キングスハロー 下
『キングスハロー! キングスハロー!……』
瞼を閉じると目の前に歓声が起こっている競馬場の風景が映った。 想像とは言え、リアルな声に聞こえた。たった、何百字の程度の馬の説明に感化を受けての想像。とても、心揺さぶる光景に見えた。
僕はその想像の競馬場から舞い戻り、鳥肌が起った身体を落ち着けながら、先輩に尋ねた。
「その後のキングスハローはどうなったのですか? 気になります。」
「キングスハローは …… その後のレースは負け続けたよ。 数ヵ月後に引退して、種牡馬になった。今はその子供達がレースに参加してる。」
キングスハローは最後に制したスプリトステークス(G1)からは嘘のように敗け続けた。 ファンからは(もう重賞を取ったから十分!)と許しを得ての引退をした。
「キングスハローは良血馬なのに種付け料金が手頃だから、沢山の繁殖牝馬が集まったよ。 まぁ、重賞を一回しか優勝してないから、関係者とかは期待とかはしてなかったらしい。けど、 その子供達は結構活躍してるんだよな。」
そう言いながら、スマホを見せてくれた。
「ラフレシアソルダ」主な勝鞍… 毎月新聞杯、 スプリントステークス(G1)、松宮杯(G1) ※スプリントステークスを制したので親子制覇に達成。
「カミカゼプリンセス」 主な勝鞍… 八重桜賞 (G1) 、 オール賞、 全優雌馬 (G1)、 秋炎賞 (G1) ※日本史上第6頭目クラシック優駿牝馬に。
「凄いですね!キングスハローの子供達の活躍してますね!」
「なんでたろうな? 親の血筋よりは…… 祖母とか祖父の血が覚醒遺伝したんだな! よくあることだ 。」
うんうん、と、納得したように先輩は首をかくかくさせながら、 いつの間にか頼んでいたコーヒーを飲んでいた。
「まぁ、 俺は最初に石田の野郎の事をキングスハローに例えたけど …… 石田は違うかもな。 あいつを競走馬に例えるのは失礼だ!おい! あれ見ろよ。 」
先輩はそっと、フロアに指を指した。
そこには、 他の店員を手伝ったり、客の注文を積極的に取りに行ったりしている、 石田さんであった。