ(・・・)なんだから!」


他の女子たちはブツブツ文句を言いながら、じゃんけんを始めた。

もちろんそれは、残り1枠であるアロンチームを賭けた、戦いだ。


同じように、男子たちもじゃんけんでアロンチームを決めた。



「チーム分けが出来ましたね。それでは、これよヒリン草採取のため、“邪龍の森” を探索に向かいます。」


アケラの掛け声と同時に、全員、雨除けのローブを身に纏い、小さな探索リュック、そして一つのチームに一つ与えられた大きな背負子を代表者が背負った。


「悪いね、アロン。かご、任せちゃって。」

「途中で交代だよ? リーズル。」


アロンのチームメンバー。

ファナ、そしてイケメンのリーズルだ。


リーズルは、特にアロンと同じチームになりたいわけでは無い。

――目的は、ファナだ。


アロンの前世では、ファナに求愛したが玉砕し、失意で帝都に向かい冒険者の道を歩んだリーズル。

実はこの頃から、ファナ一筋であったのだ。


自分を良く魅せようというのも、ファナに振り向いてもらうためであった。

ただ、そんなファナは誰がどう見ても、アロンにぞっこん。


そしてこの頃特有の、好きな女の子に意地悪をしてしまうことが、リーズルにもある。

恥ずかし気もなく “アロンのお嫁さん” を公言するファナを茶化す。

それ以上に、ファナが気持ちを向けるアロンに対して、盛大に揶揄うのが彼の日課でもあった。


それが分かるアロンは、リーズルの行動は可愛いものだと余裕で躱す。


だが、ファナからするとそうでない。

大好きなアロンが揶揄われるのは嫌だし、そして自分自身にも嫌な言葉を掛けてくるリーズルが、大嫌いであった。


「リーズル君、かご、代わらなかったら先生に言いつけるから。」

「うわ! アロンのよめ(・・)はこわいな!」

「こわくなんかないもん!」


――前世も今世も、リーズルの敗因はここにあった。

ファナからして見れば、幼い頃から揶揄われてきた相手に、突然 “好きだ、結婚してくれ” と言われても、気持ちが靡くことなど無いのだ。


尤も、ファナは幼い頃からアロン一筋であるので、靡くも何も、取り付く島もないのであった。


「メルティも、よろしくね。」

「うん。アロン君、よろしく。」



キーキー言い合うファナとリーズルを置いて、アロンはもう一人の女子、メルティに声を掛けた。

緩いウェーブ掛かった灰色セミロングに、エメラルドのような緑の瞳。

大きな釣り目は彼女を “気が強そう” と先入観を与えてしまう要因だが、実際は大人しく、アロンと同様に一歩下がって、友達のフォローを行う事が多い少女だ。


ちなみにオズロン程ではないが、女子たちの中で一番勉強が出来る。

ただ。


(……メルティの事、あんまり覚えていないんだよな。)


心の中で、若干戸惑うアロン。

目の前の少女は、前世でも特に絡みが少なかったメルティだ。

しかも彼女は、12歳の時に受ける “適正職業” を授かる(鑑定される)神聖な儀式の後、すぐに帝都へ引っ越してしまったため、他の同世代よりもより関係が浅い。


考えれば、こうして実地訓練で組むのも、前世と今世合わせて初めてだ。

チームを組んだことの無い女子は他にもいるが、メルティほど印象の薄い少女はいない。


「……どうしたの? アロン君。」


首を傾げ、アロンに笑みを向ける。

思わず、ドキリ、と心臓が高鳴るアロン。


「い、いや。それより行こう。出遅れたら嫌だからね。」


アロンは慌てて、未だ言い合うファナとリーズルを宥める。

そして4人は、ラープス村の恵みの森、正式名称 “邪龍の森” へ向かった。



アロンは、戸惑っていた。

メルティの先ほどの表情は、8歳のそれとは思えなかった。


(なんか……妙に色気というか、艶があるな。メルティは。)


そんな事を思っていると、


「アロン♪ いっぱい、ヒリン草を採ろうね!」


ファナが、腕を組んできた。

そして、


(メルティちゃんより、私の方が好きだよね?)


耳元で囁かれた。

別の意味で、心臓が高鳴るアロンであった。

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