44-今は何度目の世界か(後編)
神の存在と人種族の歴史をザレクとマゴクたちは永い時の中で幻界を行き来しながら見ていた。この世界に神は存在していたが、ザレクとマゴクは神に接触しようとは思わなかった。人種族は神に導かれて文明を築いていった時代もあったが、神に導かれないまま不滅者によって文明を築いていく時代もあった。
時代によっては神に導かれる国もあれば、人種族手動の時代も存在していた。様々な時代の変化の中で神を語る者も存在し、神も人種族を糧にする時代もあった。だが、どの時代でも世界は人種族がいてはじめて世界として機能していた。
人種族なき時代は停滞しており、動きもなく人種族あって変化があったからだ。人種族がいるからこそ、世界は廻っていた。例え、不滅者だらけだとしても人種族は必ず存在していた。
◇
ツェリスカは昨日話された内容を整理出来ないでいた。想像力に遥かに超えた時のスケール、幻界という世界の話、そして、ザレクとマゴクがよくわからない存在になっていったこと。
(ダメだ、全くついていけない)
彼女は今まで戦場の中で生きてきて、ほんのちょっと人種族が築き上げた文明に触れただけだった。未来に飛ばされ、今まで見た事もない生活がそこにあり、当時戦っていた蛮神よりも弱い蛮神やはじめて不滅者を倒した事による戸惑いは彼女を混乱させた。
そして、ザレクとマゴクによる今まで見ていきた歴史の長さが自分のやってきた事がひどく小さく感じてもいた。
(なんだろうな…なんなんだろう)
ただ、自分の感情に整理つかず、困惑していった。
ザクロ・リリウムはザレクとマゴクが歩んできた道のりが永い時ではあるが本来のザクロ・リリウムにとっては時の永さはあまり意味を成さないものだった。不滅者たる彼女は質そのものを注視し、人工的に産み出された妖精種族がどういう道を歩んできたのか興味津々だった。
(制限した中で得られる経験は、人生を彩るわ…私は生きている!)
不滅者の彼女にとって、生きている実感というのは歩んできた時間ではなく、誰と何をし、見て感じてきたのか「今」を歩むことが生き甲斐だったのだ。
ツェリスカとザクロ・リリウムの対象的な心象とは他所に、ザレクとマゴクは今まで歩んできた世界の始まりと終わりを語りだした。
7度目の世界も人が現れる。ザレクとマゴクが精霊種族になり、妖精種族を取りまとめていく中で人種族たちにも変化があった。魔力とエーテル、二つのマナとは違う力が芽生えた人種族が現れ始めたのだった。
「不自然にそれは現れた」
「兆候なんてものは一切なかった」
「ただ、私たちはそれを観察することにした」
ザレクとマゴクは交互に語り、その時の事象を淡々と述べた。
魔王と自称する者が現れ魔力を暴走させ、世界を滅ぼした。魔力を持つものを魔族と呼び、差別した事が発端だった。人が文明を築いた2500年経った頃の出来事だった。築き上げられた文明は崩れ去った。
7度目の世界が滅ぼされた後に生き残った人は学び、強くなり、魔王を率いる者達へ反旗を翻すために力を磨いていった。エーテルと呼ばれる力を見つけ、最強のエーテル使いが魔王を倒した。8度目の世界は7度目の世界を滅ぼしたものを倒したのだった。
しかし、倒した後にそのエーテル使いを恐れた人たちはそのエーテル使いを殺した。世界を救った人は世界に裏切られ殺された。殺される前に世界に絶望し、殺されると同時に自身の中にあるエーテルを暴走させた。その暴走の影響で世界中のエーテルが連動して暴走していき、世界は終焉を迎えた。
この7度目と8度目に魔力とエーテルという力が発見された。魔力という力を差別した文明、エーテルを主流とした文明が発達していったが、どちらも悲惨な結末を生み出した。
ザレクとマゴクはこの7度目と8度目の出来事に違和感を覚え、身を潜めていた。
「可能性として、私たちに立ち向かえる力なのか観察、研究対象の一つとして見られている気がしました」
「不滅者が何かしら関わっていると感じました」
存在を感じたわけでは無い、ただ感知が出来無い場所から見られている何かを試されている気がしたという。
ザクロ・リリウムはこの二つの世界にザレクとマゴクが言うように違和感を持っていた。
(魔力とエーテル…力そのものに正式な名称はないのに、はっきりとそれを名称しているのに違和感がある。不滅者が絡んでいる、ザレクとマゴクは感がいい)
9度目は過去のいくつかの文明は歴史学者から解明されたが、人種族たちはその過去の力で戦争を引き起こしていった。魔力やエーテルを駆使し、文明を開花させていった。しかし、魔力でもエーテルでもなく、未知のウイルスによって人類は死滅していった。これが9度目の世界の終わりだ。
人種族が戦争を繰り返し、そのまま滅んでいくかと思われたが世界的に未知のウイルスによって終わりを告げた事によってザレクとマゴクは7度目からの世界に違和感を拭えず、妖精種族を人種族の前に姿を現さずに観察することにしていた。
10度目の世界、自然の中で人は産まれ、一定の文明を持つと不滅者たちが移住してきた。この時に不滅者たちは彼らと同じように生活していた。ザレクとマゴクはこの世界になるまでの年数を大まかに数えるのすらやめていた。
不滅者がやってくるとザレクとマゴクは確信していたのもあり、世界に対して何か作為的なものを感じるようになっていた。
「突然、不滅者たちが存在を隠すことなく現れました」
「自然に溶け込んだのちに現れていたのが、気にすることなく現れました」
「それがなぜ現れたのかすぐにわかりました。」
「7番目、8番目、そして9番目の世界はただこの10番目の世界のために造られたものでした」
9度目の世界を終わらせた未知のウイルスで死滅した者たちが死霊として蘇り、人々に寄生し襲ってきた。不滅者たちは10番目の人たちと協力して死霊として蘇った者たちを討伐していくが、結局は不滅者しか残らず世界は終わる。不滅者たちは世界を去って行き、人はいなくなる。
死霊として蘇り、肉体に寄生した者たちを不滅者たちは倒すために造られた世界だったのだ。死霊たちは不滅者たちだけには寄生できず、普通の人種族たちには寄生されていた。
「人種族たちは魔力やエーテルを持っていた死霊たちに寄生されていきましたが、不滅者たちだけは寄生されませんでした。そして、人種族たちは特別な力を持つ者として認知されているだけでした」
「世界はただ彼ら…不滅者たちの遊び場でしかなかったのです」
「我々や妖精種族は過去の死霊たちを退治する術を持ち合わせていたので、撃退し生き延びました」
「しかし、人種族が減っていき…」
「世界はまたしても滅びました」
こうして10番目の世界も終わり、11番目の世界がはじまることをザレクとマゴクは言うとツェリスカは一つの疑問を口にしていた。
「不滅者だけ残ったのに世界はなぜ滅ぶのだ?」
「不滅者は人種族たちがいなくなると忽然と姿を消していきます。そして次第に有りのままの世界に戻ります」
ザレクは語る。
「それがなぜ世界の滅びと結びつくのだ?」
ツェリスカは世界の滅びというのが想像出来ないでいた。
「我々や妖精種族、人種族以外の他種族…亜人種族も含め多少なり生き残っていっても衰退していきます。理由は恐らく長命、もしくは不老が一因していると考えられます」
「世界が長命、不老といった存在を求めていない。これらの種族は世界に変革と発展ではなく、停滞と衰退をもたらす傾向があります」
ザクロ・リリウムはザレクとマゴクの結論に異議を唱える。
「長命種や不老種は過去の文化、風習や技術の保持を行うわ、。それに争いを好むようなものも少ないわよ?それがなんで停滞と衰退をもたらすの?」
「平和の世界が何千年続き、勢力図も何千年も変わらずにいた先に何をありません。決まり決まった型にはめられ世界に時は過ぎていますが、時の進化についていけない生命は衰退します」
ザレクは定型文を読み上げるように淡々と答える。何度もそのやりとりをしてきたのはザクロ・リリウムはいったあとに気がついた。
「文化と文明の停滞は時の進化についていけず、衰退と世界は判断して滅びます」
ツェリスカは言うまでもなく、話についていけなかった。
(な、なにを言ってるんだ?時の進化ってなにを言ってるんだ?さっぱりわからない)
「「この世界はそういう風に出来ています」」
ザレクとマゴクは世界の真理にでも触れた確信があるのかそう断言し、世界の終わりと始まりについて語り出した。
(ザレクとマゴクはこの世界の真理に触れたのか…いや世界の深い部分に触れたのか…)
不滅者にとってこの世界はいくつものある世界の一つに過ぎない。
11番目の世界も人が産まれ、文明を築いていった後に異世界へと通じる門が突如現れ、異世界との交流がはじまり、のちに戦争へ発展していった。しかし、最後には異世界の門そのものが暴走し、大量のモンスターが排出され世界はモンスターに蹂躙される。
この時にザレクとマゴクは妖精種族たちとモンスターへ対抗し戦うが人種族たちの人口は著しく減り、文明は衰退し人種族が住める場所は世界の端に追い詰められていった。
ザレクとマゴクは人種族たちを安住の地へと逃す事にし、月へ移住させた。
「世界を救えなかった、ということなのか?」
ツェリスカはザレクとマゴクは世界との関わり合わりで人種族と関わりが増えていくことで心境の変化があった事を感じ取っての言葉が出た。
「私達はあの時、救おうとは思わなかった。ただ、このまま世界が終わるのも癪だったので抗いたかった。それだけでした…」
「でも、後になって私達は気がついた…まるで不滅者たちに追いつめられていくような感じがして、同じようになってしまう人種族たちが自分たちのいた時代と被ったからだと」
ザレクとマゴクは11番目の世界については、あまり多くは語らなかった。ただ月に生き残った人種族を逃したというだけを語った。その後、異世界からの門がどんな物なのか、誰が開いたのか、それがいったい何のかは語られなかった。
ただ、今まで語っていた表情とは違い辛そうな表情がかすかに見え隠れしていただけだった。そのかすかな違いをツェリスカは気づいて何も聞かなかった。わからない事だからだからこそ、異世界の門やそこからなぜモンスターが現れてくるのかなど聞くことは出来なかった。
12番目の世界は生き延びてきた人種族が月に逃げていた月の住民が地上に侵攻していった、月の住民とは別に地上には違う人種族が文明を築いていたが選民思想のもと浄化を行なっていった。ザレクとマゴクが全ての人種族を救えたわけではなかった事で救われた人たちは次第に歪んでいっていた。地上にはモンスターたちが生息しており、旧時代で生き残った竜といった人種族ではない者達が生息していた。
その地上に侵攻をし、モンスターを一掃していくが…モンスター含めた生態系がすでに出来上がっていた。月の住民はザレクとマゴクがもたらした技術を発達させ、地上のモンスターたちを圧倒していったが竜たちはそれを黙ってはいなかった。
「始祖龍がその侵攻を止めるために戦争をしかけてきました。始祖龍は7度目の世界から生存している知性をもつ生命体です」
「エーテルと魔力が突然現れたときに、空を飛ぶようになったトカゲがまともな知性を持つようになり龍と名乗るようになった王の一匹です」
「モンスターでさせ、近寄らない生物でした。人種族を無闇に襲ったりはしませんがなぜか今回だけは襲ってくるようになりました」
「自分たちが支配者になった空よりも遥か高い所にいった私達への嫉妬だというのは後で知りました」
ザレクとマゴクはその時のことにため息を付き、乾いた笑いを上げた。
「その後、私達が助けた人種族…まあ、月の住民たちがキレて隕石を落として地上ではその余波で滅びることになりました」
「しぶとい竜やら龍とかは生き残っていた…まあ、モンスターもなんだけどね」
月の住民が隕石を落とし、世界はまた滅びた。
次第にザレクとマゴクの語りにため息が混じっていき、うんざりしたような気持ちがにじみ出ていた。
13番目の世界は隕石を落とされた後、月の住民は地上に降りてきたが以前のように侵攻しに来ているわけではなかった。国を築き、世界統一を目指していった。しかし、独立都市国が反発し、戦争状態になっていった。
巨大帝国となっていく中、始祖龍は嫌がらせのように止めに入った。竜が介入したことによって人種たちの戦争は停戦状態へと変わった。しかし、始祖龍たちは帝国を止めたわけではなく、自分たちの眷属が利用されていることで介入してきたのだった。
竜の眷属を利用した生体エネルギー機関を月の住人たちは使っていた為、それに気づいて戦争を仕掛けてきたという事だった。その後、龍たちの猛追により帝国は滅びる。滅びる寸前に龍たちへ隕石を落とし、世界はまたその余波によって滅びる。
「この時、月の住民たちは地上から月へ逃げていった」
「そして、12番目、13番目も不滅者の存在そのものをはっきりとは感じませんでした」
「通り過去から今にかけて何万年を何千と繰り返し見てきた世界は醜くも美しく儚い」
「文明の滅びがあり、小なり大なり繰り返される中で人種族は希望を抱きながらも、最後には滅びる」
「「そして、今が14番目の世界になります」」
ザレクとマゴクは語り終える。語り終えた目には涙が溢れて、顔がくしゃくしゃになっていた。
「この何度も世界は終わっては始まりを繰り返す中でどこかで隊長たちが現れるのかもしれない、現れるには何が足りないのか探しては繰り返し、微々たることから世界を変えるような取組を行ったりしました」
「もう…幾度も文明が滅び、人種族が自然の中で産まれる中で前の時代からやっと生き延びているのは月の住民たちだけ…でも戦いや争いが終わらない」
「人種族が産まれても、滅び続けた。でも、結局どこかのタイミングで世界は滅ぶ」
ザクロ・リリウムはザレクとマゴクが言う世界の滅びが何を指しているのか、わかっていた。この世界の真理に近いところに触れたからこそ疑問には感じていなかった。
「ザレク、マゴク…世界の滅びとは何だ?」
しかし、ツェリスカには世界が滅んでいるようには思わなかった。
「それは人種族がこの世界を観測する者たちであり、一定数の観測する者がいなくなると世界は新たな人種族を自然に産み出します」
「観測というのは、人種族だけが持つ意識が世界に向けて反応される事で世界がその意識によって維持している状態の事を言います」
ザレクとマゴクは不機嫌そうな顔をしながらも説明していった。ひどく嫌な事を思い出すかのようなものだった。
「特定の条件、あるいは素質を持つ人種族が持つ力です。その力は人種族の人口や様々な要因によって上下していきます」
「その力は時の流れを左右します。一定の観測者がいない場所の時の進みと観測者がいる場所の時の速さは違います」
「時空術の基礎原理が自然発生してるということなのか?」
ツェリスカは世界の長い滅びと再生の話にはほとんどついていけなかったが、術式に繋がるものは理解が早かった。
「その発生が世界から一定数減ると、時間の流れが早くなり…最終的には速度が無限大になり、新たな観測する者が現れるまで進み続きます。一瞬で時は進みますが、その間の意思なんていうものはありません」
(意思なんていうものはないか…遠からずあたっている。このザレクとマゴクはどこまでこの世界を知っているんだ?)
ザクロ・リリウムはゾッとしていた。不滅者である彼女はもちろんこの世界の真理を知っていた。
「そして今が14番目の世界に至ります」
「私達が見てきた世界は13回、何万年と何千年を何回も繰り返す中で待っていました」
「「いつ戻ってきても大丈夫なようにしておきました」」
ザレクとマゴクは世界の滅びを見飽きてとっくに達観し、いつか戻ってきてくれるという思いがこじらせていき過去の生活へ固執していったのだった。




