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12.  ノイズとステップ その① ☆

キャラの現在地確認

テス    『紅棗楼』回廊付近。

クリスタ  『紅棗楼』回廊付近。テスと一緒。

メリル   『紅棗楼』離れ屋「緑香球」。ただいまひとり。

リック   『紅棗楼』回廊。クリスタを探している。

アダム&ディー 『紅棗楼』入り口付近。

マリア     『紅棗楼』入り口付近。周囲を警戒しながら待機中。

エミユ     『紅棗楼』内と見られる。

ロレンス(提督)『紅棗楼』裏手、「別邸」内カラオケルーム。元部下たちと一緒。

オーウェン   レチェル4内。連絡取れず。ヨーネル医師と一緒。


こんな配置となっています。

 クリスタはがっしりとあたしを抱き締めてくれた。


「ぁぁああ、テス。間違いなく、本物のテスなんだね! 心配したんだよ。カフェを飛び出したまま、行方がわからなくなっちまうんだから!」


 あたしは親友の顔を見た安心感からなのか、涙と嗚咽で顔はぐちゃぐちゃ、言いたいことは山ほどあっても言葉が出てこない。かわりに彼女の背に手を回し、ぎゅっと力を込めた。





「おまえさん、今までどこに行っていたんだい。ああ、そんなことより、大丈夫なのかい。事故に巻き込まれたんだろう。ケガは無かったんだね」


 うんうん……と、彼女の腕の中で、何度もうなずく。


「みんな、心配してたんだよ。メリルだって、リックだって、懸命にテスを捜したのさ。それなのにどうやっても行方が掴めないから、あたしは気が気じゃなくってさぁ」


 クリスタの目にも涙が浮かんでる。ごめんなさい、あたし、こんなに心配かけていたんだ。

 クリスタの熱い想いに、あたしは(むせ)ていた。彼女の感情を無断で読むつもりはないけど、溢れ出る想いがどんどんあたしの中に流れ込んで来るんだもの。


 でもそれは全然不快じゃなくて、彼女の体温と共に、待ち焦がれていた安心感に満たされるものだった。あたしは欲張りだ。求めていたものでもっと満たされたいと、彼女の背中に回した腕にぐっと力を込める。

 クリスタもそれに答えるように、さらに強くあたしを抱き締めてくれた。





「メリルは死体安置所(モルグ)まで調べて安否確認するんだよ。勝手に死亡フラグ立てんなって文句言いたかったけど、あの手この手でそこまで骨を折ってくれるなんて、ありがたいじゃないか。

 他にもいろいろ……ああ、『紅棗楼(ここ)』に来れたのだって、メリルのおかげなんだ。彼女がいなけりゃ、この店に来ることも無かったし、ここでテスに再会出来ることも無かったんだよ。どういう偶然だか知らないけど、メリルに感謝しなくちゃいけないねぇ……」


 それはあたしだって、そうだわ。トラブルは山のようにあったけど、なんとかかんとかのどうにかこうにかで、まるで奇跡のように『紅棗楼(ここ)』に連れられて来て、こうしてクリスタに再会できたんだもの! そうよ、奇跡よ!


 いろいろなことが、まるで奇跡のように引き寄せられて……。



(ソウ、引キ寄セラレテ……)



 あれ、なんか引っかかるモノが――。


(なにか、納得できない感覚(モノ)があるんだけど。これ、なんなの!?)


 突然湧き上がった、不信感の不協和音。なに、この雑音(ノイズ)……。





「テス、本当におまえさんなんだよね。よく似た別人ってことは無いんだよね。もう一回、顔を見せておくれよ」


 クリスタはぐいとあたしの身体を引き剥がすと、両手であたしの顔を挟み、そして頬を摘まむと――思いっきり引っ張った!


「ふ、みゃあ! くふぃしゅた……痛ぁ」


 半べそ顔で抗議したら、彼女の顔はパーッと明るくなり、再びガバッとあたしを強く抱き締めてくれた。しかも、号泣してる。


「うん。間違いないよ。テスだ!」


 こんなことで、どう判定するとあたしになるのか全然わかんないけど、かき抱くクリスタの腕は前にも増して強い力で、ぐいぐいと……身体に食い込むくらい……捩じ切れそうな程に……――締め付けて……。

 ううっ。く、苦しいッ。


「……っん、んんっ!」


 息が、出来ない。酸欠。あ、目の前が暗くなって……ヤバ!

 急いで背中を叩いて、危機を知らせる。気付いたクリスタは、急いで腕を解いてくれた。


「あ、ごめんよ。うれしくって、力の加減が……」


 ……ぁん、もう。クリスタったら。



   挿絵(By みてみん)





 しばらく肩を上下に揺らして、呼吸を整えることに専念した。

 気が付けば、夜風が涼しく吹き抜けて、虫の声まで聞こえる。もうすっかり「秋」なんだ。故郷ポルボロン星では味わえなかった、風流な秋の風情――ってヤツよね。これ。


 知らなかった。「秋」って、静けさを感じる季節なんだわ。

 あたしがロクム・シティから離れていた僅かな日数のうちに、季節は晩夏から秋に変わっていた。時計の針が動くのは早いわ。


 小さな子供の頃は、時間が流れるのがゆっくりだった。

 いつまでも弟や妹たちと荒野を走り回ったり、クリスタと取り留めもないことを飽きることなくおしゃべりしていた。リックとデートだってしていたし、彼が先に大学に進学して遠距離交際になってからはメールも沢山した。もちろん、同じ大学に行きたかったから勉強だってがんばったわ。

 キャンプに、サイクリング、牧場の手伝い、ママと食事の支度……結構忙しくしていたのよ。それでも時間は余っていた。


 なのに大学生になったら、惑星レチェルに来たら、時間はちっとも待っていてくれなくなった。どんどんあたしは追い越されていってしまう。


 いつかクリスタにも、置いて行かれちゃうかもしれない。きっと彼女は「そんなことはない」って言うわ。だけど、いつかあたしたちだって、違う道を行かなきゃならないかもしれない。


 それが今すぐなのか、何年も先なのかはわからないけれど。

 そんな不安といつもにらめっこしている。

 でも、今はまだ、いいわよね。こうして大好きなクリスタに甘えていても……。


 



「お帰り、テス」

「うん。ただいま、クリスタ」


 いつものように、あいさつを交わした。シェアするお部屋に帰った時、声を掛けるのもあたしたちのルールだ。共同生活のための、あたしたちの友情のための決まり事。


「ここはアパートメントのお部屋じゃないけど……」


 ちょっと冷たい石の廊下に座り込んで、あたしたちは泣きながら笑っていた。





 ♡ ♡ ♡ ♡





 それにしても、ズキズキと頭蓋骨を締め付ける鈍い痛みと、絡む雑音。不快感。

 気にしだすと、痛みって増してくるものね。

 クリスタは平気なの? これを感じているのは、あたしだけなのかしら?


「――リックだって、まあ、いろいろあったが、今は深く反省してる」


 接触するクリスタからは、この「不快感」に関する感情は読み取れない。

 あれ、感じていないのかな?

 非能力者(ノーマル)であるクリスタには、害は無いということ……なの。


「あいつは照れ屋だから大袈裟には表現しないけど、テスのことを心底心配してたんだ。テスの姿が消えてからのあいつの狼狽えっぷりは、見ちゃいられなかったよ」


 そうね、リックってヘンなところで小心なんですもの。よく知っているわ、だって彼はあたしの……元カレですもの。


 恋人関係……解消……しちゃったんだから、……元カレだよね。お兄ちゃんのほうがいいって言い出したの、あたしなんだから。



 んんっ!?


 あれ?


 でもどうして、そんなこと思ったのかしら? 理由は? 原因は……?


(あたしは将来リックと結婚したかった……はず、で。プロポーズして欲しくって……それで――あれれ?)


 どうしたの!? ああん、頭の中、つじつまが合ってないよ!


(どうして、リックと「お別れしよう」と考えたんだろう?)


 その理由が、ぽっかり空白になっているのに気が付いた。


(――どうして?)


 突然湧き上がった不安に怯えて、あたしはクリスタにきつくしがみ付いていた。





「……まぁ。浮気の件は、ちょいと複雑な理由があってさ。後で詳しく説明するから、少し不問にしておやり。悪いのはあいつひとりじゃないからさ、これに関しちゃ、あたしにも少し責任があって……」


 そうよ、彼が誰かと浮気して……。


 でも、それが直接の原因じゃないの。浮気してたなんて、知らなかったし。そこはそこで問題アリなんだろうけど、なぜ別れたくなった理由は、もっと別にあって……突然()()()()()()()()()()()気がして……誰かにそう諭されたような……。



(ソウ、指示サレタ。りっく・おれいんト別レルヨウニ――)



(えー!! ちょっと待って。それって、誰に――!?)


 突然頭の中に響いた声に、あたしは自問自答する。





 その時、身体が大きく揺れた。張り付いていたあたしの身体を、クリスタが急に、強い力で引き離したからだ。


「そうだ、こんなことしちゃいられないよ!」


 あん、困ったわ。今のショックで思考が飛んでいっちゃった。

 けれども、クリスタはキラッキラした眼であたしを見つめている。あはん、なにかいいことを思いついたのね。


「――とにかく、おまえさんが無事だってことを、みんなに知らせなきゃいけないさ。離れ屋に戻ろう、あのふたりにもテスの顔を見せて、安心させなくっちゃねぇ。

 部屋の名前は……確か『緑光球(りゅうこうきゅう)』だったっけ。確か、こっちの方向で……」


 クリスタが振り返って前方にある洞門の方向を指さしたけど、今までの経験から、それは違うと思う。

なんでもクリスタの言うことは鵜呑みにするけど、こと方向感覚に関してだけは、絶対に信用しないことにしている。

 長い付き合いの中で、学んだことよ。過去に数々痛い目に遭わされてしまうと、あたしでも学習するんだから。


 だからといって、あたしだって、『紅棗楼(ホンザオロウ)』の内部構造がわかっている訳ではないんだけど。どうしたらいいのか、新たな難問に頭を悩ませ始めた時、後方から声が聞こえた。





「あー、見つけた。よーやく見つけたぜ。おい、クリスタ。おまえどこまで歩けば気が済むんだ……って」


 やだっ、この声の主は。


「え、……テ……テス!? おい、テスか?」


 そう、リックよ! リックだわ!!


クリスタと再会した喜びもつかの間、リックとも合流することになったテス。

あんなことの後なので、ちょっと複雑な気持ちみたいです。


次回は、例のコンビ登場。

こちらもややこしいことになっていまして……。

おたのしみに!



2022/04/01 挿し絵を追加しました。

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テスとクリスタ ~あたしの秘密とアナタの事情
― 新着の感想 ―
[一言] ふふん。ややこしくなってきたねぇ(←楽しんでいる)。 テスちゃん、早くリックと仲直りしてほしいな!
[良い点] キャラの現在地確認、助かります! [気になる点] クリスタの方向音痴設定。書き手としては心配になる設定です(笑) 主人公が方向音痴設定って、大丈夫?! 物語でどう動動くのか予測不可能です。…
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