41-精霊都市の思い、彼女の希望
精霊の森、神聖マナ樹国ドラシアルユースの聖域の一つである。妖精種族や精霊種族が多く森の中で住んでおり、ドラシアルユースの中でも力が満ち溢れている場所である。皇帝国が攻めてくる前はある程度解放されていたが、現在は閉ざされている。
豊かな自然の中で様々な精霊や妖精が平和に暮らしている森として内外問わず認知され、下手に踏み入れると精霊種族の怒りを買ってしまう為、ドラシアルユースを通して行くのが当たり前になっていた。
精霊種族や妖精種族は時たま、ドラシアルユースや他の国にも姿を現すこともあるが滅多に見かける事がないため、詳しい生態などはドラシアルユースしか知られていない。
精霊種族や妖精種族は自分たちが何をしているのか徹底し、喋りたがらないため秘密に包まれているからだ。
◇
ザレクとマゴクの制御を失った蛮神を討伐し、落ち着いたのでザレクとマゴクが住まう場所で話を聞く事になった。
「とりまー私たちの国に案内しまっす」
しゅぴっと敬礼しながらもだらしない口調でツェリスカに言うザレクであった。
「いつか来る日のために、ばっちしグッドでナイスにしてあるん」
ニンマリと嬉しそうにマゴクは笑みをこぼしていた。
そして、彼女らは精霊の森の中心地へと歩いていった。反省していない様子を見て、思うところがあったが言っても変わらないので口には出さなかった。
ザクロ・リリウムはさっきまでの展開で何から突っ込めばいいのかわからないのと大きな問題になりそうな予感がして気疲れしていた。
◇
精霊たちの都市は空中回廊と空中庭園、地上まで木の中に住宅街など巨大な樹木の中にくり抜いてではなく、樹と共同で造られている。加工ではなく「木の精霊との対話」によって造られていた。
地下には樹の根が上手く利用された地下街もあり、精霊種族のノーム種などが住んでいたりしておりしていた。他の精霊種族や妖精種族も都市内にある地下湖や都市内を横断する川、花畑などにそれぞれ種族に合った地に住んでいた。
小人種族なら入れるサイズだが、それ以上になるとほとんど入れないサイズだが、空中庭園のみ開けている為、ザレクとマゴクに案内される。地上にも広場があるが、会談するような場もあるがVIP用ではない。精霊や妖精の憩いの場であるとのことだったので、ツェリスカとザクロ・リリウムはそこでもよかったと思っていたのだが初めて精霊種族と妖精種族以外、正式に招待されたということもあって空中庭園になった。
「角有のうんこ共はここには一度も入れていない、場が汚れるからな」
「あいつら入れろ入れろ煩いんだよ、嫌だっつてんのにバカじゃん」
「身の程を知れよクズって思う」
「ほんとそれだよねー」
二人が案内されたところは、木々の枝が幾何学的に絡み合った天井があり、その隙間から太陽の光が草花で彩られた庭園がそこにはあった。かなりの高さの場所にあるのだが、都市内には瞬時に移動出来る転移陣があった為、階段を登るようなことはなかった。
(転移陣…この都市内で繋ぐ回廊だとしても至る所にある…すごい)
ザクロ・リリウムは初めて転移陣を体験したわけではない。古代遺跡の調査した時にそこで使われていたので慣れ親しんだものだった。しかし、現代の技術力では転移陣を構築し利用するとなるとかなりのエネルギーが必要になってくるのもあり実用的とは程遠いのだった。
彼女が見るこの都市の有様は、今まで見てきた都市と違って力の流れが留まるような造りになっておらず、とても心地の良いものだった。
空中庭園、中央には円卓のテーブルがあり、見た目は大理石のような素材のテーブルがあった。中央には水たまりがあり、よく見ると窪みがあり水が湧き出ていた。周りには巨人種族には丁度良い大きさの椅子が並べられており、他の種族には大きいサイズではあった。そして何よりも空中に浮いており、椅子に足がなかった。
「座る人に合わせてサイズが変わりますので、ささっどうぞ〜」
心地の良い風が吹き、2人の背中を後押ししていき、椅子へと誘導される。
ツェリスカはここが天霊種族、精霊種族、妖精種族以外で初めて他の種族が来たという意味の重さを知る由もなかった。ただ自分がいた時代の会議室に似ている、というくらいな心象しかなかった。
(中央の水は立体映像透写水か…暗殺防止に非常用の術式も組み込まれてるな…)
ザクロ・リリウムは自分がはたして、ここに来て良かったのか、間違いなく角有種族やあの国の者に知られるとヤバいと思った。
(何この力…自分の中に入り込んでくる。力が湧き上がってくる)
二人は円卓に備え付けられている浮遊椅子に座ろうとした。ザクロ・リリウムにとっては座るのも大変だったが椅子が自動的に低位置に下がり、小人種族でも座りやすくなる。座ると椅子は座る人に合わせて変化し、ちょうどいい心地よさになるものだった。
「ひゃっ」
ザクロ・リリウムは椅子が自動的に自分が座りやすい大きさに変わった事に驚き、自然と声を出して恥ずかしがった。
ツェリスカはそれを見てくすりと笑い、ザクロ・リリウムにキッと睨まれる。
「さぁて揃ったので、はじめます」
ザレクが一声あげると空いていた席が変形し、大小様々に変形していき、転移術が発動し、精霊種族の代表者たちが座っていた。
「投影スクリーン、おっけー?」
マゴクがどこかに問いかけ、何かの反応を見て満足そうに頷いていた。
「では、ツェリスカ様とザクロ・リリウム様の歓迎会と寄生害虫撲滅会議をはじめたいと思います」
ザレクが勝ち誇ったような自信と歓喜に満ちた顔で宣言した。するとせせらぎの音で和やかで爽やだった空中庭園は喝采と歓喜に溢れかえった。空中庭園の外からも喝采や演奏などが聞こえてきていた。
「外からも音が入ってきてるなー、防音していたはずなんだけど…ま、いっかー」
マゴクが周りをキョロキョロしながら小首を捻っていた。
ザクロ・リリウムはこの時とんでもないところに来てしまった事を改めて感じ、ツェリスカと出会い助けてしまったことを後悔していた。
(か、帰りたい!!!こういうのが嫌で引きこもっていたのに!!!)
ツェリスカは困ったような顔をしながらも少し笑っていた。
(ザレクとマゴクはいつも大袈裟だなぁ…前もそうだったっけ)
昔、作戦会議をしていた頃のことを彼女は思い出していた。
◇
歓迎会ということで、都市全体が盛り上がっていた。それは歓迎会というか国を挙げての祭りになっていた。
二人に様々な料理が運ばれ、野菜から肉、魚、など食べきれない量が置かれていった。精霊はそういったものは摂取しない、出来ないこともないが直接空気中にある力を取り込むため、食事というものは娯楽の一つだった。
ザクロ・リリウムは目の前にある料理が誰が作ったのか気になっていた。彼女の知識では精霊種族や妖精種族の多くは食事をとらないからだ。
「いつかお迎えする事があると聞き、人種に合った食事を作れるように訓練してきました。その成果を感じていただければ幸いです。お口に合えばと思います。」
ザクロ・リリウムは深く頭を下げる精霊種族のシャドウ種を見て目を疑っていた。
(人種と全く見た目変わらないのに、中身が力の集合体っ…すごい力の流れだわ)
見た目は普通にコックの格好をしているナイスミドルのイケメンだが中身が人ではなく、着ている服でさえも精霊種族の力で形成されているものだったからだ。
(ここは精霊の森と言われているけれど、ただ精霊や妖精たちが住んでるだけじゃない。都市国家じゃない…聞いていた話とは違い過ぎる)
ザクロ・リリウムが今まで旅してきた中で精霊の森は未開地でもあり、自然の中に精霊や妖精が住まう場所と聞いていたのだ。そこを有角種族やエルフ種族が保護しているというくらいしか知らなかったのだ。
しかし来てみれば、全く違う情景がそこにはあり、ザクロ・リリウムはただ驚いていた。
二人は料理を食べながらザレクとマゴク、周りの精霊種族たちからこれまでのことを説明され、ツェリスカはゲンナリし、ザクロ・リリウムは知りたくもなかった知られざる真実を知り後悔の気持ちでいっぱいになっていった。
精霊たちの話を聞いていくと王族と貴族社会、土地に恵まれていることとその環境の下で胡座かいていることだった。土地柄、長く住んでると力が強くなっていくのもあり為、それが自分の力だと勘違いしているのだという。
「別に選んだわけでもないのに、自分たちが選ばれたと思ってるわけだからタチが悪い」
「最初は私たちや妖精も協力していたが段々増長していって、ここ数百年には自分たちが偉いみたいな頭おかしくなってるわけなの」
円卓の椅子に座る赤い精霊と黄色い精霊がボヤいていた。
「再三通告してもトップらは今更変えられないみたいなこと言い出したので、一旦お灸を据えてしまおうということになったのよ」
ため息をつきながら綺麗な羽をもつ精霊が言う。
ザレクが中央の水に触れると水が重力に逆らいながら透明だった水が色鮮やかに変化していき角有種族が何人も映し出されていった。
「さて、話は変わるけど自称王族、貴族どもがこいつら…先程、事もあろうか我々の客人であり、我々が今この世界で平穏に暮らせている恩方を攻撃してきたクソはこいつだ」
ザレクが怒気混じりに、ツェリスカとザクロ・リリウムを攻撃してきたコーディネート・アーデル・ラーンブレイズが一際大きく映し出される。
一瞬にしてあたりが静かになり、風の音やさっきまでの音が無くなった。静まった後に大気が振動し、樹々がザワザワと揺れ、雷鳴が聞こえはじめていった。その変貌ぶりに流石にツェリスカは危険だと感じた。
「こういう奴らが現在、この土地を汚しているわけだけど、血縁者全員処刑すべきだと思います!」
「「「「「賛成」」」」
街全体から声が響き、大気が揺れた。
「ザレク!待て待て!お前という奴は落ち着け!何年生きてるんだ、少しは成長しろ!」
ツェリスカは椅子から立ち上がり、両手を円卓につけながら言う。
「アセンション前からの年数を数えると…少なくてもン万年は生きてます!時代が再生し、崩壊し、その繰り返していく中で建国と亡国を数多く見て観察してきました…」
「う、うん?」
「戦争ばかり…争いしかしていない。不滅者が好き勝手していようがしまいが争いは絶えず繰り返されてきました」
ザレクは目に涙を浮かべていた。
「いつか終わると信じてきました。隊長が戻ってきて、戻ってきて…一緒に戦場を駆け抜けていた頃に戻りたいんです」
涙を拭うザレク。
「でもね、わかってるです。時代が変わったって…それでもね、大好きな隊長を事もあろうに蔑んだ。今の時代があるのも先人たちが不滅者と戦った後に出来た世界なのに…」
「知らないとはいえ、私は許せないんです。ここにいる妖精や精霊たちはザレクと一緒に保護してきた子孫たちなのです」
マゴクが今までない真面目な顔で語り始める。
ツェリスカはあの時代に取り残してしまった思いが永年の末に自分へと帰依していた。
(私は、私は…どうすればいいんだ?…そうだ、時代は変わったんだ…)
彼女はザレクとマゴクたちを見て冷静になっていった。不滅者や蛮神を討伐した先に世界は変わるのか、この時代には蛮神たちはそこらにそうそう居ないのだ。
「隊長…いえ、ツェリスカ様、我らと精霊種族、妖精種族を導いてください。我らの王として」
ザレクは頭を下げ、続いてマゴクも下げる。それに合わせて円卓に座っていた精霊種族たちも席から立ち、頭を下げていった。
ザクロ・リリウムはツェリスカの横でさっきまで美味しく料理を食べていたのだが展開についていけなかった。
(えっ、何が起きてるの…)
後悔が的中したといっても過言ではなく、不安混じりにツェリスカを見ると彼女も狼狽えていた。歯を食いしばりながら、口で息をしていた。
ザクロ・リリウムは気付き始めいた。ツェリスカはこの世界にストレスを感じていたことに、今まで居た時代のような生き方が出来ず、馴染もうにも目的がなかったことに。
そして、時代が変わった今も自分に期待されるも昔のような敵がいるわけでもなく、世界は回っていることに気がついたのだ。
ザクロ・リリウムはツェリスカの苦しみを知らないわけではなかった。彼女も不滅者として似たような経験があったからだ。だが、彼女は自分とは違うとザクロ・リリウムは思っていた。
「私はあの国の人たちとは出会いこそアレだったが話せばわかると思いたい。ここで争っても戦火が起き、私がいたあの頃のようになるのは違うと思う」
ツェリスカは手が震えながらも、争いを回避したい思いを告げていた。
「私はこの世界のことをよく知らない。知ってるのは赤い戦火に彩られた空、断末の悲鳴、腐肉臭がする荒野、蛮神たちが同胞を咀嚼する音だった」
ツェリスカはあたりを見渡しながら、涙を流していた。
「どこかで戦争は起きているかもしれない、でも、人種や精霊…動物たちもいる。蛮神に壊され、好き勝手にされてるわけじゃない」
目を閉じながらツェリスカはただつぶやいた。
「手を取り合う未来があってもいい、そんな未来を信じたくなったんだ」
彼女の中にほんの少しばかりの未来への希望が育まれていた。未来なき過去ではなく、今ある未来へと彼女は目を向けた瞬間だった。
そして、その場にいる誰よりも現実を見えていなかった。




