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【5話】(元)王様とモンスター

その異変が訪れたのは、森でユナちゃんがグエンお爺ちゃんに一旦ストップを掛けられ。お昼ご飯を食べようと各自が袋に入れた薬草とかを、ユナちゃんの元へ持って行って渡そうとする時だった。


「待て」


グエンお爺ちゃんの渋い声が響き、ユナちゃんに「詰め込みすぎだ」と起こられていたクリフが、顔を上げる。それにユナちゃんも反応してきょとりと瞳を瞬かせた。


「何か、あったんですか?」


ユナちゃんの質問にもグエンお爺ちゃんが答えずに、腰の剣を静かに引き抜いて応える。ピン、と子供の私達でもお爺ちゃんの雰囲気が変わるのが解かって、私は袋を握り締めてお爺ちゃんの傍に行こうとして気付く。

視界の傍で、私から逃げる為に足を後ろへと動かした存在を。


「ハロン!」


私から逃げて後ろえと退いたハロンに、私は足を振り返って名前を呼ぶ。彼は解かってはいる様子だが、私と目が合って震えて彼の身体が動かない。目に涙を浮かべているを私は見て、思い切り怒鳴りたくなったけれど、飲み込んだ。



ハロンが悪い訳では無い。このカリスマの所為だ。

でも、今は逃げるな!



「イリス、私が…ッ!?」


ユナちゃんが声を途中で止める。ハロンの後ろから現れた存在に現れた存在を彼女も確認したからだ。

その存在は、異様に長い手足を持った猿だ。いや、もし腕と足の関節が一つ多く、顔が長い毛に覆われた馬の様な、鋭く尖った牙が剥き出しの存在を、胴体だけで考えて判別するのであれば。

私は、失念していたのだ。ナコル村が平和で、幸せだったから。



この世界には、モンスターが居るという事を。



ゲームである『異世界遊戯』では、国の民依頼クエストや内政クエストにモンスターの関係するクエストが多い。その内容が、民であるなら討伐が多いが、内政ではそのモンスターの生態を調査するというもの存在している。そのクエストが存在する理由は、そのモンスターを捕らえて使役する為だ。その調査が終れば、運搬や騎乗等の何に適用なのかが判明し、内政クエストで捕獲クエストが発生する。そうして、補充や民依頼でも捕獲をするという選択も可能となる。

余談だが、捕獲が成功するとプレイヤーのモンスター情報にそのモンスターのデータが更新されて、プレイヤーの神格によっては『創造』にて生み出す事も可能になるのだ。


【アルグート】*ランクE*

・狡猾で残虐なる存在で、子供の肉を好み、集団で行動する凶悪なモンスター。

 調教し、使役する事で何かに役立てる事は無い。

※禍なる存在



脳裏に解説が浮かび、私は禍なる存在と表示されたのに驚愕する。アルグートの存在にハロンが後ろを振り返ってしまった。

アルグートは木の枝からその長い腕でぶら下がり、足を地面に着けてハロンを涎を垂らして見下ろしている。


「ッヒ…!」

「ハロンッ!」


小さく悲鳴を上げたハロンに、私は短剣を握り締めて駆けようと足に力を入れたが、それより先に大きな影が失踪し、銀の一閃。

グエンお爺ちゃんがアルグートの伸ばしていた片腕に剣を振り下ろしたのだ。硝子を鋭い物で引っ掻いた様な叫びが、アルグートの口から飛び出している間に。グエンお爺ちゃんがハロンを片手に後ろへと飛び下がる。


「動くな」


お爺ちゃんがハロンを背後のクリフとユナちゃんの所へと背中を押しながら、剣を握り締めるて呟く。

ユナちゃんがよろりとバランスを崩した彼を強く抱きしめるのに、ハロンも泣きながら縋りつく。その隣でクリフが私に手を伸ばした。


「ガリガリ!早く来い!」

「う、うん!」


クリフの言葉に私も駆け足で三人の元に戻ろうとする。



待って。

さっきの説明に、重要な事が書かれていなかったか?



脳裏に過ぎた疑問に、私は導かれる様にゆっくり、考えが外れて欲しいと願いながらも木の上を確かめる。

そこには、今、グエンお爺ちゃんに血を撒き散らしながらも跳ねて威嚇するアルグートと同じ姿が、息を殺してじっと気配を消して。

私達『子供』が、グエンお爺ちゃんとの距離が取れた瞬間を、狙うアルグートの群れが木の葉に隠れて見えた。


「お爺ちゃん!上に居る!」


悲鳴に近い声で叫んだ私に、皆も上を見て恐怖で凍りついた。グエンお爺ちゃんが後ろに下がって、私達に合流しようとするけどアルグートが阻止する為にグエンお爺ちゃんに飛び掛り木の上のアルグート達が降りて、私と、クリフ達を囲む。



あぁ、何という事だ!



ハロンの泣き叫ぶ声とクリフがアルグート達に叫ぶ声が聞こえる。

グエンお爺ちゃんは、最初のアルグートを倒した様子だけれど、きっとまだ合流出来ていないのだろう。そして、私は。


短剣を握り締めて、目の前で私を見下ろすアルグートと無言で睨み合っている。

どうする、と考えて腰を屈める。戦わなきゃ、と心の中で呟いて片手に持っていた袋を、私は目で確かめた。

勝利を確信して目の前のアルグートが、私にその長い腕を振り上げる。



戦わなきゃ。



持っていた青い苔の入った袋をアルグートへと投げつける。それを反射的にアルグートが振り上げた腕で叩き落す。

振り下ろされた拳が、簡単に大地にへこみを作る傍を駆けて、私はその腕に短剣を振るった。

アルグートが叫び、その腕を振り払うのを私はしゃがんで回避する。微かに頭上を過ぎたのに、身体が竦みそうになる。


殺される。

何で、戦おうとしたんだろう。

いや、もう遅い。


「ぅ…ぅぁあああああっ!」


恐怖を誤魔化して、腕を大きく振った為に胸の部分に隙が出来たアルグートに叫んで、私は短剣を飛び掛って、突き刺した。

耳の鼓膜がどうにかなってしまいそうな大きな叫びが、ぐらりとアルグートの身体が後ろへと傾いていく内に小さくなっっていく。

目をつぶって、その叫びに耐えていた私の漆黒の世界に文字が出る。



【プレイヤーレベルが2に上がりました】



あ、そっか。

この身体は『アイリス』だ。


パチリと、目を開けて起き上がる。短剣をくるりと慣れた手付きで手の中で器用に回すと、こっちに驚いた様子で見ているアルグートと目が合ったが、先ほどの恐怖は無い。

グエンお爺ちゃんがアルグート達の隙を見て、アルグートの包囲網を抜けてクリフ達の傍に辿り着いた。


「イリス」

「…うん、大丈夫」


グエンお爺ちゃんの声に、私はアルグート達を睨みながら頷く。睨む私に、アルグートの様子が変わった。

何故か、アルグートがギャイギャイと、甲高い声で叫びながらも私の所から距離を取る。


どうやら、怯えているみたいだけど…変だ。

さっきまでは、違ったのに。

もしかして、カリスマ、か?


油断せずに短剣の感触を確かめて、どうやって皆の傍に戻るのか考えていると。

背後に、どすんと地響きに似た音と地面が、揺れた。

アルグート達がギャイギャイと騒ぐ声を大きくした、歓喜する様に。


振り返ろうとして、首に太い何かがぐっと掴まれて、その圧迫感に息が詰まる。

足が浮いて、ぶらりと手足の力が無くなっていく。目の前には、歪んだ光を持つ目。

アルグートよりも二倍のある、けれど頭にねじれた黒い角を持ったアルグートが私の首を掴んで、歯を見せて唸る。


【ラグ・アルグート】*ランクC*

・アルグートを統一するボス。

 凶悪であると同時に、知識が高く冒険者や国にとっての大いなる脅威となる。


【緊急クエスト】『???』

・ラグ・アルグートを討伐せよ。



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