46-愚かな種族
精霊の森、ザレクとマゴクが造り上げた最強の要塞。精霊の森と呼ばれているが、勝手に呼ばれていて、そう呼ばれるようになっただけである。
セーブポイントはないがマナの樹によって守られており、他にも特殊な術式で守られている。領空圏も完全に掌握しており、大気圏外まで管理下に置かれている。過去に事件があり、月の住民が隕石を精霊の森に落とそうとするが大気圏外でこつ然と消え、そのまま術者への元へと隕石は返還され、術者がいた場所に降り注いだ。
ザレクとマゴク曰く、「地上が危険になった場合は空にそのまま浮遊して1万年くらいは遊んで暮らせるくらいに造ってある」という移動可能な要塞である。許可無く踏み入れ迷い込んだ者は入れないままそのまま彷徨い続けるか、入り口に引き戻されるようになっている。
◇
ツェリスカは結局のところ、不滅者をどうしたいのか、自分がいた頃から今の時代に飛ばされていた間の話を聞いても答えは出なかった。彼女はこの世界に来る前までは命令され、戦い続けてきただけだったからだ。
それがこの世界に飛ばされて、記憶を一時的に失い自分の記憶を取り戻す手がかりを探し、記憶を取り戻し一緒に戦っていた妹たちを一人は探し合流するが自分たちが居た時代と違う事をつきつけられる。
実際にその事で周りを見渡せば、自分が居た時代とは大きくかけ離れ過ぎており、自分を見失ってしまっていた。そして、ザレクとマゴクの話を聞きにきて、騒動に巻き込まれ自分には決定権があったとしてもこの世界の事を知らなすぎる事を痛感していた。
(私はいったい…どうしたらいいんだ)
日当たりがいいベランダにリクライニングチェアにくつろいだ姿勢のまま、パラソルの下でツェリスカは考えていた。傍目にはボーッとしているように見えるが、彼女の中では悶々と答えが見いだせないでいた。その横にはザレクとマゴクも同じように寝そべりゆったりとくつろいでいた。
ツェリスカは、結局のところ今まで誰かなりに命令され、それに応えるがために行動をし結果を残してきていた。しかし、命令するものもいない、今までのような生き方もこの時代では求められていない。妹のタヴォールに拒絶されたことにより、この世界では不滅者を倒す事そのものが求められていない事がわかったのだ。
(私は何をしたいのか、ここに来ても見つからないままか…何かしようと思い立ってもこの世界を知らなすぎる…。すでにこの世界に詳しい者から聞き、それに従って行くうちに自分のしたいことが見つかるかな…)
彼女は自分で考えるという行為を戦場において戦況などによっては考えることはしていたが、目的も明確でない状況で自分を優先した考えというのはしたことがなかった。そのため、何が一番の得策なのかということを考えることが初めてだった。
◇
一方、コーディネイト・アーデル・ラーンブライズが率いる真朱の旅団は精霊の森へ何度も行くが結界によりたどり着けずにいた。精霊たちの許可、もとよりもザレクとマゴクの許可がないのもあり、一行に目的地へと辿りつけずにいた。
ツェリスカが彼らを殲滅しないようにザレクとマゴクに言った結果、彼女たちは精霊の森へ入れないようにされていた。邪魔くさいのもあり、一生そこに囚われていればいいという意地悪として、引き返せないようにもしていた。
ザレクとマゴクはこの事をツェリスカに報告するわけでもなく、放置していた。ツェリスカとザクロ・リリウムに昔と今にかけての世界の事について話す事の方が重要だったのだ。ザレクとマゴクにとっては真朱の旅団などいつでも潰せる雑魚の集まりであり、脅威に感じていなかったのだ。そもそも、精霊の森の結界すら突破できないのなら、相手にするのも面倒以外なんでもないのである。
単純に蛮神を召喚して、ツェリスカにバレないように真朱の旅団を殲滅しようと思っていたザレクとマゴクだった。しかし、上官でもあり、ザレクとマゴクにとって中心であるツェリスカがいるので行わなかったのだ。
◇
数日間、ツェリスカは答えが出ないまま精霊の都市で過ごしている中でザクロ・リリウムは神聖マナ樹国ドラシアルユースが何もしてきてないはずがないと察していたが情報統制がされており、精霊の都市は普段通りだった。ザクロ・リリウムは精霊の都市を観光しながらも、神聖マナ樹国ドラシアルユースから嫉妬の刺客が来るのではないかと、これからの事を考えていた。
(貴重な体験をしているのに…観光しているつもりなのに…なんだか気分がどんよりしちゃうな…この森から出た時の事を考えたら怖いなぁ…)
ザクロ・リリウムは精霊の都市をふらりぶらりと見て回っている中で精一杯、今を楽しもうとしていた。ツェリスカのことを助けてあげたい気持ちはあっても、どうしても彼女は踏み込めなかった。彼女自身が不滅者であるのもあり、気軽に踏み込んでいい事じゃないと思っていたからだ。
ツェリスカとザクロ・リリウム、二人の思いがすっきりしないまま数日経ち、神聖マナ樹国ドラシアルユースから動きがあった。コーディネイト・アーデル・ラーンブライズが率いる真朱の旅団が精霊の森に囚われてから数日後に精霊種族たちが国のトップである教王から、直々に精霊の森へ連絡が来たのだ。それは長であるザレクとマゴク議会を行う場所に来いという事だった。
「てめぇがこいや」
「でもでもー迷ってこれないじゃん?」
「「キャハハ!」」
「「はぁーまじでダルい」」
神聖マナ樹国ドラシアルユースと精霊の森との連絡手段は教王とのホットラインがあり、特別な通信手段で繋がるものだった。ザレクとマゴクは教王がそれで何かしら連絡をしてくるとわかっていたのだった。
ザレクとマゴクは面倒ながらも話を聞きにその場所へと行くことにしていた。そして、改めて神聖マナ樹国ドラシアルユースという国がどういう国なのかツェリスカに見てもらう考えがあったのだった。
「私達が実際に議会に出席しにいきますので、ここから音声と映像をリアルタイムで見れるようにしておきます」
「あのうんこ固めた角有りのバカが言葉喋るのだけでも不快だけど、がんばってきます」
ザレクとマゴクはやる気があるのか、ないのか微妙な表情をしていた。 ツェリスカとザクロ・リリウムは円卓のテーブルに座り、中央の立体映像装置から議会で何が起きるのか見ることになった。ザレクとマゴクは空間転移を行う魔法陣から神聖マナ樹国ドラシアルユースへ転移していった。
「ツェリスカ、あのザレクとマゴクは…その大丈夫なの?」
「ああ、見えて…自制はする所はするから大丈夫だと思う」
二人して、議会の場で蛮神を召喚するのではないかと心配していたのだ。
◇
議会が行われている場所に転移したザレクとマゴクを待っていたのは教王、元老院や貴族、そして騎士団だった。完全に包囲されていると言っても過言ではなく、威圧感が立体映像から見ているツェリスカとザクロ・リリウムにも伝わっていた。
形式的な挨拶からはじまり、軽い雑談を取り交わし、本題へ入っていった。
「双翼の精霊王たるザレク殿とマゴク殿にお聞きしたい。此度の蛮神が召喚された件について、奴隷民が精霊の森へ侵入した件について、そして、皇帝国が侵攻してきている件についてだ」
教王の従者が書簡を読み上げる。
「はい、ではまず蛮神について、これはそちらの所有している騎士団が何の通告も無しに攻撃を私たちにしてきた事にあります。敵対行動と見なし、防衛手段として蛮神が召喚されました」
ザレクは嘘は言ってはいない。ただ、防衛手段としてという言葉が周りにざわめきを与えた。
「防衛手段?初めて聞くな…それはなぜ我々に牙を剥いたのだ?」
非はザレクとマゴクたちにあるという意味を含ませた言葉だった。発言したのは金髪碧眼のエルフ種族のハイエルフだった。誰もを魅了するような美青年であり、有権者の一人であった。しかし、ザレクとマゴクからするとガキんちょである。
「先ほど、ご説明した通り何の通告も無しに攻撃してきたので防衛機能が働きました。話、聞いてなかったのですか?」
マゴクはハイエルフの美青年を半眼で睨みながら、おまえはバカなのかという雰囲気を出して言う。
ハイエルフの美青年が苛立ち、何か言おうとするが別の有権者が先にザレクとマゴクに対して問い詰めた。
「防衛機能、ね…それはなぜ皇帝国には機能しなかったのかな?」
「本当は奴隷民が精霊の森に侵入して誤作動でも起こしたんじゃないか?」
野次を飛ばしているのは長寿でもある彼らはザレクとマゴクたちから生きる糧である新たな力であるマナを取り込み産まれてきた何世代か目の何百歳の者たちだった。
自分たちのルーツについて教王の教えや捏造された歴史を信じている者たちである。ザレクとマゴクはまともに言葉を交わすのも面倒であり、不快だった。
ルーツや事実を知る古くから生きている者たちは今では数えるほどしか生きておらず、時代の流れによって新たな世代に淘汰されたのもある。戦争や他国からの侵略によって少なからず痛手を負った者もおり、また隠居を選択している事も多い。
「然り、なぜ皇帝国には反応してない?精霊の森に侵攻しているだろう。そっちの問題はどうなっているのだ?」
他のハイエルフと比べ若干老け顏の青年がザレクとマゴクに対して問う。彼は古参であり自分たちのルーツや事実などある程度知っている者だ。
だが例え、ルーツや事実を知っていても国の方針や時代の流れによって演じなければならない者もいる。国を存続させる為にここに住まう種族としての形成された格式があるのだった。
その青年が落ち着いた口調で問い、周りはしんと静まり、ザレクとマゴクの返答に耳を澄ませはじめる。
「皇帝国は通告も無しに攻撃もしてきませんでした。それに使者を派遣して侵略してくる意思などない事を書簡にて受け取りましたが」
議会の場がざわつきはじめる。不穏な空気が一帯を支配していった。老け顔のハイエルフが眉をひそめながら、ザレクとマゴクに対して他の角有種族やエルフ種族よりも早く質問した。
「書簡だと?そんな話聞いてないぞ?」
「ええ、言ってませんから」
ザレクの態度に怒号が飛び交う。何様のつもりだの、ふざけるなだの、羽虫風情だの、ヒートアップしていった。当のザレクとマゴクは涼しい顔をしており、どこ吹く風であった。
精霊の森はそもそも神聖マナ樹国ドラシアルユースに属していない。精霊の森そのものにも名称すら、国としても建国すらもしていないのだ。それを神聖マナ樹国ドラシアルユースは自国の領土内にあるということで各国に自国の一部分であるかのようにしてきたのだ。
「ふざけるな、お前らが安全に暮らしているのも誰が守っていると思っているんだ?」
角有種族の一人が声を荒げてザレクとマゴクに言った。
それを皮切りに「知らない」者たちからの怒号がザレクとマゴクに降り注いでいった。
ザレクとマゴクはじっと彼らの言い分を聞いていた。静かだが、心の奥底に怒りを持ち、教王の方をジッと見ていた。何も反応がないのを確認すると周りを見渡し、騎士団も同じ意見であること、元老院や貴族たちも変わらないことを確認した。
「そういえば、奴隷民が精霊の森に立ち入ったのも問題だ。奴は引き渡せ!処刑する!」
「そうだ、まずはそいつを処刑すれば事態は少しはまともになるんじゃないか?」
知恵もない発言、自分たちの驕りが言葉として発せられていった。
ザレクとマゴクの恩方であるツェリスカたちを咎人として処刑し、事を収めるという発言がヒートアップしていっていった。
「処刑か、処刑しないかはともかくとして、その者をこちらに引き渡せ」
教王がザレクとマゴクに対して命令をした。
「断る、と言ったら?」
ザレクが教王に対して、明らかに拒否するという雰囲気を出し質問をした瞬間、議会の雰囲気はガラリと殺気だったものへと変わった。そして、ザレクとマゴクへ対して差別的発言や罵詈雑言が飛び交うようになった。
この腐った国へ向けて最大の力で蛮神を召喚する事を決めたザレクとマゴクだった。
◇
ザレクとマゴクを通して、このふざけた議会を見ていたツェリスカとザクロ・リリウムは、精霊種族や妖精種族に理解があり、共存していっている関係だと思いが間違いだと知った。自分達が上位種族だと思い込んでおり、話しにすらなら無かったのだった。
ツェリスカはかつてない程に胸糞が悪くなっていた。アガルタ時代では派閥や内部のいざこざはあったものの互いに共通の目的があった為か生き残る為に何をすべきなのか理解していた。少なくても彼女の周りに関してはだったが…。
ザクロ・リリウムは力がなんとなくこういう流れになるだろうと予測はしていた。予測はしていたが実際にそれを見るとなるとまた違った。プライドと傲慢さ、与えられた力を選ばれたと勘違いした土台に作られた国、その国を総ているのであれば、妥協点なりと見出すと思っていたからだ。
彼女はそれに対してどうにかしたい、なんとか考えを改め直すべきだと思った。しかし、国や種族の在り方に正論をかざした所でそう簡単に変わらないのは知っていた。また、それをどうこうするつもりもザクロ・リリウムの生き方に反する為、しようとは思わなかった。
議会はザレクとマゴクを責めるだけ責め、ツェリスカを引き渡す事が決定された。防衛機能である蛮神召喚の技術の提供も含めて至極当たり前のように要求していた。あと、精霊の森に囚われている騎士団も戻すように命令されていた。
それらが決定され、議会は閉会となり、ザレクとマゴクはその決定に対して肯定も否定もせず、戻ってきたのだった。
「とりあえず、この国をリセットさせてちょいとどっちか上か立場をわからしてやろましょう」
「ザレク〜そもそもこの種族の存在そのものを根絶やしにしよう」
「愚民どもは歳だけ一丁前にとるだけで、愚かさは変わらないし、やっちゃいましょ」
「「隊長、どうしますか?」」
ザレクとマゴクは戻ってきた途端、泣きそうな顔をしながらツェリスカに言い寄っていた。最後の判断はやはりツェリスカに委ねられる。彼女自身、世界に触れ、世界がどう成り立っていって今があるのか掻い摘んでだがザレクとマゴクから話を聞き、そして、国のトップや騎士団の声をザレクとマゴクを通し、感じていた。
「任せる」
ツェリスカはザレクとマゴクの思いに任せた。彼女自身どうでもよくなっていた、不滅者を殲滅するという思いはなく、自分がどうしたいかもザレクとマゴクの話を聞けば変わると思っていたが、世界は想像していたよりも黒く荒んでいたことに気がついたからだった。
ザクロ・リリウムはツェリスカが「任せる」と言うとは思ってはいなかった。一つの国を、その総ての民すらをも屠ることに対して何も感じていない。ただそこにあるのは諦めに似たような空虚感が彼女から発せらていた。この事に気づくのにザクロ・リリウムは遅れてしまった。
「「サー!イエス!サー!」」
ザレクとマゴクは敬礼し、蛮神を召喚し精霊の森に進む事も戻る事も出来ない騎士団に差し向けられた。待っていたと言わんばかりに行動に移していった。
精霊種族たちの総意として赴くのではなく、ザレクとマゴクのみの独断で行く事になった。精霊種族や妖精種族たちは全勢力を上げてぶっ潰す勢いだった。しかし、ザレクとマゴクは真朱の旅団を個人的な思いで殲滅したかったのだ。
ザレクとマゴクは、ツェリスカとその友人であるザクロ・リリウムに攻撃を問答無用で仕掛けた事に対してずっと静かな怒りを持っていたのだ。転移術を用いて、ザレクとマゴクが精霊の森にとらわれている真朱の旅団がいる場所へ向かった。
「ツ、ツェリスカ…こ、このままでいいの?」
ザクロ・リリウムはツェリスカに聞いた。一つの国がこのまま滅ぶ、その前に騎士団が殲滅される未来を止める事が出来るのはツェリスカだけだった。
その選択肢の重さすらツェリスカは感じてはいなく、あるのは見えない長い時の果てに飛ばされた自分がこの時代で何をしようとも世界はいずれ滅ぶのなら、考えるのだけ無駄なんじゃないかという答えだけだった。
そこには不滅者と戦っていた頃の誇りも自信すらもない、一人のただのツェリスカがそこにいるだけだった。
彼女が初めて、ただの何も無いツェリスカになった瞬間だったのだ。




