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幻妖の縁〜双刻鬼伝〜  作者: 緋澄
参章 封印の墓
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「あ!紅矢君。おはよう!」


「おにーちゃーん!おはよー!」


周りを村人が取り囲んでいるなか、華園は紅矢に気付き手を振る。

その肩にはもよりがはしゃいで乗っている。

幻視かと思い目を擦るが現状は変わらない。

周りを見ればどうしたって馴染んでいないのは一目瞭然だ。






現在より数分前。

誰のものかわからない悲鳴が朝の清心な空気をぶち壊した。

相変わらず朝に弱い紅矢も珍しく飛び起きてしまった。何事かと声のした方へ行けば異様な光景が広がっていた。

別に見た目的には何も違和感が無いと言っていい程鬼は人間に似ている。

角を除けば。

いつの間にこの家は見世物屋になったのかと思うくらい外には村人が集まってきている。




「…鬼だ…」

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…」

「秋久のとこの子供が…」

「殺される前に殺すしか…」

「四匹もいるんだぞ!敵うわけ…」



微かに聞こえる村人達の話にん?と首を捻る。朱頼がいないのだから今いるのは華園、十六夜、籬、…白波。

白波の姿を認識してやっとなるほど、と思う。しかし昨日、十六夜が白波を嫌っていると言っていた事を思い出しチラリと十六夜を見る。特に気にした様子も無く、相変わらず籬で遊んでいる。


「…紅矢?」


相変わらず聞き覚えのある、しかし懐かしく感じる声に振り向けば白波が小さく小首を傾げる。可愛い、と思いながら何?と返す。


「いや…。全然動かないからどうかしたのかと思って…」


表情は変わらないが心配してくれたのだと思うと嬉しく思う。

くすりと笑みを零すと白波も微かに笑みを見せた。


「…おーふたーりさーん?あんま惚気ないで頂けます?」


突如二人の間から生えてきた花園ともよりに慌てて否定するが聞く耳を持たない。

おめでとー!と華園が白波の肩を叩くが、白波本人はよく解っていなさそうだ。


「あ、そういえば…」


唐突に思い出した、というように腰にある包みから両掌程の丸い入れ物を取り出した。

見た感じ樹脂の入れ物の中には沢山のツツジの花が押し詰められている。


「人間は訪問するのに手土産、というものを持ってくるのが常識なんでしょ?特別に甘花を持ってきてあげたわ」


「甘花?」


聞きなれない単語に首を傾げる紅矢と白波。


「お兄さんのとこにはなかったのかしら。甘花は言葉通り甘い花よ。こうやって食べるの」


入れ物から一つだけ取り出しあとは廂に渡すと、中の雌しべや雄しべを抜き花の後ろの白い部分に唇を付ける。


「余り噛んじゃだめ。舐めるように吸うの」


本当に好きなのだろう。

頬に手を添えて幸せそうな顔をしている。

そんな姿を見て、今の今まで微妙そうな目で鬼を見ていた秋久が可笑しそうに声を出して笑い出す。

気でも狂ったかと集まる視線を他所に十六夜の頭に手を乗せ、子供にするように軽く叩く。


「ちょっ!女性の頭を叩くなんて失礼よ!」


べしっと秋久の手を叩き落とし睨みつける十六夜に秋久は笑みを浮かべる。


「鬼も人も変わんねえな。なんで今まで鬼に対して恐怖なんてもってたのか…そう思わねーか?」


村人達に向かって投げかけた。秋久の言葉にしんと静まり返る村人達。

瑞樹はくすりと笑って廂が持っている甘花を受け取る。


「甘花は山奥に咲くから滅多に見れないものね。せっかくだから私たちのご飯食べていかない?」


意外な態度に面食らった表情で瑞樹を見る十六夜だが、直ぐに腹を抑えて笑い出す。



「そう切り返してくるとは思わなかったわ!あんた達家族、ほんっと面白いわね」


笑いすぎて出た涙を拭い息を整える。


「じゃぁ、お言葉に甘えて」


可愛らしい笑みを浮かべ鬼は許可を得て居間に歩き出した。











居間には人も鬼も勢揃いで一つの机についていた。甘花を手に取り口に含めば、あっさりしているが蕩けるような甘さが口に広がる。確かにこれは病みつきになりそうだ。


「そう言えば、今日は何しに来たんだ?」


流れるように煮付けを口に入れてく籬と上品にゆっくり吟味しながら食べる十六夜を眺めながら思ったことをそのまま問う。


月丘(ここ)じゃ人を喰わないのがルールだから、なかなか飯にありつけなくて、空腹で…渋々飯を貰いに」


「へぇ。鬼も大変だな」


「そんなわけないでしょ!」


籬の真剣な表情に危うく騙されるところだったが、意外にも十六夜が悪ノリせず真面目で、紅矢と籬はぐっと口を閉じる。


「実は、お兄さんの件で今日は行こうと思ってる所があるの」


「?何処?」


すると、部屋の端に置いてある木の椅子を持ってきてその上に乗りその場に居る全員を見下す状態になる。


「なんというか…凄い性格してるよな。このお嬢さん」


秋久の言わんとすることはその場の全員が察していた。

お前は女王様か何かかと問いたくなる。

そして、十六夜は二ッと笑みを作った。


「"封印の墓"よ!」



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