31-予兆
巨人種族、世界的に人口が二番目に少ない。強靭な身体、莫大な魔力と膂力、そして自然回復力を持つ種族。ただ、他の種族と比較した場合、器用ではないがそれは微々なものである。
大きさは低くくても180cmあり、大きくて270cmの高さがある。神族の生き残りと言われているが他種族、特に小人種族からは奴隷のように扱われていることが多い。奴隷として扱われていた事が長かった部族は気性が激しいものが多い。
しかし、根は優しく、しきたりを重んじ、他種族であっても親身になって助ける種族性を持っている。その種族性を利用し、奴隷化をさせた事もあって他種族に対して心を開く事が臆病になっている部族もある。
◇
ツェリスカが一対一で倒した様子は他のヴァーガ族や冒険者が見ていた。決着がついた後に喝采が沸き起こり、ツェリスカはそれに応えるように持っていた魔導本を掲げた。そして、更に喝采が大きく渓谷に響き渡った。
彼女の中には大きな達成感があった。
(ちゃんと、対不滅者用に開発された術が有効だった。私は戦える…)
この時代に飛ばされるまでの彼女は不滅者に勝利したことはなかった。しかし、今回はじめて不滅者と対峙し、倒すことが出来たことで自信がついたのだ。
(いったいどれほどの不滅者がいるのか…今回は蛮神ではなかったが何かおかしい)
戦闘が終わったばかりではあるが、彼女はすでにモヤモヤとした言い寄れぬ気持ち悪さが胸に抱いていた。それが彼女の持つ、ベヨネットハンドガンの黒い刀身からもたらしているものだとは知るよしもなかった。
◇
ザクロ・リリウムとン・パワゴは不滅者が制限解除後にツェリスカの術によってこの世界からいなくなった事を見せつけられた。
(最初に話を聞いてた時はありえないと思っていたけれど…彼女ははるか昔、この世界で戦っていたのよ。不滅者から世界を取り戻す為に…アガルタ時代だから本当の初期の頃よ)
(それにしてもあの強さ、武器に術…いくらなんでもおかしいだろ)
二人はツェリスカの強さに脅威を感じていた。不滅者は死ぬことはないが、肉体的には死ぬことはある。そしてこの世界では瞬時にセーブポイントに戻り復活する。
だが、肉体であるアルビノ種のヴァーガはそこにいる状態で不滅者のみ掻き消えたのだ。
(過去に何があったのか…調べる必要がありそうね。それに―)
(心配なのか?)
(当たり前じゃない、このままだと彼女は魔王になってしまう…そんな気がするの)
ザクロ・リリウムは不滅者であるが、彼女のいた時代からいる不滅者ではない。だからといって、同じじゃないと言っても通じるわけじゃない、わかるわけがない。
彼女にとっては自分たちが住んでいる世界に侵略…いや、もっとたちの悪く好き勝手に遊びに来ている者なのだ。そんなの許せずはずがない、彼女にとって今まで戦ってきた中で仲間を失っているのだ。
私は…その頃の彼女のことを知らない…
(ねえ、パワゴ…アガルタ時代の浮遊大陸、最近発見されたんだよね)
(あん?なんだ突然?ああ、発見されたが…場所がわからんぞ)
(そこに行こう…私は彼女のルーツを知りたい)
(未踏の地でどこにあるのかさえ、どうやって行くのかさえわからないのにか?)
ザクロ・リリウムはン・パワゴの方を向き、頷く。それに対してン・パワゴはニンマリと笑みを浮かべ、頷いた。
結界が解かれ、タヴォールがツェリスカの方に走り寄っていく、白銀のムラサメはズタボロになっており、モノ言わぬただの白銀の塊になっていた。その近くに倒れているアルビノ種のヴァーガにコヤットが駆け寄っていった。コヤットは警戒しながら、アルビノ種のヴァーガが生きているのかどうか確かめていた。
「大丈夫だ、生きているはずだ」
ツェリスカは本をしまい、コヤットの横にひざまずいて告げた。
「私が倒したのは、こいつに取り憑いていた奴だけだ、安心しろ」
「あ、ありがとうございます」
コヤットは涙を流しながら礼をツェリスカに言った。ツェリスカは慈愛に満ちた笑顔をし、コヤットの頭を撫でる。
「ツェリ姉さん!そいつが取り憑かれていたって知っていたの?!」
「いや、知らなかった…途中まではな。ただ、こいつから身体が出てきた時に感じただけだ」
タヴォールは姉のことをすごいと感じていた。しかし、一方で彼女が持つベヨネットハンドガンから発せられた奇妙な違和感に不安を持っていた。
(ツェリ姉さんのさっきの戦闘…おかしかった。ベヨネットハンドガンであの斬撃は本来受け切れない…この前だって斬っていた…あのベヨネットハンドガンは何かおかしい)
タヴォールは天球儀を使って、彼女が持つベヨネットハンドガンを解析しようと思った。
「ツェリ姉さん、さっきの戦闘でこいつの攻撃をガードした衝撃でベヨネットハンドガンが故障してないか調べておくよ」
タヴォールはツェリスカに怪しまれずに自然と彼女の武器をメンテナンスを申し出た。
「ん、ああ…そうだな、私自身にも頼む。今思い出してみれば―」
ツェリスカは目の前がかすみ、頭痛が襲った。
◇
気が付くと、星の海の中に漂っていた。
「またここか…」
近くにはタヴォールの姿があり、眠っているような感じだった。遠くにはダネルダネルの姿がぼんやりと見え、巨大なモンスターと戦っていた。
「ダネルダネル…」
ツェリスカは妹が元気そうに生きているのが感じ取り、自然と笑顔になった。
「よかった元気そうに―」
ダネルダネルが討伐したモンスターを掻っ捌いて、食べている姿が映しだされ思わず呆気をとられてしまう。
「あれは本当にダネルダネルか…?」
―みは…
―に―む?
キーンと頭痛がし、耳鳴りのように何かがノイズが走り、何かがツェリスカに聞こえた。はっきりと聞こえず、それが何を言っているのか聞こえなかった。
何を言っているのか耳をすまそうとしようとすると意識が遠くなっていった。
気がついて目を覚ますと木目の天井に、布団の上に寝かされていた。ゆっくりと左右を見るとタヴォール、ザクロ・リリウムの姿を見つける。
彼女たちが何か言っているがツェリスカは意識がまだはっきりしておらず二人が何か言っているのが上手く聞こえてなかった。しかし、覚醒していくにつれて心配していたことがわかり、彼女は謝る。
「心配かけた、すまなかった」
「全く、また倒れるなんて…」
「ツェリ姉さん…」
ザクロ・リリウムの眉がつり上がっており、頬を膨らましていた。思わず可愛いなと思い、フフッと笑みをこぼしてしまう。
タヴォールは困ったような顔をしつつも、安堵したのかため息をついた。
その後、タヴォールから事後報告を受ける。アルビノ種のヴァーガは意識を取り戻し、誰かに操られていたという。神降ろしという儀式で神子として自分が選ばれて乗っ取られ、様々な兵器や白銀のムラサメといったものを造ったという。
そして、少しずつ侵食されていく中でその者が自分たちの望んだような者ではなく、国盗りや戦争を望んでいる者だったことにふるえていたのだという。何もできない自分にただ嘆き苦しんでいたのだという。
コヤットとアルビノ種のヴァーガがどうやら幼なじみでもあり、二人は一緒にいるらしい。どうやらヴァーガ族でもいろいろあるらしく、ヴァーガ族の本山とこの都市との関係も元を正せばアルビノ種のヴァーガがおかしくなってから他の都市ともおかしくなっていたとのことだった。時間が必要にはなるが、自然とヴァーガ族全体が足並みを揃えていくだろうと市長は言う。
「ツェリ姉さん、どうする?」
「どうもしないさ、ヴァーガ族にはこれ以上かかわらなくてもいいだろう」
「じゃあ、これからどうする?」
魔導本がカタカタと動き、宙に浮き、本が開かれる。
ツェリスカはいったい何が起きたのかとびっくりし、タヴォールも目を見開いた。
すると、魔法陣が浮かび上がりアイオーン・ザレクとマゴクが召喚された。
「やっと来れた!!!」
「話したいことたっくさんあるんだからね!」
「この前、すぐに帰還させてさ!待ってって言おうとしたのに!!!」
「ちょっと聞いてよ!!!」
7枚羽の妖精の羽を持つ二匹はかしましく、ツェリスカに顔の近くで騒ぐのだった。




