32-今と昔は違う
妖精種族、小人種族に分類されることがあるが体積に比べ魔力量の多さと魔力の塊に近い為、別とされている。
また、妖精と言ってもランクがあり、精霊級、天霊級と上がっていく程、保有している魔力の量も異なってくる。
人種や亜人種を助ける事もあり、契約を結び行動を共にしたりもする。姿形は様々であり、基本は小人種族の手のひらに乗るくらいの大きさである。
しかし、人種と変わらない大きさ妖精もいる。
◇
「ちょっとさー、どこに行ってたの?もうン千万年だか見なかったけどさー」
「あー、わかる!それ!それなー!何してたの?ていうかー全く老けてない!ビックリドッキリー!」
アイオーン・ザレクとマゴクはツェリスカの顔をバシバシ叩いたり、胸を触ったりしていた。
タヴォールとザクロ・リリウム、ン・パワゴ、そして他の人たちは言葉を失っていた。
ツェリスカは面倒になり、帰還させようと魔導本に手を伸ばそうとする。
「やめて!返さないでーちょっと大事な用があるのよ!」
「そうそう、私たちさ妖精じゃなくて天霊になったのよ」
いつ間にか二匹は妖精ではなく、天霊になっていた。
「進化するものなのか?」
「永く生きていくうちに転生を繰り返したのよ」
「幻界で修行しまくって、力をつける度にこの世界にふらりとツェリスカたちを探しに来たんだけど…」
「なんかよくわからないんだけど、私たちその度に崇め奉られてて大変なのよ」
「あいつらマジキモい」
「マジキショ」
ツェリスカはげんなりした様子で二匹の天霊に聞く。
「二匹とも、あいつらって?」
「ちょっとー!私たちを虫扱いしないでよー!匹ってなに?そりゃないよ〜」
「この羽?この羽のせいなの?うええ〜〜〜ん」
マゴクが泣き叫びはじめ、ツェリスカは心底面倒な表情をする。
タヴォールの戦斧を取り戻す際に、蛮神と戦った時に召喚した妖精だ。戦闘状況下ということで発言をしなかったが、今は戦闘中ではないので喋り捲る。それこそ、妖精種族に対してのイメージを覆すような言葉使いと仕草は周りに度肝を抜いていた。本来、神秘的な森の中で他種族と関わりがほとんどなく自然の中でひっそりといるとされている。そもそも森に入ってもまず会えない、住んでいる次元が違うため、そこにはいるがそこにはいないと言われている。
そして、その見た目の美しさや神秘さから―
「聞いて聞いてよドラシアルユースの発展途上の蛮族が治めるツノ生えたクソババアと耳長族の潔癖うんこなんだけどさ」
ザレクが下品な言葉を言い放ち、さらに場の雰囲気が冷めていった。しかも、ドラシアルユースといえば、精霊とマナの樹の国と呼ばれる王制の大国である。そして、妖精種族が多く住んでおり、精霊の加護とマナの樹によって繁栄し、武芸にも秀でた都市国家である。
「あ、それより会いたかったよ〜!!」
「私もだよぉ〜!!」
泣き叫んでいたマゴクは泣き止み、ザレクと一緒にツェリスカの顔と胸に再度飛び込んだ。
ツェリスカは鬱陶しそうに引き離しながらため息をする。戦闘時だと頼りになるが戦闘が終わったら即座に帰還させないとやかましいのだ。
召喚させない限り出てこないはずなのだが…
「それで用事があるんじゃないのか?」
こちらが主導権を握らないと話が進まないことをはっきりと感じたのと周りの目が集まりすぎてきてて、何とも居心地が悪かったのだ。
ザレクとマゴクはツェリスカに用事はなんだと聞かれてキョトンとする。
「なんだっけ?」
「なんだったっけ?」
青筋を額に浮かべながら、ヒクヒクと口元が揺れながら怒りを抑えているツェリスカは周りを萎縮させる程のものだった。
「あっ!私たちのところに来てくれたら思い出すかもかも!」
「かんげー!かんげー!」
魔導本を手に取り、ツェリスカはザレクとマゴクを強制帰還させた。
帰還させられる前に彼女たちの叫び声は残響していった。
「ね、ねぇ…ツェリスカ、さっきドラシアルユースって言っていたけど…」
ザクロ・リリウムは白目剥きながら口元をヒクヒクして言葉を辛うじて紡いでいた。
「ツェリ姉、多分…いやきっと全然大丈夫だとは思いはするんだけど、見に行った方がいいんじゃないか?そのドラシアルユースというところに」
ツェリスカは妹であるタヴォールの方を向くと瞬時に彼女の言葉を続けた。それはツェリスカが何か言おうとする前にだ。
「あ、私は行かないよ?占いで大凶の星が出てるしね。いやーほんとは一緒に行きたかったー残念残念」
ギロリと睨み、お前も一緒に行くんだよと有無を言わせないようにするツェリスカに対して目を背ける。
「絶対に嫌よ。占いの結果もよくないし、ツェリ姉さんがほったらかしにしてんだし、自分で行けばいいと思うよ」
タヴォールは珍しくも姉であるツェリスカに対して、たてついていた。今まで戦場という場において、相手に対して勝算があるとはいえ、一人で戦うという選択肢をした姉に怒りがあった。
(相手はまさか不滅者だった、もしも油断したままだったら死んでいたかもしれない。そして戦闘の後に気を失ったし、どうしてツェリ姉さんは…もう昔とは違うのに)
そう今と昔は時代が違う、不滅者たちが理不尽に彼女たちを駒のように扱うような時代ではないのだ。
「タヴォール、どういうことだ?」
ツェリスカは立ち上がり、場の雰囲気がいっきに悪くなる。
「ここじゃなんだし、ちょっとあっちで話そう」
タヴォールが場の雰囲気が変わったことと、空気を読み、部屋を出る。
廊下を出るとツェリスカはタヴォールの胸を掴みかかる。タヴォールとの身長があり、ツェリスカよりもはるかに身体が近接向き体格であるため微動だにしない。そんなタヴォールは姉を見下す形になる。
「ツェリ姉さん、痛いから離して」
「お前な…我々は何のために造られた。言ってみろ」
「不滅者を討伐して世界を取り戻す」
「そうだ―」
タヴォールはツェリスカに掴みかかれた腕を強引にはねのけ、見下しながら言う。
「でもそれは昔、今の時代は違う。それに自分の妖精…今は天霊だったっけ…ちゃんと行って、見て、聞いて、感じてきた方がいいと思う」
「!?」
「ツェリ姉さん、私は自分が造られた経緯はわかってる。わかっているからこそ、確かめたい事があるの、今のこの時代に本当に私達は必要なのか…私の天球儀で未来に来てしまった。
勝手だと思うかもしれないけれど、私は確かめたいの…未来に来る前のあの時、もしもあのままだったら、どうなっていたのか…
私はそれを確かめたいの、私があの時したことは正しかったのか、間違っていたのかを」
タヴォールははっきりと姉に言う。
ツェリスカは何を言っているのか、理解が追いついていなかった。
「じゃ、ツェリ姉さん。私は行くわ…これから行く先についてはザクロも知ってるから」
廊下にポツンと取り残され、ツェリスカはただ立ちすくんだままだった。
気が付くと壁に頭をつけ、ぼーっとしている中でザクロ・リリウムが心配そうに裾を引っ張っていた。
「ツェリスカ、だいじょうぶ?」
タヴォールはン・パワゴと直した飛空艇で浮遊島に向かった事をザクロ・リリウムから聞かされたが、現実を受け入れられなかった。ツェリスカはその後、海洋国家メイルブラドォに戻ったがどうやって戻ったのかさえうろ覚えだった。
ザクロ・リリウムは一旦、自宅に戻っている間、彼女はメイルブラドォで数日魂が抜けたように過ごしていた。




