問題は日常的につき
初めまして、タロイモと申します。
処女作故に可笑しなところが多いと思いますので、何かあればコメントまでお願い致します!
尚、更新はストックがあるうちは三日に一回、それ以降は仕事の合間を見て更新させて頂きます。遅くとも一週間に一回は更新したい!
「うるせェッ!」
そんな罵声と共に、幾つものガラス瓶が割れる音が室内に響き渡った。
常であればそんな雑音など周囲の喧騒に紛れてしまい、誰一人気に留める事など無い。しかし、偶々。そう、偶々訪れた数秒の静寂の中で嫌という程に響き渡ってしまった罵声と甲高い音。
楽し気に酒を煽っていた周囲の冒険者達は皆揃って顔を顰め、自分たちの気分を害する者共を睨みつけた。
「こんなのッ! こんなの詐欺だろッ! 依頼受けたんなら、最後までやり通すのが当たり前じゃねェのか!?」
そこにはテーブルを壊さんと一定リズムで拳を振るう一人の禿げ上がった男性と、その対面に俯いて腕を組み深々と腰を下ろす雪色の髪を持つ――幼い子供が。
ジョッキを手にしていた周囲の者の中には、その可笑しな構図に目を剥く者が数組存在するが、それを除いた多くの冒険者達は「あぁ、また始まったのか」と溜息交じりに視線を戻す。驚きを露わにする冒険者たちは、そんな様子の周りを見て更に困惑の表情を浮かべている。
徐々に先程までの活気が戻って来たギルド内を冷めた表情で見渡し、暇を持て余すように溜息を吐き出した受付嬢――ビビッド・マクエルは内心「このイベントのお陰で、ベテランかルーキーか見分けられるのよね」とぼやき、未だ怒りの表情で子供を見下ろす男の方へと視線を移した。
既に先程程度の罵声であれば耳を澄まさなければ聞こえないギルド内に、折角の面白イベントを台無しにされたと、又しても憂い気に溜息を吐き出したビビッドは、大きく伸びをして溜まった書類の整理に掛かる。
ここ、王都メルフィストに看板を掲げる冒険者ギルド――〝雷電の獅子〟は他の冒険者ギルドと比べても問題児を多く抱える事で有名なギルドだ。酒場スペースでの喧嘩は毎日絶えず、公共施設の破壊、依頼品の紛失等々……此れまでの不祥事を上げると切りがない。現在酒場の一角で起きている言い争いも、その中の一つとして有名であり名物とも言える出来事だ。
しかし、そんな問題だらけのギルドであるにも関わらず、何故未だに大きな顔をして看板を掲げられるかというと――依頼成功率が九〇%を優に超えているからなのだ。残りの一〇%弱の足を引っ張っているのは慣れていない初心者のみであり、その者達も半年ほど経てば失敗はほぼ零となる。
何かしら粗相を起こしたとしても依頼は完璧に遂行する、そんな彼ら、彼女らを街の者達は笑いはするが馬鹿にはしない。ある意味、悪いところも含めて街の誇りとも言える愛されたギルドなのだ。
そして話は酒場の一角に戻るのだが。此処にもまた、問題は起こせど依頼成功率は驚異の一〇〇%を誇るこのギルド唯一の存在が――。
「聞いてんのかテメェ! 俺は――」
男の罵声は途中で中断され、凄まじい速さで後方へと吹き飛んで行く。巻き込まれたテーブルの冒険者は男同様目を回し、周囲の者達は我関せずと冷や汗を流しながら口を閉ざす。
「チッ……がーがーとツンツルテンが吠えやがって。終いにゃ殴っちまうぞ?」
ものの数秒で再び静寂が支配したギルド内で、この場に似つかわしくない〝幼く高い声〟が響き渡った。その出所は言わずもがな。
深々と椅子に腰かけていた子供――リオは俯いていた顔を表に上げた。美しく整った〝少女〟のようなあどけなさの残る顔つきは、知らぬものからしたら只の美少女。しかし間違えてはいけない。彼女――いや彼は紛れもなく男。長い睫毛にサファイヤ色の瞳、血色の良い唇と頬。更には艶やかな白髪が綺麗に切り揃えられたショートヘアーであったとしても、彼はれっきとした男なのだ。
リオはそんな端整な顔を僅かに歪ませながら、右腕を正面に突き出して男へ宣った。
(いやいやいや。もう手、出してんじゃん)
そんな光景を頬杖ついて眺めていたビビッドは、内心そう考えながら頬を引き攣らせる。恐らく、その場に居合わせた全員が同じことを考えたのだろう。彼女の視界に入る冒険者たちは皆揃ってビビッドと同じ表情を浮かべていた。
リオはもう一度舌打ちを響かせると、重たい腰を「よっこらせ」と持ち上げ、床で伸びている男に冷たい視線を送る。しかし、そんな格好良さげな光景であってもリオの身長は一二〇程しかなく、それを補うように椅子の上に立つものだから、周りはどうしても暖かな視線を送ってしまう。
「僕は依頼書の通り仕事をこなした、それだけだよ。それ以上の依頼であれば追加を掛ける必要がある。僕達はボランティア団体じゃあないんだから」
数秒の沈黙後、そう吐き捨てたリオは勢いよく椅子の上から飛び降りると、もう用事は済んだと男には目もくれず受付へと歩を進めた。
周囲の冒険者達は「何の事だ?」と疑問に感じつつも、二次災害は御免だと無理やりテンションを上げて飲みを再開する。すると瞬く間にギルド内は先程までの喧騒を取り戻し、いつもの姿へと元通り。
そんな常と変わらぬ光景に自然な笑みを溢したビビッドは、これから始まるであろう面倒事の処理に肩を重たくさせつつも姿勢を整えた。
「ビビ、これ」
すると数秒も経たずに、カウンターから顔を覗かせたリオがビビッドへ依頼書を一生懸命腕を伸ばして提出して来た。
その姿は先程の冷酷さなど嘘だと思えるほど可愛らしく、ビビッドは微笑みつつ垂れてきた前髪を耳に掛け直し依頼書を受け取った。
「ふふっ、ご苦労様。今日はどうしたの?」
彼が子供扱いを嫌う事を知っていても、顔を赤くして背伸びする姿を見てしまうとそうせざるを得ない事に内心謝罪し、ビビッドは優しい顔つきで依頼から先程の出来事までの経緯を質問した。
「んー、特に依頼自体はおかしいところはなかったんだ。いつものように解決して、報告して」
「うんうん」
「でもさ、報告終えて、さー宿屋に帰ろうって時だよ。急に呼び止められて、追加でお願いがあるーって。それで追加依頼ならギルドで話そうってことになってここまで来たんだけど……」
リオはそこまで言うと苛ついた表情で視線を落とし、小さく舌打ちを打つ。それに何となく察しがついたビビッドは、苦笑いを浮かべた。
「急に追加依頼じゃなくて今回の依頼に含まれていたんだ――って感じ、かな?」
彼の言わんとしている事を言い当てたビビッド。リオは「そうなんだよぉぉ」とカウンターに顎を乗せ、項垂れる様に頭を左右にゆっくりと振る。その度に揺れ動く頭髪は何とも言えない魔性の魅力があり、ビビッドは思わず彼の頭を撫でてしまった。
――瞬間、やってしまったと思った彼女だったが、意に反してリオの抵抗はなく成すがままに可愛らしい唸り声を上げている。
こういう事が許されるのは現在のリオの心境が最も大きくかかわっているのだが、それ以前にリオとビビッドとの間にはそれが許される絆とも呼べる関係があるからに他ならない。しかし、これに関しては後日談で良いだろう。
話は戻り、リオが今回受注した依頼についてだが、内容はシンプルに討伐ものである。簡単に説明するのであれば、村の近くに住み着いた〝マンバベア〟二頭の退治。報酬は一〇万チェリルと言ったところ。
討伐依頼のランクにしてA。上から数えると四番目の難易度となる依頼だ。因みに依頼の難易度や冒険者のランクは上からEx・S・A・B・C・D・E・Fとなっており、両者最も多いのがCランクになっている。一番少ないのは言わずとも知れたExだ。
本来、リオの受けた依頼は報酬金額が倍あっても可笑しくないものだったのだが、村の都合上出せる金額が一〇万までと少なく、誰も受けようとしないものだった。しかし、偶々暇を持て余していたリオが気まぐれで受注し、報酬金はあれば貰うし無いなら無いで別にいいというスタンスで向かってくれたのだ。恐らく、その様子を見た依頼主がしめしめとリオの優しさに付け込んで無理難題を吹っ掛けたのだろう。
そりゃ怒るわな、と溜息を吐き出したビビッドは、名残惜しさをグッと堪えてリオの頭から手を離した。
「それじゃ、報酬はどうする? いつもと同じでいいの?」
「うん。僕んとこには二割でいいよー」
顎を上げたリオは眠たそうに眼を擦り、返事と共に首を縦に振った。
彼らの言う〝いつもの〟とは、報酬金額の内八割をリオがお世話になっていた孤児院に配送し、残り二割をリオの貯金口座に振り込むといったものである。基本的にこのやり取りはビビッドとの間でしか行われず、そういう決まりは無いのだがいつの間にかリオの担当受付はビビッドという形が定着してしまった。だから彼女がリオを多少子ども扱いしても――という話に繋がる。
その後、リオは大きなあくびを繰り返しながら去って行き、ビビッドはまたしても暇を弄ぶことになった。
現在、既に日は傾き始め、此処からは依頼完了処理か加入脱退手続きしかやることが無い。例外はあれどそんなのは時偶だ。
ビビッドは大きなあくびを一つかまし、リオから移ったのかな、と小さく微笑んだ。
彼女の脳裏にはいつまでのリオの可愛らしい表情が張り付いており、いつだって彼の事を考えている。今は何しているのかな、や今日の依頼は簡単そうだけど心配だな、等々。
そして、今彼女の脳裏を埋め尽くしているのは――。
(あんな可愛い顔して、この国に三人しかいない――Exランクなんて。この世もまだまだ面白い事が溢れてそうだな)
相も変わらず彼の事であった。
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