57-救いを求める声
空間を飛び越える瞬間移動というのは、対象物、移動から目的地までの制限などいくつか種類がある。自分を含めた物体全て転送、自分のみ(装備してるもの、所持してるもの、主に触れているものなど)など限定されることも術式や転送装置によってある。
移動から目的地までの転送は、門、ゲートなどと呼ばれるワープ空間を開きそこを介して移動は空間と空間を繋ぐため、かなりのエネルギーを維持し続ける必要がある。空間の置き換えによる移動もあるが、基本はワープ空間を開き、そこを介して移動する。
ワープ空間などを使わず空間の置き換えのように瞬時に移動するには使用者の知覚圏内であったり、空間的な座標を把握していること、特定の道具が存在しているところ、など制御が遥かに難しくそれに伴うエネルギーも多大な事から転送装置によるワープ空間の方が現実的とされている。
◇
巨大空クジラ外郭にあった転送装置から背中の部分にあたる場所へと転移した一向はそこで待ち伏せされて囚われたりするわけでもなく、拍子抜けを食らう。そして、ウイルスから侵食を受け制御不能になっていることがタヴォールの天球儀からわかっていた。
そのウイルスが対蛮神用であり、照合すると研究所にあるものだった。ツェリスカは不滅者が巨大空クジラに関わっていると思っていた。彼女の中では、不滅者が絶対悪であり不条理に理不尽を行い、自分たちを絶望へと追いやり争いへと駆り立てる存在と思っていたからだ。
「ねぇ…タヴォール、ほんとにこの道であってるの?」
ザクロ・リリウムはタヴォールが持つ天球儀から映し出される立体映像に疑問を感じていた。
「大丈夫だ、問題ない」
(そんなナビで大丈夫か?)
ン・パワゴは秘匿回線を使ってザクロ・リリウムだけに聞こえるようにタヴォールへツッコミを入れた。
「ブフッ!」
「なっ?!なんだ?なんで吹く?!」
「ご、ごめん!何でもないのっ、ちょっと器官が詰まっただけ!」
(おい、ン・パワゴ…てめぇ殺すぞ)
(いやぁ~悪かったって~、マジすんません)
「まあ、たしかに最短ルートなんだけども、この都市の中心部だしね。そこから更に下に向かうルートが示されてて、疑問に感じるだろうけれど…」
街が形成されてはいるがどこも閉じられており、入れないようになっていた。ツェリスカとタヴォールはそれが防御フィールドを形成するシャッターか何かだとわかっていた。攻撃、迎撃をするためのものではないと感じていた。
ザクロ・リリウムやン・パワゴは何かあっても大丈夫だろうが、気味の悪さからあまり心地が良く感じてはいなかった。
特に何もなく、都市の中心部にたどり着くとそこは円形の大広間になっており、石碑があった。
「ここから下に…いや巨大空クジラに入っていく…の?」
ザクロ・リリウムは少しばかり不安をにじませていた。巨大蛮神の中に入っていくというのは彼女の経験にはなく、もしかしたら「死ぬ」かもしれないと思ったからだ。不滅者が「死ぬ」ことはない。セーブポイントに死に戻りするだけだ、だが、感情的にはいくら不滅者となってもそこだけは捨てずに彼女は歩んでいたのだった。
「大丈夫だ、何かあったら私が守る」
ツェリスカは、力強くはっきりとザクロ・リリウムへ向けて言った。
「うん…ありがと」
タヴォールが石碑へ近づき、天球儀を使いスキャンし、それが昇降機の端末であることを確認していた。
「なぁ…その天球儀…?なんなん?」
ン・パワゴは詳しくそれがいったい何なのかそろそろ説明が欲しかったのだった。それはザクロ・リリウムも同じであり、共通認識として変わった補助魔導具だと思っていたのだった。しかし、もうそういう認識でいられなくなっていた為、どうしても聞いてすっきりしておきたかったのだ。
「これはー」
タヴォールが言葉を続けようとした先に、昇降機がガコンと下がり始めたのだった。
「うおっ…タヴォールっ、動かすならー」
「いや、動かしていない…」
すでに昇降機がすごい早さで下がり、登れる高さではないくらい下がり巨大空クジラの中へと降りた。
罠という可能性があったことは誰もがわかっていたのもあって、たとえいきなり囲まれるようなことがあったとしても大丈夫だと思っているのだった。その自信はツェリスカとタヴォールが持つ武具の異常性とザクロ・リリウムとン・パワゴの不滅者だからだ。
ツェリスカとタヴォール自身は自分たちより手に負えない存在が今のところ、この時代に存在していないと感じていた。それは慢心でもあるが、実際に不滅者をこの時代で退けた事もあるため何とかなると思っていた。
ザクロ・リリウムとン・パワゴは何かあったとしても、不滅者であるためその力を開放すればどうにかなるという思いもあり、なおかつ、ツェリスカたちがどうにかしてしまうだろうという安心感があったのだ。たとえ、次元崩壊したとしても不滅者である彼らにとってはこの世界の終焉だとしてもまた復活するだろうと思っていた。
どのくらいの深さまで下りたのか、何も起きずのまま下がり続けてた。何か出て来るわけでもなく、降りていった先には開けた広い空間へと景色が変わった。
タヴォールはコンソールからこの巨大空クジラ型の蛮神に対して調査を行うことにした。中枢にあるコンソールから調べれば今回の次元崩壊の経緯やなぜ迎撃する意思がないのかわかると思ったからだ。
「姉さん、ちょっと流石に何かおかしい。改めて調べてみる」
「そうだな、ただ下に降りているだけでは何もわからないしな…」
タヴォールが石碑であるコンソールを天球儀で調べることにした。昇降機が降りてく中で調べなかったのは襲撃に備えていたからだったが、状況がいつまでも変わらないのに焦れたのもあった。
調べていくと、どうやら次元の狭間に逃げ込んでいたが元の次元に引き戻されたこと、発端となったのが研究所の存在が大きく関わっているのがわかった。
「姉さん、やっぱり私達がいた研究所が関係してて―」
ツェリスカたち三姉妹は自分たちがいた研究所については産み出された場所でありそこで何が行われていたのか、何を研究していたのか詳しい事は知らなかった。ただ、ツェリスカはその関係してるという意味がどういう事なのか、今回の巨大蛮神が関わりがあったことに何とも言えない気持ちが顔に出ていた。
「やはり君達は私たちよりも遥かに進んだ文明を持つ存在…まずは謝罪したいこの世界に迷惑をかけたことを」
突然声がし、ツェリスカたちは武器を構える。
薄ぼんやりとした光が収束し、人の形になっていった。ホログラムとしてツェリスカたちの前に現れたのだ。
「あなたは…誰?」
ザクロ・リリウムは落ち着きを見せながら、青髪の少年に問いかけた。ホログラムだとわかってはいるものの、何者がはっきりさせておきたかったのだ。
「私は十賢者と一員であり、この巨大空クジラ型の蛮神を管理している者でもあります。驚かせてしまい申し訳ございません。名はシンゼヲルド・オーランといいます」
彼が簡単な自己紹介をすると昇降機が完全に降り、巨大空クジラの中枢区にたどり着いた。そして、あたりに明かりがついていくと広く大きな空間だというのがわかっていった。
「それで?ホログラムで挨拶か…何が目的で姿を出した?」
ツェリスカは睨みつけながらシンゼヲルド・オーランにベヨネッタハンドガンを向けながら聞いた。ホログラムなので意味はないが、銃口を向けることで敵対する意思をあることを向けた。
巨大空クジラに上陸するまでに触手による攻撃もあったが、ここまで来るまでに何も障害となるものはなかったからだ。ここから先には何か罠があると思っていたゆえの行動だった。
「率直に、申し上げますと助けていただきたいのです。次元崩壊を止めるために」




