28-ゴリラガールズ
魔導盾ルジェッティ、タヴォールが持つ天球儀のもう一つの形態。盾の使用は上官であるツェリスカの許可が必要になる。この状態でも天球儀の機能を使えるが、使用者に大きな負担がかかる。そのため使用許可がない限りは使うことを許可されていない。
防壁展開は球体、半球体、三角錐など形状は自由に変えられる。防壁そのものを反射、衝撃吸収、エネルギー吸収の機能もある。
名前はタヴォールがつけた、本来はそのような呼ばれ方はしていないし、そんな名称ではない。
◇
タヴォールは天球儀を使い、解析をし終えその結果を見て唸っていた。
(ミスリル銀を純度が100%で高圧縮されてる。問題はそれだけじゃない高圧縮された剣の先まで魔導回路が組み上げられてる)
「タヴォール、なにかわかったか?」
ツェリスカに聞かれ、二人に話してもいいのかという仕草をするが、頷き問題ないことを伝える。
「純度100%のミスリル銀を高圧縮で作られています、それだけではなく魔導回路がびっしりと隙間なく規則正しく組み上げられています」
「工法が気になるな…あのサイズを量産体制だとしたら工場を破壊しないとヤバいな」
ツェリスカはすでに敵対してきたので「潰す」という選択を視野に入れていた。
「はい、ただ技術レベルが先ほど徘徊していた逆関節のアレと離れすぎてているのが、いささか気になります」
タヴォールが真面目にツェリスカに報告していた。
その二人の会話を聞いてン・パワゴはザクロ・リリウムにしか聞こえない会話をする
「ザクロ…」
「ん?何パワ?」
「なぁ俺の感が言ってるんだが…この技術レベルが亜人族にあるとは思えない。もしヴァーガ族に転生している奴がいるとしたらー」
「仕様変更があったってこと?」
「いやあるいはチートかもしれない」
ン・パワゴの目つきがきつくなり、ザクロ・リリウムも同じような表情になった。
「場合によっては制限解除で行くわよ」
彼女たちは不滅者であるため、その世界の水準に合わせている。彼らが本来住まう世界での技術を使わない、不滅者の力を使わず、その種族で可能の力を使うのだ。
制限解除とは、その制限を開放した状態のことを指す。暗黙のルールとしてではなく「世界を壊さないため」に作られたルールだった。
それを崩すような者に対しては徹底して戦うのが不滅者が多く、彼女たちもそちら側だったのだ。
「あ、あの…」
崖からひょっこりと犬に似たような顔がおずおずと4人に声をかけた。
瞬時にツェリスカはベヨネッタハンドガンの銃口を向け、トリガーに人差し指を当てる。
「ひ、ひっ」
ツェリスカから向けられた銃弾のような殺意が突き刺さる。
「君はヴァーガ族?」
「は、はい」
ツェリスカの黒紫の眼が開かられていた。警戒をしていたのは、その現れた崖から気配を感じなかったからだ。
「白銀のムラサメを倒してくれてありがとうございます!」
先ほどの戦った白銀の犬はムラサメという名前だということがわかったのと崖から顔を出したヴァーガ族とは敵対関係かもしれないのがわかった。
「あ、あの…よければお礼をさせてください」
勇気を振り絞ってそのヴァーガ族はおずおずと身を乗り出してその姿を表した。
犬のような頭に怯えているのか、ぺたりとした耳、灰色とベースに黒色の模様が入った体毛。動くのに邪魔にならないように軽装のプレート型の装備を身にまとっていた。小刀のようものを背中に背負っていた。小型な種族であり、小人種族の中でも大きな小人種でも同じかそれより低い。
ツェリスカはタヴォールから周囲の状況を聞き、ベヨネッタハンドガンを下げ、太もものホルダーフックにしまった。
「驚かせてすまなかった」
「い、いえ…良ければ私達のところで改めてお礼をさせてください」
4人は白銀のムラサメが装備していたリングだったものと巨剣を持ち、ヴァーガ族が住んでいる場所へ行くことになった。
そのまま崖に向かって降りれるのはここに住んでいるヴァーガ族だけであり、下へ降りるための道はそれから程なく進んだ先にあり、なだらかな斜面を降りていくと侵入者迎撃用の罠や柵などがあったが先導するヴァーガ族によってすんなりと降りれた。
谷底に向けて大きな円等の鉄製のチューブが伸びていたり、壁から小さな煙突がいくつも出ている。その先から白い煙がモクモクと出ており、谷そのものを白く霧で覆い隠しているのはこの煙だったことがわかる。
足元は鉄で舗装された道が続いており、歩く旅にかつかつとブーツの音がなる。歩いていると多くのヴァーガ族とすれ違うのだが、さして珍しいわけではないのか4人はチラ見されるぐらいで特に物珍しく見られることもなかった。
ただ、先導してるヴァーガ族に対しては皆一応に深く礼をしていた。他のヴァーガ族とくらべて装備もいいのが比較してわかったのもあり、それなりの地位のものだろうと感じ取れたのだ。
また、多くのゴーレムがヴァーガ族の後ろ、もしくは彼らを乗せて動いていた。
もちろん、人種の冒険者も行き来しており、ザクロ・リリウムとン・パワゴを見ると目を見開く者が何人かいた。多くの冒険者はなぜこの辺境の地にいるのかという思いがあったのだが、二人はいつものことのように慣れているのか気にしてはいかなかった。
そして、その後に白銀の刃とリング状だった欠片を運ぶ巨人種二人をヴァーガ族や冒険者は驚愕の表情をしていた。彼らは口々に「まさかの白銀のか?」「嘘だろ…」「どうやってやったんだ」など口にしていた。
巨剣の方はタヴォールが持ち、リング状だった欠片は巨剣程ではないがかなりの大きさだがツェリスカは軽々と担いでいた。その姿を見て、身長が低いツェリスカでも巨人種だとまわりは認識することが出来たのだ。
「…ゴリラ」
誰かがそうつぶやき、それから「ゴリラガールズ」という名前が彼女たちに定着していった。
この世界に「ゴリラ」という動物は存在する、湿地帯のジャングルの中で森の守護者として、凶悪化したモンスターを退治したり、動植物の世話などを行い、ジャングルの生態系を守っているのだ。
彼女たちがそう見えた、敬意から来る言葉ではなく「巨人種」だからというのと「メスゴリラ」という言葉が力がある女戦士に対して言われているのもあり、そう呼ばれたのだった。
「ツェリ姉さん、ゴリラってなんだ?」
「さぁ…私も知らないな」
二人はその言葉の意味を知らなかった。良くも悪くも怒ったり、言うのをやめろと言わなかったのか、彼女たちの呼び名が決まってしまった瞬間だった。
ザクロ・リリウムとン・パワゴは二人が「ゴリラ」やら「ゴリラガールズ」と呼ばれているのを笑いをこらえていた。なおザクロ・リリウムは「不機嫌のザクロ」と言われているのを忘れてはいけない。
ン・パワゴについては、詩人で各地に旅をし行く先々で揉め事を「拳」と「弓」で解決していたのと歌唱力の高さがあった。そんな彼女の異名は「矢音のパワゴ」と呼ばれていた…矢が空気を切る音のように早い拳、強弓すら簡単に引き射る腕、そして誰もが心に残る歌から呼ばれていた。
なお彼女もザクロ・リリウムと同じくこの異名を気に入ってはいなかった。