8-シャンバラ式兵装
特に用事がない暇なときはギルド、もしくは酒場にいた方がいい。人の出入りがある場所は依頼を受ける際に人手が欲しい時や助言などくれたりするからだ。
また色々な噂など、冒険者同士の会話から聞こえたりするので情報収集するにももってこいの場所でもある。
◇
記憶を取り戻したツェリスカは、ギルドに戻るまでの行路にてザクロ・リリウムに機密に抵触しない範囲で説明した。
説明された内容を聞き、ありえない…いやでも…と言い淀みながらも好奇心を拭えなく話を聞き入っていた。
ある程度、話をしたあとに剣から妹の声が聞こえたことを告げる。そして、剣を手にしてから断片的だが夢の中でイメージも付随して妹がいる場所が流れてきていた。
◇
「それじゃなんだ…お前さん二人で調査ならぬ討伐までしてしまったってことかい!?」
酒場のマスターは大層驚いていた、盾役の近接がいなく、本来なら4〜5人で行うのが討伐依頼だ。
彼女たちの「偉業」は酒場にいる冒険者たちの注目の的になっていた。そして、冒険者たちは声を潜めながらも「あ、あれが…不機嫌のザクロ…」「おい、聞こえたらどうするんだ。消し炭にされるぞ」など言っていた。
「その時の剣がこれよ、ツェリスカ見せてあげて」
ツェリスカは布でぐるぐる巻きにされた剣を丁寧に解き、カウンター上にごとりと置いた。
冒険者が「博物館で見たことあるが、あれとは違う輝きがある…」「エーテル?いや不思議な力が流れている…」などと剣を見て興味深くうなづいたり、感嘆したりしていた。
だが一様に「あんな巨大な剣は巨人族しか使えないんじゃ…」という結論に至っていた。
巨人族でも一際小さく、それなりに身長がある他の種族と同じくらいの背丈のツェリスカはこの都市では巨人族と見られていなかった。
また容姿さながら男だとも思われていた。それを知ったのは周りの冒険者たちの反応からだった。
「あのにいちゃんすげぇな…」「かっこいい、抱かれたい…」
ツェリスカは今まで軍人として生き、常に戦場に身を置いていた。そのため、男女関係なく扱われていた。男と間違われようとあまり気にしてはいなかったが「抱かれたい」という言葉で赤面しそうになっていた。
彼女は性的なことに関しては姉妹の中で一番禁欲的だったためだ。
「マスター、これが証拠のギルドカードよ。ほら、ツェリスカも出して。ツェリスカ?」
「あ、ああ…」
マスターはギルカードを受け取り、機械にセットし、確認した。ザクロ・リリウムのカードを見て、納得しながら確認したあとにツェリスカのカードを確認すると驚いていた。
確認が終わると袋を取り出し、彼女たちの前に置く。
「今回の依頼の報酬だ。一応、討伐は依頼の追加報酬という形だったんだ。リリウム殿には危険な目にあって欲しくなくて言ってなかったんだがな」
マスターが頬をぽりぽりと掻きながら、目を逸らしながら言う。
「違うでしょ、私がやり過ぎるから言わなかったんでしょ」
「あ、いやぁ…そんなことは決してないよ?」
「ふふっ」
「ちょっとツェリスカまで!」
二人は報酬を受け取り、術士ギルドへと向かった。
術士ギルドにつくとギルドマスターのヴォルディンが仁王立ちをして待っていた。
「よく戻った!いやぁ、依頼しておいてなんだが…大変だったみたいなだな、ガハハッ」
かなり上機嫌ながらも無事に戻ってきてくれて彼はホッとしていた。それを隠すために豪快に笑って誤魔化していた。
「んもう!うるっさいわよ!もう少し静かに出来ないの?」
ギルドについた瞬間に大きな声で歓迎されたことでザクロ・リリウムは驚き、後ろに倒れそうになる。ツェリスカもいきなりの事で剣を構えそうになったくらいだ。余談だが、ザクロ・リリウムの持つ魔導本からオートガードが発動しかかっていたりする。
依頼にあった奇妙な音についての事、それは持ち主に対して位置を知らせるものだった。しかし、持ち主であるツェリスカが記憶を一時的に失っていることから反応できなかった。そして武器を通して妹であるタヴォールがツェリスカに連絡を取ろうとしていたことだった。
本来、そういった機能はついていない為、ツェリスカもなぜ妹の声が聞こえたり、彼女がいるとされる場所の風景が夢に出てきたのかわからなかった。ザクロ・リリウムが言うには「世の中にはまだまだ不思議な事がたくさんある、それでいいじゃない」と彼女なりに気遣っていた。
剣が元の持ち主と認識したのはただ運が良かっただけだった。しかし、ツェリスカはそれを知らない。大事なのは彼女が今まで使っていた相棒が元の鞘に戻った、という事実だけなのだから…
ヴォルディンに形式的に依頼完了の報告を行い、術士ギルドのランクが上がる。ザクロ・リリウムは最高ランクではないものの高ランクであるが今回の成果では上がらないのを知っているのか、別に興味なさげだった。
「ツェリスカ殿、ランクが上がった功績とリリウム殿の紹介から貴方をランクCに昇格する」
ヴォルディンはかしこまり、儀礼的にツェリスカに見た目が少しだけ豪華になったギルドカードを渡した。
「他の国への空路許可証でもあるから失くさないようにな、詳しいことはリリウム殿に聞いた方がいい」
「そうね、ご飯食べながら話すわ」
ザクロ・リリウムはさっき貰った賞金の袋を見ながら顔が緩んでいた。かなり上機嫌だったのがツェリスカにも感じていた。
◇
ツェリスカとザクロ・リリウムはとある区域のレストランに来ていた。扇型の展望スペースの上にアメーバ状にテーブル席だけがぽっかりと空に飛び出していた。周りの人に会話内容が聞かれにくく、かつ景色を楽しみながら食事も楽しめるレストランだ。
ザクロ・リリウムは慣れた感じでウェイターに注文をしていく、ツェリスカはメニューを見てもどんな料理かは想像できなかった。彼女自身、栄養剤、回復剤といった特殊レーションでの生活をずっとしてきたからだ。
「ここの料理はおいしいわよ、あ、心配しないで奢るわ」
ひとしきり、注文し終えるとザクロ・リリウムはこれからどうするのかツェリスカに聞いていた。
「私は妹たちを探す旅に出る」
「夢に妹さんがどこかで何かやってる夢を見たんだっけ?」
ザクロ・リリウムはツェリスカが見た夢の内容を詳しく質問していた。
「もしかしたら、私が知ってる場所かもしれない」
「本当か!それはどこなんだ?」
「この大陸ではなくて、別の大陸にあるメハルジア王国っていうところだと思う」
この世界の手掛かりはない、ツェリスカはその言葉からメハルジア王国を目指す事になる。料理が運ばれてきて、ザクロ・リリウムは思い出した記憶について質問していた。この国に戻る途中にも機密に抵触しない程度には話してはいた。
しかし、ツェリスカには疑念があった。世界地図、というのがこの世界にはなかったことだ。断片的ではあるが簡易的な地図はあるが詳細な地図がなかった。軍人である彼女は、そんな簡単に地図が出回らなくなるのかという疑念があったのだ。
そこでザクロ・リリウムに当時の記憶を話してみる事にした。誰と何が戦っていたのかをもしかしたら、彼女が知っているのかもしれないという思いから聞いてみたのだ。
「私が昔…踏破した古代遺跡に記録されていた内容と酷似してる話ね。本当だったら、だけども…」
彼女は言い淀み、その考えを決定させたくないのか口に出すのをためらっていた。
「今、残っている古代の遺物で最古と呼ばれているのがアガルタ文明のものなのよ。今では考えられない文明と力を持っていたとされている。それが世界中で見つかっている、その中で今でも防衛システムが働いている遺跡を私と他の冒険者たちで踏破したのよ」
ザクロ・リリウムは彼女の服を指を指し、そうであってほしくないという思いとそうであったとしたら面白いという思いが混在しながらもツェリスカに聞いた。
「その装備は…シャンバラ式兵装?」
ツェリスカは頷いていた。
ただ、自分が別の世界、いや他の戦争など起きていない遠い地での事だと思いたかった。しかし、自分が未来に来てしまったなどと思いもしなかったのだ。あの時、何が起きて自分は未来に来てしまったのだろうかとぐるぐると頭のなかを混沌としていた。