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シャンゴリラガールズ~三姉妹巨女伝~  作者: 犬宰要
土の加護、白銀の剣山が噴刃する時
32/62

30-制限解除

 制限解除、不滅者(プレイヤー)がその時代の文明、知識、種族としての限界を解除することを言う。思考速度はもちろんのこと、力も大幅に上がり神にも近しい力を発揮することになる。

 滅多なことで制限を解除することはないが、世界の破壊する者が不滅者(プレイヤー)である場合は解除し戦う。幾度と無く世界を破壊してきたからこそ、止めるのは自分たちだと思う者達が多い。

 しかし、一方で自身が「神」であるかのように振る舞う不滅者(プレイヤー)もいる。その者たちはそもそも制限をかけていない。



 ヴァーガ族の本山近くに白銀のムラサメはうずくまっていた。ザクロ・リリウムの阻害術によって苦しめられていたのだ。ただの灰だと思ったものが身体を蝕んでいき、行動が取れない状態になっていたのだ。


 しかし、白銀のムラサメを造った者がそれを浄化していた。

「舐めるなよ…たかがこの程度で…」

 アルビノ種のヴァーガが吠える。獰猛な目つきが黄金色に輝き、白銀のムラサメの前で苛立っていた。


「進化し適応しろムラサメ」

 白毛に包まれたヴァーガは白銀のムラサメに触れながらつぶやいた。それが術式であるかのように白銀のムラサメに力を与える。


 白銀のムラサメは先ほど違い、背中に二振りの剣を携え、四肢には先ほどと同じように突き出された鋭利な剣があった。

 白銀が損なわれることなく、力強く四肢から伸びるあしの爪が地面にめり込んでいた。全身で怒りを表現していた、咆哮というものがゴーレムはしない。しかし、その白銀のムラサメはした…その咆哮は響き渡ったが、彼女たちの耳には聞こえてはいなかった。


 白毛のヴァーガが白銀のムラサメに吸い込まれるように同化し、白銀のムラサメは走りだした。



「楽勝だと?!楽勝だって言ったな?」

 ン・パワゴはタヴォールに期待と嫉妬、そして少しばかりの疑惑が混じった声を荒げていた。

「ああ、楽勝だ」

 ツェリスカは立ち上がり、腰に手を当てながら自信たっぷりに言った。蛮神ではない存在などたかが犬型のゴーレムでしか無かった。彼女にとって、不滅者(プレイヤー)とその眷属や創造物でない限り、大敵とは見ていなかった。ベヨネットハンドガンをホルダーから抜き、肩でトントンという仕草をして告白した。

「相手を牽制する程度の武器が相手の主力武器を切断、そしてこれに恐れを抱き逃亡する程度…たかが知れている」


 彼女は苛立っていた。


 その苛立ちの原因が何なのか彼女自身わからなかったのだ。今までずっと戦場を駆け巡り、常に死線と隣合わせの中に身を置いていた。そのため、精神がその環境が日常として認識しており、今は非日常としてストレスに感じていたのだ。


「出てこい!!!そこにいるのはわかっている!!!」


 外から声がし、谷間を反響させるほどの大きな声だった。


 市長と共に外に出るとそこには、白銀のムラサメがいた。ツェリスカはため息をつきながら、舌打ちをした。彼女自身、舌打ちを無意識にしていたことに気がついていなかった。先程よりも武装が強化された白銀のムラサメを見たツェリスカはいつの間にか右手に持っておりベヨネットハンドガンを強く握っていた。


「タヴォール、魔導盾で結界を張れ…逃げないように、私一人でやる」

 ツェリスカは明らかに異常だった。タヴォールはただ従う事しか出来ず、魔導盾ルジェッティで結界を張った。

「ちょっと!ツェリスカ?!」

「おい!何してんだ?!」

 ザクロ・リリウムとン・パワゴがツェリスカの行動に驚いていた。タヴォール自身も困惑していたが、上官の命令は絶対だった。


「犬畜生が、躾けてやる。ありがたく思え」

ツェリスカは自分よりも巨大の白銀のムラサメを見下していた。


「舐めるなァァァ!!!」

 白銀のムラサメは吠え、ツェリスカめがけて疾走していた。通った後は地面がズタズタに切り刻まれていた。真空波を生み出しているわけではなく、白銀の身体そのものから薄い糸が伸びており、それが走るたびに地面に触れ刻みこんでいた。


(ヌルい…)


 薄い白銀の糸が左右に伸びて入るが背中と胴下には無かった。背中には二本の巨剣、銅下は何もなし、スライディングをしそのまま胴を掻っ捌いてやろうという思考が彼女にはあった。


(だがそれでは面白くない)


 普段の彼女ならそんな事はしない。無数の不可視の白銀の糸の中に彼女は通ることにしたのだった。白銀のムラサメは彼女が細切れになると確信をしていた、しかし、念を入れ背中の巨剣で斬る事にした。

 ツェリスカの目の前で身をくねり、不可視の白銀の糸と巨剣が振るわれる。その巨体が産み出す速さと急激な捻りから繰り出される斬撃は、地面をえぐり、大気を裂いた。


 粉塵と細切れになった地面の欠片がタヴォールの造った結界に当たる。

「ツェリスカ!!!」

 ザクロ・リリウムが叫び、ン・パワゴはつぶやくようにバカが、と言い目の前で自殺行為が行われたと思っていた。

「ツェリ姉さん…」



「はぁ…」

 ツェリスカはため息を再度吐いていた。二本の巨剣が片腕で止められており、彼女の周りだけ何事もなかったのだ。ただ、彼女の足元だけ踏ん張ったように地割れが起きていた。そして、白銀のムラサメが持つ二つの巨剣はベヨネットハンドガンがめり込んでおり、ヒビが入っていた。


 何が起きたのか白銀のムラサメは理解が出来ていなかった。切り刻んで肉塊になったはずの相手がただ立っていた。奇妙な黒い刀身の片手剣を片手で、しかも、自身の剣を傷つけられていたことに―


 頭が追いつかず、恐怖のあまり白銀のムラサメは後ろに飛び退こうとしたが、思いとどまった。

「どうした?また逃げないのか?」

 目の前にいる人種が言った挑発が白銀のムラサメのプライドを傷つけた。傷つけられた事で先程の事を思い出し、自分が舐められている現実と力量の差を痛感していた。


「ふ、ふざけるな!舐めやがって!舐めやがって!反則な武器を使いやがって!使いやがって!」


「なんだ?手加減してやってるんだぞ、本気を出したらどうだ…犬畜生が」

 ツェリスカは白銀のムラサメの横っ腹を蹴り、無理やり引き離す。蹴られた白銀のムラサメはその反動を使って距離をとった。そして距離をとれた事に安心している自分がいることに憤りも感じていた。


「私はヒーラー兼、バッファーメディックだ、ヒールやアシストがメインだ」

ベヨネットハンドガンをしまい、魔導本を取り出し、構える。

「それなのに、これは何の冗談だ?」


 その言葉に、白銀のムラサメの胸部が開き、白い体毛のヴァーガ族がぬるりと姿を現す。

「我が魂にかけて、存在にかけて、貴様を殺す!制限解除だ!!!」


 ザクロ・リリウムとン・パワゴが「制限解除」という言葉聞き、目を見開き二人とも不味いと感じていた。


黒炎領(クァイアシャドウ)

 ツェリスカはそっとつぶやくと、白銀のムラサメがいる場所だけが色が抜けたようにセピアカラーのドーム状の空間ができていた。その空間は黒い塵のようなものが舞っており、時間が止まっているようだった。


 ツェリスカは、その者が姿を現した時に正体を瞬時に理解し「本気」になっていた。そして、苛立ちが自分の中から無くなっていくのが感じていた。


(言い表せない、不思議なあの感覚は…不滅者を感じていたからだったのか…)


 彼女は魔導本を両手で持ち、時が止まったかのように動けない白銀のムラサメと不滅者に対して術を発動させた。

 ツェリスカが持つ魔導本はカバーが長く、内側に突起がいくつかあり、ロック式になっている。術を発動させ、本を閉じる事で突起が接続され本の内部で円環式の術が瞬時に構築される。

 通常では小さな円形型の魔法陣をページから浮き立たせ、そのまま発動させるが、本を閉じる事で発動させるこのやり方は術の力を増幅させる。


「黄昏の月渓」

 本を閉じ、術が発動され、白銀のムラサメは消え、アルビノ種のヴァーガ族だけがそこに倒れていた。そして黒い霧のようなモヤが吹き出し、紋様のようなものを形成していた。


「クソッ!クソッ!お前は何なんだ!!!何なんだ!!!」

 その紋様から言葉が発せられながら、次第に薄れ透明になって消えていった。


「不滅者を討伐する者だ」

 ツェリスカは完全に消えた不滅者に対して笑みをこぼしながら言葉を吐いた。胸にあった不快感がなくなり、代わりに達成感で満たされていた。自分自身が生まれた理由と戦う理由を取り戻したのだった。


 この時代にそぐわない思いと知る由もなかった。


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