48-決着
蛮神ツェリスカ、ザレクとマゴクが生み出した蛮神。当時のツェリスカとは違い、体格は本人よりさらに大きく、約5mはある。服装は当時装備していたシャンバラ式兵装と特殊変形大剣、及び魔道書を装備している。戦況に応じ持ち替えて戦うのだが、ザレクとマゴクは魔道書を持つのではなく術式によって近くに浮かせていたのだ。
魔道書を常時浮かせ、展開させておくことによって瞬時に術式を組み上げやすくなり、防御力が向上したのだ。また、遠近距離どちらにおいても死角が無くなったのだ。その分、状況判断力を求められるがザレクとマゴクによる召喚時の思いと精霊の森によるブーストによって解消されている。
ツェリスカ本人がアガルタ時代に同じように魔道書を浮かせ大剣を持って戦わなかったのは単純に消費エネルギーの効率とチームによる行動をしていたからでもある。タヴォールとダネルダネルがいる事もあり、そこまでする必要は無かったのだ。
◇
「自分を模した蛮神か…」
ツェリスカの身長は1m80cm行くか、行かないかくらいだ。蛮神は5mはあり、持っている武器もそれに合わせて大きい。ツェリスカは大剣を両手で構え、浮遊させた魔道書を開き、盾のように半身を守るように動かした。
「ザレク、マゴク…こいつの弱点はなんだ?」
精霊の森から力を吸収し続けるため、戦闘を長引かせれば自分たちがやられてしまうからだった。
「ないっす」
「ないっすね」
「「でも~こうすればっ」」
ザレクとマゴクはしれっと弱点などないとツェリスカに言うものの、精霊の森と蛮神の接続を遮断していた。
「まあ、でも結界を貼ればこの通り」
「にひひ、ちょろあま」
ザレクとマゴクは不敵な笑みをこぼしながら心底ツェリスカと戦える事を歓喜していた。
ギャオオオオオオ!!!
竜の咆哮に似た音と共に、蛮神ツェリスカの頭上に光の柱が瞬く間に出現した。
「ボヤボヤしてないで!さっさと終わらせるよ!ツェリスカ!」
その光の柱はザクロ・リリウムの新しい術だった。超高熱の術を指定した場所の上方向に向けて燃やす尽くすものだった。ツェリスカの魔道書の仕組みを解明し、製作した魔道書と今まで使っていた魔道書を組み合わせて発動する術だった。
「ザクロくん!?」
「私だってまだまだ強くなるし!」
ツェリスカはザクロ・リリウムの新しい術に驚愕していた。以前見たものはザクロ・リリウムが支点となって放たれるタイプの術式だったのが、対象位置を指定にしたものだったからだ。
更に下から突き上げられる熱線は防ぐが難しく、避けるにしても発動までの時間差が少なく戦闘中でも避けるのは難しいと感じたからだ。
光の柱が弱まり、蛮神の姿がみえてくると半分溶けかけていた。
「ぐ…ぎゃらまら…(ぐっ…きさまら…)」
溶けかけている為、まともな言葉を発する事すら出来ずにいた。しかし、蛮神の姿は急速に形を取り戻していった。
「ナメルナァァァ!!!私は絶対に…引かない!!!」
蛮神ツェリスカは元の姿に戻り、険しい表情をしていた。ザレクとマゴクの思いと意思、そして思い出修正がかかった術式で召喚されていた。
「な、なんか回復速度というか…あれは復元してる…?」
ツェリスカから見てもザクロ・リリウムの攻撃は致命的な一撃に近く、容易に回復…というより元に戻る事態が不思議だったのだ。
蛮神ツェリスカは即座に攻撃に移り、巨剣をなぎ払いながらも浮遊している巨大な本から魔法弾が前方位に放射された。魔法弾の大きさは人種族の頭分の大きさが高速で降り注いでいった。
ザレクとマゴクが貼った結界内からは蛮神が発した魔法弾は出ることは無かったが、透明性があった結界は魔法弾の被弾で埋め尽くされていった。結界そのものはビクともしなかったが、結界内は魔法弾で埋め尽くされていた。
「ちょ、ちょー!!!」
ザクロ・リリウムは瞬時に魔法防壁を形成しながら避けるが数が多すぎる為、なんとか巨大な本が背表紙にあたる部分へと逃げた。巨大な本の背表紙にあたる部分からは魔法弾は出ていなかったのを目で確認していたのだった。
蛮神からなぎ払われていた巨剣はツェリスカが止めており、ザレクとマゴクはツェリスカに魔法防壁をかけながら、ツェリスカに回復術を施していた。
「何そのぬるい攻撃~」
「ないわーないわー」
ザレクとマゴクはツェリスカと鍔迫り合いをしている蛮神に煽っていた。
「隊長なら絶対一刀両断してた」
「隊長さすが過ぎです、いやー私達足元に及ばない」
ツェリスカは割りと本気で止めており、体格差もあって本来だったら避け、隙を見て攻撃しようと思っていたのだ。しかし、巨大な本から術式が構成されるのを感じ、後ろのザクロ・リリウムになぎ払いからの衝撃波が当たると思い止めたのだ。
「ザレク…マゴク…お前らなぁ…」
歯を食いしばりながらも蛮神の巨剣を押し戻そうとしていた。
(なんて強さだ…これ反則的な強さだろう…ザレクとマゴクの補助がなかったら間違いなく吹き飛ばされていたぞ)
冷や汗を少しかきながらもツェリスカは浮遊させている魔導本に術式を形成させていた。彼女が発動させようとしている術式は、爆裂弾と呼ばれるもので対象付近を爆発させるものだった。
「くらいやがれぇ!!!」
蛮神からの魔法弾が降り注ぐ中でツェリスカは蛮神の四肢に向けて爆発をさせた。ドガンと爆発音が鳴り響き、鍔迫り合いしていた状態から蛮神は体勢を崩し、よろめいていた。
爆発させると四肢そのものは完全に千切れる事はなかったが、大きな窪みが出来ており四肢の一部を爆散させていた。
「なぜだ!召喚主よ!なぜだ!!!」
蛮神は自身を召喚したザレクとマゴクに問いかけていた。
ザレクとマゴクはその問いかけに答えはしなかった。
「ワタシは!!!ワタシは!!!!」
蛮神ツェリスカは爆散された痕が復元されていき、ただツェリスカを巨大化した見た目から次第に姿形が変化していった。
蛮神はザレクとマゴクの願いによって召喚された。ザレクとマゴクはツェリスカが抜け殻のようになる事ではなく、指導者として自分たちを導いて貰いたかったのだ。この戦いによって世界を変えるなり、自分たちの居場所を作ってもらいたかったのだ。
「世界を正す!!!!」
蛮神ツェリスカが吠えながらも、巨剣を構え直していた。蛮神の背後にはザクロ・リリウムが陣取り、正面にはツェリスカが対峙する形をとっていた。
蛮神ツェリスカが巨剣を振りかぶったと思った途端、振り下ろしていた。ツェリスカは瞬時に横に避けてはいたものの、振り下ろした衝撃波によって大きく横に吹き飛ばされていた。
吹き飛ばされた先にいるツェリスカに向けて蛮神は即座に巨剣を向け、突進してきた。ツェリスカは巨剣の質量をそのまま受けきれず、更に吹き飛ばされる形になり、貼られた結界にぶつかり、反射して蛮神の方へと弾かれた。
「ツェリスカ!」
ザクロ・リリウムは先程と同じように術式を組み上げ光の柱を放とうとするが、巨大な本が立ちはだかった。
「くそっ!!!」
ザクロ・リリウムはすぐに真横に飛び退くと、そこには大きな穴がいくつも空いていた。先ほどの前方位の魔法弾をより範囲を狭めたものが放射されたのだ。ザクロ・リリウムは真横に飛び退きながらも光の柱よりも術式形成が早いものを巨大な本めがけて撃ち込んだ。
「魂の写本よ!力を示せゴラァ!!!スピリットオブファイア!!!!」
かなりキレ気味に放ったピンポンサイズの炎の珠は高速弾となって巨大な本に着弾し、爆発していった。今まではイデルマージを召喚した状態で使用することで同じような速さと火力を出していたのだが、今では召喚しない状態でも同じくらい出せるようになっていた。
彼女が新しく制作した魔導本、魂の写本は術の形成速度だけではなく、術の威力も底上げしていたのだ。
「ツェリスカ!残念だけど私はこの本を相手するからちゃんと決着つけなさい!!!」
ザクロ・リリウムは巨大な本を蛮神から引き離すようにスピリットオブファイアを打ち続けていた。
(悔しいけれど、蛮神のあの速さに私は対応できない!せめて、この巨大な本だけでも)
ツェリスカは吹き飛ばされ、かなりボロボロになっていた。衣服はズタズタに引き裂かれており、身体から切り傷があり、出血をしていた。
(あの巨剣の周りに小さな刃のようなものを形成してたのか…くそ)
大剣を正眼に構え、息を整えていき身体が異常がないのを確かめるとツェリスカは蛮神へと一気に距離を詰めるべく、地面をはうように走った。
「うおおおお!!!!」
ツェリスカは雄叫びを上げながら、大剣そのものに力を流し込んでいった。刀身に濃い紫色の光がうっすらと浮かび上がっていった。
蛮神の間合いに入ると巨剣がとんでもない速度で振り下ろされ、地面がその衝撃でえぐられめり込まれた地面から大地が突起状になってツェリスカを襲うがそれを見越してうまく避けながらツェリスカは自分の間合いまで近寄っていた。
「やると思ったよ」
ツェリスカは自分よりも小さい蛮神との戦闘で、同じような技を使った事があった。ザレクとマゴクもそれを見たことがあるので、きっとそういう行動を起こすだろうと確信していたのだ。
そして、力を込められた大剣をツェリスカは蛮神の胴を下から斬り上げ、真っ二つにした。
「今度は元に戻らないぞ」
真っ二つにされた蛮神はその傷痕から塵へと変わっていった。
「ナ…ゼ…
そして、蛮神は消え、巨大な剣が大地に突き刺さった。
「ふぅ…」
ツェリスカはため息をつき、終わったと思っていた。
「ちょっと!!!まだ終わってない!終わってないから!!!!」
ザクロ・リリウムは叫びながら、巨大な本と戦っていた。
「あ、忘れてました…」
「実は―」
大な剣が突如動き出し、ツェリスカへめがけて飛来した。
「チッ!!」
舌打ちをしながら、巨剣を弾き返し、大剣を構え直した。
「ザレク!マゴク!まさかとは思うが―」
「蛮神は一体ではなく、三体です」
「隊長を模した蛮神、隊長の扱っていた大剣と魔道書で三体です」
「嘘だろォォ!!!」
ツェリスカは叫びながらも巨剣に向かって大剣を振りかざし、斬りつけていった。剣型の蛮神と戦うのは初めてではないが、同時に三体も蛮神をザレクとマゴクが召喚していた事に驚きだった。
「ザレク!ザクロくんのサポートを入れ!マゴク、巨剣を弱体化させろ」
「がってん!しょーち!」
「弱体化ならまかせて!」
◇
2対1となった蛮神戦はザレクとマゴクのサポートにより、決着がすぐについた。ツェリスカはかなりボロボロとなっていたが、ザレクの回復によって傷は癒されていた。とはいえ、ザクロ・リリウムは制限解除してやっと戦えるレベルの強さを誇る相手だった為、かなり際どい戦闘だった。
(はぁはぁ…途中ザレクちゃんの回復サポートなかったら間違いなく死んでた気がする…。それにしてもツェリスカはすごいな、制限解除状態の私や他の不滅者と同じくらい強いなんて)
「ツェリスカ、ボロボロになってるけれど…私はかっこいいと思うよ」
ザクロ・リリウムは笑いながらツェリスカに言った。うんざりした表情をザレクとマゴクに向けていた彼女は、その言葉を聞いて少し照れながらもザクロ・リリウムに笑顔を見せた。
「そんな事…言われたのは初めてだよ」
ツェリスカは今まで頼られ、強いとは言われてきていたが「かっこいい」と言われたことは初めてであり、今まで無い新しい感覚が芽生えていた。
かっこよく生きたい、と彼女は思うようになっていたのだった。
「さ、戻ろうか…」
「戻ってこれからの事を考えないとね」
「そう…だな…」
「「はぁ…」」
ツェリスカとザクロ・リリウムは二人して同じタイミングため息をつき、顔を見合わせ笑いあった。これからのことはひとまず置いておいて、大惨事へと発展する前に止められた事の安堵と不思議な達成感に笑いあった。
◇
傷ついた真朱の旅団のメンバーはそのあと、ザレクの術により回復し重傷者含めて治っていった。コーディネイト・アーデル・ラーンブレイズは途中まで戦闘を見ていたが途中で意識を失い、気がついたら蛮神がいなくなっていたことに苛立ちを覚えていた。
真朱の旅団はその後、ザレクとマゴクの転移術によって精霊の森から追い出され、神聖マナ樹国ドラシアルユースと帰還していった。
この一件で真朱の旅団の団長のコーディネイト・アーデル・ラーンブライズは長男フォトン・ワーデル・ラーンブライズに団長の座を渡すことで責任をとることになった。団長としての器でないことを今回の一件で知れ渡ってしまったのだった。
「絶対に、絶対に殺す」
コーディネイト・アーデル・ラーンブライズはツェリスカに逆恨みをしていた。絶対に殺すという感情が心の中で渦巻いており、彼女の角は赤黒く燃え盛っていた。




