39-プライド
ザレクとマゴクはアガルタ時代では妖精種族のアイオーン種だった。ヒーラーのザレクにバッファーのマゴクとして試作人工精霊体として産み出された。アイオーン計画の一端として産み出された。そして、対蛮神戦において生存率を上げる為に妖精種族との適応能力がある兵士に支給されていった。
アイオーン計画は、対不滅者殲滅としての切り札として計画されていたものだった。しかし、適応能力以外に兵士との相性というものが存在し、相性が悪いとアイオーン種は十全な力を発揮しない事が多く、計画は中止となってしまった。
そんな中、数少ない成功例としてザレクとマゴクはツェリスカと共にいくつもの戦場を生き延びていった。ザレクとマゴクが攻撃的な性格なのは戦闘時のツェリスカに影響を受けているためである。
◇
コーデイネイト・アーデル・ラーンブライズから見るとツェリスカが蛮神になった。あるいは自身を模した蛮神を召喚したと思っていた。火系の弱くはない術を発動させたのをまるで吸収したよう見えていた。
奴隷種の癖に高度な術を使えるわけがないと彼女は思っていた。精霊種族を使って防ぎ、更には蛮神を召喚したと思っていた。
「奴隷種が!蛮神なぞ召喚させて…塵すら残すか!」
さっきまで力を隠しながら術を構成していたのを抑えずに構成することで凶悪なまでの術式が形成させていった。今度はさっきみたいに気付かれないような奇襲用の術式構成はなく、全力に近い術式を構成していった。
(世界の汚物が、消し炭になってしまえ)
◇
蛮神ツェリスカがもつ左手の巨大な本を開き、そのままコーデイネイト・アーデル・ラーンブライズの方に見開いたページを見せるとバリアが形成される。コーデイネイト・アーデル・ラーンブライズが放とうとしている術からツェリスカとザクロ・リリウムを守るためだ。
「隊長のお連れの方を回復させます」
「その後、安全を確保したのち蛮族の国をそのまま滅ぼしてくるので待っていてください」
さらりとザレクとマゴクは恐ろしい事をツェリスカに伝える。ただそれにどう反応していいのか理解が追いついてなかった。
ザレクとマゴクの表情は昔一緒に戦場を駆け巡っていた時の顔になっていた。仲間の仇を討つような顔をしており、眼が完全にいっていた。
ツェリスカはザレクとマゴクのその表情を見慣れてはいたが、発言が発言だった為、あっけととられていた。
ザクロ・リリウムが痙攣しながら地面うずくまっていている横までザレクが回復の術をザクロ・リリウムに向けて術式を展開させた。淡い光の粒がザクロ・リリウムの周りに舞い、粒が弾けていき、そこから更に粒が線香花火のように弾けていき彼女に降り注いでいった。ザクロ・リリウムの痙攣が収まり、咳き込みなが片膝を立てて起き上がった。
「あ、ありがとう…」
ザクロ・リリウムは自分の身体が軽くなっていったのを感じていた。眼から全身に走る激痛が身体の外から最初は緩やかだったが急激に消えていくのを感じ、それが回復の術だと気がついた時には感謝の言葉が自然と出ていた。
火球が膨れ上がりそのまま爆発する術をただ直視しただけなのだが、術式を形成し発動させたのが角有種族のイフリート種となると火そのもの性質が普通の術とは異なった。彼女は油断してはいなかったが、相手が悪かったのだ。
(まさか、コーディネイト・アーデル・ラーンブレイズ…放炎魔神がつけていたなんて…不覚だわ。相性悪すぎ…私の炎じゃ彼女には勝てないじゃない、ちくしょう)
ツェリスカはというとこの世界に来て最初に相手をした蛮神と近い性質のものだと感じていた。そして、その力が森を焼かない特殊なものだと感じていた。
(術の構成は変わらないが力そのものがちがうのか?)
彼女は自分を模した蛮神に混乱はしていたものの、少しずつ落ち着きを取り戻してきていた。
ザクロ・リリウムは意識が明確になっていき自分が扱う火よりも遥かに上位の力であり、力の奔流の質が違うことを悔しい思いをしていた。それを近くで直視し、自分が耐えきれず倒れた事を思い出してきた。
(角有種族は、力の質そのものが違う。異質なだけだと思っていたけれど、まさかここまで強いとなると…)
ふと、彼女はそれよりも大きな力の流れ、自分たちを守る奇妙な膜、バリアを見てそれがどこから発せられているのか振り向いて確認し、絶句した。
口をポカーンと開け、思考が止まっていた。
「言っておくがアレは私が召喚したものではないからな」
ツェリスカは放心しているザクロ・リリウムに告げる。
「えっ!?…えっ?」
ツェリスカと蛮神を見比べながら困惑しつつ、指差し確認をするように間違い探しをしていた。
「あれは私を模した蛮神だ…」
ツェリスカはため息をつきながら頭を抱えていた。
「はっ?えっ?」
ザレクとマゴクはザクロ・リリウムが完全に回復したことを確認すると、蛮神ツェリスカにバリアを張りながらコーディネイト・アーデル・ラーンブレイズの方に歩ませた。
「「進撃せよ」」
ザレクとマゴクは声を合わせ、蛮神ツェリスカに命令をしていた。ツェリスカは頭を抱えながらもどうしたものかと答えが浮かばないままでいた。
「隊長、ご安心をオーガにも劣る子鬼風情をこの世から排除しますので」
「あいつ火遊びがうまいぐらいで調子こいてきた家系なんで、ちょっとこの世からお家断絶してきますね」
ザレクとマゴクは完全にキレていた。
「お、おい、待て」
ツェリスカはちょっと止めないといけないとなんとなくだが感じていたが彼女自身が自分から召喚していなかった事もあり制御が全く出来ない状態だった。なぜこういう状態になっているのかさえ状況が把握出来ず、ちゃんと判断ができなかった。
キィーン
甲高い音が鳴り、さっきとは違う火球が瞬時に規則正しく蛮神ツェリスカの周りに複数のピンポン球よりも少し大きなものが浮遊していた。ザクロ・リリウムが使うスピリットオブファイアはサモン・イデルマージを召喚した上で自分中心に半径1m以内から浮遊させて相手に向かわせるものだった。しかし、コーディネイト・アーデル・ラーンブレイズは自分たちの近くに発動させていた。
バッガァァン!!!!
そして、出現させた瞬間、同時に爆発した。振動で地面が揺れるものの、バリアに損傷はなく、空気を伝った振動もなかった。あるのは地面が揺れる程度のものだった、そして周りの森には一切の損害がなかった。
「雑魚」
「雑魚ね、雑魚」
ザレクとマゴクはボソリとつぶやくとツェリスカとザクロ・リリウムの前にでて、ふよふよとそのまま蛮神ツェリスカと共にゆっくりと距離を縮めていた。蛮神ツェリスカは大きさの割りに歩幅はあるものの、歩みはゆっくりだった。
ザクロ・リリウムは自分の術と比べると術式の構成と発動、そして距離が明らかに異常だった。
(500m…ありえないが、ありえてるか…体内で術式を完成させ、圧縮させた状態を指定した場所に誘導させて解放させ同時に発動させる力か。角有種族だからこそ可能なのか、ここからの距離じゃ、体内での術式構成の流れが見えないからなんとも言えないわね)
今まで自分が知らない術や攻撃からここまで冒険者として生きながらえてきた彼女は、敵を観察し、対策を考える。
一方ツェリスカの方は、相手の攻撃方法よりも周りの森に爆発の影響がないことに疑問を感じていた。
(指定した対象のみ攻撃が可能な術式なのか?だとしてらバリアを貫通しなかったのはいったいなぜだ?自分の術に転用できるのなら、殲滅術による戦術の幅が広がるな…)
そして、攻撃された事よりもどう自分の術に取り込もうか考えているのだった。
「「インペリアルレイ」」
ザレクとマゴクがつぶやくとバリアが解除され、本から一筋の光の線がコーディネイト・アーデル・ラーンブレイズに発せられた。それはただの力の激流だった、ザレクとマゴクがインペリアルレイと言ってはいるが術式の構成もないものだった。
しかし、その力はコーディネイト・アーデル・ラーンブレイズにとって死を招く光線だった。距離的なアドバンテージがあったのか無防備だった彼女は驚愕していた。
◇
「団長ッ!!!!」
シェーフォードは危険を察知しコーディネイト・アーデル・ラーンブレイズの前に立っていた。盾を前に出しながら、彼女をかばっていたが全身の鎧ブスブスと音と立てていた。
「ぐ、ぐぬ・・・ぐっ」
フルフェイスヘルメットからシェーフォードの声が苦悶の声が漏れる。
「ちっ!くそが!くそが!くそがぁぁぁぁ!!!!・・・・・・・・はぁ、はぁ、はぁ」
コーディネイト・アーデル・ラーンブレイズがシェーフォードの影で半狂乱気味になり、目を血走り、美しい端正な顔が醜く歪んでいた。しかし、ひとしきり叫ぶと落ち着きを取り戻しつつも、歯ぎしりし、拳を握りしめ大杖を掲げて術式を構成していた。
「奴隷風情が森を汚した事で蛮神がっ!くそが!」
彼女は転移術を構築し、シェーフォードと共にその場からドラシアルユースへと転移した。勝算はよくて同士討ちだと感じていたが確信を得られなかったのあり、絶対に勝たなければならないという責任が彼女にはあった。
ドラシアルユースの柱の一人であること、蛮神をこのまま報告しないまま、もし討伐できなかった時の事を考えると一度立てなおしてから部隊を編成した方がいいと考えたのだ。プライドが彼女を許せなく心の中では腸が煮えくり返っていたが最悪のケースを避けなければならない。
彼女は冷静ではなかったものの、考えだけはしっかりとしていた。怒りに我を忘れているものの、冒険者として旅をし、様々なことを経験から学んだ経験からの行動だった。
ドラシアルユースに戻ると彼女はすぐさま、蛮神が召喚されたことを報告し、部隊を編成し精霊の森へと向かおうとするのだった。
彼女を守ったシェーフォードは全身鎧で包まれていたとは、決して軽傷ではなくむしろ重傷に近いものであったが、回復術が使えた為、今では無傷だった。
(防壁の術を使わなかったら溶けていたな…なんという恐ろしさだ)
シェーフォードはレッドウォーリアと呼ばれる魔法戦士だった為、攻防一体、そして回復も使えたのだった。そして、一度攻撃を体験し、その威力、射程、発動までの速さなどを考えると容易に近づけない上、対策が極めて困難だと感じていた。
(このままだと皇帝国に攻められてしまうな…)
彼は巨人種族でありながら、コーディネイト・アーデル・ラーンブレイズの奴隷種としてではなく、同じ団員だった。そして、少なからず自分は他の巨人種族とは違うとは思っていなく、たまたま運がよく目をかけてくれていたのを自覚していた。
(なんとか、守りきらないとな…)
神聖マナ樹国ドラシアルユースは精霊の森に出現した蛮神の対処に追われることになった。その発端が巨人種族の外部からの冒険者だというのが何よりも問題になっていった。




