15-狂信者
サモン・アイオーン、ツェリスカが使う召喚術。ザクロ・リリウムと違い魔道書を媒介にはしておらず、魔道書をブースターとして召喚している。個別契約主はツェリスカ本人で魔道書が無くても召喚は可能だが、その場合は一体になる。ザレクはヒーラーとバッファーをこなし、マゴクはトラパーとデバッファーを行う。
◇
蛮神の攻撃によって重度の火傷を負った住民を回復させつつ、避難をさせていた。建物内に残っている者も含め、避難させていく中で亜人族の兵士たちがようやく蛮神へと反撃をしようとしていた。しかし、狂信者たちが兵士たちを止め、亜人族同士の争いが始まっていった。
「洗脳されてやがるな…このままだと狂信者どもは兵士たちに殺されるだろうし、蛮神を誰が召喚をそそのかしたのかわからなくなるの面倒だな」
ツェリスカは、ザレクを引き連れ狂信者と兵士たちが争っている現場へと向かった。
「あの御方は我が神の眷属!命を捧げ、今こそ我が種族の恨みを晴らさんべく降り立ったのだぞ!」
狂信者の偉そうな人が兵士や他の亜人族に呼びかけていた。
「今、人が無謀にも戦っているが見よ!ものともしておらん!」
狂信者が演説を行いながら、他の狂信者たちが蛮神にめがけて回復やら強化やらの術を多段重ねして援護し、攻撃系の術もタヴォールにめがけて撃ってはいるがツェリスカが召喚したマゴクがことごとく無効化していた。
「邪魔立てするな!同族を食らっている化物を放って置けるか!」
兵隊長らしき亞人が狂信者に向かって言うが狂信者たちはその場をどかず、徹底交戦する構えだった。兵士たちも武器を構え、今まさに火種が落ちようとしていた。
「おい、そこの神だの言ってるバカども目を覚ませ!」
ツェリスカの横に浮遊してるザレクが狂信者たちに向かって麻痺の術をかける。狂信者たちは全身の筋肉が硬直し、ガタガタを震えながらその場で卒倒していった。
「その狂信者たちをもう暴れないように引っ捕らえておくんだ!さっさとしろ!あの化物は私達がなんとかする!くれぐれも狂ってアレを崇拝してる奴を殺すなよ?」
「貴様は何者だ?!」
兵の一人がツェリスカに向けて叫ぶが、ツェリスカは建物と建物を飛び移り、他の暴れている狂信者たちの鎮静と火傷を負っている住民の救助へ向かった。
その颯爽たる姿は巨人族とは思えない動きで亜人族たちも自分たちの身体能力よりも高いのではと感じているものもいた。また、人種が自分たちを助けてくれるというのは先の蛮神が現れた時の勇者の行動と似ていた。
◇
都市の近くの高台からタマキ・シラタキは蛮神と単身で戦っているタヴォールの姿を見て、驚きながらも呆れ果てていた。
「あんなん反則だろ…素手とかありえない」
ところどころ、タヴォールの服は焦げ付いてはいたものの目立った外傷はなかった。
「ちょっとまて…重度の火傷を負ってる亞人が治っていってるだと…なんだあの妖精?いや天使型か?」
タマキ・シラタキは何が起きているのか理解が追いつけなかった。
「くっそ、こんな事なら計測器も持ってくるんだった…ていうか、わいの援護全く必要なさそう」
彼はツェリスカの行動を見て訝しげに、疑問に思っていた。
「なんで、狂信者を殺さず捕まえてるんだ…?あいつら処刑しない限り元に戻らないはずだし、もしかして知らないのか?」
狂信者、その呼び名の通りに今まで人が変わったように狂ったように信仰する。信仰対象が何であれ、洗脳された状態で人格も変貌してしまう。日常の生活には支障がなく、見分けがつきにくく、こういった事件にならないと表に出ない。
もともと、異端者だったという説もあったが異端審問官だった者が蛮神の祭具に触れ狂信者に成り果てた事例が発見されたことから一種の洗脳だというのが解明された。しかし、解明されても狂信者と成り果てた者は元に戻す方法はないとされている。
だが、国は表立って元に戻せないことを言わない。ひっそりと彼らを隔離し処刑するだけだった。国によってはやり方は異なるが大体は処刑される。
「…ん?!狂信者たちが自らの命を断っていってるだと」
ツェリスカが狂信者たちを行動不能にしてる中で、残った狂信者たちが自殺していっていた。それを止めようとしてる者、近しい友人や家族と思われる者達だが、自殺に成功した者たちから淡い光が揺らめきながら蛮神へと吸い込まれていった。
するとタヴォールが傷をつけた箇所などが修復されていき、更にはより強い気配へと変わっていった。それは離れて見ているタマキ・シラタキにも感じられ、彼はその光景に冷や汗を流していた。
「狂信者を殺さなかったのか…」
勇者が蛮神と戦った場所は都市部ではなく、集落でもない人がいない場所だった為、こういった周りに身を捧げて蛮神そのものを回復、強化させるといった事は無かった。しかし、今回は違う。
手が負えない状態まで来ているとタマキ・シラタキは感じていた。亜人族の兵士も狂信者を抑えようとしているが、兵の中にも狂信者が混じっているため指揮系統が上手く働いていない。
身内同士で疑心暗鬼になっており、浮き足立っている。しかも、都市の中心で蛮神が暴れている。タヴォールが止めてはいるものの、いつそれが崩壊するのかわからない。互角とも言えるような戦闘を行っているが巨人族の一人が蛮神に単身で勝つなんてことは今まで聞いたことがない。
勇者でない限り、この状況は絶望的だとタマキ・シラタキは感じていた。いくらザクロ・リリウムの依頼とはいえ、度を超していた。彼自身の戦闘能力は高い、しかし相対し戦うような術は高くはない。
「くそっ…」
彼は自分が行っても現状では足手まといになるのがわかっていた。しかし、それは対蛮神である。
「狂信者どもを気絶させるしかないな!」
だが、この混乱状態において狂信者たちを行動不能にするのは忍者にとって容易な事だった。彼は都市へ向かう、蛮神がさらなる力を得られないように、ツェリスカたちを助けるために…
◇
都市のあちこちで火災がおきていた。狂信者が一斉に街に火をつけ始め、あたりがすぐに火の海に変わっていった。ツェリスカは昔の事を思い出していた、基地が襲撃され仲間が洗脳されていき、基地が味方の手によって徹底的に破壊されたことを―
「思い、痛み、あの時とは違う…」
ツェリスカは無意識につぶやいていた。彼女は蛮神と戦っているタヴォールの元へ戻り、あたりに逃げ遅れた住民や重度の火傷を負っているものがいないことを確認した。
「タヴォール!結界の準備は出来た、屠れ!」
タヴォールと蛮神を中心に円形のうす白いドームが瞬時に形成された。蛮神はそれに気づき吠えると、地面から赤い亀裂が入るが結界内に留められる。
都市の各地で上がっている黒煙が蛮神に向けて流れていくが、結界によって遮られていた。ドーム状の結界の周りは中で何が起きているのかわからないくらい黒煙によって暗雲に包まれた。
結界の外にいるツェリスカは息を吐きながら、その暗雲に立ち込めている結界を見ていた。
「マゴクも中にいるし、大丈夫でしょ…」
彼女が召喚したアイオーン・マゴクはタヴォールと蛮神と戦闘を行っていた。狂信者たちの援護を無効化していたが、今は結界によって遮られている。彼女はほっとしながらも、まだ完全に沈静化されていない狂信者たちと怪我している住民たちの救護をするためにその場を立ち去った。
彼女が張った結界は10分、狂信者たちの阻害があればもっと短くなっていく為、彼女は蛮神の力の供給源を絶つことにしたのだ。




