プロローグ
プロローグ
寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。
我らが愉快な妖界を。
明るく楽しい生活を。
貴方の知らない物語を。
ここは妖や霊、神様が住んでいる世界、妖界。四季の花が咲き乱れ、沢山の生き物が忙しなく行き交う。街や村が点在し、大地は何処までも平がっている。
話は妖界の田舎にある小さな村の大きな屋敷から始めることにしよう。この屋敷は小さな名も無い村には不釣り合いなほど大きい。立派な門には、『相談屋』と看板が掛けられている。ネーミングセンスは皆無に等しいがこの仕事は案外繁盛している。ここを訪ねる者は多い。
『小さな悩みの全力で解決』をモットーに大勢の従業員を含み、その他諸々が暮らしている。実績があるので依頼は毎日のように舞い込んできていると聞く。
そこの社長を務めている人もまたかなり風変わりなお方だ。若く綺麗な男。元人間らしいが詳しいことは知らない。切れ長で緑の隻眼。少し長めの紫がかった黒い髪。腰に携えている鍔の無い刀。黒い羽織を着流しの上にひっかけ、左手に煙管を持つ。どう見ても怖い人なのに暖かい。
その人に手を引かれ、私は初めて屋敷の門をくぐった。
「聞け、お前ら」
低く落ち着きのある声が辺りに響く。そんなに大きな声では無かったのにあちらこちらから色んな顔が覗いた。急に視線が集まるのを感じ、俯いた。
「新人だ。面倒見てやんな」
その声に多分その場に居た全員が勢いよく返事した。
駆け寄って来る者達に思わず身構えてしまう。記憶の中で違うシーンと重なって見えて、体が強張った。
何も言えず固まってしまった私の頭に白くて綺麗な手が乗った。そのままわしゃわしゃと撫でてくれる。
「安心しな。お前さんに悪さしようなんて奴はここにはいねぇよ。俺が選んだんだからな」
言葉と共に軽く背中を押されて、セーラー服のまま、真ん中に歩み出た。
ここから私の新しい生活が始まった。