DD-02-カリュウド
そこは巨大生物たちが住まう土地だった。そして、そこに住まうカリュウドと呼ばれる存在。ここには厳密な国という境はないが、共通のルールがあった。
ここの地を征服してる王が決められたルールであれば侵略行為は許される。しかし、そのルールを破ったものには相応の報いを受けてもらうといったシンプルなものだった。
かくして、この地は王を倒し新たな王を目指す者が増えていった。そして、気がつくのだ…ここは狩猟区域、誘い込まれているということに…そう彼らのエサとして招かれていたのだ。
◇
ダネルダネルは美食材を求め、巨獣を狩っていた。
「くっ…この肉、不味いダネ…なんで同じ外見してる癖に個体差激しいダネ?」
6メートル以上もある全身に鎧のような攻殻を随所にもつクマ型のモンスターが三匹倒されていた。
ダネルダネルの周りには3人、帝国兵士特有の防具を身につけ、先ほど討伐した攻殻を身に纏ったクマの毛皮や攻殻を剥ぎ取っていた。
「ダネルダネル隊長、今日も大猟ですね」
「大猟でもこいつら不味いダネ…この前同じタイプでももっと大きいヤツは美味かったダネ…」
ダネルダネルは苦言しながらも肉を貪る。
「伍長、そろそろ更に奥地へ行けると思うダネ。この討伐依頼が完了で許可証が貰えるダネ?」
伍長と呼ばれた男が討伐されたクマ型のモンスターの外殻をはぎ取るのを中断し、ダネルダネルの方を向く。
「ハッ!ランクが昇格し、更に奥地へ行ける許可証と討伐許可証も付与されるはずですっ!」
ロクアディ皇帝国は巨大生物の素材を求めていた。無論、諸外国への素材の持ち出しは税としていくらか取られる。
しかし、国内で武具の生成を行った場合はそんなに取られない。すでに加工済みであれば、税もあまり掛からないが加工するとなるとかなりお金が取られる。
どちらがいいとなると最初の持っている装備によって左右される。その点、ダネルダネルの持っていた双盾ヴァル・フレェイアは規格外の防御力を持っていた。
竜種系統と言われる最終進化に近しい形態になったモンスターの攻撃に対してかすり傷すらつかず、ドラゴンブレスなどの放射状の攻撃さえも後ろにいる隊員に余熱すら感じさせない盾だったのだ。
本来であればそこで罠などを使い、追い詰めたりしてブレスを吐かせないように仕向けるのだが、彼女はあえて吐きせてから空いた口目掛けて突撃しそのまま顎を砕くということをしたのだ。
さすがに突進してくる大型のモンスターに対しては吹き飛ばされてしまうので体当たりするようなことは出来ない。しかし彼女は、突進の瞬間相手の懐に入り込みそのまま盾を使いアッパーを繰り出す。スクリューをのせた盾によるアッパーは相手の身体に密着させた状態から、突進の勢いを削らないように斜め後ろに飛ぶのだ。
巴投げならぬ、巴シールドアッパーである。対蛮神戦において相手の知能が低い場合はそこからツェリスカとタヴォールによる連携がある。しかし、そこまで連携があるわけでもない今の部隊は瞬時に屠るということはなかったが…罠を仕掛けずとも即座に相手を無防備にした。
「それにしてもこいつらおかしいダネ、なんでわざわざカリュウドを優先して襲ってくるダネ?」
ダネルダネルは毎回呆れていた。モンスターたちが己の縄張り争いをしてる最中にカリュウドを見つけると我先にとカリュウドたちめがけて襲ってくるのだ。そしてお互いの巨体同士をぶつかり合いながらも攻撃してくるのでこいつら本当は仲がいいのか?と思うくらいだったのだ。
すると兵士の一人がダネルダネルの方を向き、敬礼しながら答える。
「我が皇帝国が調べたところ、我々のような人種は彼らが好むエネルギーが体内にあるとのことです」
「ちょっと待つダネ、なんで知っていたら教えてくれなかったダネ?」
明らかに不機嫌そうに頬を膨らます。が、巨人種であるダネルダネルは容姿こと三姉妹の中で一番可愛いが、巨体故可愛さなどはなかった。
遠近感が狂えば可愛かっただろうが、持っているどでかい双盾を軽々と扱う姿は例え遠近感が狂っていても可愛いとは程遠い戦士の姿だ。
「ハッ!まだ確定された情報ではなく、悪魔でも一説として浮上している内容とのことです。また機密情報ということもあり―」
「この場所を、根底から揺るがすかもしれない、ってことダネね…」
ダネルダネルは頭の悪い子ではなかった。
ため息をつきながら腰掛けていた巨大なモンスターから立ち上がり、空を見上げる。
GYAAAAAAAAAA!!!!!!!
そこには鷹に爬虫類の鱗を掛けあわせた竜種クラスと言われる巨大なモンスターがダネルダネルめがけて急降下していた。
鋭いくちばしが開かれた中にはびっしりと棘が生えており、一口でも噛みつかれたら確実に致命傷どころではない凶悪さを秘めていた。
「うっさいダネ!!!」
食べかけの骨付き肉を巨大な鷹型のモンスターの眼にめがけて投げつける。
GYAAAAAAA――――!!!!
先程と違い、悲痛な叫び声を上げ、錐揉み状態になって近くに落ちていった。
「なんであいつらはいつも私達を見つけたら咆哮を上げてから襲ってくるダネ、うるさすぎるダネ」
ダネルダネルは再度ため息をついた。
「調べによると咆哮した範囲内では大型は2匹のみ、3匹目は出てこないとのことです。どうやらモンスター側でもルールがあるらしく、同時に3匹い合わせてはいけない決まりがあるそうです」
「あいつらにもルールがあるとは驚きダネ…」
「なにせここは古龍たちが住まう地域ですからね」
「隊長!襲ってきた奴どうします?」
「もちろん倒すダネ!このクマ肉よりも鶏肉の方が美味そうダネ!」
そうして甲殻クマ3匹と竜鷹1匹を討伐し、部隊はギルドがある集落へ戻っていったのだ。討伐後に狼煙を上げるとギルドから回収班がやってくるのだ。しかし、狼煙を上げるには討伐したモンスターの一部と一緒に燃やさないと行けないというルールがある。でないと新たにモンスターを呼び寄せてしまうのだ。
ダネルダネルは討伐してきたモンスターの正式な名前をいちいち覚えたりはしなかった。クマっぽい、鷹っぽい、イグアナっぽい、狼っぽいなどと思っている程度だった。なにせどれも今まで戦ってきた蛮神よりも弱かったからだ。
ダネルダネルの部隊が集落のような村に戻ってくる。山間の谷の中に大型のモンスターが入りにくいように作られており、その谷の中という立地から平地が少なく狭い土地に建物が密集していた。
交通の便は悪くなく、飛空艇も使えるが何分狭い土地をうまく活用しているがここは奥地に近い事からあまりカリュウドが少ない。常駐してるカリュウドはいるが、そこまで多くなくいくら大型のモンスターが入りにくいといっても来ようと思えば来れてしまうのだ。
「村長さーん、ただいまダネ。今日の戦果だね、そろそろもっと奥地行ってもいいダネ?」
ダネルダネルは双盾をつけたままで手をぶんぶんと振りながら、村長に話しかける。村長の容姿は小人種に含まれる女ドワーフだった。見た目は子供っぽいが年齢に合わせて歳相応の顔つきになる。悪魔でもドワーフ基準ではある…通常の人種で言うと20代後半までしか老け込まず、人種で言う60歳過ぎてからようやく老化が進んでいく。
男性の場合は髭を生やすため、髭の長さや結び方などで年齢がある程度わかるのだが女性の場合はわかりにくかった。
女村長の約5倍あるダネルダネルに向かって飛びついた。
「無事だったかぁぁぁ!!!ホークドラリオンが空を飛んでると観測から連絡あって心配したんじゃぁぁぁぁ!!!」
幼女、いや村長が帰ってきた獣臭さを醸し出してるダネルダネルにがっしりとコアラのようにホールドしていた。
村では当たり前の光景になっていた為、周りのカリュウドや村民たちも気にしていなかった。
「ホークドラリオン?それならあれかダネ?」
攻殻クマ三匹が山積みになってる影になって見えなかったが、しがみついたままの村長をそのままホークドラリオン近くまで持っていった。
「ふぉぉぉ!!!」
ホークドラリオンは片目が潰され、くちばしが壊れ、片翼がありえない方向に曲がり、片足が無くなっていた。
「くちばしを壊したら逃げようとしたから翼を折ったダネ」
「片足が無いのは罠を使ったのか?…いや食べたのか」
「こいつの肉は味が薄かったダネ、でも無駄な脂身が少ない分香草やスパイスと相性良さそうダネ」
ダネルダネルは頷きながら感想を述べていた。周りはみんな呆れていた。
「と、討伐したか…そうか、ギルドに報告してくるといい。ランクも昇格するし更に奥地にいけるだろう」
幼女な村長は短時日で合計4匹討伐したことに驚き、他の村民やカリュウドたちも驚いていた。本来1匹倒すだけでも丸一日かかるのだ。
罠を仕掛け、相手の動作や行動範囲を探ったりし、対象を見つけて狩るのだ。しかし、彼らはそれら工程をほとんど無視し罠などを使わず真正面から討伐していたのだ。そりゃ早いわけである。




