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シャンゴリラガールズ~三姉妹巨女伝~  作者: 犬宰要
風の加護、森に揺蕩う光の風を感じよ
36/62

33-気弱な槍使い

 メイルブラドォの造園区域と言われる場所がある。そこは芝生が生い茂る公園があり、宿を取る金がない冒険者が野宿をしている。季節的に野宿可能な時はここでキャンプを許されている場所でもある。冬は凍死した冒険者がいた為、野宿禁止となっている。ゴミや糞尿、他の冒険者とのトラブルがあった場合は厳しい罰則が課せられる。見つからなければいいと思っておこなう冒険者もいるがギルドカードにしっかりと記載される。またセーブポイント圏内にあるのもあり、都市防衛機能から衛兵がやってくる。

 バーベキュー場や水飲み場やあり程度、野宿しやすいようになってはいる。また屋店などもあったりもする。

 

 そして、この区域には何か訳ありの冒険者が滞在している事が多い。



「今日もたくさん釣れるかにゃー」

 タマキ・シラタキが獣人族の猫族の男姿として釣りをしていた。彼はドッペルゲンガー種として身体を自由自在に変える事が出来る。語尾がにゃーなどと言っているが種族固有の癖ではなく、遊びで使っているだけだった。


 メイルブラドォ都市内での釣り行為は指定された場所以外は禁止されているが、ここの造園区域は釣りが可能となっている。


 そして、タマキ・シラタキの近くで槍を持ち、そこから糸を垂らし一緒に釣りをしている獣人族の犬族の男がいた。

「今晩の夕飯…ううっ」

 彼の名前はアルマ・ローエンシュタイン、気弱な槍使いであり、野良犬と言われている青年である。見た目は人種に犬耳と尻尾を生やし、綺麗な灰色の毛を持っている。だが、今は綺麗とはいえないほど、薄汚れており、路地裏にいそうな薄汚れた毛並みをしていた。


 そんな彼は涙目になりながら釣りをしていた。


 そして、その近くに死んだ目をしたツェリスカがぼーっとしている。


 宿すらとる思考すらなく、光合成でもするかのように日々ぼーっとしていた。ザクロ・リリウムはヴァーガ族から貰ったものを使って何か作るので数日は待ってほしいと言われた為、彼女は待機していた。少なからず、ツェリスカは考える時間が欲しかったので丁度良かった。


 だが、何も答えが浮かばなかった。


 海を眺め1日が終わる。ベンチで横になり、朝になったら座り海を眺める。気付くと周りに元気出せよと食べ物を置かれたりしていた。そして、公衆浴場にすらいっていない為、どぎつい臭いを醸しだしていた。


 時折、術士ギルドの職員から心配され、ツェリスカは何か聞かれるも上の空だった。


(ザクロからツェリスカのこと見ておいてと言われたけど、わいも忙しいんだけどなぁ…しかし、何があったのか詳しく知らんけど魂抜けかけてるな…)

 タマキ・シラタキはツェリスカに気づかれないように彼女を見守っていた。ツェリスカと初めて会った時は小人種族だったが、ちょっとしか会話していない。その時はザクロ・リリウムが心配して見守ってもらっていたのだ。そして、今回も同じように依頼されてタマキ・シラタキは見守っているのだが、異臭のこともあり離れている。


「はぁ…」

 ツェリスカは変わらず、一定の感覚でため息をついていた。


「フィーッシュ!!!!」

 ため息をかき消すようにタマキ・シラタキは魚を釣る。最近、魚釣りをはじめてから彼はため息のタイミングに合わせて釣るようにしていた。

(よぉぉし…もうこの釣り場は私の庭だな)

 ドヤ顔をしながら魚を釣っていった。ツェリスカのため息がタマキ・シラタキにストレスになっていたのだ。


「か、かかった!!!!」

 アルマ・ローエンシュタインもタマキ・シラタキが釣り上げたすぐ後に何かを釣り上げていた。


 その日のご飯が釣り糸にかかった事で思いっきり引き上げ、彼はやったーという笑顔の共にべちょりと音を鳴らした何かがツェリスカの顔にへばりついた。


 それは軟体生物であり触手を持つタコがうねうねとべっとりとついていた。


「あ、はは・・・あ・・・」

 さっきと打って変わって蒼白な顔になっていた…この時、アルマ・ローエンシュタインは死んだと思った。ここ最近、造園区域に気味悪い冒険者がぼーっと海を見て過ごしていて、ギルドに注意されていると噂されていた。

 そんな相手に事故とはいえ、釣ったタコをぶつけてしまったのだ。間違いなくヤバイとアルマ・ローエンシュタインは思い、殺されるまで想像したのだ。


 一方、タマキ・シラタキは思わず吹き出しそうになっていた。いや、すでに心の中では笑っていた。

(あーっはっはっはっはっは!!!!タコが!タコナイス!!!!!)


 汗臭さが磯臭さと入り混じり、海水に濡れたツェリスカの異臭はなんとも言えないような存在感を醸し出しながら微動だにしていなかった。タコの触手がうねうねしながらツェリスカの頭をべっちょりべっちょりと絡みながら、触手が頭をペシペシと叩いていた。


 ツェリスカは頭にひっついてるタコを掴み、引き剥がそうとするが吸盤がひっついているため、取れなかった。

 両手で取ろうとするも、取れなく、取れたと思ったツェリスカは体制を崩してベンチから転げ落ちる。


「むぐぅ~むぐぅ~」

 彼女は情けない声を出しながら転げまわっていた。


(蛮神やら不滅者(プレイヤー)を屠ってきた者がタコ相手に転げまわってるのは最高にシュールだな、あーっはっはっはっ)

 タマキ・シラタキは遠目から笑いを堪えながら見ていたのだが、心の中では爆笑していたのだ。


「あわわっあわわっ」

 アルマ・ローエンシュタインはあたふたし、どうしたものかとその場で右往左往するだけだった。このままだと自分は殺されることしか頭になく、混乱していた。


「ふぉおおおおお!!!!」

 一方、ツェリスカは叫びながらも全く引き剥がせなく、両手で引き剥がそうにも剥がせなかった。ここずっとまともに食事もせず、ぼーっと過ごしたていたのもあり衰弱状態だったのだ。


(面白いからもうちょっと見ておこう…死にはしないだろうし)

 タマキ・シラタキは薄情だった。


「せいやぁぁぁ」

 アルマ・ローエンシュタインは持っている槍を短く持ち、ツェリスカの頭にへばりついているタコにトドメをさした。

 このままだと間違いなく自分は殺されるのならば、せめてタコを除去し、謝ろうと決めたのだった。



「はぁ・・・はぁ・・・(し、死ぬかと思った)」

 まさかツェリスカ自身、ここまで衰弱しているとは思ってなかった。妹であるタヴォールに言われた事が胸に突き刺さっていたのだ。

 今まで自分がいた昔と比べ、時代はかわって平和になっていた。見渡す限りの荒野と戦場があるわけでもなく、強い種族しか生き残れないような環境下でもない。汚染された雨も土もなく、青い空、様々な種族が入り混じり、モンスターという脅威があるものの都市内で生活する上では安全がある程度保証されている。


 不滅者の影がチラホラと見えるものの、自分たちがいた時代に比べてぬるかった。


 彼女はずっと胸の中にもやもやがあり、今までチラリと出会ったような新種の蛮神や白銀のムラサメの中にいた不滅者たちが、あの程度の力で世界をどうにかするとは思えなかったのだ。


「あわわ、ごめんなさい!大丈夫でしたか?!」

 声がする方に目を向けると、獣耳を生やしたアルマ・ローエンシュタインが不安そうにツェリスカを見ていた。


「お兄さん、大丈夫でしたか?」

 お兄さん…私は一応外見上女なんだが…とツェリスカは思っていた。


「君は…?」

 

「僕はアルマ・ローエンシュタイン、冒険者なんだ」

 アルマ・ローエンシュタインはにこやかに、ツェリスカに殺意がないことを知り、にこやかに挨拶をした。

 獣人族の犬族である彼の鼻は他種族に比べ嗅覚が優れている。さっきまで彼はあたふたし、異臭はしていたものの、自身も臭いことをわかっていた。しかし、落ち着つきツェリスカの異臭がつんめくように彼の鼻に入っていった。


 アルマ・ローエンシュタインはにこやかに決めた挨拶の後、即座に海の方に走って行き盛大に嘔吐した。

「おええええええええええ」


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