35-旅立つその日の日常
飛空艇の種類、浮遊石と呼ばれる特殊な鉱石で機体を軽くする飛空艇が主流に成る前は気球型が主流だった。どちらにもメリット・デメリットがあるため空路によっては浮遊石型ではなく、気球型の飛空艇を使うことがある。
両方使ったハイブリッド型の飛空艇もあるが、飛空艇の機体そのものを軽くするのは浮遊石の方が飛空艇そのものを小型化できる力を持っている、しかし、気球型はどうしてもガスを閉じ込めておく袋が機体の重さに比例して大きくなっていくため、飛空艇の大きさにともなって巨大になりやすい、
皇帝国は飛空艇を気球型ではなく浮遊石型に統一されている。また、浮遊石型の飛空艇の技術力と浮遊石の加工技術は抜きん出ている、制空権を掌握しているといっても過言ではないが、それは自国内のことであって他国では思うようにいかない場所が存在している。
◇
ツェリスカは海洋都市メイルブラドォにおいて巨人種族なのか、背の高い人種族なのか見るものによって変わる。理由として挙げられるのは顔立ちが中性的であり凛々しさがある。また着ている服も胸の起伏が分かりづらいのもある。
海洋都市メイルブラドォでは、体が大きい人種や巨人種が珍しくない。また亜人種も少なからずいるのもあり、他の都市と比べて多種多様な種族で溢れている。
そのためか彼女の性別は巨人種族でも背が低い女性なのか、それとも人種族で背が高い男性なのか判別が付きづらかった。だが、巨人種族に中でも背が低い女性は元より絶対数が少ない事から人種族の背が高い男性だと思われるのだ。
さて、そんなツェリスカはアルマ・ローエンシュタインと共に一時的にパーティを組み、モンスター狩りを行っていた。アルマ・ローエンシュタインは弱腰で気が強いわけではないが実力はあった。
足場が雪や氷などで覆われている寒い地方で狩りを行っていたことから、戦闘時での速さは目を見張るものであり、地面すれすれに素早く動き、相手の懐にはいってそのまますれ違いざまに槍で切り刻んだり、背後からブスリと一刺しで倒していた、
今日も二人で海洋都市からそんなに離れていない日帰りで帰ってこれる近辺でモンスターの間引きを行っていた。
海洋都市メイルブラドォ近辺は広大な草原と山から流れてくる川、そして火山大陸であることから大きめな岩が隆起している。ここら一帯のモンスターは繁殖期に入っているためか3m程の大きな牛を剛毛にし攻撃的な角を生やしたジャイアントバッファローが気を高ぶらせて行商などに被害がある。
また狼種のモンスターも定期的に発生していた。狼種は集団で行動することが多いためか、単独で都市間の移動やモンスターの狩りなどを行っていると気がついたら囲まれている事がある。かなり危険なモンスターとして、出歩くのならパーティを組むことを必ず推奨される。
バウンティウルフと呼ばれる集団で行動する狼種のモンスターは単体ではそんなに脅威ではないが、複数に襲われると手も足もなくやられてしまう。個々の戦力は大したことはないのだが、集団での連携は目に見張るものであり、気がついたら鋭いキバで肉をえぐられている事があるのだ。
手足に伸びる爪も革製の鎧だと飛びかかられた時に切り裂かれる。また、素早く油断のならないモンスターであり、初心者から熟練の冒険者でも気を抜いたら危ないと言わている。
「今日は繁殖期に入ったジャイアントバッファロー3匹とバウンティウルフを15匹討伐しよう」
ツェリスカは都市の中心部に近い場所にある術士ギルドや様々なギルドの総合受付本部にある依頼書掲示板を見ながら横にいるアルマ・ローエンシュタインに告げた。
「ちょ、ちょっとツェリスカ!?さ、さすがに二人でそれはやめよう?どっちかにしようよ」
アルマ・ローエンシュタインはカミカミになりながらもツェリスカを止めようとしていた。
「なに、大丈夫だ。これまでのアルマの実力を見るとむしろ生ぬるいと思う」
ツェリスカは彼を信じており、ここ数日一緒にモンスターの討伐などをしていて彼が今までどのような狩りを故郷の地でしてきたのか感じていたのだ。弱気ではあるが、抑える所は抑えて行動し、慢心がなく常に周りの気配と自然の中に気配を溶けこませ行動しているので、むしろ楽勝だろうと思っていた。
「片方だけでも報酬面ではかなり充分だと思うんだけど…」
「いいから行くぞ」
ツェリスカは総合ギルドの受付にモンスター討伐依頼を受注し、最近出現してると噂されている場所へアルマ・ローエンシュタインを引き連れて向かっていった。
熟練の冒険者でも最低でも3人以上はパーティを組み、討伐をするモンスターだったがツェリスカの強さを持ってすれば一人でもどうとでもなるような対象だった。
討伐したモンスターは種類にもよるが、部位が高く売れる事があるため、その部分を剥ぎ取り売るのが主流となっている。特に必要でない場合は、燃やして地面に埋めるなどの処理が必要になってくる。
死体をそのままにしておくと他のモンスターの食料となってしまい、モンスターの繁殖に繋がってしまうからだ。バウンティウルフになるとキバと爪が売れ、ジャイアントバッファローは大味ながらまるまる売れる。
しかし、ジャイアントバッファローに関しては巨体さ故、引取に来てもらわないと運べない重さがあるため、ツェリスカとアルマ・ローエンシュタインは荷馬車を借り、出没している場所へ向かった。
◇
ザクロ・リリウムは、海洋都市メイルブラドォの造園区域に来ていた。
(ツェリスカの姿が見えない…ここにいるってあいつが言っていたのに…)
彼女はタマキ・シラタキからツェリスカは普段、ここにいるという報告を受けていた。そのため、自分の用事が終わりツェリスカと合流して、ドラシアルユースに向かおうと思っていたのだ。だが、肝心のツェリスカの姿が見つからず、しかも、タマキ・シラタキの姿もなかった。
(もしかして、ギルドの依頼とか受けてるのかな…)
時刻は昼下がり、造園区域もこの時間帯になるとわらわらと宿を取らない冒険者達が戻ってくる。ザクロ・リリウムは数刻ほど、造園区域でボーッと過ごしていた。
(こういうのも悪く無いわね)
日陰があるベンチの上で海を眺めていた。造園区域内といえど、彼女のような小人種族がいるのが珍しいため、周りの冒険者たちは彼女を見るが彼女が何者かわかるとすぐに目をそらしていた。
彼女は海洋都市メイルブラドォにおいて「人気者」だ。「不機嫌のザクロ」と異名を持っており、例え半分冒険者を引退して冒険者居住区域と呼ばれる成功した冒険者たちが余生を過ごすとされている場所に引きこもっていようと「人気者」なのだ。
暫くすると獣人種族の男姿の猫種がザクロ・リリウムの近づいていった。
「ザクロ、どうしたんこんな所に?」
彼はタマキ・シラタキ、ザクロ・リリウムがツェリスカを見守るように依頼をしていたのだ。
「ツェリスカは今どこにいるの?準備が出来たから呼びに来たのよ」
彼女はタマキ・シラタキがどんな姿になろうと看破できる目を持っている。そのため、姿形が変わってもタマキ・シラタキだとわかるのだ。また、タマキ・シラタキも自分がどんな姿になろうと騙せないことを知ってる。
「もうすぐ戻ってくると思うよ、わいの任務は終わりってことでいいよな?」
「ん、そうね。また何かあった時によろしく」
ベンチに座ったまま、足をプラプラさせながらザクロ・リリウムは片手を上げる。
「ほんじゃ、いつものように支払いよろしくなーほなな」
タマキ・シラタキは別れの挨拶を済まし、紙の束をザクロ・リリウムに渡すとどこかへふらりと歩いて行った。
ザクロ・リリウムは受け取った紙の束をパラパラとめくりながら書いてある内容を読みながら次第に笑顔になっていった。
(ツェリスカも元気になってきたのか、よかったー)
そこにはぼーっとしてるところにタコに襲われたことから、異臭のあまりに吐いた冒険者のこと、男性だと思われていたことまで詳細にわたって書かれていた。それを読みながらクスクスと笑いながら読み終えると、彼女は火を発生させて燃やした。
◇
「あ、ザクロくん」
ツェリスカがザクロ・リリウムに声をかける。その横にはアルマ・ローエンシュタインがおり、冷や汗をかいていた。アルマ・ローエンシュタインは彼女の異名を知っているからだ。
「あ、戻ってきたわね。さぁ…あれ、アルマじゃん何してんの?」
「お久しぶりです、ザクロさん」
ツェリスカはどうやら二人が知り合いだったことに驚き、二人を交互に見る。
「ちょっといろいろあって、ここで生活をしています」
「ふぅ〜ん、そう…最近元気?」
足をプラプラさせながらアルマ・ローエンシュタインを見ながら首を傾げる。
「ツェリスカのおかげで元気でやれてますよ」
二人は世間話をし、気がついたら半刻ほど経つほど話に花を咲かせていた。
「あ、世間話をするために来たんじゃなかった!ツェリスカ、ドラシアルユースへ行くよ」
ザクロ・リリウムはベンチから立ち上がり、両手を腰に当てながら胸を反らせた。ツェリスカもザクロ・リリウムに会ってドラシアルユースに行くつもりだったので頷く。
「ああ、そうだな」
「じゃあ、僕は行くよ。ツェリスカありがとう、短い間だったけれど楽しかったよ」
アルマ・ローエンシュタインはツェリスカにお礼を言った。
「いや、私の方こそ楽しかった。ありがとう…また会おう」
二人は握手をし、パーティは解散となった。アルマ・ローエンシュタインは手を振りながらその場を去っていった。
「なんか、見てて面白いと思っちゃった」
ザクロ・リリウムは笑顔をツェリスカに向けた。
「さ、行きましょ」
ザクロ・リリウムとツェリスカは飛空艇発着乗り場へと向かった。
◇
アルマ・ローエンシュタイン、昔、ザクロ・リリウムと一緒に古代遺跡を一緒に踏破したメンバーの一人である。彼がツェリスカと出会ったことにより、この後、旧友と出会いパーティ誘われる。
そして、冒険者として討伐や護衛だけではなく、幅広く活動していき、彼自身の本来の生き方を見つけていき、槍の扱いだけではなく工芸品や釣りなども幅広く行う冒険者になるが、それはまた別の物語。




