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1-9 産声

月日が経ち、アロンは転生して3年目を迎えた。


再び自分の人生をやり直しているようなアロンは “前世の記憶” と、絶大な力を得るために御使いから転移させられた【ファントム・イシュバーン】での5年間と、両方の記憶を持っている。


それが今、大きな足枷となっている。


理由としては、二度目の同じ人生においてアロン自身の目的を達成させるためには『目立たない』ことが前提だ。

そのため、三歳児らしからぬ言動をすることを控え、“三歳児” を演じる。


赤子として再転生した時もそうだったが、理性と記憶と羞恥心の狭間、耐えに耐えるアロンであった。



そんな彼にとって、“お手本” となる人物が一人。



「アロンー。あそぼー!」


舌足らずな言葉と、トテトテという音が似あう動き。

アロンの幼馴染で、守り抜くことを誓った、少女。


サラサラとした茶髪に、透き通ったサファイアの瞳。

ファナであった。


「ファナー!」


アロンは三歳児らしく、満面の笑みを浮かべてファナの両手を取る。

掴まれた両手を見て、アロンに目を向けて同じように笑みを零すファナであった。


(可愛すぎ!)


目の前の天使のような幼女に、心ときめくアロン。

実年齢で言えば25歳だが、いずれ将来を誓い合う彼女だ。

問題は無いと言えば、無いのかもしれないが……。


(ボ、ボクは決して幼女好きじゃない! ファナの行動こそ、ボクが見習うべき子供像なんだ!)


言い聞かせるように、ファナの手を取り自宅の裏へと連れ出す。

その二人の様子に微笑ましい目線を送る、アロンの母リーシャと、ファナの母親。

ちなみにリーシャはすやすや眠る、1歳になったばかりの妹ララを抱っこしている。


“ここまでは、同じ”

家族や幼馴染が同じように居ることで、安堵するアロンであった。





「あらあら、今日もファナちゃんと一緒なのかい? アロン。」


「うん、ばーちゃん!」


裏庭には、ラープス村の特産である作物や山の幸を馬車に積み込んでいるアロンの祖母が居た。

馬車内にはアロンの祖父がいて、祖母から荷物を受け取っては積み上げていた。


アロンの母方の祖父母は、行商人だ。

普段は、ラープス村の西隣町に住み、こうしてラープス村の特産を積み込んでは東側の町村や、帝都へと売り渡っている。


「ファナちゃんは可愛いなぁ。アロンの将来も安泰だな!」


馬車の荷台から、祖父が豪快に笑いながら言う。

その言葉の意味など、本来は三歳児には理解できないはずだろうが、アロンは思わず顔を赤らめて目を伏せてしまった。


「あらあら、あなた。アロンが照れてしまうじゃないですか。」

「はははは! アロンも可愛いなぁ!」


だが、のんびりと語る祖母に、笑い続ける祖父。

ホッ、と胸を撫でおろすアロンであった。


「でも、器量よしのファナちゃんがアロンの奥さんになってもらえると、私も嬉しいわぁ。」


にこにこ笑う祖母からの追撃!

思わず硬直するアロンであったが……。


「うん! ファナね、アロンのおよめさんになるんだ!」


屈託のない、純真無垢のファナの笑顔。

湯立つほど顔面を真っ赤に染めてしまうアロンであった。


「あら、ファナったら……。この子、おうちに帰ってもいつもアロン君、アロン君、ばかり! 本当に大好きなのよねー。」

「アロンも果報者だわ。こんな可愛いファナちゃんにお嫁さんになるなんて言ってもらえるなんて! 逃がさないようにシャンとするのよ、アロン。」


後ろから着いてきた母親同士までも茶化す。

最も、三歳児の言う言葉だ。

“可愛い” と思うのが関の山。


だが、アロンはそうではない。

“前世” では結ばれ、婚約したのがファナだ。

村を、家族を、そして愛するファナを守る一心で、このイシュバーンに再転生してきたのだ。


そんなアロンの不安は、二つ。


一つは、『なぜ、ファナはボクの事を好きになってくれたのか?』だ。


前世では、村の同世代でも強い方でなく、むしろ村に残ることを選択した、臆病者のアロンであった。

対してファナは、村の同世代の男子から一番人気の美少女。

明るく可愛く、料理上手と、誰もが彼女に恋をした。


アロンにとって、他の男子よりも有利な点としては、ファナと幼馴染であること、そしてこの頃から良く遊び、気心知れた間柄になったことだろう。


それでも他の同世代の男子に比べると、顔も頭も、力量でも劣っていた。

まだ出会っていないが、村には有望な男子がいる。


村一番のイケメン男子、リーズル。

同世代で一番の力持ち男子、ガレット。

頭が良く、真面目で魔力が高いオズロン。


この3人は、女子にも人気が高かった。

そしてこの3人とも、ファナに恋をし、告白したのだ。


それでも、ファナが選んだのはアロン。


結ばれてから、ファナに『どうしてボクを選んだの?』と度々尋ねた。

最初ははぐらかされていたが、その内、ポツポツと教えてくれた。


その、キーワード。


“昔から、ずっと一緒だったから”

“私には、アロンしかいないから”


さっぱり分からない、アロンであった。


それでも、再び同じ人生をなぞるように過ごそうとする。

その過程で、ファナがアロンを選んだ理由が見えるのかもしれない。


(もし “この人生” でファナが別の誰かを選んだとしても……ボクは、守る。)


だが、すでに違う人生と割り切っているアロン。

何故ならその身に宿すのは、【超越者】を屠る圧倒的暴力だ。


“12歳の儀式” の対策は万全でも、実際のアロンの適正職業は “極醒職” 【剣神】のグランドマスターなのである。

何かのきっかけで、前世などの記憶や超越者の片鱗が割れたら、“同じ人生” とは言い切れなくなるからだ。


それでも、ファナを守る。

それがアロンの、全てであった。



そして、もう一つの不安。

それは……。


「さぁ、積み込みは終わった。今回は帝都まで行くから、帰りは来月になるなぁ。」

「アロンや、お土産をたーんと持ってくるから、良い子にしているんだよ?」


行商人の祖父母だ。


「う、ん。じーちゃん、ばーちゃん、おみやげ、たのしみにしているね。」


精一杯の笑みを浮かべるアロン。

その胸中は、不安で押しつぶされそうだ。



母リーシャの父と母。

アロンにとって祖父母の二人は、幼い頃、行商の道中で遭った盗賊の襲撃で帰らぬ人となったと聞いた。


アロンは、それがいつ、どこで、とは聞いていない。

分かっているのは、アロンが物心つく前、妹ララが1歳の頃であるという情報だけだ。


つまり、“間もなく” という状況だ。


アロンは、ファナと精一杯遊ぶ傍らで三歳児の振舞いを習得する一方、前世の、三歳児だったころの記憶を何とか思い出そうとしていた。


そして、辛うじて思い出したこと。

大勢の村人が訪れる家の中、母リーシャはアロンと妹ララを抱きしめて泣きじゃくる姿であった。


(いつだ、あれは、いつだった!?)


すでに、違う人生と割り切るもう一つの理由。

盗賊に、理不尽に殺された祖父母を助けたいと思う心であった。


これは、歴史や未来を変える事になるかもしれない。

だが、そうなる可能性に対して、あの御使い達は何も言っていなかった。


そもそも、超越者の選別や殲滅についても、アロンに委ねると意思表示をした御使い。

その行為こそ、前世とは違う “歴史を歪める” ことだ。

即ち、アロンの力を持って、歴史改竄すらも許容された。


だが現在、三歳児のアロン。

それなりに動けるようになったとは言え、父や母、村人たちの目もあるため迂闊な行動が取れない。

さらに、ステータスもスキルも、まだ “年齢補正中” であるのだ。


―――――


名前:アロン(Lv1)

性別:男

職業:剣 神

所属:帝国

 反逆数:なし


HP:21/21(年齢補正中)

SP:3/3(年齢補正中)


STR:1   INT:1

VIT:1   MND:1

DEX:1   AGI:1

 ■付与可能ポイント:0


ATK:10(年齢補正中)

MATK:10(年齢補正中)

DEF:2(年齢補正中)

MDEF:1(年齢補正中)

CRI:0%(年齢補正中)


【装備品】

右手:なし

左手:なし

頭部:なし

胴体:布の服(上)

両腕:なし

腰背:布の腰巻

両脚:布の服(下)


【職業熟練度】

「剣士」“剣神(GM)”

 「剣士」“修羅道(JM)” “剣聖(JM)”

 「武闘士」“鬼忍(JM)” “武聖(JM)”

 「僧侶」“魔神官(JM)” “聖者(JM)”

 「魔法士」“冥導師(JM)” “魔聖(JM)”

 「獣使士」“幻魔師(JM)” “聖獣師(JM)”

 「戦士」“竜騎士(JM)” “聖騎士(JM)”

 「重盾士」“金剛将(JM)” “聖将(JM)”

 「薬士」“狂薬師(JM)” “聖医(JM)”


【所持スキル 72/72】(年齢補正中)

【内、使用可能スキル:1/72】

【剣士】

 剣士の心得


【書物スキル 4/4】

1 永劫の死

2 次元倉庫

3 装備換装

4 ディメンジョン・ムーブ


―――――


それでも、わずかだが成長した。


スキルも、常時発動能力(パッシブスキル)である “剣士の心得” が発動した。

剣を装備した際、ATK(攻撃力)が上昇し、剣士系のスキル発動に必要となる “SP” の使用量が20%減少するというものだ。


そしてもう一つ、制限されていたスキルが、解禁された。



「ねぇ、じーちゃんとばーちゃん。おまじない!」


無邪気な笑みを浮かべて、祖父と祖母の手を握るアロン。


「あらあら、嬉しいねぇ!」

「ありがとな、アロン。気を付けて行ってくる。」



アロン、そしてファナ達に見送られるように出発する祖父母。

パコパコと、軽快な馬の蹄の音がどんどん遠くなる。


(あとは……。早く “バッグ” を何とかしなくちゃだな。)



――――



夜。

妹ララが生まれたことと、「もうひとりでだいじょうぶだもん!」という宣言で、一人部屋を与えられたアロン。


寝静まったように見せかけて、起きていた。



(よし。父さんも母さんも、もうこっちには来ないな?)


暗闇の中、音を立てず起き上がる。

目を閉じて、集中する。


すると、アロンの脳裏に一つの光景が浮かんだ。

それは、数人の護衛と共に焚火を囲んで休む、祖父母の姿だ。


(あっちは、大丈夫そうだね。)


安堵と共に溜息を漏らしそうになる。

だがグッと我慢をするのだ。


解禁された、アロンのスキル。

女神から “二つ目の特典の代わり” として授かった、書物スキルの “ディメンション・ムーブ” の効果であった。


【ファントム・イシュバーン】では、一撃を入れた相手のすぐ脇や背後に瞬時に移動できるというスキルだ。

つまり、“触れさえすれば対象の傍へ動ける” ということだ。


昼間、アロンが祖父母の手を握ったのはこれが理由だ。

手を握ると同時に、ディメンション・ムーブの効果を掛けた。


だが、現状で何か事が起きた時にアロンが瞬時に動いても、何も出来ない。

盗賊の襲撃であった場合、下手をすると犬死だ。



(さて、続きをやろう。)


そろり、とアロンは音を立てず動く。

薄い月明かりを頼りに、アロンのベッドの下に隠すように置いてあった革袋を取り出した。


中身は、祖母の裁縫道具一式だ。

昨年、生まれたばかりのララの面倒を見に来ていた時に置いていった、忘れ物。

何度も訪れた祖母が持ち帰らなかったことをよしとして、こっそり拝借した。



アロンは、再度目を閉じて、意識を集中させる。

浮かぶ光景は、家の離れの小屋。


(ディメンジョン・ムーブ)


アロンは、一瞬で部屋から消えた。

そして、アロンの視界は歪み、離れの小屋の中心へと身体が移った。





「よし。作業開始だ。」


小屋に着くなり、アロンは小屋で山積みされた布を取り出す。

使わなくなった、古いシーツなどだ。

それが、不器用に、ギザギザと布と布が縫われている。


すでに相当な大きさとなった布と布に、新たな布を縫い付ける。

薄暗い小屋の中、月明かりを頼りに、強引につなぎ合わせる。


三歳となり、何とか自分の意思通り手先を動かすまで成長した。

それからというもの、こうして隙を見ては作業を繰り返す。


ある、目的のために。



(もう少しだな。間に合ってくれよ!)



焦りが見えるが、まだ三歳の身。

作業を開始して1時間もすれば、すぐ睡魔に襲われる。

しかも、時折 “ディメンション・ムーブ” で、父と母、妹が眠る部屋を見ては、父母がアロンの様子を確認しに来ないかどうか、確認する必要もあったのだ。


手元への集中と、警戒への集中。

削られる、精神力。

三歳の身では、堪える。


ふらふらしながら、縫い合わせた布を畳み、物陰に置く。

そして再度ディメンション・ムーブで自室に戻り、泥のように眠る。


翌朝、母のキスで起こされるが、正直 “もう少し眠らせてくれ” と思うアロンであったのだ。





「ただいま、アロン。ララ。」


翌月。

祖父母は無事にラープス村まで戻ってきた。


「おかえり、じーちゃん、ばーちゃん!」


まだ1歳のララは「だーだー」としか言えないため、代わりにアロンが元気よく答える。

正直、アロンは泣きそうだった。


毎日、ディメンション・ムーブの視界効果で様子は見てはいたが、まだ準備が整わない中、いつ盗賊の襲撃で命を失ってしまうか、気が気で無かったからだ。


無事に戻ってきてくれた。

それだけで、アロンは十分だった。


何故なら。

いよいよ今夜、作業の結果が花開く予定だからだ。





その日の晩。

行商から戻ってきた祖父母は、アロンの家に一泊することとなった。

翌日には西隣の町へ帰るのだが、長旅の疲れと、愛する娘と娘の夫、そして何よりも可愛い孫たちと過ごすのが、何よりのご褒美である。


こういう時は決まって、父と祖父は暴飲して泥のように眠る。

それを叱りながら忙しそうにする、母リーシャと祖母。


うつらうつら、と眠たそうなララの面倒はアロンが見る。


「アロンや、お前も眠たいだろ? 母さんもばあちゃんも手が空いたから、寝ておいで。」

「ララの面倒を見てくれてありがとうね、アロン。」


眠ってしまったララを抱っこする祖母に、アロンを抱きしめてキスをするリーシャ。


「うん……おやすみ、かあちゃん、ばあちゃん。」


わざと、眠たそうに告げるアロン。

フラフラと自室へ向かい、布団に潜る。


だが、心臓は先ほどから高鳴る。

ついに、ついに! この日、この瞬間がくるのだ!


(落ち着け! バレたら厄介だぞ!? 落ち着いて、タイミングを見計らうんだ!)


父と祖父は、泥酔で爆睡中。

母と祖母はまだダイニングに居るが、ララが寝てしまった手前、そして祖母も長旅の疲れもあるから、早々と就寝するだろう。


そのタイミングを見計ろうと、ディメンション・ムーブの視界効果で様子を見る。

何やら、話し込んでいる様子だ。


“早く寝てくれ!”


会話まで聞こえないアロンはそう願うしかなかった。





「リーシャ。あんたの目から見て、アロンはどうだい?」


片付けが終わり、眠りこけるララの頭を撫でながら祖母が尋ねる。


「凄く良い子よ。物分かりも良いし、隣のファナちゃんと遊ぶのも、ララの面倒も、進んでやってくれるから。良いお兄ちゃんよね。」


嬉しそうにアロンを自慢する母リーシャ。

その言葉に目を細めて、嬉しそうにする祖母。


だが。


「そうよね。良い子過ぎる(・・・・・・)わよね。」


何やら含みのある言葉。


「何か気になるの? 母さん。」


「ううん。私の気の所為かもしれないけど……。アロンは、時折、凄く “暗い” 感じがするの。とても三歳の男の子とは思えないほど……。まるで。」



“何かを、悍ましいほど憎んでいる”



「……母さん?」


「ああ、まるで、無理してお兄ちゃんを頑張っているみたいだからね。あんたや、ルーディンさんがしっかり見守ってやるんだよ?」


「もちろんよ」と言いつつも、首を傾げる母リーシャ。


「さぁ、私らも寝ようか。くたくただよ。」





(やっと、寝てくれたか。)



父や祖父と遅れて、寝室に入った母と祖母。

それでもすぐには動かず、寝入るのを待っていた。


恐らく、1時間ほどか。

母も祖母も疲れていたのか、すぐに寝入った様子。


(ディメンション・ムーブ)


アロンは、すぐさま小屋へと向かう。




「さて、仕上げだ。」



今夜は、月が雲に隠れ、暗闇はさらに深い。

さらさらと心地よい風が流れ、秋の匂いを感じる。


アロンは、縫い付けていた布を手に触れ、目を閉じる。


(ディメンション・ムーブ)


次に移動したのは、まだ若芽ばかりの、ナユの花畑。

ラープス村のすぐ南側にある森の、手前であった。


「さぁ、やるか!」


アロンは、一緒に移動してきた布を広げる。

それは、不格好ながら、巨大な袋であった。


その中に、アロンは腰に下げていたナイフを入れる。


そして、すぐにステータスを広げる。


“バッグ” の項目に触れる。

すると。


――――


【バッグ:数量1/99、重量2/15,800】

・くだものナイフ(短剣:最低級)


―――― 



「よし、行ける!!」


画面の表記を見て思わず、拳を作る。


一旦、自宅の様子をディメンション・ムーブで確認してから、アロンは再度ステータスを開いた。

そして項目にあるスキル、【装備換装】の文字に触れる。


――――


アロン:装備換装【1】


【換装しますか? OK / NO】

・神剣グロリアスグロウ(大剣:神話級)

・邪龍マガロヘルムGX(頭部:神話級)

・邪龍マガロアーマーGX(胴体:神話級)

・金剛獣鬼剛腕GX(両腕:神話級)

・天龍アマグダコイルGX(腰背:神話級)

・天龍アマグダレッグGX(両脚:神話級)

・神刀アマノミヤツチ(片手剣:神話級)

・神杖剣ヴァジュール(短剣:神話級)

・天盾イーザー(盾:神話級)

・魔剣フレイムタン(大剣:伝説級)

・聖剣クロスクレイ(片手剣:伝説級)

・守眼の首輪LX(胴体:伝説級)

・守眼の腕輪LX(両腕:伝説級)

・ブラックフルフェイスS(見た目頭部:R級)

・ブラックアーマーS(見た目胴体:R級)

・ブラックアームS(見た目両腕:R級)

・ブラックコイルS(見た目腰背:R級)

・ブラックレッグS(見た目両脚:R級)

・白輝・騎士の外套(見た目装飾:SR級)

    ・

    ・

    ・

    ・


――――



「もちろん、OKだ!」


画面のOKに触れる。

すると……。



『ガシャガシャガシャガシャガシャガシャ!!』


けたたましい音を立てて、膨れ上がる袋の中身。

それは、アロンにとって福音だった。


「やった……! ボクは、ついにやったぞ!!」


5年もの、ファントム・イシュバーンでの日々。

そして赤子として再転生した3年。


今の、この瞬間まで耐え忍ぶように生きてきたアロン。


全ては、村を、家族を、愛するファナを守るため。

そして、近々死の運命が訪れる祖父と祖母を守るため。


音が止み、膨れ上がった布。

アロンは恐る恐る開く。


そこにあるのは、アロンがファントム・イシュバーンで得た、武具の数々。


このイシュバーンでは存在してはいけない、“神話級” の武具に、“伝説級” の武具、そしてファントム・イシュバーンの世界で好んで着用した見た目(アバター)装備である黒銀の鎧兜だ。

その他、貴重なアイテムや貴金属もある。


こうした貴重な武具やアイテムが、残り9つの登録に収まっている。



「次は、“次元倉庫” に仕舞うだけだ。」


どの登録も、限界までアイテムが詰め込まれている。

一回一回、次元倉庫に仕舞う作業を行わなければ、きっと袋が破けてしまうだろう。


それは、アイテムや武具の喪失を意味する。

慎重にやらざるを得ない。


バッグの中身を、次元倉庫へ “一括収納” する。


そして一旦、ディメンション・ムーブで自宅を確認する。


「大丈夫。全員、寝ているね。」


呟きながらアロンは空になった布のバッグを丁寧に折り畳む。

その途中、糸の解れで破れた箇所を見つけた。


「あちゃー。これ、直さないとバッグとして機能しないよなぁ。仕方ないか。」


焦りは、消えた。

あとはゆっくりと同じ作業を9回、どこかで繰り返せば良い。

むしろ、こんな幼い頃にやる必要性すらなくなった。



その時。



『グルルルルルルル……。』



響く、唸り声。

ゾクリと、久しく感じていなかった悪寒を背に受け、すぐさま振り向く。



そこに居たのは、巨大な熊だった。



「こりゃあ……珍しい。レッドグリズリー、か。」


血走った目、黒の体躯は光を浴びると赤身を帯びるため、ついた名がレッドグリズリーという正真正銘のモンスターだ。


一歩、下がるアロン。

額、そして背中から、嫌な汗が流れる。


グルル、との呻き声は、“こんな闇夜に御馳走がいる” と聞こえた。

四つん這いに、大木のような太い足をゆっくりと踏みしめ、アロンに近づく。

若芽のナユの花が、ブチブチと潰される音が辛うじて響く。


「さっきの作業中だったら、やばかった。」


すでに作業は終えた。

アロンのディメンション・ムーブなら、一瞬で離脱可能。


しかし、問題はこの場所、この位置だ。


本来、モンスターがあまり寄り付かないはずのナユの花の群生地は、森の入口側に面しており、村との距離が近すぎる。


そこに現れた、討伐危険度Dランクのモンスター。

ファントム・イシュバーンの世界では、単身討伐ならレベル50は欲しい相手だ。


あの世界なら、雑魚扱いのモンスター。

しかし、現実のイシュバーンとなると話が変わってくる。


“基本職” が当たり前であるイシュバーン。

レベルという概念が、ステータスで視覚化されていないため認識できないこの世界では、大人10人がかりで何とか撃退できるかどうか、と謂われる非常に危険な相手だ。


それが、こんな村近くに。


もしかするとアロンが突然現れたこと、しかも大きな物音まで立てたことで、たまたま通りかかったレッドグリズリーをおびき寄せたのかもしれない。


このままアロンが逃げれば、下手すると村へやってくる。


そして、時刻は夜。

夜警や門番もいるが、突然、レッドグリズリーが現れたとなるとパニックになるのは必至だ。

想像するまでもなく、死者が出る。


アロンの身長、約90センチ強。

レッドグリズリー、体長3メートル。


首が痛くなるほど、見上げる態勢となるアロン。

そんなアロンを、一瞬で丸呑みしようか、どうしようか、と近づく巨熊。


ゴクリ。

アロンは、固唾を飲みこんで呟く。



「ボクが、やるしかないよな。」



“作業” の前なら、丸腰同然。

逃げの一手だっただろう。


しかし、今は違う。

違い過ぎる(・・・・・)



アロンは静かに、そして、心を、落とす。


その雰囲気。

ちっぽけな、人間の子供が持ち得るものでは無かった。



『グ、グギ!?』


目を見開き、硬直するレッドグリズリー。

感じたのは、あり得ない “悪寒” 。


それは、暗い殺意であった。



レッドグリズリーを睨むアロン。

右手を手前に掲げて、呟いた。



「“次元倉庫”」



同時。

アロンの手に握られるのは、白く輝く短剣。

ただ、短剣とは言えど、子供の手には余りある大きさだ。


月が雲に隠れ、深い闇の森。

そこに突如現れた、周囲を仄かに照らす白い光。


『ギュ、ギュウ。』


前足と、肩を丸めるレッドグリズリー。

それでも一瞬のことで、すぐさま体躯を持ち直して立ち上がる。


3メートルを超える巨熊の仁王立ち。

ますます、アロンは呑み込まれるように見下された。


だが、実は逆だ。

睨みを強め、アロンは静かに “死” を告げる。



「今、逃げていれば良かったのに。」



それは、祖母が懸念した、暗い感情。



後に、【暴虐のアロン】と呼ばれる少年。

異世界(イシュバーン)に舞い戻った彼は、本当の意味で今、産声をあげるのであった。

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