9-メハルジア王国にて
飛空艇、空飛ぶ乗り物でもっともポピュラーかつ、技術的にどの国も移動手段や軍事的行為に活用されている。利用するにもお金が必要だが、許可も必要になってくる。一定の功績を上げたと所属するギルドに認められれば基本的に使えるようになる。
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ツェリスカが身に付けるシャンバラ式兵装は、特殊合金繊維で編み合わされた服に軽特殊合金のプロテクターが仕込まれている戦闘服だ。経年劣化しにくく、錆といった腐食に強い。当時のアガルタ時代では、標準装備だったがザクロ・リリウムが生きる時代では古代のオーパーツであり、同じものは作れないが似たようなものは作れるという具合だ。
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空の風は冷たく、遠くで雲が流れていた。ツェリスカとザクロ・リリウムはメハルジア王国へ向かう飛空艇に乗っていた。彼女の格好もシャンバラ式兵装ではなく、普通の冒険者が着ていそうな服装だった。
後ろ腰には魔導本とベヨネッタハンドガンが携っていた。とはいえ、ベヨネッタハンドガンは見た目がちょっと折り曲がった剣にしか見えない。
「これから行く国は少し…ううん、今いる国よりも危険な所なの、表向きは普通に見えるけれどね」
今まで着ていた装備を脱ぐのはツェリスカにとって不安だったが、この世界の常識は知らなかった。潜入し内部から破壊するような任務も行ったことがあり、その時のことを考えると彼女の言葉に従った。
着替えた後で剣をどうするか聞かれた。持っていくのはいいけれど、さすがに荷物じゃないのかなど大きさの面で言われたのだ。
「それなら大丈夫だ、小さく出来る」
その大きな剣は、銃へと変わる。ベヨネッタハンドガンになり、刃の部分が小さくなっていき、普通の人族が扱う剣の大きさになった。
「嘘でしょ…」
その後、いろいろ聞かれたりしつつも叱られた。人前でそれを絶対にしてはいけないから当分、そのままにしておきなさいと…
こうして彼女たちは身支度をして、メハルジア王国へ向かっていた。
遠征任務で飛空艇に乗ることはあったが、こういった形で飛空艇に乗るのは初めてだった。旅客艇型とはいえ、運搬も兼ねているため、客室は小さく共同部屋だったりする。しかし、ザクロ・リリウムはいい部屋とりましょうとのことで最上級クラスの部屋になった。
「1日半といえども、窮屈なところは嫌なのよ」
小人種の彼女が言うのだから、共同部屋は狭いのだろう。
「まず着いたら、ギルド総合案内所があるからそこに向かうわよ。あ、その前にセーブポイントに触れておくのよ。あ、そうそう―」
彼女の話は深夜まで続いた。
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メハルジア王国、砂漠と草原、広大な大地と豊潤なエネルギー資源と魔術技術持つ都市国家である。山はほとんどないが、広大な大地の地下に数々の鉱石が発掘されている。谷が多くあり、大地に亀裂が入った箇所から巨大な鉱石が飛び出している観光地もある。
長い争いの歴史を持ち、外政、内政問わず、争いが続いている。また、奴隷が労働力として使われている。
王制であり、今でも王が取り仕切っている。しかし、実質政治などを取り仕切っているのは側近だったりするとも言われている。
人口の大半は、小人種が多い。また首都はどの種族の子供の姿は昼間でさせあまり見かけにくいとされている。居住エリアなどではいたりはするが、滅多に商業エリアやその他エリアでは見かけない。
法律で決められているわけではないが、奴隷を扱っていることもあることながら、子供が出歩くというのが危険だからだ。軍の兵士がそういった人さらいに目を光らせているとはいっても「賄賂」という形で内部はドロドロに腐っているからだった。
力亡き者には住むには辛く、格差は激しい。しかし、一攫千金という夢もこの国にはあった。冒険者を生業にする者たちの多くは訪れ、ここを移住地として考えるものも少なくない。
また、小人種が多いというのもわけがあるからだ。
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「小人種が多いならザクロくんにとって過ごしやすいんじゃないのか?」
身長や体格に合わせたものを揃えるなら、自分と同じ種族の方が整えやすいからだ。ツェリスカも任務の時には種族は入り混じったような混成はあまりなかった。装備の代用が利きにくいからだ。
「小人種と言ってもいろいろあるのよ」
何事もなく、メハルジア王国内に着き、空港から大型馬車に乗り都市の中心に近い場所まで移動した。
都市内の道の全てが舗装されており、都市内を移動するための専用の大型馬車の道路まであった。貴族用なのか、個人用の馬車用の道路もあり、道そのものが広く大きい。
メハルジア王国は円形型で都市を形成されており、国の中心部は高台のようになっている。地上から攻められにくく、空からも迎撃する砲台も数多く設置されていた。
区画整備が何回も行われており、未だに工事中の場所もある。この都市は年々良くなっていっているのだ、しかし、その分…闇は深い。
二人はギルド総合案内所に到着し、カウンターにいる獣人族の猫種の女性にギルドカードを見せる。周りは結構な人だかりではあるが、それぞれが邪魔にならないように距離をあけている。いざこざは良く起きるが、好んで起こそうという者はいない。
しかし、大都市となると一人や二人…変人はいる。
「し~んぱぁ~いないさぁ~!!!!」
ギルドの外から叫び声が聞こえる。
「ツェリスカ、外を見ちゃダメよ」
「えっ!?」
馬のマスクをかぶり、全身肌色のタイツをしたホソマッチョの男が走っていた。
「あ・・・あれは・・・?!」
「この都市の名物変態よ。見ちゃダメって言ったのに・・・」
「オラァ!!!待てぇぇぇ!!!!」「今日こそは捕まえてやる!!!」
「「キャー!ジョンビージョン様ァァァ!!!!」」
軍の兵士がジョンジージョンと呼ばれた馬のマスクを被った全身肌色のタイツをきた怪しい者を追っていた。
「まだ捕まってなかったのね…ほんと…とんでもない奴ね」
ザクロ・リリウムはため息を付きながら呆れ顔で言い放つ。
「さ、バカは放っておいてさっさと探しましょう。この都市は変な人が多いからツェリスカも気をつけてね。大丈夫だと思うけれど」
その日は都市内の各ギルドを回った、術士ギルド、剣士ギルド、格闘ギルド、商業ギルド、などなど…ほとんどザクロ・リリウムの用事も兼ねての事だったがギルドを回っていく中で共通の噂を聞くことができた。
貧民街に最近見慣れない巨人族がいると…
「貧民街か…あそこはスリが当たり前だし、治安も悪い。でも変ね…噂の内容がどうにも男からしか聞かないし、どの人もはっきり言わないのよね」
ザクロ・リリウムが「不機嫌のザクロ」で通っている事から反感を買いたくない、という思いが相手にもあったが本人が知る由もなかった。
「とりあえず、行ってみるしかないと思う」
「そうね、行ってみましょう。荷物は一応宿に置いていってからね。念のためだけど…そうそう贔屓にしてるいい宿屋があるのよ」
二人は宿を取り、そこに旅の荷物を預け、貧民街へと向かった。
夕暮れに近く、街の雰囲気も次第に夜へ変貌していった。この街は朝も夜も常に活気づいている。昼間と夜とでは顔が違い、静かなのは明け方くらいなのだ。
貧民街は都市の端っこの方に位置し、近くには奴隷市場がある。貧民街といえど、区画整理はしっかりとされており、住む家は与えられているが共同宅となっている。それすらも与えられない更に下層の住民は地下の水道で暮らしている。
そしてその貧民街に通じる道に、ローブをまとった巨人族が座っていた。その横にはツェリスカには見慣れた天球儀が置いてあり、タロットカードの束を手でシャッフルしながら道行く人に声をかけていた。
「占いはいらんかね~」