10-不滅者(プレイヤー)
小人種はドワーフ、フェアリー、ノーム、など種族の枠組みとしては広い。ひとくくりに成長しきっても成人した大人の腰よりも高くならない事でくくられている。体型は様々でずんぐりむっくり型、幼児体型、細長型、有羽型など様々だ。
またその体型から他種族へ庇護欲を掻き立てるのもあり、仕草や振る舞いもかわいいことながら多種族から人気でもある。かわいいは正義、という言葉が暴走して暴動を起こす種族もいたとかいないとか…
◇
貧民街への境界線付近に、みすぼらしいローブを纏うツェリスカよりもはるかに大きい事がわかる巨人族がそこに座って営業活動をしていた。メハルジア王国では呼び込みや路上での営業活動は許可制になっている。
しかし、貧民街付近ということもありそこは無視されている。管理しても旨味がないからだ。その境界線に「占いはいらんかね~」とやる気のなさそうに行き交う人に声をかけている。
「あれが噂の最近見慣れない巨人族じゃない?」
ザクロ・リリウムが指をさしながら困ったような顔をしてツェリスカを見上げて言う。ツェリスカもそれに対して頷く、そしてその占いを売ってる巨人族を見る。声からすると女性だというのがわかり、妹かもしれないという期待が高まる。
「あの変わった道具…デザインはアガルタ文明のものだとわかるのだけど、妹さんの?」
ザクロ・リリウムが疑問形なのは、ツェリスカに比べてその巨人族は更に大きいからだ。
「ちょっと確かめてくる」
ツェリスカはみすぼらしいローブを纏う占いを売ってる巨人族の前にしゃがみ込み、ローブを頭からすっぽり被っているので顔を見ようとする。
「ツェリ姉じゃないか!来てくれたんだね!呼びかけても返事ないから死んだものとばかり―」
ツェリスカは思わず、彼女の口元を鷲掴みする。
彼女の服は、ひどくボロボロで半裸に近い状態だった。
「タヴォール、生きていたのは嬉しいがなんだその格好は?」
ツェリスカは若干の怒気と嬉しさが混じった声で彼女に問い詰める。ツェリスカはタヴォールが何かをしたことで今のような状態になっている。すなわち、どこかわからない所に飛ばされたということだ。
「ふがっ、ぬぐぐ!んぐんぐ!」
タヴォールが何か言いたそうにしているので、手を口から外し、ため息をついた。
「知ってるか、ツェリ姉!性行為するだけでお金が貰えるんだ!」
バガンッ!
ツェリスカはタヴォールの顔面を思いっきり殴りつけたのは言うまでもない。殴られたタヴォールはそのまま後ろに転がり、ローブの中のほぼ半裸状態があらわになる。
頭を抱えながら、ツェリスカは立ち上がりザクロ・リリウムの方を向くと口をポカーンと開けていた。
「最悪な紹介になるが…妹のタヴォールだ」
ズッコケた状態ではあるが、片手を上げながらタヴォールは手をひらひらさせていた。
褐色に白と銀が混じった短髪、ツェリスカよりもより巨人族らしい巨体に豊満な胸、恥じらいとは無縁のような屈託のない笑顔を浮かべて彼女は座り直した。
「とにかく、ツェリ姉さんが無事でよかったよ」
「砂漠のど真ん中でさー巨大なミミズに食べられそうになったりしてさ」
途中、獣人の猫科の氏族にお世話になり、人がたくさんいるところを教えてもらいここにきたが金がなくなったそうだ。
「もう少しやりようというのがあるだろう…」
「世界戦争が終わった後だと考えると、今度は人同士で争いが始まってもおかしくないと思ってさ…どこの国に属しているのか相手に知られると危ないと思ったんだよ」
「おい、タヴォール…あの術は未来へ行くものだとわかっていたのか?」
「いや、別の世界…滅びる宿命から因果律を捻じ曲げる術さ…」
彼女は天球儀を触れながら、意外な事をつぶやいた。
「まさか、未来に飛ばされるなんて私だって思いもしなかったよ。ただ生き延びたい…生きてその先を見たいと思ったんだ」
タヴォールは天球儀からツェリスカの方に笑顔を向けた。
「いやぁ、まさか飛ばされて空を見上げて星を見たら星座の位置が想像以上に進んでいたのがわかって驚いたものだよ。アハハ」
ザクロ・リリウムはこの時、ちゃんと二人が過去から来た存在だというのを信じるようになった。そういう痛い事を言う人がどこかしらメハルジア王国にいる、自分は選ばれた光の戦士だやら神に選ばれた勇者など…だが、目の前にいる巨人族の二人は過去で戦っていた本物の戦士だということに。
「あの状況はもうとっくに死線を超えてる。だったら…最後の希望に託してみたんだ、戦うだけじゃない―その先にある生を見たかったんだ」
「不滅者から世界を取り戻さない限り…私達の未来なんて無いッ!!!」
ツェリスカは叫んでいた。怒気に混じった声と共に、彼女の中にある意思は不滅者から世界を取り戻す事だった。例え未来に来ていたとしても妹に出会った事で思い覚まさせたのだ。不滅者たちが彼女たちの時代に何をしてきたのかを―
「昔とは違う!世界は戦争に満ちていない―」
「忘れたのか、私達が生まれる前の時の記録を…」
「でも、もしかしたらあいつらはどこか行ったのかもしれないだろ?」
二人は結論が出ない事で言い合ってる中でザクロ・リリウムは二人の話を聞き入りながらも心臓の鼓動が高鳴っているのを感じていた。
不滅者という存在、そう彼女―ザクロ・リリウムは不滅者なのだ。しかし、彼女はそれを二人に打ち明けることはないし、彼女たちもその真実にたどり着く事はまだない。
彼女たちを殲滅させ、新しい時代を創造しなおし、世界を構築しなおした種…いや概念種と呼ばれる不滅者。ツェリスカはその者に救われ、新たな時代の中で妹であるタヴォールに合流することが出来た。
「ねぇ、そういえば二人って肌の色も髪の色も違うのに姉妹なの?」
ザクロ・リリウムは二人が言い争いになり、拳での語り合いに突入しそうだったので話を折ることにした。
「ザクロくん、これはすまない。みっともない所を見せた…」
ツェリスカは謝り、自分たちの事について話す事にした。
「私達は造られた存在なんだ、父も母もいない。戦うことを目的として造られたんだ、まあ、その中でも私は出来損ないだったがな。妹たちに比べて身長も低いし、力でも負ける」
ザクロ・リリウムはふたりとも充分にでかいと思ったのは言うまでもない。小人種の彼女にとって、常に見上げる存在だからだ。彼女自身、もっと身長が欲しいとは思ったことはないが、胸は欲しいと思ったことは何度あったことだ。
今でも彼女は、あの二人の豊満な胸をむさぼるように堪能したいという欲求があったりした。小人種でも胸がある程度発達する種族もあるが、彼女は発達しない種族なのだ。そのため、胸への憧れというのはある。
「ツェリ姉さん、そんなこと言わないで…私にとって大事な姉さんなんだから」
「ん、ああ…すまない。まあ、そういうことなんだ、私達はその造られた時期が一緒だったんだ」
彼女たちは何でもない当たり前のように語る。しかし、この時代において人造の技術というのは秘術であり失われた術でもある。彼女たちは巨人族のホムンクルスなのだ。
「その造られたって?」
「私達は巨人族型のホムンクルスなのよ」
「ふぅ~ん、そういうことだったんだ。納得した」
ザクロ・リリウムは不滅者だからこそ、納得が出来る。しかし、ホムンクルスという人造生命体を作るという事はこの時代では理論上存在はするが技術的に不安定であり実現はされていない。
「同じ時期に生まれ、一緒に苦楽を共にし、幾多の戦場を生き延びてきたからこその絆なんだ」
ツェリスカは自信にあふれた表情でザクロ・リリウムに言った。




