キングスハロー 上
競馬で大勝利した翌日。
先日の先輩が桜肉を食べてしまったことは正直に話した。 先輩は 「え!!本気かよ! いつの間に注文したんだよ! 」と、 ぷんすか怒ってしまった。 僕は、謝罪と共に夕食を奢ると約束したのでファミレスに移動した。 幸いにも昨日の競馬で儲けが余っていたので、少しは贅沢が出来る。
「 さて、今週のレースの情報でも確認するか 」
夕食を食べ終わった先輩がスマホでレースの情報を調べていた。
「 あれ? 競馬新聞とかは読まないんですか?」
「競馬新聞は週末にしか売ってないんだよ。レースに参加する馬達の情報はネットの方が早く手に入る。馬の陣営とか予告宣言するから新聞は情報が遅い。」
「へぇ」
スマホを見る先輩はバイトでは決して見せない顔付きをしていた。 この人は競馬が好きなんだなと思った。
しばらく経つと、 「甘いの食べたいなぁー。 」と言われたので、追加でパフェを頼んだ。
「お待たせしました。苺パフェ二つです。」
僕たちの席に運ばれてきたを食べようとしたら、 先輩が店員に向かって尋ねた。
「あれ? お前 …… 石田だよな? こんなとこでバイトでもしてるのか? 連絡とか来れれば良かったじゃないかよ! 」
「あっ! 高橋さんじゃないですか? 今日はここで夕食ですか? 」
「そうなぁんだよ。 あっ! こっちはバイト先の後輩だ」
僕の方を指を差されたので、僕は軽く会釈をした。
店員は僕と変わらない年齢で、少しイケメンだった。 爽やかな雰囲気をだして、飲食業にぴったりだった。
「すいませーん。」
遠くの方から店員を呼ぶ声が聞こえた。 慌てて石田さんは振り向いた。
「はい! 今伺います!」
石田さんは「ゆっくりしていってね。」と、 小声で話して呼ばれた席に向かっていった。
先輩は「おう。」と言って送り届けた。
「あいつは俺達と同じバイトで働いていたんだよ。 一年前に辞めてな。そして、お前が入れ替わる様にしてこのバイトに入ったと。 」
「そうなんですか。けど、僕、石田さんの事とか聞いたことないですよ?」
不思議だった。 職場にいると長くいる人達から「昔、○○って人が働いていてね」などの話は聞くと思うが…
「石田は凄かったんだ。 入って三日で主任に任命された。 しかも、正社員では無くてバイト扱いで…異例だよ。異例! あいつはもともと、浪人だから社員になる事に本人は断ったらしいんだ。 勉強したいと言ってたから。でも、会社もバイトの身分で主任にしたと…… 上層部のオフィス部署で働いていたから、石田の事を知っている人があまりいないだ。 俺は結構連絡してたから、知ってたけどな。でも、 ここでバイト始めたとは知らなかったわ。」
「へえ」
僕はいつまで経っても、昇格の話などはない。 毎日毎日同じ作業ばかりである。
(先輩も同じである) 先輩に「あなたもバイト長いだから、そろそろ昇格するのでは? 」と、 言いかけたが辞めた。 (確実に怒られる)
「 ん? お前いま変なこと考えてなかったか? 」
「全然考えてないですよ! ほんとですよ!ほんとにほんと!!」
僕は必死に隠したが、 先輩の勘の鋭さにはどうしても敵わなかった。 話題を変えようとした。
「あ …… あの、なんで石田さんはバイト辞めちゃったですかね? 」
「勉強に専念したかったんじゃないかな? バイト身分なのに上層部で主任だぞ。 それでは自分の時間ないな。石田は確か …… 三浪してるはずだな」
「え?! そうなんですか?」
「確かな…… 確か、慶王大学医学部志望って言ってたな。そして、両親も医者だから、相当なプレッシャー掛かってると思うぞ。」
「……」
両親も医者 ……
世間的には「医者の息子だからお金持ちで頭が良い」とか言われると思うが、 三浪もしてると言われたらビックリされるだろう。 「なぜ、医者になれないの?」と。
僕らは石田さんが注文に向かった席を見た。 石田さんは丁寧に客から注文をとって、復唱をした。 そしたら、 客が「違う! 粗びきポテトじゃなくて一口ポテトです!」と言われて、 石田さんはペコペコと謝っていた。
「石田を見ていると …… キングスハローの事を思い出すなぁ」
ポツリと先輩が言った。
「キングスハロー? 競走馬ですか?」
「ああ、 石田に似てるだ。」
僕はまた、スマホでキングスハローについて調べてみた。
【 キングスハロー 競走馬 】
ちょっと、無理矢理な話を作りました(苦笑)
最後に出てくるキングスハローと言う競走馬のモデルは、良血馬なのに重賞制覇を逃し続けて、やっと高松宮記念を制したキングヘイローです。