52-落ちた巨女
巨大空クジラは、亜人種族が召喚したと思われる蛮神であると空賊や他の諸外国の認識されている。しかし、実際は誰が召喚したか確たる証拠すらなく誰かが言った噂から広まったものだった。それは亜人種族たちはいつからか存在している巨大空クジラとともに生きており、刺激を与えないように生きていたことから流れた噂だった。
この巨大空クジラの正体は侵略戦争の最後の手段として造られた切り札でもあり、即身蛮神と呼ばれる自らを蛮神化させたものだったのだ。首都があった都市そのものを蛮神に取り込み、永遠の揺籠を形成したのがこの蛮神である。国に住んでいた者たちはコールドスリープ化されており、目覚めるときは戦争がない平和な世界になったときになる。
即身蛮神になった当人も同じくコールドスリープ化され、また蛮神の核として存在している。核となった者は眠りながらも周りのことを見聞きしているが、ほとんど意識がなく本能に従って空を遊覧している。
◇
巨大空クジラはかなりの大きさで浮遊島以上で全体像を捉えようとしてもあまりの大きさで山と思ってしまうくらいのものだった。ツェリスカとタヴォールはここまで大きい蛮神を見たことはあまり無かった。巨大蛮神との戦闘経験はあるものの、基本は敵基地偵察、先遣工作、局地戦などをやってきていたからだ。
「こいつはデカイな…」
ツェリスカはめんどくさそうな顔をしていた。
「直撃コースじゃなくてよかった…」
タヴォールの結界も巨大空クジラの質量の前では防ぎきれない大きだったからだ。結界を形成する時に落下コースが直撃ではない事をタヴォールはわかってはいたが冷や汗をかいていた。
(うひーっ!落下地点がわかってはいたとはいえ想像以上にでかい!)
「し、死ぬかと思ったし!何がどうしてあんなのが落ちてくるのよ!天気予報士は何やってるの?」
ザクロ・リリウムが何が起きているのか理解をしたいにも感情が追いついていかず落ち着くこともできていなかった。慌てふためき、周りをキョロキョロしながら両手をバタバタとしていた。
「ここで空クジラと出会ったいうことは倒せってことだな?」
ン・パワゴは拳を握り、今すぐにでも走り出そうとしていた。口元がつり上がり、獰猛な笑みが表情を彩っていた。飛空挺を壊された悔しさと今なら狩れるタイミングだったからだ。
「ちょっと!バカ言ってないでどうして落ちてきたか、でしょ!!!」
「あぁん?そんなの寝ぼけて落ちてきたんだろうよ」
「そんな話あるわけないでしょ!」
二人はギャーギャー騒ぎながらいつもの調子へと戻っていった。
「上空より熱源!高エネルギー反応!ツェリ姉さん!!!」
タヴォールの天球儀が上空からのなんらかの反応を示し、そこからタヴォールは焦りツェリスカに指示を仰いでいた。
「対爆撃用結界を展開しろ!範囲は空賊どもも含めろよ」
「ひ、一人じゃ無理だよ!」
ツェリスカが持っていたベヨネットハンドガンをタヴォールにひょいっと渡した。彼女たちの武器には特殊な核がついており、共鳴させることにより出力を上げることができるのだった。
「タヴォール、それを使って展開しろ!」
タヴォールは頷くとすぐに共鳴させ、結界を形成させた。
するとツェリスカやタヴォールにとっては馴染みのある広範囲焼夷型爆撃が襲ったのだった。その爆撃は彼女たちが以前いた戦場で支援要請をした際と同じものだった。
(この爆発…)
「ツェリ姉さん!これって…っ!!!!」
爆音が鳴り響く中、結界内にも爆発の振動が響いた。
ツェリスカとタヴォールは皇帝国、この爆撃のもとである技術はザレクとマゴクが絡んでいると気がついたのだ。
「ああ、ザレクとマゴクだ…」
爆撃が止むまで数分の間、広範囲結界を維持していたタヴォールはへとへとになっていた。
「はぁ…はぁ…」
「タヴォール、このくらいでバテるなよ…」
「む、無茶言うな…」
そして、巨大空クジラは爆撃の最中に起き上がり空へ戻っていった。
巨大飛空戦艦から巨大な鎖付きの銛を巨大空クジラに打ち込み捕鯨しようとしていたが、うまく行かず巨大空クジラから迎撃されていた。巨大空クジラは体制を立て直し空に帰った、それを追うように巨大飛空戦艦もその空域を離脱していった。
運悪くそこに居合わせた空賊やは吹き飛ばされてはいるものの気を失って転がっていた。飛空艇も炎上しているもの以外は特に大きな損傷もなく、空賊と同じく転がっていた。そして、その傍らで空賊のリーダーは厄日だとむせび泣いていた。
巨大飛空戦艦が巨大空クジラを追う中で一隻のみ、ツェリスカの方に向かってきたのだった。
「ち、地上スレスレまで降りてくるとかありえないな!!!」
「つくづく姉さんは呼び寄せるね!」
「黙れタヴォール、やるぞ!」
「無理でしょ!無理!逃げよ?逃げよ?」
ザクロ・リリウムは怖気づいていたがツェリスカは大剣に切り替え、タヴォールは戦斧を構えていた。そして、ン・パワゴは体内の気を高め、獰猛な笑みを浮かべていた。
さっきまで巨大空クジラがいた場所に飛空戦艦が地上スレスレまで下降し、下部のハッチが開くとそこからロクアディ皇帝国の兵士たちが降り立った。
「中々興味深い武器だな、頂戴しようか」
部隊の部隊長と思われる兵士がツェリスカたちに言うが、ツェリスカたちは何を言ってるんだとどこ吹く風だった。
「おい、そこの巨人種族。抵抗するなら容赦しない。さっさとその武器を置いていけ」
ロクアディ皇帝国の兵士がツェリスカとタヴォールに対して、寄越せと横暴に言い放っていた。
ピーピー
「ん?緊急通信だと?」
部隊長がこみかみに指を当てながら通信に出る。
すると途端に呆然としつつ、「はい…はい…」と返事をし「も、申し訳ございませんでした。直ちに…はっ、心得ています」
通信が切れるとと先ほどの様子とは打って変わり瞬時に土下座を切り替わっていた。
「誠に申し訳ございませんでした!!!三女神の現神ツェリスカ様とは知らず、大変ご無礼な対応をし、誠に申し訳ございませんでした!!!」
その姿を見た他の兵士たちは瞬時に状況を把握したのか部隊長と同じように土下座していった。
「え…と…何だ???」
身構えていたツェリスカたちはさっきまでと打って変わった対応に状況判断がつかずにいた。その中でザクロ・リリウムだけは合点がいったのかツェリスカの服の裾を引っ張りながら小声でボソリと言った。
「ザレクちゃんとマゴクちゃん呼べばわかると思う…」
土下座したまま微動だにしないロクアディ皇帝国の人たちはツェリスカの許しがない限り口を開かない姿勢だった。謝罪あとはそのまま土下座したまま沈黙
「サモン・アイオーン…ザレクとマゴク」
めんどくさそうにツェリスカは召喚するといつもと違う召喚エフェクト…光り輝きこれでもかと後光と煌びやかな光の粒が舞いながら、立体的な魔法陣が形成されそこからもったいぶった感じにザレクとマゴクが出てきたのだ。全く必要のないエフェクトに呆れかえりながらそれを見るツェリスカ一同だった。
「我こそはザレク・アイオーン」
「我こそはマゴク・アイオーン」
「「不届きなる民がいると聞き、ここに参りました。ツェリスカ様」」
「…お前らなんかしたか?」
「我が主君に舐めた口きいてると知らせがありまして、連絡しました」
「主君のすばらしき旅路を邪魔立てするものに身の程を弁えさせなければと、連絡しました」
ザクロ・リリウムはやっぱりかーという顔をしながらザレクとマゴクが話していた過去の事を思い出していた。
妖精、精霊種族のネットワークは侮れない、何処で見られているのかわかったものじゃないとザクロ・リリウムは感じていた。
(不滅者同士の会話は秘匿状態にはなるけどもどこまで隠せているのかわかったものじゃないわね…)
「ザレク、マゴク…戦闘にならなくてよかったよ、ありがとう。だがな…ちょっと今回もやり過ぎな気がするんだが」
その後、なんとかロクアディ皇帝国の兵士たちを土下座状態から立たせこの一件を無かった事にし、ここでは出会ってなかった事になった。
今回の一件は最重要機密扱いになり、今後は出会ったとしても通常時と同じようにするようにと、ツェリスカたちが行動する近くに任務がある兵士たちに命令が下されるようになったのだった。ツェリスカたちを巻き込んだ爆撃の件は、咎めることはしなくていいとツェリスカがザレクとマゴクに言ったのだった。
ロクアディの巨大飛空戦艦はどこかへ行き、ツェリスカたちは改めて空賊たちと話すことにしたのだった。しかし、その前にザレクとマゴクが造りあげた国であるロクアディ皇帝国が巨大飛空戦艦をいくつも展開させ捕鯨活動をしていた件についてもツェリスカははっきりさせたかったのだった。
「えっ、新しい資源となりうる可能性ものは一通り調べて取り込みまっす」
「世界崩壊前の旧時代で不滅者と思われる者が持ち込んだその時代に合わないオーバーテクノロジーがあったしー」
ザレクとマゴクがさっきまでの神々しい雰囲気から一転して、ちゃらい状態になっていた。ツェリスカたちにとっては馴染みのある雰囲気だった。
「あの巨大空クジラは通常と同じように造られた蛮神型の兵器じゃないってことなのか?」
ザレクとマゴクから通常の蛮神とは違う形で造られたものだとツェリスカたちは知る。そしてそれがこの一帯の空域そのものに影響を及ぼしていること、古龍や地形そのものを変わらせてしまうため、調査目的で飛空艇技術を流出をさせたとのことだった。
ここ数十年の間に突如現れたこともあり、本来あんな巨大なものが存在していた場合見逃すはずないとザレクとマゴクは言っていた。
「あの巨大空クジラの動きに法則性がないのもあって研究所にぶつかるっていう可能性考えると捕鯨した方がいいかなって」
「そうだよねー災害級とか言われちゃってるから、取り除いたら英雄?みたいな」
ザクロ・リリウムはすでに頭痛に襲われていた。ネジが吹っ飛んでる天霊種のザレクとマゴクの話を聞いてるとその行動が起こす結果というのが世界を変えるに充分なことだからだ。
(チートを使ってプレイしてる連中がまだ可愛げがあるんじゃないかって思ってきた)
ン・パワゴにザクロ・リリウムは秘匿回線で愚痴っていた。
(あーわかる、いちいちぶっ飛んでるもんな…タヴォールと一緒に行動してる時なんてツェリスカがいない分、自制してなかったから感覚が麻痺してた)
(えっ、ちょっとなにそれ詳しく教えてよ)
不滅者の二人は秘匿回線を使って話し込んでいた。すでにツェリスカとザレクとマゴクの話し合い的なことにいつものこととして、放置してもどうにもならないと彼らの中で結論が決まりつつあったのだった。
今回の一件で、ザレクとマゴク経由で見ず知らずの人に対して土下座させ、召喚主でもあるツェリスカは制御もできておらず相変わらずどこか腑抜けてていた。そんなツェリスカに対してザクロ・リリウムは痛烈な一言を言い放った。
「ツェリスカ…かっこわる」




