第10話 かみのおていれ/えぼりゅーしょん!
ダンジョン内に鳴り響く侵入者ありの警告音! 俺は先手を打つべく声を上げる。
「待て、アルブ! スト~ップ!!」
「?」
何に対しての先手か……それは我がダンジョン随一の強力な使役魔獣であり、考えてから行動するという機能が完全にオミットされている犬耳少女であるところのアルブに対してのことである。
こいつは案の定、髪を乾かすどころか身体を拭くことすらせずに裸のまま飛び出して行こうとしていたため、慌てて呼び止めておいたのだ。
「む、なんでとめる?」
「まぁ、待て。つか、身体も拭かずに出て行こうとするんじゃねーよ」
脱衣所に用意しておいたバスタオルをアルブに頭から被せ、頭と身体を拭いてやる。
「まずは侵入者がどんな奴なのか確認してからだ。身体拭いて部屋に戻るぞ」
「あい……」
アルブの身体と髪を拭いてやっていると、自分も拭いて欲しいアピールをしてくるパラールの身体も拭き、足早に部屋に戻ることに。
今度は何が侵入してきたのか、モニターを覗き込み確認することにする。
新たな敵は巨大百足が一体。ゴブリンよりは強いが、一体だけならばアルブ抜きの戦力でも何とかなるのではないだろうか。
と、言う訳でアルブには待機を命じる……もちろん不満げにブーブーと文句を言っていたが、例のごとく食い物で言うことを聞かせる。風呂上りはやはり冷たい飲み物も必要かとコーヒー牛乳と一緒にコロッケやチキン等を出してやると実にあっさりと機嫌を直す食欲魔獣様。
皆でメイン部屋へと戻り、アルブの髪を乾かしながらモニター画面をチェックする。今回もダンジョンの入り口である罠を多数設置してある部屋で巨大百足を迎撃するべく、別の部屋に配置しているコボルト2体もこの部屋へと移動させる。
まぁ、武装させたコボルトが5体もいれば倒せるだろうという予想であるが、もしもの時に備えて空にした部屋に『床が丸ごと抜けて落とし穴になる』罠を仕掛けておくことにした。
モニターでコボルト達と巨大百足の戦闘状況をチェックしつつ、DP交換で用意したドライヤーとヘアブラシを使ってアルブの髪の手入れをする。
ドライヤーで髪を乾かした後、長い髪に手櫛を入れてやり、ヘアブラシで丁寧に梳かしてやる。
基本的に自分の身体を手入れされている間は大人しいアルブ。今回は風呂上りのせいか、リラックスした状態で上機嫌に独特なテンポの鼻歌なんぞを歌いながら足をプラプラと動かしている。
そんなアルブの髪を引き続き梳かしながらモニター画面に視線を戻すと、槍で武装したコボルト達が巨大百足を取り囲むように移動し、一斉に跳びかかり、その勢いのままに巨大百足へ向けて槍を突き刺してゆく。
全身に槍を突き立てられ、身体中を激しく揺らして暴れ出す巨大百足。地響きが起きる程激しい暴れぶりにコボルト達が振り落とされ、石畳へと叩きつけられる。
激しく暴れ回るにコボルト達は次第にダメージを負っていく。通常のコボルト達だと大型の魔物との戦闘は少し早かったかな? これはアルブの参戦も検討したほうが良いだろうか。
そうこうしているうちにアルブのブラッシングは終了。艶が出て櫛通りも良いふわふわの髪になりアルブもご満悦のようだ。
「すばらしいけなみ! さすがはごしゅじん!」
そう言いながら嬉しそうに尻尾を振りつつ抱きついて来るアルブ。
「そりゃどうも……しかしお前、仲間がピンチなのにそんな呑気なこと言ってて良いのか?」
「もんだいない、あれいる」
アルブがそう言って指さした先の画面を見ると、1体だけ振り落とされずに突き刺した槍にしがみついた状態のままのコボルトがいた。こいつはさらに槍を巨大百足の体深くへと突き立てるべく隙の出来るチャンスを伺っている。
それに呼応するように、振り落とされたダメージから解放されたコボルトの内の1体が、再び巨大百足へ槍を突き刺し、ダンジョンの壁面に押しつけるように身体ごと体当たりをかけ巨大百足を壁に叩きつけ、動きを封じる。
その僅かな隙をついて巨大百足に取り付いていたコボルトは刺さっている槍をさらに深く押し込む。体液をまき散らしながら苦しげに暴れ回る巨大百足であったが、程なくして力尽きその動きを止めた。コボルト達の勝利だ!
苦戦はしたものの、アルブ抜きでも戦えることが分かったのは収穫だったか。
戦闘を終えたコボルト達を回復させ、巨大百足との戦闘をじっと興味深く観戦していたパラールが3杯目のフルーツ牛乳をおいしく飲み終えた頃、それは唐突に訪れた。
先程の戦闘で活躍していたコボルト2体の身体が淡い光を放ち、姿を変えてゆく。やがてその光が収まった頃には2体のコボルトはより強靱な姿へと進化を遂げていた。
「ゲフ……」
少しばかり飲み過ぎたらしいパラールの口から残念な吐息が漏れた……せっかく良いシーンだったのだが……。