7-思い出す記憶
ツェリスカは海面に叩きつけれて記憶を一時的に失っているが、戦闘においては何が出来るのか最低限身体が覚えていた。魔法弾という術以外にも使えない事もないが彼女自身、ギルドの訓練所での見せた時に他の人達の反応が実はショックだったりしたのだ。
◇
光を溶かすように地面が沼のようにドロリとした表面が黒一面に広がっていた。中心にある剣の近くからドロリの一際大きいピラニアの魚人が、片腕がない状態で現れた。地面から生えるように現れたその片腕のピラニアの魚人はツェリスカとザクロ・リリウムを見ていた。片腕からは黒いドロドロとしたものが流れ出て、新しい腕を形作っていた。
すでにこのピラニアの魚人には意識がなかった。あるのは剣を守らなければいけないという意思だけだった。そして目の前にいる者達が敵にしか見えていなかった。
◇
「ギャシャアアアア!!!」
一際大きいピラニアの魚人が叫んでいた。片腕だけ黒くなっており、ツェリスカとザクロ・リリウムはその魚人の姿を見て、馬車を襲った奴だと同じだと判断していた。
「ジジイ!カルネージブラスト!」
ザクロ・リリウムはイデルマージに命令すると、光線となって魚人へと突進していった。それは超高速の高熱ビームだった、通った後には煙が多少出ていた。おそらく、普通の地面だったらガラスの結晶はできていてもおかしくない熱だった。
幸いにもイデルマージがビームとなった時にはツェリスカは離れていたので熱さは感じなかった。だが、あたりは一瞬だけ明るくなり、目も開けて入れない程の光に包まれていた。
ザクロ・リリウムは目を細めながら、撃ち放った先を見ていた。
「やったのか?」
ツェリスカはつぶやく―
「バカ!フラグ立てないでよっ!!!」
彼女は振り向きながら叫び、ツェリスカは彼女のツッコミに動揺してしまった。
放たれたビームの後からはドロドロに溶けかけた何かがそこにはあった。跡形もなく、というわけには行かなかったが驚異的な威力だった為か、敵を貫通し奥の壁にも大きな穴とまではいかないがくぼみができていた。ガラスの結晶がくぼみにできており、かなりの高熱だったのか物語っていた。
片腕だけは残ってはいたが、それはそのまま地面へと吸い込まれていった。
あっさりと一際大きなピラニアの魚人を倒したザクロ・リリウムは、本をすでに腰のバインダーにしまって腕を組んで首をかしげていた。
「あの剣、私は昔…行った古代遺跡にあった剣と似てる。でもあの骨董品はこんな風に変な感じはしてなかったんだけど…」
ブツブツと彼女は言いながら困惑していた。
『…姉さ…どこ…』
剣の方から声が聞こえていた。ただ、その声はツェリスカしか聞こえず、ノイズがひどく混じっており、頭痛が襲い、その場に膝をついてしまっていた。
苦悶の表情に汗がびっしょりとかきはじめ、ツェリスカは余裕がなくなっていた。手先が冷えていき、目の前が真っ暗になりかけていた。
「はぁはぁ…はぁはぁ…」
ザクロ・リリウムはツェリスカの異常に気づき、心配な顔をして彼女の顔を覗き込んでいた。
「ちょっと大丈夫?これ回復薬、飲んで」
ツェリスカは頭を抑えながら片方の手で回復薬を受け取り、一気に飲み干す。
「はぁはぁ…」
頭痛が少しだけ和らぎ、汗が引いていった。
「ちょっと病み上がりにとんだ冒険だったもんね。大丈夫?」
「ああ、すまない。声が聞こえたんだ…私を呼ぶ声が」
ツェリスカは立ち上がり、剣の方を見ると奇妙な音が鳴る。
「なにこの音…警告しているの?」
大きくはないが不快な音が鳴り響いていた。ザクロ・リリウムは剣に対して警戒を強めていた。しかし、ツェリスカは剣に対して警戒はなく、止めないといけないという思いがあった。
彼女はゆっくりだが、しっかりとした足で剣に向かって歩んでいた。
「ツェリスカ!危ないよ!」
「大丈夫だ」
「無理だよ!危険だよ!」
ツェリスカは、鳴り響いている剣の元にたどり着く、そして、手をかけて地面から引き抜こうとする。拒絶するように黒い地面がツェリスカを掴み、それを拒もうと触手のようにツェリスカを引き離そうとする。かなりの力でツェリスカを締め上げるが、巨人族である彼女に対しては微々たる抵抗に過ぎなかった。
ザクロ・リリウムは助けようにも彼女にはイデルマージで黒い地面を攻撃しようにもツェリスカとの距離が近いため難しかった。歯噛みしながら助けれない状態でどうにか出来ないものかと魔法弾を撃つが効果はあまり出なかった。
「くっ!大丈夫だ!」
ツェリスカは更に力を込め、引き抜こうとすると地面に根付いていたものが剣に収束していってたが、抵抗は更に力を増していった。
「こいつは私の手がかり、なんだ…うおおおお!!!」
無理よ!という声がツェリスカに届くが彼女には無理とは思わなかった。
無理かどうかは考えるのは選択肢がある者、余裕がある者が行えることだ―私にはない…
「舐めるなぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ツェリスカは、記憶を失っていたがこの剣はここで抜いておかないといけないと確信していた。彼女は一気に引き抜き、身体を拘束していた黒い触手や地面に沼のように滴っていた黒いものは引き抜いた瞬間に霧散していった。そして、奇妙な音も鳴り止み、あたりは静寂に戻った。
波の音が聞こえ、ツェリスカは肩が息をしながら剣を肩で担ぎ直し、ザクロ・リリウムの方に笑いかけ、そのまま倒れて気を失った。
のちにザクロ・リリウムはツェリスカに言う、その時の笑顔は初めて見せた最高の笑顔だったと…
◇
満天の星空のような空間の中、ツェリスカは漂っていた。足場がなく、浮遊しており、身動きがうまく取れていなかった。
「ここは…」
あたりを見渡すと妹のタヴォールの姿が見えた。
「タヴォール!」
彼女は叫ぶが、声は届いてはいなかった。同じく自分と同じように浮遊していた、彼女はタヴォールの他にもう一人の妹であるダネルダネルの姿を探した。
タヴォールとは違いかなり距離はあるが彼女だとわかる金髪が満天の星空の中で遠くに見つけることが出来た。しかし、距離はかなり離れており声が届きそうにないと感じていた。でも彼女は叫ばずにはいられなかった。
「ダネルダネル!おい!ダネルダネル!!!!」
ツェリスカはひとしきり妹達の名前を呼ぶが何も反応がなく、冷静に戻る。
「確か…戦場にいたがタヴォールが天球儀の核に触り何か起動させた…」
ツェリスカは何が起きたのか必死に思い出そうとしたが、光に包まれた後から気がついた時にはここにいたこと以外思い出せないでいた。
突如、空間に穴が空きそこに吸い込まれるように三人は流れていった。
「うわぁぁああ!!!!」
ツェリスカは叫びながら穴に吸い込まれていった。意識が持っていかれるような感覚があり保てなくなっていった。
放り出された先は、海のはるか上空だった。彼女はそのまま海面に叩きつけられ、記憶が一時的に失っていた。
◇
眼が覚めるとテントの中だというのがツェリスカはわかっていた。調査団のキャンプ地、そんな気が彼女はしていたので、とくに混乱はしていなかった。
「よかった、よかった…」
ザクロ・リリウムは涙目になっていた。
「すまなかった…」
「全く!心配したんだからね!」
ふくれっ面をしながら怒っていた。ツェリスカは思わず笑ってしまっていた。
「もう!ふざけないでよ!」
「すまなかった…でも全て思い出したよ」
ツェリスカは微笑み、ザクロ・リリウムは驚いていたものの―
「ちゃんと説明してよね!すっごく気になっていたんだから!」
ツェリスカは彼女の好奇心にたじろぎながらも笑いながら言う。
「ああ、もちろんだ」
ふと、ツェリスカはどうやって自分を運んだのかさすがに疑問に持った。
「不恰好だけど、ゴーレムくらい召喚できるわよ」
今まで自分が居た世界とは違う、別の平和な世界だと感じた。そして、どうやって元の世界に戻ろうか、まずは妹達を探さないとなと思った。




