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第3話 めいめい/げいげき

◇コボルト(変異種 Lv.1)

HP22 MP0 敏捷19 器用6 筋力26 知力6 幸運9


「……やっぱりお前、コボルトだったのか」


 ゲーム画面のステータス値を見ながら背後にペタリと座り込んでいる犬耳少女に声をかけた。


「わぅ!」


 尻尾を軽く揺らしながら元気よく答える少女を眺めながら、さて、これからどうしようか……と、考える。


 石壁に囲まれた密室に全裸の犬耳少女コボルト)と二人きり……と、ここだけ切り取るとエロゲーシチュエーションそのままなのだが……現実には水道もなく、残された食料もコンビニで買っておいたインスタントラーメンしかない状態。当然ながら水の使えない現状では作ることなど出来ない。


 まぁ、最悪このままバリバリとかじれないこともないが、とりあえずの非常食に取っておこう。


 しかし、この状態のままジリ貧になってゆくのは避けたいところ。現代日本でニート生活を続けて来た甘ったれの自分は、苛酷な環境にはとても耐えられないであろうという自覚はある。

「お前の食い扶持もどうにかしなきゃならんしなぁ」


 と、言いながらふとポカンとした顔をしている少女を見て気がつく。


「そう言や、お前に名前付けてやんないとな」


「わぅ?」


 これから召喚、配置してゆくモンスター全てに名前を付けるのは難しいが、コボルトの変異種であり、最初に召喚したコイツには名前を付けておきたいところだ。


「さて……何て名前にしようかな?」


 白い毛並みのコボルト……シロ、ホワイト、ヴァイス……なんか違うな。


 今では遥か彼方にある現代日本に背を向けて、マニアックなオタク街道を突き進んできたこの身となれば、ネーミングにもそれなりのこだわりはある。


 本屋で見つけて一目惚れして以来、長期にわたり愛読してきたネーミング辞典はすでにその大半を暗記している程である。


「ギリシャ語。いや、ラテン語の白だと……アルブスか。悪くない、なら名前っぽくしてアルブってのはどうだ?」


 と、命名される本人(?)を見ながら聞いてみる。


「わぅっ!!」


 元気よく返事を返し尻尾を振る様子から、どうやらお気に召したようである。


「じゃあ、じゃあボチボチダンジョンでも造ろうかね」


 アルブの頭を撫でながらそう呟く。と、その前に……色々気掛かりな所を潰してゆくことにしようか。


 このゲームでは、DPというポイントを消費することで、モンスターの召喚に罠の設置。食料からダンジョンの拡張等の設備や、魔物の強化が可能なようだ。


「まずはお前の装備からかな」


 何はともあれ、彼女には色々な意味で装備が必要だ。このままでは本人の防御力は低いのに、俺に対しての攻撃力(視覚的な意味合いで)だけは高いという意味不明な状態になってしまう。


 しかし、普通に服を着せるだけではつまらない。と、いうことで、まずは白いビキニの水着を購入。続いてポイントアーマーも購入し、同時に装備させる。


 これで今どきのラノベなどのファンタジーものにありがちな『防御力があるのかどうかはよく分からないが、それはそれとしてセクシーで大変素晴らしいですね!』というカンジの衣装が出来上がった。


「!?」


 突然衣服が装着されたことにアルブはたいそう驚いた様子で、自分の身体を見回してはビックリしたリアクションを取っていたが、それなりには気に入っているようだ。


 次はこの部屋か……しつこいようだが、現代人のもやしっ子であるところの自分には石畳の床や、仕切りのないトイレという生活には耐えられないものがある。


 なので、まずはポイントを使いトイレの個室化と床をフローリング化する。


 さらにその勢いで流し台とガスコンロを設置。これでだいぶ部屋らしくなってきた。が……その代償か、生活における利便性を上げるのにはポイントがかさむのであろう。すでに残りポイントが当初の三分の二位までに減っている。


「これはいい加減ダンジョン造らんといかんよなぁ……」


 だが、最初からだだっ広いダンジョンなど造れる気もしないし、無駄に広く造っても持て余すだけだろう 。と、脳内で言い訳をしつつテレビ画面の置かれている石壁の向かい側に扉を設置。そこから廊下を直線に伸ばすように設置してゆく。


 その先に12畳程の広さの部屋を設置。住む部屋の広さとして考えれば充分以上あるが、戦闘の起こるダンジョンの広さとしてはこれ位でも少々足りないかもしれない。


 などと考えていると、部屋を設置し、入り口を付けた途端、『侵入者あり』のいかにもな警告音がゲーム画面から流れ、侵入者の姿を映し出す。


「うわ、もう来やがったのか!?」


 慌ててモニターをのぞき込むと、醜悪な顔をした緑色の小柄な怪物がうろついているのが目に入る。


「ゴブリンが三体か」


 三体とも棍棒と木製のラージシールドを装備している。複数いるのが問題だが、ゴブリン程度ならアルブだけでも充分迎撃出来るだろう……多分。


「アルブ、侵入者だ! 行ってぶっ倒してこい!」


 アルブに声をかけると同時に扉を開けてやる。


「わぅ!!」


 彼女は元気よく返事を返すと、甲高い雄叫びをあげながら文字通り疾風のような速さで飛ぶように駆けて行った。


 その姿を追うようにゲーム画面がアルブを映し出している。彼女は長い廊下を瞬く間に駆け抜けると、部屋に入った瞬間に、先頭に立っていたゴブリンへと飛びかかり、鋭い手の爪をその胸板へと突き立てて深々と斬り裂く!


 斬り裂かれたゴブリンは崩れ落ちるように倒れ込み動かない。残る二体が動揺しているうちに、アルブは左側の一体の首筋に噛み付き、そのまま噛み千切る。


 最後の一体は、状況も良く分からないながらもアルブへと棍棒を振りかざし襲いかかる。が、アルブはゴブリンの攻撃を避けると同時にそのままクルリと回転し、脚から出した鋭い爪を回し蹴りの要領でゴブリンへと食らわせる。


 いとも簡単に血の海に沈んでゆくゴブリンどもを見ながら、『瞬殺……だなぁ』とか。『あれ? コボルトってこんなに強かったっけ?』などと考えていると、アルブが帰って来た。


 かくして、獲物を仕留めホクホク顔で帰って来たアルブだったが……獣の習性からか、仕留めた獲物を……つまり、ゴブリンの死体を一体持ち帰って来るに至り、俺は大いに動揺し取り乱してしまった。


 そりゃそうだろう。目の前に突然ゴブリンの死体が現れれば、バイオレンスな日常が定番になっているファンタジー世界の住人でもない限り、動揺するに決まっている。


 これにはアルブは不満だったらしく、面白くなさそうな顔をしていた。きっと褒められると思っていたのだろう。


 とりあえず、アルブに死体を戻してくるように指示すると、しばらくして今度は棍棒や盾を持って帰って来た。


 幾分冷静さを取り戻した俺は、今度は誉めてやると、アルブはこっちが正解だったのか、とばかりに納得し、満面の笑みを見せる。やっぱりコイツモンスターだわ! と人の気も知らず抱きついてくるアルブをみながらそう思うのであった。


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