交換条件
「そんなあからさまに警戒されると、嫌だなぁ……」
傷つくよ、なんて言ってぞの人物が笑う。
だけど、警戒するのも仕方がないと思う。
久恩を傷つける可能性があるということだ。つまり、敵になり得るということだ。
「小雪って……」
「そう、あの女の人」
私の質問を遮って白い人が答えを出す。ふんわりとしているはずなのに、何もかもを見透かされている感じがあって嫌だ。
「君は『相談屋』の一員なんだろう?」
白い人が聞いてくる。
どこで、知られたのか。分からない。
警戒した目で見つめつつもこのまま黙っていても埒が明かない。目を逸らさないまま小さくうなずいて見せた。
「だよね。なら、……僕の依頼を聞いてくれないかい?」
白い人がゆっくり狐のお面へと手を伸ばす。
狐のお面の赤い紐がするりと落ちた。そして、その人はお面を落とした。
お面は音を立てず、床に落ちるはずだった。
しかし。
お面は床をすり抜けて消えていった。
「ふふふ、驚いたかい? 実はね、僕はもう死んでいるんだ」
白い人が目を伏せたまま笑う。
美しい人で生きを飲んでしまう。
「僕の名はシロ。しがいない百鬼夜行の長だった人物だ」
男はそう言って目を開いた。赤と黄色のオッドアイ。吸い込まれそうなほどの神秘的な何かを感じた。
「無理してここまで来てくれた君を見込んで、お願いしたい。お願いだ。小雪を止めてくれ」
シロが泣きそうな顔で私を見つめてくる。
対する私は混乱していた。
小雪は昔、久恩と同じ百鬼夜行に属していて。
久恩が抜けたことを憎んでいて。
だけど、小雪の尊敬している百鬼夜行の長は死んでいて。
意味が分からない。
「方法はどんなでもいい。そう、例え――殺したとしても」
シロが提案してきた案に私は白目を剥くしかない。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
私は手を振った。これ以上、情報で殴られても頭がついていかない。
「どうしたんだい?」
シロが不思議そうに首を傾げる。
なんで、この人が百鬼夜行を収められていたのか、意味が分からない。
「えっと、何かしちゃったかな?」
困ったように笑われてもこっちが困る。
第一、先に情報で殴ってきたのはそちらだ。整理する時間が欲しい。
「取り合えず考える時間を下さい」
何をすべきなのか。何を知らなければいけないのか。
一度熱くなりすぎた頭を冷やして考える。落ち着いて考えなければ失敗する気がした。
「まず、依頼への返事です。『相談屋』では引き受けることができません。私がここにいることすら、本当はあり得ないことなんです」
シロが私の言葉を聞いて絶望したような顔色を見せた。
だけど、と私は手を握りしめた。
「交換条件なら私が個人的に動いてもいいです」
その発言にシロが瞬きを繰り返した。
私は彼を見据えて、口を開いた。




