26-白銀の犬
不滅者、その名の通り滅することがない存在。人は死ぬと転生するか、魂が幽界へと行くが、同じ魂と肉体がセーブポイントを経由して再生される。最後に触れたセーブポイントに周りに気付かれずにいつの間にかそこに復活する。
はるか昔の時代の不滅者は支配者クラスであったため、セーブポイントはなかった。時代は変化し、不滅者たちが築き上げた世界で彼らは冒険者からスタートし、人と同じ視点で生きる事にしたのだった。
当時からいた不滅者はいる、しかし、新たに異世界からこの時代に降り立ち、冒険者として歩む者もいる。彼らは「人生」に飢えていたのだ。命という概念がない中で命を楽しむために人種へと成り、生を全うすることにしたのだ。
◇
硫黄の香りが立ち込め、谷間からモクモクと煙のような霧が立ち込めて下が見えなかった。谷間以上より上には霧が立ち上らず、ただ、下が見えない不思議な場所だった。
「本当にここなの?」
ザクロ・リリウムは谷の下を覗きこむように見るが何も見えないことにン・パワゴを疑っていた。
「ああ、ここだ。この下に彼らがいる」
ツェリスカはタヴォールの方を向くと彼女は頷く、タヴォールは天球儀で一定範囲をスキャンしたことでどこに何があるのか生命反応などを拾っているのだ。一度スキャンしたものは天球儀に記録され、展開されていない時でもタヴォールが感知できるようになっている。
「それでン・パワゴさん、どうやってここを降りるのですか?」
ツェリスカはン・パワゴとあまりは親しくないため、フルネームで呼ぶ。タヴォールは親しくなったのか「パワ」「ターちゃん」と呼び合う仲だった。
「ここから谷にそって進むと谷底へ降りていく道がある。途中からは舗装された道になるんだが…視界が悪いのもありかなり怖い」
「闘気で視界を確保できないの?」
「ああん?お前こそ風の術やら使って見やすくできないの?」
「はあぁぁん?」
「ああん?」
二人はいつものやり取りをしつつ、歩いて行く、それに続きツェリスカたちも一緒に歩いて行った。
言うまでもなく、ザクロ・リリウムはポーション割りをごくごくと呑みながらである。
四人は谷にそって歩いていると谷とは違うジャングルから妙な気配が高速で近寄ってきていた。バキバキと音を立てながら何かが迫ってきており、警戒態勢から戦闘態勢へと彼らは変えた。
「なにこの振動と音…でかくない?」
「まっすぐ俺らに向かってきてるな…」
ザクロ・リリウムはバインダーから魔道書を取り出し、本から妖炎がフワリと揺らめいた。
ン・パワゴはどこから来ようともすぐに動けるように前屈姿勢になっていた。
「タヴォール、わかるか?」
「わからない…ツェリ姉さんもヤバいのわかるでしょ?」
「戦斧でいけ、私はベヨネットで行く」
タヴォールは腰にアサルトライフルブルパップ式になってるのを構えて、戦斧テラシォグラツォに変形させる。ン・パワゴがその変形を見て驚いたが、瞬時にジャングルの方を向き、にんまりと笑っていた。
ツェリスカは嫌な感じがしていた。まるで不滅者と対峙しているような感覚だった。彼女は一度だけ対峙したことがあり、その時は自分以外全滅し、自分がどうやって助かったのかさえわからず、気がついたら病院に居たのだ。
その時に似たような緊張感が彼女にあり、ベヨネッタハンドガンの握る手が強くなっていた。
バキバキッ!!!
木々がなぎ倒されているのか、それとも破壊しながら来ているのか音が大きくなり、ついに目の前にソレが現れた。
白銀で包まれ、四足歩行の巨大な犬。しかし、胴体に巨大なリングがあり一振りの剣がそこから突出していた。ギギギという金属が軋むような音が白銀の犬の口から発せられていた。
「蛮神?いえ…違うこれは…何?」
ザクロ・リリウムは驚愕し、目の前に現れた巨大な白銀の犬に固まっていた。
その一瞬の隙が白銀の犬にとってチャンスと感じ、身を捩らせ胴体にリング状についた剣が上から下へとザクロ・リリウムを真っ二つにさせる一撃が放たれた。
「え?」
術士、近接でない彼女は何が起きようとしてるのか見えてはいたがあまりにもいきなりの事で動けなかった。そしてその瞬間、自分がやられると思ったのだ。
だが、タヴォールがその一撃を止めていた。
ガッキン!!!!という音と共に白銀の犬の剣は弾き返される。
「ツェリ姉さん!こいつくっそ硬い」
タヴォールはザクロ・リリウムの前に立つ、彼女を守るためだ。
「わかった、任せろ…犬畜生がァァァ」
ツェリスカはキレていた。
即座にン・パワゴも動き白銀の犬の懐に入っていた、それと同時に攻撃を与えていた。拳の形が犬の脇腹にくっきりと入っていた。
「チッ、なんちゅう硬さだ…」
即座に拳ではなく、蹴り技に変更し、白銀の犬を蹴り上げ胴体が浮かせる。
だが、銀色の犬はその反動を使って身を回転させ剣によるカウンターをン・パワゴにめがけて斬撃を浴びせようしていた。攻撃直後ということもあり受け流そうにも背中越しから刃が迫ってきていた。
(くそっ、金剛の気功…間に合わないッ)
フワリとン・パワゴが浮遊感を感じ、さっきまで自分がいた場所とは違うところにツェリスカに抱えられた状態で傷一つ追わずに避けられていた。
「大丈夫か?ン・パワゴ」
「ああ、油断した…悪い」
地面には大きな斬撃の後があり、それが一つだけでなく数回抉ったような斬撃がついていた。剣そのものが分裂し、複数の刃へと変質させていたのだ。
四足でしっかり立ち、白銀の犬はツェリスカの方を向いた瞬間、斜め上から眩い光のビームが包み込んだ。
「カルネージブラストォォォ!!!!」
ザクロ・リリウムの上空にすでにイデルマージが召喚されており、斜め下にいる白銀の犬に向けて放たれていた。
「ザクロ!土の加護を持ってる!高熱は効かんぞ!!!」
「表面を溶かせば、関節が−」
光の熱線の中、白銀の犬は無傷で出てきた。外面も焦げ痕はなく、無傷だった。
「嘘でしょ…ふざけんな」
白銀の犬の地面は高熱による熱線により、ガラスが出来ていた。白銀の犬が歩く始めると、パキッ、ピシッと出来たばかりのガラスが割れる。
高熱の熱線で炙られた地面は急激に冷えていってった。銀色の犬から白い冷気が出ていたのだ。
白銀の犬は熱線による、ダメージは受けていた。内部に温度があがったため、冷やす必要があったのだ。急激な温度の変化によって外面の強度は先程よりも脆くなっていた。
ヒュン
風切音が鳴り、黒い線が白銀の犬の胴回りについているリング状にうっすらと浮かんだ。
ン・パワゴはかろうじて、何が起きたのか何が起きていたのか見えていた。
(瞬歩…いや縮地より上位の移動法?爆縮地か?空気抵抗すら無くす、大気さえも置いていく移動を巨人種が?化物じゃねぇか)
ドゴン、と音とともに白銀の犬と剣が切り離された。白銀の犬は剣が切り離されたと同時に跳躍し、その場からすぐに移動し、4人を対面するように距離をとった。
「調子に乗るな人風情ガ」
白銀の犬はしゃべり、小さなナイフが羅列された歯をむき出しになる。そしてそれぞれの足から刃が水平に伸びていった。先ほどのでかい剣で振り回されるよりも、スピードによる攻撃がこれから行われるのが彼らは瞬時に理解した。




