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何十年も、何百年も眠りについていた。
大切な、優しい思い出を抱きしめ闇の中に落ちていく。
永遠に目覚める気など無かった。
もう出会うことはない"主"を想い続けることしか出来ない。
せめて、枷である今の主人にだけは忠誠も干渉もしない。
もう二度と、他の誰のものにもならない。
「妾の心はお前だけのものだ。永遠に…」
涙が頬を伝う。
目を閉じれば、まるで昨日のことのように思い出す。
紅い綺麗な夕日と紅葉が舞う景色。
"主"がお気に入りの場所だと言っていた。
"妾"も好きだと言えば嬉しそうに微笑む。
その笑みが瞼の裏に鮮明に焼き付いている。
この感情は、『好き』というものだったのだと思う。"妾"が持つべき感情ではないが。
ーそれでも"妾"は好きだった。
どれくらいの年月が経ったか。
ふと懐かしい声が"妾"を呼んだ気がして目を覚ます。
「…□□?」
"主"の名を無意識に呟いていた。
深い闇から久しぶりの外界に出る。
ふわりと宙に浮かびながら必死に探す。
"主"の名を何度も何度も呼びながら。
そして現れた。
しかし何度呼んでも反応はない。
何故だ。何故声が聞こえていない?そんな筈はない。"主"は"妾"に選ばれた者だ。そして確かに目の前の"主"には契約痕があるというのに。
「妾の声が聞こえぬのか!?□□!」
涙が溢れ頬を、首を流れていく。そんなことも気にせず"主"に触れようとする。が、手が、身体がすり抜ける。
言葉にならない声が嗚咽混じりに漏れる。
目の前には待ち焦がれた"主"がいるというのに。
背後から抱きしめるように被さり、そっと左手に"妾"の左手を重ねる。
その途端。
"妾"に気づいたかのように振り返る"主"に顔が綻ぶ。
しかし"妾"を認識したわけではなかったらしい。不思議そうに周囲を探す"主"に肩を落とす。
それでも触れた左手を握りしめる"主"の姿に冷え固まっていた心が解れるような気がした。
「妾はここにいるぞ。ずっと、待っていた。□□」
"妾"の名を呼んで。"主"に呼んで欲しいのだ。
次こそは守って見せる。"主"を失いはしない。
そして、
ー独りにしないでくれ。
どんなに強がって心を閉じても、もう独りは嫌なんだ。




