表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/105

7.  紅棗楼で夕食を その⑥

「あら、あの方、確かもう退役されたハズじゃ……。

 どこかでワイン造りでもするっておっしゃっていたよーな記憶があるけど、……まさか、なんでクナーファ村にいるの……」


 オーウェンの顔が曇る。


「そーなんよ。あの顔は、間違いない。俺らでも大暴れしとった宇宙海賊を撃退した、カリスト宙域の会戦の英雄の顔は、見間違うことなんぞあらへんで」


 と、ディー。


「そんでもこぉなったら『いや~、ウチの妹がお世話掛けました。探してたんですわ。ウチのかわいい妹は時折記憶が混乱する病気持ちで、フラフラ~っと行方不明になることがありますねん……』とかなんとか言い繕うて、提督の元から取り返そう思たんや。ほんまに、足出掛かったんやで。


 そしたら、邪魔する奴がおんねん。誰やと探ったら、なんちゅうこっちゃ。ベレゾフスキーの手下がおるんよ!

 公安第2課の連中が、テスのケツ尾行し(つけ)とる! しかも俺らがよ~う知っとる能力者(タレント)コンビやで。ボス同様、いけすかない奴らや。


 厚かましい(ツラ)さらすよって、つい挨拶してもうた。やらしいことにこっちの出方窺いながら、牽制して来るんやで。

 なんでコイツ等が尾行掛けとるんじゃ思とったら、今度はどデカいリムジンの登場やないか! どないなっとんねん!」


 アダムはオーウェンの要望に応え()()()説明したが、第2課所属の能力者となんらかやり合ったのではないかとヨーネルは懸念した。


 困ったことに、能力者同士と云うのは、仲が良くない場合が多い。顔見知りであると云うことは、過去になんらかの因縁があったと云うことだ。

 どんな()()をしたのか、後で確認をしておこうと医師は思った。





「あんなあ、おっさん。なんで公安第2課が、テスに興味持ってんの。

 まあ、公認能力者の需要は増えてんのに、安定して高レベルの能力使える諜報員が不足しとるっちう話は、よう聞くけどな。そんだけやろか?」


 ディーが核心を突いてきた。


「他に、なにがあるっていうの?」

「あー、なんか隠してんな。そやろ、おっさん」


 アダムが追い打ちをかけるが、オーウェンは答えない。


「ま、ええわ。あとで聞かしてもらおか。

 そんで、どこまで話したん。リムジンか。そのリムジンから、どエライ美人が出て来たんや」





  ♤ ♤ ♤ ♤





 リムジンから降りてきた銀髪の美女はエミユ・ランバーと名乗り、提督とテスを乗せ、ロクム・シティに車を走らせたという。


「エミユ・ランバー? さあ、知らないわ」

「美人やで~」


「そこはいいから! 先を進めて!」


「なんでやねん。きれいなおねえさんいうンは、最重要なことやんか。ぜひぜひよろしゅうお願いしたいわ。なあ、ディー」

「せやな~」


 話が脱線しそうになり、慌ててヨーネル医師が口を挿む。





「さっき君らが送ってきた車両(リムジン)のナンバーを解析した。

この車の持ち主は個人じゃない。社用車だ。

ギモーヴ観光開発コーポレーションの登録車だ。おそらく客の送迎用に用意している物だろう」


「でもあのおねえさん、添乗員さんってカンジやなかったで。どっちか言うと社長と愛人関係にあるセクシー系美人秘書、事件のカギ握っています(タイプ)……やな」

「ちゃうちゃう、アダム。あかんがな、人は見た目で判断するもんやないで。

 その手の役柄は得てしてストーリーの前半で、殺されてしまうんや。あのおねえさんは、結構ガッツリ事件に喰いついていそうやった。事件の陰で暗躍する、危険な香りの大人のオンナやな」


「それ、ええわ~。せやけどや、ディー。それも見た目で判断やんか!」

「しゃーないわな。今はそこしか情報が無いやん。見た目も大事や」


「せやせや。……ってな、言うとること矛盾しとるで。いいかげんにしいや!」


 ますます話が横道に反れそうになり、オーウェンの頭からは湯気が出そうだ。ヨーネル医師は、必死で介入する。


「こらこら、それでリムジンはロクムに向かっている――と。君ら、今何処にいるんだ」

「ちょっと待ってえな。ハナシは簡素にするよって、そのおねえさんのこと、も少し突っ込んでもええか?」


 神妙な口調で、アダムが打診してきた。

 横目でオーウェンの顔色を気遣いながら、ヨーネルは了解を出す。手元の末端で、女の名前とギモーヴ観光開発の文字を打ち込み、検索を掛けることも忘れなかった。


「十中八九やで……あのおねえさん、能力者(タレント)(ちゃ)うか?」

「どーいうこと?」


 これにはオーウェンがすぐに反応を示した。


「実はな……」





  ♤ ♤ ♤





 リムジンはロクム・シティに向かって走り出し、2組の追跡者たちは距離を保ちながらその後を追うことになった。


 やみくもに後を追うだけでは都合が悪いと、アダムとディーはリムジンの遠隔透視(リモートビューイング)を試みてみる。

 会話が聞き取れれば正体不明の女の見当もつくし、車内の画像だけでも視えればテスの安否がわかる。

 理由は不明だが、ベレゾフスキーの配下まで張り付いているだけに、彼らとて慎重にならざるを得ない。


 これが、防御(ブロック)された。

 リムジンに遮断装置が装備されていた訳では無い。提督が自己紹介をしている辺りまでは、内部の様子が透視でき、会話の一部始終やテスの様子も探ることができたのである。





遠隔透視(リモートビューイング)してたんは、俺らだけやない。あいつらも会話聞いとったハズや。

 言うとくがな、俺らA級能力者やからな。覗くいうたかて、あからさまにしいひんで。上手(うま)~く気付かれんようにやるわい。素人やないんやから。


 そやけどな、おねえさんがこっち()たんや。俺ら4人に向かって、ニコッて笑ろたんや。

 それが、()()()()()()ちうか、なんか背中に氷入れられたいうんか、こうゾクッと()()()()出るような嗤い方なんよ。

 その途端や。ブチッと音立てて、透視映像(ヴィジョン)が途切れたんやで!」

最初(はな)っから、提督とおねえさんがしきりにアイコンタクトを取るんで、気にはなっとったん。犬にもぎょうさん吠えられたしな。


 あれ、絶対バレとるわ。俺らに()られとるのわかっちょって、わざとやってんねんな。


 そんで……なにとち狂たんや知らんけど、さっきの2課の()()がおねえさんに念動力攻撃(ちょっかい)出したら、速攻やり返(おしおき)されとったわ」





 オーウェンが唸った。


「うう…ん……、面倒事が増えた気がするンだけど。

 なに、じゃあその女も能力者(タレント)で、あんたたちの邪魔をしたっていうの? 何者よ、その女!?」


 先程ヨーネル医師が掛けた身分照会に結果を覗き見る。


「う……ん。エミユ・ランバー、元軍属だな。

 宇宙軍ガニメデ方面軍第12艦隊所属リー中佐……ああ、現在彼は大佐に昇進しているな――の小部隊に2年程所属していた。能力者ランクは公認(オフィシャル)C級になっている。

 除隊後、民間の警備会社に入社しているみたいだが、それ以外の経歴がよくわからないんだ」


 検索結果をチェックしながら、ヨーネル医師は腕を組む。


「よくわからないって、なによ」


 と云うオーウェンの疑問と、アダムとディーの驚愕の悲鳴が重なった。


「うそや~~~! あのおねえさんがC級能力者やなんて、絶ッ対ありえへん!!」

「記載ミスとちゃうんかい!!」


「俺らと互角、もしくはそれ以上にやりあっとるんやで!

 しかも高等テク使いまくりで、翻弄されてんねん。きれいなおねえさんに翻弄されんのは望むとこやけど、C級能力者いうんは納得出来へんからな!!」


「能力査定審査したんは、どこのボケなん! おねえさんの美しさにボーっとなっとって、査定基準を間違ったんやないか」

「ああ、ど~せ翻弄されんのやったら、もっとエロい状況(シチュエーション)がエエで!」


 スピーカーの向こうからは、再びふたりの仕様もないやり取りが聞こえる。

 永遠に続きそうなので、さすがのヨーネル医師も通話を切りたくなってきた。





「それで、君らの現在位置はどこなんだい?」


 また雑音が酷くなってきた。

 アダムが先程移動中だと言っていたが、通信状態の悪い場所にでも潜入したのだろうか。つまみ(フェーダー)を操作して感度を上げようと努力するが、一向に改善されない。


「おお、忘れとったわ。ロクム・シティの高級中華料理店『紅棗楼(ホンザオロウ)』に着いたとこや!」

「なんや、まだ通信状態悪いねん。そっちで、俺らの位置拾えないんか? ……っていうか、また通信妨害してんのがおるんやな。

 あのおねえさんやない。第2課の諜報員たちでもない。第3の能力者の登場や」


 ディーの言葉に、オーウェンとヨーネル医師に緊張が走る。


「……それ、テスちゃんじゃないの?」





「ちゃうな。テス本人でも、さっき感じたテス以外のテスでもない。この感覚はロクム・シティに隠れとるもうひとりの非公認能力者(イレギュラー)のもんや」


 きっぱりとディーが言い切った。


「ええなあ……高級料理店。提督はここで誰かと会う予定みたいやな。おお、なかから誰やら出て来たで。

 小洒落た私服で決めてんのやろけど、あれ軍の人間やな。隠そうかて、ひと目でわかるわ。また面倒増えたで、おっさん。

 あーあ、そんでも食ってみたいな、高級中華料理ィ~」


 アダムのわざとらしい溜め息が聞こえる。


「うぅん。そういや『紅棗楼(ホンザオロウ)』もギモーヴ観光開発コーポレーションの傘下じゃなかったかな。レチェルの観光事業は、ほぼギモーヴ社が束ねているから。

 ほら、エルマの有名な『ホテル・インタオ』とか……」

「まあ、エミール。やけに詳しいのね」


 世情に疎いヨーネル医師が、珍しく経済情報を解説したので、オーウェンは不思議に思った。


「いやその――離婚調停中の妻がライバル会社に勤めていて……。

 昔、さんざん愚痴を聞かされていたんだ。惑星レチェルは――ギモーヴ社……いや、ギモーヴじゃなくて……なんて言ったっけ……なんとかの、えー……っと――――」


 医師は俯き、声が次第に小さくなる。

 オーウェンたちとしては「えー……っと――」の先を追及したいのだが、込み入った私情が絡んでいそうで、それ以上強く踏み出せなくなってしまった。





「……おおっと。リムジンから、提督と謎のおねえさんが降りてきたで!」


 興奮を抑えたアダムの声。ディーが後を続ける。


「……しゃーない。おっさん、先生(せんせ)。マリアを起こしてくれや。のんびりおねんねしとる場合やない。

 手ェ足りんようになったから、手伝ってもらうで!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テスとクリスタ ~あたしの秘密とアナタの事情
― 新着の感想 ―
[一言] ポンポンポンポン軽口がw 重要なことも言ってるけど、要らん話題も多しw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ