DD-03-古龍ゲオルシャウラン
竜、龍、ドラゴン、種族として最強と言われている。永く生き、寿命というのが存在するのかさえ観測がされていない。絶対的強者、生物の頂点として君臨し続けていることもあり、人は神と崇める者もいる。何者も立ち向かう事も倒すことも出来ないと言われるほどの存在でもあった。
また長く生きている個体は知識を持ち、人と交流を持っていた記録されてはいるがこの時代では神話、伝説、お伽話とされており、今ではそのただの敵対関係に近い存在となっている。
◇
「あれ、絶対美味しくないダネ」
ダネルダネルたちは摩天楼の岩場と呼ばれている場所に来ていた。古文書によればこの場所は不眠廃都市ニューヨークと呼ばれていた。そこは誰も人は住んでおらず、人がそこに住んでいたがどんな人が住んでいたのか、今は知る由もない。
その都市の中で崩れている建造物の上で寝ている巨大な蛇型の龍がいた、とぐろを巻きこの都市の主でもある。名前は古龍ゲオルシャウラン、古龍種であり、人が倒せない領域の強さを持つ。
鋭利な剣がいくつも岩のように突起した鱗を身にまとっており、動くことで建造物が崩れ、戦闘行為があると地形が変わる。通った後はヤスリがかけられたような後になり、そこは砂が後に残る。
「大事な事だからもう一度言うダネ…あれ絶対美味しくないダネ」
ダネルダネルは旨いか不味いか、まずそこがやる気の根源になっていた。今回のギルドからの依頼は生態調査だ、出来る限り近寄って古龍ゲオルシャウランを観測するだけの任務だったのだ。
下手に近寄ると死ぬレベルであり、今まで古龍ゲオルシャウランの怒りに触れたものはいなかったが寝返りだけで死亡した例がある。また鱗は硬く、簡単に欠片すら採れるわけでもないが脱皮を行った後であれば持ち帰る事ができるとされている。
だが、脱皮をするタイミングが数百年に一度あるか、ないかと記録に残っている程度でそれがいつなのか、どんな予兆があるのかさえ不明であるため、度々こうやって調査依頼が信頼あるカリュウドに対してのみ指名で依頼されていた。
ダネルダネルの部隊は指名されて調査依頼に来ているのだが、ダネルダネルだけ「討伐」するものだと思っていた。面倒なことは他の隊員に任せ、狩る、食べる、寝るといった行為しかしていなかった。
「隊長、今回は戦いませんし、あれは倒すとかそういうレベルのものではありません」
ダネルダネルは発言した兵士の方を向き、両手で頭を抱え、ここに何しに来たのか理解していなかった。
「え、何しにここに来たダネ?」
兵士の3人はやはりわかってなかったかという表情をしながら、今回の依頼内容を説明し、ダネルダネルはようやく理解した。
「本当にアレ、倒せないダネ?」
「「「倒せません」」」
しかし、もしかしたら倒してしまうのではないかという思いがあった。だが、現物を見てさすがにアレは無理だろうという結論になっていた。
当のダネルダネルはあのくらいの大きさは確かに巨体ではあるが脅威には感じてはいなかった。食欲による判断力低下とギルドからの情報が今まであてになった事などなかったからだ。
単純にダネルダネルが強すぎて、狩ってきたモンスターが避けるようになったようにまでなっていたのだ。
何度討伐するモンスターを探すために何週間も彷徨い、本来なら人の気配につられているやってくるはずのモンスターが逆に避けている事に気付くまで数週間かかったりした。
その後、気配、臭い、視覚面を徹底して狩場と言われるエリアに入る前から逃げられないように擬装するようになっていた。
「今回はいつもよりも気を使わないから久々の大物だと思ったダネ…なのに…」
項垂れながらブツブツとダネルダネルは嘆いていた。
兵士の一人は地図と双眼鏡を見て、どの場所を観測地点にするのか考えていた。
他の二人は野営の準備と飯の準備をしていた。
「ちょっと私一人でそのへんを偵察してくるダネ」
数時間後、ダネルダネルが古龍ゲオルシャウランと戦っている姿が兵士たちに確認され、助けに行くが到着する頃には戦闘は終わっていた。
「どういうことダネ?何謝ってるダネ?弱肉強食がここのルールダネ!負けを認めたのなら大人しく食われるダネ」
「噂は予々、お聞きしております。どうかそれだけは勘弁して頂けませんか?お願いします、本当にすみません」
古龍ゲオルシャウランはぐったりとしてはいるが、声はハッキリとしていた。そして、アゴ裏の喉仏のような出っ張りがある上にダネルダネルは立っていた。
「私、お前食うダネ。それは変わらないダネ」
その場で地団駄踏み込む、その度にビクンビクンと古龍ゲオルシャウランは身を震わせていた。そこは逆鱗と呼ばれる急所であり、ダネルダネルは知っていてやっているのだ。
古龍ゲオルシャウランは涙目になっていた。到着した兵士たちは、目の前で起きている事を受け入れることが出来なかった。
モンスターたちは噂していた。近寄るな、見つかるな、もし見つかったら全身隅々まで食われると…そして、古龍と言われる上位の中でも上位にですら「場合によっては逃げる事を視野に入れろ」と言われていた。
だが、プライドが高く逃げるという選択肢を持たなかった。そこまで強いわけがない、ありえないと思われていた。そして、今その考えは覆され、逆鱗を踏まれていたのだ。
「こ、こうしよう!我の一番旨いとされる場所を差し出そう!その昔、我と人と契約があった時に取り決めがあってな―」
「ごちゃごちゃうるさいダネ」
「全身くまなく食べるよりも人が一番美味だと言っていた場所を差し出そう!そっちの方がいいだろう?」
兵士たちは、呆気を取られていたが正気を取り戻しチャンスだと思った。
「隊長!隊長!待ってください!!!」
大きく手を振りながらダネルダネル慌てていた。
「話を聞きましょう!」
「そうです隊長!この大きさだと食べている途中で腐ってしまいますよ!だから落ち着いてください!!!」
三人は一様に隊長であるダネルダネルを止めに入っていた。この際、古龍ゲオルシャウランに無礼があろうと知ったことではない。倒して素材となる外殻など剥いだりすればそれはそれで手柄になるが、差し出すと言っている。
失われたとされる交流が復活するとなると、調査任務として成功する。また、情報を聞き出す事が可能であり、その情報を皇帝国に持ち帰る事も出来る。
「うっるさいダネー!」
ダンダンッ!と古龍ゲオルシャウランの逆鱗を足踏みする。その度にビクンビクンと胴を揺らし、涙が流れていた。そして、地響きと共に建造物が倒壊していった。
それでも古龍ゲオルシャウランはうめき声を上げなかった。声を荒げるとダネルダネルの機嫌を損ねるのと逆鱗を抑えられてるので下手を出来なかったのだ。
「こ、こうしよう!全身くまなく差し出そう!ただ、身体が回復してからというのはどうだ?そうすれば新鮮食べれる!さすがに心臓や脳は厳しいが…どうだろうか?な?」
「隊長!そうしましょう!大丈夫です!すぐに調理できます!お願いします!隊長ぉぉぉ!!!!」
兵士からの説得により、ダネルダネルは渋々と了承をして、その日は古龍ゲオルシャウランの背骨まわりのスロリップロインの部位を食べることになった。背の部分には固く鋭い鋼鉄の巨大な剣で覆われており、その下の固い皮に覆われた下にある肉だ。固い外殻と皮に覆われているが、身をよじり、その隙間をあかせて採れるようにしたのだ。
古龍と人が協力関係にないと取れない部分であり、討伐後では巨体さや外殻や皮の硬さもあり食べれる頃には硬くなっており美味しさもなくなっているのだ。
「んむ…んむ…」
ダネルダネルは軽く炙ったストリップロインを一心不乱に食べていた。他の兵士たちも同じように食べていた。その日から全箇所食べるまで、古龍ゲオルシャウランとの生活が始まったのだった。
それは一方的な捕食生活に近いものだったが、皇帝国としては古龍ゲオルシャウランから昔の話などを聞くことが出来た為、有意義な期間となっていった。また古龍ゲオルシャウランもまさか自分よりも強い人に出会い、更にまだ「本気」ではない事を知り自身の驕りと小ささを感じていたのだった。
本音の所は生物としての本能、死にたくないから強くなりたいであった。
のちに、ダネルダネルは「従龍者」とモンスターの中で噂されるようになり、ますます彼女に近づくどころか避けるようになっていったのだった。




