音も無く運命が回り出した
厳粛な広間へと些細な乱れも無く、将来国を支える有望な若き少年少女達が整列して、目の前の五十代であろう男の熱弁に耳を傾ける。
「君達はこれより、苦しくも厳しい訓練を積み重ねていくだろう。時には互いに高め合い、支え、そして決して楽には得られぬ絆がこの学院で生まれていく」
男の話を聞く一人の十代になったばかりの少女が居る。他の少女よりも背は低く、平均よりも小柄なのだろう。病的に白い肌に痩せた体型は、正直に言うとこの場に相応しくは無い。しかし、腰まで伸ばされた鮮やかな薔薇の様な真紅の髪と大きな宝石の如き深紅の瞳はその少女の姿を惹き付ける。圧倒的な存在感がこの場では別の意味で似つかわしく無かった。
「既にその才能に目覚めている者も存在する」
男の言葉に、周囲の視線が集まる。少女は小さな唇を引き締めたまま表情を変化させずに堂々としている。視線を受けるのは当たり前だと言うかのように。
「これから、目覚める者もいるだろう。友を見つけるだろう…自身の最高の上官に出逢えるだろう」
少女に何人かが目を再び向けた。
「君達は希望だ!この学院で力を身に付けて、どうか我等が長年に渡る悲願『アヴァロン』にこの国を認めさせるのだ!」
我等『カルナレイス』に栄光あれ!
教師陣も少年少女達も、皆が声を揃えて斉唱する中で。
「それ…私の国…」
と、小さく紅の少女が呟いた声は幸運にも誰の耳にも届かなかった。