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 翌日の朝。綾花は、スマートフォンのアラームで目を覚ました。昨夜の不思議な出来事は、とりあえず日記には書いておいた。綾花は一応、高校生の頃から日記をつけている。

「にしても……」

 結局、あの奴らは何だったんだ。そう思いながら、ついでに「豊臣秀吉」と検索してみる。なるほど、昨日のジジイにそっくりな顔だ。いや、でも生きているわけがない。まさか子孫? 隔世遺伝?

 そんなことを考えていると、電話が来た。画面を見ると、『院長』と表示されている。45歳の洗練された紳士のような院長……松岡は、なかなかの名医であり、数々の賞を受賞している。

「もしもし?」

『市川君! ぼうっとしている場合ではない!』

「は、はい!?」

『確か、昨夜最後に帰ったのは市川君だね』

「そうですが?」

『不審な人物を見ていないか?』

 見ました。着物を着たおじさんですけど。と、綾花は言いたくなったが、

「どうしてですか?」

と一応訊く。

『治療器具が荒らされていたんだ』

 治療器具が荒らされていた……。犯人は私だ。綾花は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。

「いえ、不審な人物など、ひとりも」

 正確には3人見ているけどな。

『本当だね?』

「は……は、い」

『ならいい』

「あっあの、院長」

『何だ』

「鶴松って知ってますか?」

『そんなこと話している場合か!!』

 ブチッ、と電話が切れる。綾花はため息をついて、出勤の準備を始めた。



 さて、戦国の世にて、鶴松はみるみる元気になり、5歳になった。

「北のお義母(かあ)さま、見てください!」

 秀吉の正室、おねの元に、鶴松は走り寄って行った。北のお義母さまというのは、大勢の秀吉の妻を同じ呼び名で呼ぶのは大変だと考えた茶々が教えたものだ。本人公認の呼び名である。

「鶴松。どうしたの?」

「綺麗な書が書けました!」

 自慢げに書を広げる鶴松を見て、おねは微笑んだ。

「北のお義母様、次は竜子のお義母様のところに行ってきますね!」

 竜子のお義母様というのも呼び名の一つで、側室の京極竜子のことである。

 そう言うと、元気に走り去っていった。

「鶴松は、本当に幸せそうですね」

「そうじゃのぅ」

「茶々様……いえ、淀様は、またお子を授かったとか」

 茶々の腹には、また新しい命が宿っていた。

「次は、また男子かの? それとも女子が生まれるかのぉ」

「健康なら、それで良いではありませんか」

 うふふ、とおねが笑った。


 そして、茶々は間もなく産気づき、出産した。

 秀吉も茶々も、おねも、鶴松も、大坂城全体が喜びに包まれた。



「はあ、疲れた」

 綾花は、ひとり休憩していた。

「どうしたのよ、そんな顔しちゃって」

 同僚の高西双葉が、綾花の肩をぽんっと叩いた。

「いやあ、ね。昨日、不審者に会って」

「なにそれ。器具荒らしの犯人?」

「違うのよ」

 再び蘇るあの3人の大人。ああ、全く何だったんだアイツらは。

「自分のことを秀吉とか言ってた」

「ふぅん……ねえ、これ見て」

 双葉がスマートフォンを差し出す。何?と綾花が言うと、いいから見て、と双葉が笑う。

「何々……秀吉の手紙発見?」

「そうよ! うふっ、茶々も愛されてたのね」

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