ZL-01-気まぐれとプライドの女心
メーテルパレッシュ族は小人種族の中でもとびきり希少種であり、他の小人種族とくらべても見た目的な差がない。成長しても140cmで平均的に100cmくらいだ。老化が遅く、長寿族のように若いままでいる。
小人種族と長寿族のハーフとあまり変わらない事から何が希少種と言われるのか、それは眼にある。メーテルパレッシュ族は力の動きを視認でき、仕組みを理解することが出来るのだ。
その眼は高額で取引され、移植すれば同じように力の流れを視認することが出来るのだ。仕組みを理解するかどうかは、移植者次第ではあるが力の流れを見ることが出来る事から人権などない。
◇
ザクロ・リリウムは人間関係のおいて面倒くさがり屋である。基本、誰かを慰めたり、立ち直させたりはしない。そこまでの関係を構築したり、そういった間柄にはならないようにしている。
古代遺跡を踏破した時でさえ、固定のパーティではなく見知ったよく一緒にパーティを組み連中だった。暇だったらちょっと付き合って来てくれという感覚で呼んだだけなのだ。
もちろん、報酬や古代遺跡で手に入るものは分配し、後腐れもないように取り決めもしている。そんな彼女は最初から最後まで固定のパーティを組む事なく、古代遺跡を踏破し名を馳せた冒険者である。
そんな彼女はツェリスカが放心状態だったとしても、海洋都市メイルブラドゥに連れ帰るだけで放置した。いや、タマキ・シラタキに依頼して見守らせたが基本ノータッチなのだ。
(私がとやかく言うものじゃないわ、私は不滅者だし、いずれ…きっと別れることになる。その時までは彼女の意思と選択を尊重したい)
誰かと一緒に旅をし続けるような事がなく、点々としている彼女にとって今回のような出来事はそんな日常の一コマでしかなかったのだ。まあ、それでもタマキ・シラタキに彼女を見守ってもらっているのは彼女なりの心配の仕方だったりする。
そんな彼女はヴァーガ族の都市から持ち帰った物を粉末状にし、炎のエフェクトが出る魔導本に力を注いでいた。
(はぁ〜くっそめんどくさい。制限解除してぇ…)
彼女は自宅の様々な珍しい鉱石や魔導機などある研究部屋にいた。魔導本を音楽などで使われる譜面を立てかけるスタンドに置きながら作業をしていた。
魔導本に片手で手を当てながら、もう片方の手で粉末状になった素材を振りかけていた。振りかけていく度に、本に吸い込まれていった。
メラメラと燃え盛る炎は所有者に対して火傷などの攻撃性はないが、彼女は汗ばんでいた。別段暑いわけではないが、集中力が必要であるため、自然と体力を使っていたのだ。
すり潰された粉末を全て魔導本に吸収させることで強化させているのだが、いくら粉末状になったとはいえ、完成されている魔導本に新たな素材を合成させるのは至難の業である。
しかし、彼女が行っている合成作業はツェリスカが先の白銀のムラサメから出てきた不滅者を屠った時の力を出すような物にならないことを感じていた。
(あのバグチート地味たものが、古代の民…アガルタ時代に置けるシャングリラの真骨頂だとしても現在に出来ないわけがない)
彼女はツェリスカの魔導本がどういう仕組みで術式を構成し、発動させたのか見えていた。そして、最初彼女が浜辺で気を失っていた時に身につけていた濡れない本が奇妙な作りでそれがどういう仕組みなのかわからなかった。
ザクロ・リリウムはその時にその魔導本を開こうとしたり、魔力を通したり、様々な事をしていたが傷をつけることさえ出来なかったのだ。
実際にまともな術を使えない本なのではと疑念があった。しかし、術士ギルドで初めて彼女が初級術を使った時の威力が桁違いだった事に疑念が吹き飛んだ。
絶対にあの魔導本には仕掛けがある、と…
そして、実際にそれを目の前で見る事ができ、どういう仕組みなのか知る事が出来た。彼女は小人種族のメーテルパレッシュ族と言われる自身が持つ特殊な力が成長を妨げ、一定の年齢になると不老になる小人種族と長寿族を掛け合わしたような種族である。
一般では、ただ特殊な眼を持つ希少種族であり、その眼は高値で取引され、三代は遊んで暮らしていける程である。
そんな種族である彼女は魔力制御にも長けており、力の流れからどういった仕組みで動いているのか直感的に理解する程の才能を持っていた。
だが、メーテルパレッシュ族は本来、魔導本などは使わず「魔導弓」と言う術式で形成した矢を使い、決して避けられない矢を扱う種族である。とはいえ、魔導弓そのものは広く一般的に魔力が高く、素養がある者が扱う武具であるため一概に使っているからといってメーテルパレッシュ族というわけでもない。
でも彼女は落ちこぼれで弓はまともに扱えず、当たるには当たるのだが普通弓と大差ないのもあり、彼女は魔導本を手にとったというわけだった。本人曰く、逃げたわけじゃない…暇な時に練習してるし、との事である。
さて、彼女の眼がツェリスカの持つ魔導本の力の流れを見る事で自分にも再現が可能だと直感的に感じ取ったのだ。
(魔導本一つだけだと、今私が持っているのだと無理だわ…本そのものが耐え切れなくなって塵になる。となると―)
魔導本は開いた状態で術式を展開させ、魔法陣を形成させるとそこから術が発動する。しかし、ツェリスカの術は一度魔法陣を形成させ、本を閉じる事で本内部に術を発動させ、魔導本そのものに術式をブーストさせる円環式の術が組み込まれており、それが瞬時に構築させ莫大なエネルギーへと昇華させる。そして、対象に対して術式を展開させる魔道具なのだ。
ザクロ・リリウムは、その仕組を一つの魔導本ではなく、二つの魔導本を使うことで実現させるつもりなのだ。
(今できるのは、全く別の二つの魔導本同士に通路をつくり、その間に自分が入って制御することで実現可能のはず)
力の流れをより円滑にする為に、湯煙都市ラオダーワでもらった高純度の鉱石を使って同じ素材同士の力の伝達を利用していたのだ。手に入れた後に、ツェリスカの魔導本の仕組みを知ることが出来、運がよかったと彼女自身感じていた。
不滅者である彼女は、制限解除を行えばツェリスカが持つ魔導本に似たものを作成可能だ。しかし、彼女のプライドがそれをしないし、そもそも制限解除したいと思っても本気でしたいとは思わなかった。
彼女は運悪いのか良いのか、不滅者としてスタートした人生は、他の不滅者と違いメーテルパレッシュ族だったことだった。
特殊な眼を持つがそれに応じたリスクがある中で生活する事の楽しさやめんどくささが彼女の性にあっていたのだ。
数日かけて、二つの魔導本に粉末状になった高純度の鉱石を合成させ、ツェリスカの魔導本に似た術式を形成させることが出来るようになっていた。もちろん、その間、タマキ・シラタキからツェリスカの動向を毎日聞いていたのは言うまでもない。
そして、彼女が完成させた見た目は全く変わらない魔導本を一冊だけではなく二冊同時に持ち、海洋都市メイルブラドォへと向かった。
(ツェリスカ、準備は出来たわ!ドラシアルユースへ行くわよ!)
彼女はツェリスカのルーツも気になっていたが、天霊種であるザレクとマゴクに対して興味津々であった。もちろん、ツェリスカの事を少なからず心配をしているが心のどこかではきっと大丈夫という思いがあったのだ。




