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―殺セ、殺セ、殺セ!!!!



頭に直接響く感情はただその二文字。周りは火、そして血の海。全てが赤、朱、紅に染まっていた。炎の中からゆっくりと現れた女が一人。

『やはり貴方も他と同様、血は抗えない』

女は悲しそうに言う。切りそろえられていたであろう長い髪は所々不恰好に切られて、着ている白衣も緋袴も破れて薄汚れている。

『ならば私はこの宿命に従いましょう。貴方は私がこの手で…』









ハッと目を覚ますと、視界一杯に広がる沢山の星が散らばる夜空。確か自分は教室にいたはず。そもそも家の近くにこんな森や草原はない。紅矢は上体を起こして辺りを見渡すと、奇妙な石が一つ。少し大きめの普通の石。その石を中心に半径百メートル程のクレーター。まるでこの石を中心に消し飛んだような。


頭の中で゛触ってはいけない"と警鐘が鳴る。その一方で何かが呼んでいる。それは音のようで、声のようで、本能のように感じた。

指先が触れる。

「何…してるの」

よりも先に声に呼び止められた。

聞き覚えのあるメゾソプラノーーの気がした。

「えっ…あ、いや………」

触れる寸前で固まっていると、現われたのは榛色(はしばみいろ)のフードを被った少女。右眼を包帯で覆い、隻眼の深い翡翠が紅矢を見た途端微かに見開かれる。

驚いたのもその一瞬で、直ぐに無表情となると足早に近づき紅矢の手を取り、引っ張ってもと来た道を歩いていく。引かれるままに彼女の後ろをついていきながら問う。

「なぁ。名前は?俺は藤宮紅矢」

白波(しらなみ)

紅矢の問い掛けに即座に答えるが、それが名前なのだと認識するまで随分と時間を要した。

白波と紅矢の草を踏みしめる音以外は透き通るような鈴虫の鳴き声や草木の揺れる音が森に木霊す。

「いつからあそこにいたの?」

「いや、ほんの少し前で…此処が何処なのかも…」

「…此処は月丘(つきおか)。さっきの場所は隣の村との境目」

淡々と答える彼女の話を聞いているうちに開けた丘に出た。

月丘というのはどうやら村のことらしい。

綺麗すぎる星空は現実味がない。俺はまたあの夢の続きでも見ているのかと思う。

「夢なんかじゃない。…気をつけて。この世界には鬼がいる」

心を読まれたのかと白波を見ると、翡翠の隻眼がじっと向けられた。鬼とは何なのか。それを問うことは出来なかった。吸い込まれるように、気が付けば翡翠を見つめていた。

何処かで見たことがある気がする。不意にフードを外す彼女の姿に目を見張った。白い髪に、額から生えるように突き出る二本の角。"鬼"という言葉がピタリと当てはまる姿だったが、それよりも驚いたのは彼女の容姿だった。

「有…沙…?」

彼女に有沙の面影が見えた気がした。無意識に零していた名前に、白波は特に驚くでも訝しむでもなく緩く首を振ると、遠くから微かに草を踏む音が聞こえる。白波もその音に反応し、静かに目を伏せた。

「直に人が来る。詳しいことは、その人達に聞くといい。と思う」

それだけ言い残すとまるで闇に溶けるように消えていった。







Ⅰ・登場人物


藤宮紅矢(ふじみや こうや)

高校二年。運動神経は良いがどの部活にも所属せず帰宅部。両親は単身赴任中で家事全般も一通りこなせる。有沙に好意があるが幼馴染という関係が壊れることに迷いがあり、停滞中。


野知有沙(のち ありさ)

高校二年。紅矢の近所の幼馴染。紅矢に片思いを抱いているが、あっさりした紅矢の態度に告白するか悩み停滞中。紅矢とは違い成績は良く無いが真面目なところがある。


東条嶺弍(とうじょう れいじ)

高校二年、不良。二人の小学校からの幼馴染で、紅矢とは悪友でもある。紅矢と有沙がすれ違ってはいるが両思いであることを知っていて二人を茶化すのが趣味。


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