【2話】(元)王様とナコル村
名前:アイリス・フォルツ
プレイヤーレベル:1(限界レベル:15)
所属国:―
地位:元国王(旧:アヴァロンの王)
王の資質『唯我独尊の女帝』(EX)
神格:E(封印)
保有特殊スキル:『神の器』『肉体強化』『覚醒』『転生』『移転』
ステータス
体力:32/32
魔力:21/21
攻撃:8
防御:5
魔攻:3
魔防:2
俊敏:9
パラメータ
軍事力:―(封印)
内政:―(封印)
外交:―(封印)
カリスマ:S+
世界:第133世界『アノール』―混沌―
※現在、地位が国王では無い為に王のスキルが封印されています。
EXの資質の場合のみに限り、闘争スキルと一部のパラメータに影響はありません。
※『降臨』の為、プレイヤーレベルが初期化されました。
また、一定の条件を満たない限り、制限解放はありません。
※『降臨』の為、神格が封印されました。
神格は、一定の条件を満たさない限り解放されません。
※『降臨』の為、統一特典であるステータス補正、『肉体強化』『神の肉体』は封印されています。又、一部のスキルに制限が入ります。
解放の条件を満たさない限り、封印は解けません。
※『降臨』の為、『転生』の使用が出来ません。
可能条件は、死亡時のみとなります。
又、『移転』の使用が変更されました。
※神格が封印された為、一部の神スキルが使用不可。
又は、能力の低下の影響があります。
これは、酷い。
祖父母への説得が成功して、記憶を取り戻した次の日に、私は祖母の持っているコップを目にして遊びに行くと言う名の逃亡をしました。
私を育んでくれている村の名前はナコル村。種を目当てに来る商人以外には本当に、草原の変わりにルエの花畑が広がる田舎な村だ。私は凄く好きだけどね。
王都から凄く遠くて、近くの村に行くのも商人の馬車で、三週間は掛かる程に離れている。商人はルエの種が高いから、独占しているのも理由になるかもしれないけれど。冒険者の一人も来ないのは単純に、国に認識されていないだけかもしれない。
そんな村は、商人と大量の調味料や干した魚や肉を村の人々が用意した種と交換している。昨日は器用に取っていたけど、ルエの実は皮がとても薄くて中身が赤い液体で。花が枯れる前に取らないと、干からびてしまい本当に『種』としてしか使えない。花の内に取れたら、そのまま硬くなって薬や栄養食になるのだ。
冒険者も、旅には必ず必要なのだと。
だから、商人は大量に求めて、帰ってから商人の組合に売って稼いでいるのだとか。自分の店は他のより安く売って。
最近、皺が目立ち始めた商人のシャーデさんがニヤリと笑いながら教えてくれた。
まぁ、そんなルエの実は取り辛いしあれば村も困らないからと。一面がルエの花畑。春から夏までの間が咲いているので、この時期は子供も大人も皆が指を赤く染めて種を取る。
「…やっぱり、戻って手伝おう」
種を細かく磨り潰す為の村に一つしかない大きな風車の隅っこで、私は目の前で浮いている半透明のボードを消した。
キャラクターであると気付いて、『ステータス画面』を思い浮かべたら勝手に目の前に出てきたのだ。
キャラの弱さ(?)にびっくりだよ。
これでも、始めてからこのキャラで132回は統一させて限界まで育てきったのに。
まぁ、この村で生きるのであれば、必要が無い。肩を落としながら、私が手で煙を払う様に振るとそのまま本当に煙になって消えた。
プレイヤーレベルとステータスは『異世界遊戯』は特殊なのか、プレイヤーキャラクターが市内やフィールド以外で戦う際に、
使うものだ。つまりは、タクティクスバトルからアクションバトルに代わる。だからこそ、訓練とかオンラインとかで遊んで上げておかないと…謀反とかで殺される。それに、戦闘とかでは臣下にしか簡単な命令が出来ないので、暇だ。
タクティクスバトルは、戦場全てを見て敵軍や自軍の状態の把握や指揮やらで忙しいからね。
他にもスキルとかの説明をしたいけれど、まずは。
「何か用事?」
「サボりを捕まえに来たんだよ!」
目の前に仁王立ちする、私よりも頭一つ大きい男の子に私はため息を吐き出した。
茶の髪に、黄土色の目のガキ大将丸出しの彼は、クリフ・パールベイ。この村の村長の息子夫婦の大切な一人息子だ。
因みに、私の祖父母の性は、フォルツ。私も彼等の孫(娘)として名乗っている。
「今から、戻るよ」
「はぁ?逃げるのか?」
クリフの言葉に、私は歩き出そうしていた足を止める。
逃げる、だと?
いやいや、記憶を思い出した私は精神的にあのガキャァ…よりも、年上。お姉ちゃんなんだから。
「クリフも探してくれたので、お手伝い抜けたんでしょ?ありがとう、一緒に」
「誰がお前みたいなブッ!…サイクな奴の為に抜けるかよ!」
瞬間、私は彼へと拳を握りしめ。クリフも余裕の態度で腰を落とす。
良かろう、戦争だ。
「このガキ!女の子にそんな事言う何てサイテーッ!」
「女の子に言ってねぇよ!」
「歯ァ食いシバレ…ゴルァッ!」
ちなみに、記憶を失っていた私と戻った私の性格の差は無かった。
「村長、またクリフ君がイリスちゃんに喧嘩売りました」
「放っておきなさい」
のんびりとしたこのナコル村の法律は唯一つ。
『売られた喧嘩は買いましょう』
これは、売ったという判断は売られた人の基準に任された、ちょっと放任主義だが皆に定着している。ちなみに、勝負の方法は買った人に任されるが。
余談だが、ナコル村は聞いて想像出来ると思うけれど、貨幣が必要無い。
皆、伝統のある物別交換なのだが昔に来ちゃった冒険者の一行の一人がそれを馬鹿にして。今は好好爺のお爺ちゃんである村長。の、妹的なエリスお婆ちゃんが血祭りに上げて、この村の法律が決められた。
お婆ちゃん凄い!
余談だけれど、血祭りに上げられてしまったのはグエンお爺ちゃんで、どういった経緯でラブロマンスに発展したのかは…誰も知らない。
「あ゛ー…負けた…」
クリフが仰向けに転がる隣で、私も横になって呼吸を整える。
「って言うか…何で、喧嘩売るのに手加減するのさ」
「イリスがガリガリなのが悪い」
「意味が分からないです」
本日、数えるのも嫌になる位のクリフとの喧嘩が終わった私は隣で口が切れてしまったらしく。顔をしかめている彼を見て、呆れながらもため息を吐き出した。
私は、村の皆と同じくご飯を食べているのにも関わらず、肉が付いていないのです。これが、祖父母の心配に拍車をかけているのだが、正直に私も理由がわからない。
キャラクターだった『アイリス』は、外見は16、7才の身長が156cmと小柄だが。流石にこんな骨と皮みたいな体型ではなかった。
…胸も、リアルで無かったからボインにしたのに。
まさか、転生前よりぺったんことは…!
クリフが立ち上がり、悲嘆に暮れる私に片手を伸ばした。
「ガリガリ、行くぞ」
「…ん」
クリフの手を掴むと、私は立たされて手を引かれるまま歩き出す。
何だかんだと言いながら、クリフは優しい。困っている人は何も言わずに手伝うし、責任感も強い。
きっと、立派な村長になるんだろうなぁ。
「そう言えば、隣の村から引越して来る人が居るらしいよ」
「お前以外の全員が、もう聞いてる」
生意気だがな。
「外って、どんな世界何だろうね」
「知らねぇ」
「そっか」
風に揺られるルエの花畑と数日間に落ちた川を見て、私は考える。
小説を読んで、行きたいと思った世界。
画面越しに、往きたいと思った世界。
自国と共に、生きたいと願った世界。
嬉しくも、六年の時を共にした『私』は『私』となったが。
哀しくも、六年の時を共にした『国』は此処には無い。
どんなに、美しくも誇り高い『国』であったのか。偽りの世界であったけれど、確かにあの国は私の誇りであり。
『王』である私の居場所、だった。
そう考えると、無性に泣きたくなってきて私はステータスを思い浮かべて目の前にボードを出す。
『元国王』の称号が、目に映ると涙が止められない。空いている手で掻き消そうとして気付いた。
「…さ…」
クリフが何かを言ったけれど、心臓の音が五月蝿くて良く聞こえなかった。だって。
世界:第133世界『アノール』―混沌―
…私は、132世界に居が…『転生』も『移転』もしていない。
一つ、考える。
キャラクターに転生したのは、どの『世界』?
「なぁ、ガリガリ!」
「クリフ、世界の名前は?」
「…はぁ?」
クリフが何故か顔を赤くして立ち止まっていたが、私の問いに目を丸くして。
「…アノールだよ」
苦虫を噛み潰した表情で答えてくれたのだ。
…この世界は、ゲームの世界?
クリフ君の聞いて貰えなかった言葉。
「世界が見たいなら、お…俺が連れて行くからさ…」
フラグが折れましたー