恋人勝手にラブストーリー〜色んな恋
# 初めてのデート遠くに
シュンは、大事なものを扱うように、風ではだけたカーデ
ィガンの胸元を直してくれた
あたかも、自分の大切なものとでも言っているようなその
態度にユカは少しくすぐったく可笑しかった
電車に乗って、バスに乗って、遠くまで二人で来た
デートって一体なんなんだろう
いずれは帰るのだが、学校からも、家からも、遠く離れて
こうして二人っきりになっていると
不思議な気がする
二人きりの世界に居ることが不思議でしょうがないのだ
学校は、いずれ卒業する
家もいつかは父母のもとを離れるのだと思う
その時、遠い遠い先のシュンとの別れは、ユカには、見え
なかった
二の腕に微かな感覚を感じて、ユカは顔を上げた
シュンが、指先でユカの腕の薄い柔らかなうぶ毛をなぞっ
ていた
シュンを見ると、澄んだ眼が、いたずらっぽく笑っている
たっぷりある時間の中で、互いが未知な二人は
解り合う楽しさを感じながら、広い世界を漂っていた
# 彼氏
「タケシを取らないでね…お願い」
少し下がり気味の眉とカールした長い睫毛が可
愛いユミは、本当にお願いするように小さく言
った
「タケシ……」
昨日一緒に乗務した、細身の身体に子供のよう
な笑顔の木村タケシか…
「大丈夫だよ …彼氏いるし…」
ユミは可愛く笑っていたが
(そうか…彼氏は、取ったり、取られたりする
ものか……)
(そうなんだ…)
広い駐車場の大きな木が、風に揺れて、木の葉
が数枚、足下に運ばれてきた
悔しいとか、悲しいとかじゃなく、大きな虚し
さが、薄曇りの空と灰色の細かい砂地に限りな
く続いているようだった
# 悩み
エイコが浮かない顔をしている
失恋でもしたの?
冗談混じりに言った
困ってるんだ
自分の気持ちに
奥さんのいる人が好きだという
若い独身の女の子にはよくある話だ
それがね
自分でもおかしいんだけど
つれなくされると寂しいけど
優しくされると嫌いになりそうなの
?
だって好きだけど
誠実さが好きなのね
でも、奥さんがいるのに
若い女、わたしね
若い女に、ふらふらするような人は
嫌いなのよ
?
だから、自分でもどうして欲しいかわからないの
自分もどうしていいかわからないの
それは困ったね
さぞ、向こうも困るだろう…
一体ふたりの、許されない恋の行方は…
どうしたらいいんですかぁ