1-11 神に選ばれし者
「アローン、起きてー。」
いつもの、朝。
母リーシャが、まだ寝息を立てるアロンをゆっくりと抱きしめ、その頬にキスをする。
ううう、と唸りながら眠い目をこするアロンは、まだ脳が働いていない。
「母さん……。おはよう。」
「おはよう、アロン。相変わらず寝坊助さんですね。」
前世のアロンは “起こされる前に、起きる” 人間であった。
そうで無ければ、お転婆の妹が全力ボディプレスで起こしに来る。
だが、今世のアロンはまだ三歳児。
しかも、夜な夜な家族が寝静まった後に、こっそりと、ゆっくりと、作業を繰り返していたから寝不足気味であったのだ。
(……今日からはゆっくり寝よう)
まだ、うつら、うつらと眠りこけそうだ。
それでも、昨夜の作業によってある程度の目標は完了したため、今夜からは身体を作るため、ゆっくりと寝ようと考える。
そのためにも、もう一つの懸念事項を解決しなければならない。
それは。
「あら、アロン。おはよう。」
「相変わらずの寝坊助か。可愛いなぁ。」
母の代わりに朝食の用意を進める祖母と、ダイニングの椅子に腰を掛けて書物を読む祖父であった。
「おはよう、じーちゃん、ばーちゃん。」
この、行商人の祖父母だ。
記憶が確かなら、近々、行商の道中で盗賊に狙われ祖父母は帰らぬ人となる運命だ。
“その運命を捻じ曲げる”
そのためと言っても過言でないほど、アロンは夜の作業に没頭したのだ。
「おや? 寝坊助の次は甘えん坊か?」
書物を読む祖父の身体に、抱き着くアロン。
「おはようのギューだよ。」
「あら! いいわね、それ。私にもやっておくれ。」
アロンに抱きしめられて嬉しく破顔する祖父を、羨ましそうに睨み、にこやかにアロンへ告げる祖母であった。
その言葉に「うん!」と元気よく返事をして、アロンは祖母にも抱き着く。
(これで、よし!)
これは、抱きしめる振りをした “攻撃” である。
祖父母は基本一緒に行商として練り歩くため、どちらかに “攻撃判定” さえ与えられれば、アロンが得た “ディメンション・ムーブ” で、遠くに居ようとも様子を確認することができ、いざという時は瞬時に、傍に駆け寄ることが出来る。
触れたことが、攻撃であるかどうかはアロン次第。
昨夜、討伐したレッドグリズリーへ攻撃を仕掛けた事によって、対象が “祖母” となっていたディメンション・ムーブが解かれてしまったが、これで元通りだ。
◇
「さて、儂らは街に帰る。もうすぐ冬だからな、あと一往復するかどうかだな。」
「お父さんもお母さんも、もう年なんだから無理はしないでね。」
ラープス村で採れた茸や山菜、野菜などの特産品を大量に積み込んだ祖父が汗を拭いながら伝えると、母リーシャは心底不安そうに告げるのであった。
祖父と同じように汗を拭う祖母。
傍にいたアロンと、まだよちよち歩きのララの頭を撫でながら柔らかい笑みを浮かべる。
「アロンや、ララや。また会いにくるからね。」
「うん、ばーちゃん。待っているね!」
満面の笑みで応えるアロン。
だがその笑顔の裏にあるのは、盗賊の襲撃に備える、アロンの決意だ。
“この二人を、絶対に助ける”
“この三歳の身でも、問題ない”
“家族に害を成す相手は、誰だろうと、殺す”
「……アロン。」
馬に荷車を括りつける祖父と父、そして手伝う母。
その折を見計らって、祖母はアロンに声を掛けた。
「どうしたの、ばーちゃん?」
屈託の無い笑顔を見せるアロン。
そんなアロンに目を細め、抱きしめる。
そして。
「あんたは、何がそんなに怖いんだい?」
その言葉に、息を飲み、鼓動を早めるアロン。
悟られないように、精一杯、口を開く。
「なに、言っているの? ばーちゃん?」
あくまで、三歳児として。
“怖い”
それは、前世の運命なら間もなく死を迎える祖父母を救うため、決意したことか。
それもと、絶大な力を持ってしまったことか。
それを存分に揮い、超越者を殺戮することか。
その覚悟は出来ている。
では、何が “怖い” のか?
「アロン。」
抱きしめながら、誰にも聞こえないように祖母は呟く。
「恐怖に抗い、膨らませた殺意は全て自分に跳ね返ってくる。それに呑まれた人間は、人間でなくなっちまう。あんたが何を憎んでいるか知らないけど、憎しみに囚われた人間は、畜生にも劣る修羅となる。」
とても、三歳児に伝えるような言葉ではない。
だが、祖母は薄々気付いている。
“アロンは、言葉の意味を理解する”
一瞬、戸惑うアロン。
それは祖母の推測通りだからだ。
それでもアロンは、あくまで幼児であろうとする。
「むずかしくてわかんないよ、ばーちゃん。」
キョトンと、して、首を傾げるアロン。
この動作は三歳児のお手本、ファナから得た技だ。
そんなアロンをジッと見つめて、笑みを零す。
「そうかい。悪かったねぇ、アロンや。」
再度、アロンの頭を一撫でして祖母は立ち上がる。
「じゃあ、行くか。」
「ええ。」
荷車の御者席に乗り込む、祖父と祖母。
祖父が手綱で馬を引くと、ゆっくりと、カポカポと軽快に蹄の音を打ち鳴らしながら進み始めた。
家族にとって、当たり前の光景。
だが、アロンは身が引き裂かれる、身が引き締まる思いで小さくなる馬車を見続けるのであった。
間もなく秋も深まり、冬が訪れる。
蓄えで過ごす冬は、物資を買い付けるのも難しい。
逆に言えば、冬の期間に行商が出来れば、普段売りつける物資を多少値上げしても需要があるため、稼ぎも大きくなる。
だが、それは一般的な行商人には無理な話だ。
国中の市や町に支店を持ち、大商団を結成して運搬が出来る商人は別として、家族経営のような小さな行商人は、春から秋にかけての行商が精一杯だ。
年老いた、アロンの祖父母なら尚更だ。
今回積み込んだ分は、祖父母の住むラープス村の西隣街を通り過ぎ、さらに西側の町への販売分である。
それが終われば、再度ラープス村へ訪れて仕入れをするだろうが、間もなく冬となるこの季節であれば、その時は販売分というよりも冬を越すための自家消費分が大半となる。
恐らく、祖父母が行う今年の行商は今回が最後だ。
祖父母の街から西側にある町へは、朝早く出発して、一晩野宿をしてから翌日の昼過ぎに到着する距離。
つまり、祖父母が盗賊に襲撃される可能性が最も高いのは、昼間で人通りの多いラープス村と西隣の街への道中ではなく、明日以降出立する、西の町までの道中だ。
早ければ、明日か明後日の晩かだ。
(畜生にも劣る、修羅……。ボクはもう、生まれながらにして修羅だよ。ばあちゃん。)
アロンに与えられた使命。
【ファントム・イシュバーン】の世界からこのイシュバーンの世界に訪れた転生者こと、超越者の、“選別” と “殲滅” だ。
それを成すために得た、【永劫の死】というスキルと、本来なら持ち込むことが不可能であったはずの凶悪な武具の数々を【装備換装】というスキルで、このイシュバーンの世界へと持ち込んだ。
それだけではない。
強くなるため、強くあろうとするため。
アロンは、たった独りで “最強” へと至った。
その結果、5年もの月日を過ごしたファントム・イシュバーンの世界で、残虐かつ無慈悲な殺戮を繰り返したアロンの、通り名。
【暴虐のアロン】
アロンは、憎しみを力に変え、使命感を憎しみに変え、この地に再び立った。
“怖い”
それは、その力が “無駄” に終わることだ。
◇
「お前は、最後アロンに、何を話していたんだ?」
ラープス村が背負う森によって姿が見えなくなった程、祖父は祖母に尋ねた。
祖母は、カポカポと歩く馬の鬣を眺めながら、
「アロンは……何か、“神様” に言われて、生まれたのかしらね。」
と呟くように答えた。
その答えに、祖父は怪訝そうな表情を向ける。
「……“善神エンジェドラス” 様の寵愛と、御加護があるというのか? そんな事、外で言うと貴族様か、下手すると皇族様がお怒りになるぞ? まさか、アロンに『お前は神様に選ばれて生まれたんだ』とか言ったわけじゃないよな?」
神の寵愛は8種の “適正職業” とされている。
その枠を超える者が、“超越者” と謂われる存在だ。
そのどちらも判明するのは、12歳の時。
神聖な儀において、司祭か神官の手によって、神が与えた “適正職業” が露わになる。
それを経ていないにも関わらず、“神に選ばれし者=超越者” だと告げるのは禁忌とされる。
帝国内なら神聖な儀を特別視する貴族や皇族の耳に入らなければ、それこそ家族間や気の知れた仲間内だけなら特段問題はないが、これが “聖国” であると “神の御業を穢す許されざる行為” として、告げた者だけでなく、告げられた者も処刑される程だ。
そして、帝国、聖国、覇国の三大国を共通して、人間に寵愛と加護、そして“適正職業” を与えるのは【善神エンジェドラス】という一柱の女神だと、信じられている。
ただ、神は他にも存在していると謂われている。
そして、三大国それぞれ信仰対象としている神が違い、各国の国章こそ、信仰対象である神をモチーフにしたものであるのだ。
帝国は、ある女神を信仰している。
そのため帝国内で “女神” というと、国章の女神か、善神かの二柱に分かれてしまう。
これを避けるため、信仰対象の女神は【国母神】と呼称し、適正職業を与えた女神は【善神エンジェドラス】と正式に呼称することが慣習となっている。
ただ、“神様” と呼んだ場合は、一般的な【善神エンジェドラス】を指す。
ちなみに【国母神】の名称は、一般人には伝わっていない。
偉大な女神の名は、皇族か最上位の貴族の当主くらいしか、伝わらないのだ。
「神様に選ばれた……あながち、間違っていないのかもね。」
「おいおい。誰に聞かれるか分からないから、外では滅多な事を言うなよ。」
祖母のぼやきに、祖父が呆れて告げる。
“単なる、婆バカ” にしか思っていないのだ。
だが、実は違う。
祖母は、確信めいた思いがあった。
(私の言葉に、アロンは『むずかしくてわからない』と答えた。三歳の子供なら、難しいも何も、それすら理解できないはずよ。)
“やはり、アロンは何かを理解している”
そして。
(やはり、アロンは何かを……憎んでいる?)
――――
翌日。
アロンはディメンション・ムーブの効果によって、祖父母が無事に街へ戻ったこと、そして足早に、西の町へ向かったことを確認した。
アロンは日課である、愛するファナとのひと時、そして昼食後のこれまた日課となっている午睡のため自室に入った。
精神年齢は25歳とは言え、その身体は三歳半。
自分の意思とは裏腹に、身体や神経は未熟であるが故の抗えない現実もある。
だが、眠い身体に鞭打って、集中する。
それは、西の町へ向かう祖父母の姿を映しているからだ。
大抵、盗賊が襲撃するのは夜だ。
ただ、絶対ではない。
人通りの少ない街道、薄暗い場所。
狙われるポイントは夜に限らず、存在する。
当然、そうしたポイントを警戒して通過すること、盗賊の夜襲に備え、祖父母に限らず行商人は必ず冒険者を護衛として雇う。
ラープス村は小さな農村のため存在しないが、街の規模になると大小の差はあっても、冒険者連合体の派出所が置かれる。
そこには常駐の冒険者ギルドが、最低でも2~3は滞在しており、依頼人は冒険者連合体へ依頼を行うと、常駐の冒険者ギルド内から難易度に合わせたパーティー編成をさせて、依頼や護衛などの任務に就くのだ。
帝国直営の冒険者連合体。
そこに加盟するギルド。
冒険者連合体は、加盟するギルドの信頼と実力を保障し、依頼が無くても一定の給金を支給することで冒険者たちの生活を支える。
またギルドは、その恩恵に胡坐をかくような真似をせず、信頼と実力が裏付けられるよう任務を全うする。
達成した任務の量や質によって、ギルドの “格” が上がり、ギルドメンバーである冒険者たちの富や名声にも繋がってくる。
ギルドの格が上がること、そして高い格のギルドに名を連ねることは、冒険者たちにとってステイタスでもあるのだ。
さらに名を挙げたギルドは、好待遇で “帝都本部” に召し抱えられることもある。
それは、帝国最高峰のギルド、という意味だ。
冒険者にとって、最高の名誉であり、全てにおける羨望の対象だ。
もちろん、“帝都本部” へ依頼できるのは限られた者たちだけ。
貴族や、皇族などだ。
最高の待遇や名誉だけでなく、貴族や皇族とのコネクションが生まれる。
上手く取り入ることが出来れば、上流階級の子息や令嬢との縁談も舞い込み、爵位を与えられることも夢ではない。
実際、帝国の成り上がり冒険者譚で最も有名なのが、帝国軍の “輝天八将” の現トップ、“大帝将” こと、“ハイデン・フォン・アルマディート侯爵” だ。
辺境地の冒険者として名を挙げ、帝都本部のギルドメンバーとなる傍ら、帝国軍の一兵卒から隊長、部隊長を経て、将軍位へと成った叩き上げの軍人。
後に、当時のアルマディート侯爵とその令嬢に見染められ、入婿となり、現アルマディート侯爵当主の傍ら、輝天八将及び帝国軍を指揮する大将軍へと成りあがった、生きる伝説である。
ただ、そうした夢を叶えるためにも地道に、小さなことからコツコツと熟して実績を積み上げ、実力を高めると同時に信頼を得られなければ話にならない。
祖父母が行商で依頼したのは、その中でも何度も護衛を担ってくれた、気心しれたメンバーである。
いつもの顔ぶれに、いつもの行程。
何も問題がない、そう思える道中にも見える、が。
(そういう時ほど、危ない。)
慣れた頃が危険。
油断と慢心が、死を招く世界。
イシュバーンは、それが当たり前だ。
アロンは浅い睡眠と覚醒を繰り返し、その都度、祖父母の様子を見守る。
――しかし、非常に辛い時間だ。
それでも、大切な家族の生死が掛かっている。
油断は、出来ない。
夜。
家族が寝静まり、祖父母も冒険者たちと野営に入った。
横たわる馬の隣、寝袋で睡眠をとる祖父母。
その周囲を、交代で警戒する冒険者たち。
時刻は、丁度深夜。
アロンは、起き上がり “次元倉庫” から装備を出す。
「これなら、大丈夫かな?」
あまりに強力な装備だと、盗賊を文字通り粉砕してしまう。
だが、三歳児のアロンは無力であり、下手な装備だと返り討ちにあってデスワープが発動、祖父母を守れないかもしれない。
そこで、アロンが選んだ装備。
ステータスはこうだ。
―――――
名前:アロン(Lv18)
性別:男
職業:剣 神
所属:帝国
反逆数:なし
HP:124,200/124,200(+20,000)
SP:20,620/20,6,20(年齢補正中)(+20,000)
STR:1 INT:1
VIT:103 MND:1
DEX:1 AGI:1
■付与可能ポイント:0
■次Lv要経験値:350
ATK:2,130(年齢補正中)(+2,100)
MATK:630(年齢補正中)(+600)
DEF:1,318(+800)
MDEF:818(年齢補正中)(+800)
CRI:15%(年齢補正中)
【装備品】
右手:パラライズダガーSS (NEW)
左手:なし
頭部:なし
胴体:守眼の首輪LX (NEW)
両腕:守眼の腕環LX (NEW)
腰背:布の腰巻
両脚:布の服(下)
【職業熟練度】
「剣士」“剣神(GM)”
「剣士」“修羅道(JM)” “剣聖(JM)”
「武闘士」“鬼忍(JM)” “武聖(JM)”
「僧侶」“魔神官(JM)” “聖者(JM)”
「魔法士」“冥導師(JM)” “魔聖(JM)”
「獣使士」“幻魔師(JM)” “聖獣師(JM)”
「戦士」“竜騎士(JM)” “聖騎士(JM)”
「重盾士」“金剛将(JM)” “聖将(JM)”
「薬士」“狂薬師(JM)” “聖医(JM)”
【所持スキル 72/72】(年齢補正中)
【内、使用可能スキル:4/72】
【剣士】
スラッシュ
パリィ
剣士の心得
【剣闘士】
剣闘士の心得
【書物スキル 4/4】
1 永劫の死
2 次元倉庫
3 装備換装
4 ディメンジョン・ムーブ
―――――
(弱い装備も入れておいてよかった。)
【装備換装】の作業はまだ1回目だ。
神話級武具は1回分に全て登録して、伝説級はそれぞれ2~10回の登録に分けて入れた。
ただ、イシュバーンの世界では存在してはならない神話級に伝説級の武具の数々だ。
アロンの想定外の威力で、それこそ世界を危機に陥れる可能性すら考えた。
そこで、武器については全ての登録に伝説級の下、英雄級や勇者級とされる “イシュバーンでも手に入る可能性のある” 武具を用意したのだ。
その内の一本が、アロンが腰に下げる短剣。
―――
【パラライズダガーSS】
ランク:勇者級
形状:短剣
<上昇値>
ATK:2,100
MATK:600
DEF:0
MDEF:0
CRI:+15%
<属性>
・メイン:雷
・サブ1:闇
・サブ2:なし
<特殊効果>
・状態異常:麻痺(確率値:上)
・半減:麻痺
・特攻:土属性
<スロット>
・麻痺の刻印(麻痺確率上昇)
<装備可能職業>
剣士系上位、僧侶系上位、獣使士系上位
戦士系上位、薬師系上位
―――
(アレに比べれば遥かに弱いけど……人間相手なら十分だよね? 麻痺もどの程度利くかわからないけど。)
アレとは、一昨日の夜にレッドグリズリーを屠った神話系短剣 “神杖剣ヴァジュール” のことだ。
神話系から見て、3ランク下となる短剣であり、その威力もアロン目線からは中途半端も良いところであった。
(あと、防具は念のため着けてみたけど……。今のボクの身体じゃ、これしか装備出来ないんだよな。)
アロンが装備した、2つの防具。
“守眼の首輪” と “守眼の腕輪”
どちらも神話級であるが、その中でも “弱い” ものだ。
―――
【守眼の首輪】
ランク:神話級
防具箇所:胴体
<上昇値>
HP:10,000
SP:10,000
DEF:400
MDEF:400
<耐属性>
・火+5% ・水+5%
・風+5% ・土+5%
・雷+5% ・無+5%
・光+5% ・闇+5%
・聖+5% ・邪+5%
<特殊効果>
・なし
<スロット>
・空
・空
・空
<装備可能職業>
剣神、神拳、神皇、大賢者、
神獣主、神騎士、神剛将、神医
―――
ちなみに、守眼の腕輪も全く同じ能力だ。
メリットは、全ての “極醒職” が装備出来ることと、武具に付けられている “スロット” が最大数の3つ備わっていることが挙げられる。
“スロット” とは、“刻印” と呼ばれるアイテムを任意で取り付けることで、武器や防具の性能を底上げできる機能だ。
ちなみに最大数3つは “守眼” シリーズのみで、頭から両脚までの5箇所全て装備すると、最大15個の刻印を付けることが可能だ。
しかし、それだけだ。
武器性能を最大限に底上げする目的があるならそれでも良いかもしれないが、防具性能が神話級とは思えないほど低い。
特に生存率に関わるHPの上昇が、守眼一つにつきたった1万しか伸びない。
神話級、伝説級、英雄級、勇者級。
そして最上級、上級、中級、下級、最下級と、9つあるランクの中でHP上昇1万は上級クラスだ。
神話級ともなると、装備1箇所につき10万オーバーが当たり前である。
職業を選ばず装備が出来てスロットが空いている。
それだけでしかない、装備だ。
だが、身体の小さいアロンでも、この守眼シリーズ防具は装備が出来た。
首輪も腕輪も、二巻してもまだ余りがあるが、取れる心配はない。
それに、ファントム・イシュバーンで装備すると、見た目装備を着けていなければ、アバターは “布の服” となる。
しかし、それはあくまでもゲームの世界での話。
都合よく、見た目が布の服になるはずなどない。
アロンは守眼の首輪の上から、服を着た。
防具性能が全くない布の服、問題なく着用できた。
(この首輪と腕輪……他の防具と一緒に装備できるのかな?)
ゲームでは不可能であったが、ここは現実世界。
アクセサリー扱いなら、可能ではないか? と思うアロンであった。
(まぁ、実証はもう少し大きくなってからだな。)
いずれにせよ、準備が整ったアロン。
奇妙なナイフを腰に下げている以外は、普通の三歳児だ。
だが、アロンは気付いてなかった。
アロンが装備している短剣、そして首輪と腕輪。
その性能は、ファントム・イシュバーンだからこそ微妙な、中途半端なものであった。
しかし現実世界であるイシュバーンでは、それこそ貴族が、軍が、その存在を知れば喉から手が出るほど、ありったけの金を叩いても手に入れたいと思うほどの高性能かつ希少な武具であると、知る由も無かった。
『神に選ばれし者』
そう謂われる者しか、手にすることが叶わぬ武具だ。
(……!!)
一瞬、眠ってしまいそうだったアロン。
だが、見続けていたディメンション・ムーブの光景。
眠る祖母の正面に居た、火の番をする冒険者の身体に、ナイフが突き刺さった。
(出た!!!)
運命が、動き出した。
アロンは慌てて黒づくめの布を被り、紐で縛った。
これで、アロンとは気づかれないはずだ。
(ディメンション・ムーブ!!)
一転して死地に追いやられた祖父母を救うため、アロンは駆け付けるのであった。