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シャンゴリラガールズ~三姉妹巨女伝~  作者: 犬宰要
風の加護、森に揺蕩う光の風を感じよ
42/62

38-奇襲


 精霊の森には天霊種族、精霊種族、妖精種族と3つの種族が住んでいる。精霊の森と呼ばれているのもあり、精霊種族が多く存在している。妖精種族が転生を行う事で精霊種族にアセンションと呼ばれる特殊な転生によって進化する。天霊種族になるのも精霊種族からアセンションし、進化する。

 妖精種族は滅多に精霊の森から出ず、精霊種族にアセンションした後に森から出て活動する。3つの種族の見た目は変わらない事もあり、妖精種族からアセンションし、精霊種族へ進化しても見た目があまり変わらない事もあり、ひとくくりに精霊種族と呼ばれていたりする。

 もとより、天霊種族があまりにも少なく、精霊種族か妖精種族のみ精霊の森で確認されていた。そして天霊種族は一部の者しか存在しか知られていない情報でもあった。





 船乗りは船を操舵しながら、心の中では巨人種族の奴隷種ごときを乗せるような船ではないのにと思っていた。しかし、それは口に出されることもなく精霊の森に着くことになり、考えを改めさせられる。


 国柄的に他国、他種族を見下しているため、プライドが高い。船の操舵者といえ、エルフ種族で術や武芸も一般的な冒険者レベルと言われている。精霊の森の行き来を今までエルフ種族か有角種族のみにしかしていなかったのもあり普段とは違うものを乗せることは異例だった。

 精霊の森というのは、おいそれと普通の他国の者や冒険者など簡単に踏み入れることが可能な場所ではなかったのだ。


 精霊の森へと近づくに連れて水面から湖の底まで次第に透き通っていき、輝いている魚や丸く光った粒が泳いでいた。光る虫や綺麗な蝶々などもあたりを飛んでおり、さっきまでいた都市内とはまた違った幻想的な風景があった。


 船の上から陸地の方を見るとそこには鹿や馬、兎、リスなど様々な動物もこちらを見ていた。鳥のさえずりなども次第に大きくなっていき、それが段々と調和していき歌のようになっていった。


 次第に様々な生き物の音が連なっていき、歌となり、それが風と共に流れツェリスカとザクロ・リリウムを包んでいった。不可視ではあるが、二人は包まれている感覚だった、ほんのりと温かくじんわりと身体の芯からあたためられていった。

 それは船を操舵しているエルフ種族の男も同じようにあたためられ、今まで体験したことのない出来事を肌身で感じ、気がつけば彼は涙していた。


 ツェリスカとザクロ・リリウムはただ感動して周りを見ながら精霊の森全体から歓迎されている事を肌身で感じていた。

 程なくして精霊の森の入り口に着き、ザレクとマゴクは船の操舵手に言う。

「ご苦労だった、もう戻って良いぞ」

「帰りはこちらから呼びかけに行く」

 エルフ種族の操舵手は頭を下げ、船は戻っていった。


 ザレクとマゴクは森の奥の方へとツェリスカとザクロ・リリウムをいざなう。二人は互いに顔を合わせ、頷き森へと歩んでいった。ザレクとマゴクはその間、一言も喋らずに二人を案内していった。



 ツェリスカとザクロ・リリウムが精霊の森を歩んでいる姿を遠くから見ている者がいた。真紅のローブをまとい、魔法珠と呼ばれる特殊な加工された魔石を先端につけられた漆黒の大杖を持つコーディネイト・アーデル・ラーンブライズがそこにいた。燃えるような赤い瞳が二人を捉えていた、都市内で怪しいと思い後をつけていたのだ。


「閉ざされた精霊の森に、精霊種族を連れて何を企んでいる…?」

 彼女が持つ赤い角からうっすらと火花がチラリと出る。明らかに機嫌が悪く、彼女は巨人種族風情の奴隷種が森を汚していると思っていたからだ。他国のどこの者かもわからない者が精霊種族に案内されて精霊の森に招待されるなんてことは今までの長い歴史の中で一度足りとも無かったのだ。


 コーディネイト・アーデル・ラーンブライズは思う、至極当然にそこにいる害虫以下の存在が精霊の森を汚している事が精霊種族たちを唆し、誑かし、拐したと―


「シェフォード、行きますよ」

 コーデイネイト・アーデル・ラーンブライズは後ろに控えている巨人種族の男に言うとツェリスカとらとザクロ・リリウムが向かっている場所へと向かう。

 彼女に付き添うように歩む巨人種族の男は全身を赤い甲冑で身を包み、巨大な盾と剣を携えていた。

「はい、団長」

 顔もすっぽりとヘルメットで隠され、その表情は見えない。彼は巨人種族ではあるが、奴隷として扱われていなかった。


 彼は彼女の冒険者時代からの仲間であり、盾であり剣でもあった。そして、彼以外の巨人種族は等しく奴隷にしか見えなく、彼は特別であった。


「面倒なやつも一緒ですが聖なる炎で浄化してやればマシになるでしょう」

 コーデイネイト・アーデル・ラーンブライズの顔は残虐で醜悪とまではいかないが、端整な顔立ちで美しく可憐な少女と似つかわしくない笑みをしていた。


 彼女が言う面倒なやつとはザクロ・リリウムのことである。商店街通りで彼女はザクロ・リリウムが何者か知っていた。

 しかし、あの場で騒ぎを起こすことはしないとわかっていたのだ。彼女自身、個人的な恨みをザクロ・リリウムにはないが「不機嫌のザクロ」は名が通った冒険者である。そして、最近彼女が引きこもっていた自宅から出て何かを探しているという噂が耳に入っていたのだ。


「あの古代遺跡を踏破した冒険者…何を探してるのかこれ以上好き勝手にされると厄介なんですよね」


 彼女は舌打ちしながら、大杖に力を込めツェリスカたちに向けて術を放つ準備を行う。膨大な力は外に漏れ出すが彼女は大杖の中に押し込め、漏れ出させず完璧に抑えていた。





 この世界には様々な力が存在し、それは魔力、エーテル、フォース、チャクラ、気、咒力など名称は異なるが一括りに「力」と言われている。

 一括りにされているのは種族ごとに感じ方も違えば死ぬまでそれが何なのかわからないままであったりする為、体系化すらされていないのだ。また、その「力」がなんであれ及ぼす結果が人を殺したり、癒したりなど求める事が行えれば、あとは鍛錬していくだけだったのだ。

 種族ごとに奥義書や研究資料、言伝などは文化によって違いがある。しかし、誰にでも使える魔導具が発見され術士ギルドが出来、発達していったが種族ごとによって術を発動させる「力」が異なっていることしかわからなかったのだ。


 そして、その異なりこそが種族ごとの特有の「力」から生み出される術もあった。


 ツェリスカとザクロ・リリウムの頭上に巨大な火球が突如出現していた。


「なっ?!」

 ザクロ・リリウムは驚いていた、彼女はこの森に入ってから油断はしていなかった。ザレクとマゴクの口調がおかしいのもあり、何かあるのだろうと警戒していたのだ。そして、力の流れと術式の発動が見えなかった事と、頭上に殺気を感じ見上げるとすでに火球が出来上がっていた。


「チッ!」

 ツェリスカは舌打ちする、自分自身の腑抜けっぷりに対して怒りが出ていた。ザレクとマゴクの言動に違和感があったものの、何が起きるかわからない故の警戒心が緩まっていたのだ。どれだけ自分が呆けていたのか、いくら自分の部下とはいえ、今と昔は違う事を忘れていたのだ。

 

 頭上にある火球が瞬時に膨れ上がり、空気が瞬時に焼きついていった。ザクロ・リリウムの眼が焼け、火球から顔を背けるように身体を縮こませた。今まで見たことのない力の塊が彼女の眼に飛び込み、力の流れが彼女の眼を通してダメージを与えていた。

 術式はまだ完全に発動する前に、ツェリスカはザクロ・リリウムが縮こまっていく前に魔導本を展開し、火球そのもの包み込む結界を形成し、術式そのものを発動させる収縮させた。


 ツェリスカはあたりを見渡し、術を放った相手を探した。そして、自分たちを睨み歯ぎしりしている存在が木々の隙間から発見した。

 足元にザクロ・リリウムがうずくまり、眼を抑えながら痙攣をしていた。ツェリスカは即座に跪き、彼女に魔導本を持っていない手で揺すった。しかし痙攣をしたまま、思った反応がなく、焦りが彼女の中にあった。火球そのものが自分や彼女の直撃する前に収縮させ術式そのものを最後まで発動させなかったのに、ザクロ・リリウムが痙攣したままなのだ。


(視覚効果もある術式か?!いや…だったら私にもかかっているはずだ…どういうことだ?)

 ツェリスカは状況を把握しようにも、敵が何体いるのか、ザレクとマゴクがここに呼び寄せたのも、自分たちを「倒す」ためなのか、裏切りの可能性が彼女自身の心に疑惑として湧き上がっていた。

(くそっ…状況がわからない、しかも相手の懐の中―くそっ)


 ざわり


 ツェリスカの身に寒気が走った。さっきまでの歓迎していた森の陽気さが瞬時に下がり、ザワザワと木々が振動していた。寒気がザレクとマゴクの方向から来たため、振り向き術式を瞬時に組み、身を守ろうとした。


「このクソガキャァ…テメェ」

「よくも我が隊長に…殺すッ!!!!」


 ザレクとマゴクからドス黒いオーラが滲み出ており、二人の中心から黒点のようなものが現れていた。


「「我が王、現せよ」」


 最初は小さな黒点が膨れ上がり、人型を形成していき、徐々に色がついていった。ツェリスカには馴染みの深いシャンバラ式兵装を身にまとった兵士がそこに居た。しかし、大きさは彼女よりもタヴォールよりもはるかに大きく、5~6mはあった。

 片手に巨剣を持ち、もう片方の手の上には浮遊する巨大な本を携えていた。大きさこそ違えど、その姿はツェリスカに瓜二つだった。


「…え?」

 ツェリスカの目の前に現れた自分とよく似た姿の「蛮神」に対して、理解が追いついていなかった。明らかに殺意と破壊衝動を持つその「蛮神」はどう見ても自分だったのだ。

「え?」


 ザレクとマゴクは蛮神ツェリスカを召喚したのだった。


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