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【短編】小説

夢 〜教室爆破事件の濡れ衣〜

作者: 橘樹 啓人

 俺は某私立大学に通う大学生。

 四年生の後期になり、俺は色んな意味で焦っていた。就活とか卒論とかも勿論だけど、それよりも単位が全然取れていなかったのだ。規定の単位数を取らなければ、卒業はできない。そんな焦燥感に駆られていた。


 まあ、規定の単位取るだけなら楽勝だろうと思ってバイトとか部活とかやってたから、こうなったわけだけど。その結果、四年の後期になっても4単位ほど残っていた。


 俺は、この日も学校で普通に授業を受けていた。大講義室って感じのところではなく、高校の普通教室よりもやや広いくらいの少人数教室だった。

 席が自由なら俺はいつも一番後ろの席に座るのだが、その授業は座席指定があったため、俺は窓側の列で、前から二番目の席に座っていた。


 教壇では教授が授業を行っているが、その教室において、他の学生たちは私語をしていたり寝ていたりした。気が散って俺も授業に集中できず、ただ周りを眺めていた。どうせ、最後はレポートだから聞いてなくても大丈夫だろう、という感じで。


 俺は何気に後ろを振り返った。すると、俺と同じ列の一番後ろに座っている一人の男子学生が目に入った。あまり見たことがない顔だったから、おそらく違う学部か違う学年だろうと思う。その学生が隣の席を見ながら、何やらそわそわしているのだ。


 隣の席は、今日は欠席なのか元々空いているのかわからないが、空席だった。

 何故そんなに気にしているのだろうか、と俺はそいつの不自然な様子が気になった。そしてしばらく、そいつを見ていた。相手も、俺に見られていることには気付いていないようだった。


 すると、そいつは自分の鞄の中から、何やら白いタブレットのようなものを出した。


 その男は、その「タブレットのようなもの」を隣の席に置いた。そして、何故かにやにやとしながら、教室の中を見渡し始めたのだ。その気味の悪い行動を見て、俺は目を逸らしたくなった。


 俺は、何気にタブレットに目線を移した。本体の端についている黄緑色のランプが、チカチカと忙しなく点滅している。……今にも、爆発しそうな勢いで。

 彼が何をしようとしているのか、その時の俺には全く読めなかった。


 と、その時。急にそいつが立ち上がった。と思えば、走って後ろのドアから教室を出ていってしまったのだ。尚、彼が退室したことに気付く学生は俺以外にはいないようで、皆、授業に集中しているか、友達同士で私語してした。


 追いかけた方がいいのか? と俺は一瞬、戸惑いを覚えた。

 考えあぐねた結果、追ってみることにした。あのタブレットが何なのか……ということが、少し気になったからだ。


 そして俺も、後ろのドアから廊下に出た。無論、俺が出ていく時も誰も振り返らなかった。


 階段の前まで来ると、あいつがいた。上の階へ向かう階段の踊り場から、俺を見下ろしている。俺は意を決して、声をかけようと進み出た。


 その直後、耳を劈くほどの爆音が背後から轟いた。俺は心臓が止まりそうになり、反射的に教室の方を振り向いた。すると、先ほどまでいた教室からは煙が上がり、窓が割れ、その隙間から炎が顔を出していた。俺はその時、何が起こったのかわからなかった。


 まさか……あれはタブレット型の爆弾だったのか?


 徐々に、そんな考えが頭の中に浮かんできた。そして、あの男の存在を思い出して再び踊り場の方を見る。しかし、あいつはどこにもいなかった。どこへ行ってしまったのだろう。



 翌日、俺は教務課に呼び出された。そこで、ある紙を手渡されたのだ。

 単位没収……という内容だった。


「あの……何すか、これ」


 俺がきくと、教務課の眼鏡の男性はこう答えた。


「教室を爆破したのは、君だということになっている」

「は? えっと、ちょっと待ってください。俺じゃないですよ。俺、見ましたから。一番後ろの席のやつが、にやにや笑いながら爆弾仕掛けてるとこ!」

「いやいや。君、爆発する直前、教室を出たよね? 複数の学生が証言している」

「いや、その前にもう一人いたでしょうよ! 出ていったやつが!」


 俺が必死に抗議しても、その男は聞く耳持たずといった様子で言う。


「君は、大学の評判を一気に下げてしまった。だから四年で卒業できないどころか……終わってるわぁ」


 う……嘘だぁ! 俺じゃないのに!


 他に証言してくれるやつはいないか、と思った俺は周りを見回した。すると、近くを通った女子学生と目が合った。顔に火傷のような跡があり、両腕は包帯によってぐるぐる巻きにされている。あの時、あの部屋にいた子だろうな……と俺は直感的に思う。

 すると、その女子が俺の顔を見てフッと笑った。人を陥れる時に浮かべるような、嘲笑的な笑い。


 俺は、彼女が何故笑ったのかわからなかった。そして、あの男子学生の目的もわからない。

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