美味しかったのです♪
俺は他者からみればあまり幸福な幼少期を過ごせてはいなかったらしい。
もっとも。その原因を俺が自覚するのはだいぶ先の話で、
俺はどうして自分が避けられているのか全く分からなかった。
実の両親から、ですら。
「うるさい、黙れこのガキ!」
「やめて! ふざけたこといわないで!」
この扱いだ。
何かを口開けば罵声です。
他の大人達も似たようなもので、
それを真似する子供たちも同じ。
「やだ、気持ち悪い」
「寄るな化け物!」
「どっか行けよ!」
どうしてそんなことをいわれるのか。
俺は本当にわからなかった。聞きたくとも誰も話を聞いてくれない。
だから俺は聞いてみたんだ。俺の話をちゃんと聞いてくれる奴に。
どうしてみんなは俺を嫌うのかと。
〈それはね、わたしたちとはなせるからなの〉
そういったのは河原の大きな岩。
〈ほかのひとはおれたちのこえがきこえないから〉
庭のお花がすまなさそうに言った。
いうまでもないだろうが俺は“物”や“動植物”の声が聞こえる。
産まれた時からそれらと当たり前のように俺は会話ができた。
今から振り返ればそれで俺が知るわけもないことを知っていたり、
ヒューマンにとって喋るわけのないモノと会話する姿は不気味だったらしい。
まず大人たちが気味悪がり、それを真似して子供らも俺を化物と蔑む。
当時の俺にはそういわれても意味がわからない。
だって俺にとって声が聞こえるのは当たり前の話。
それがおかしいと、不気味といわれても分からない。
むしろお前らがなんで聞こえないんだと気味悪く思った。
だから俺は一人で自然の中に入った。けど、独りにはならなかった。
俺には何をいっているか分からない同族よりも話が出来る彼らの方が好きだ。
その中であいつらは俺にいろんなことを教えてくれた。
食物連鎖、自然界の掟、弱肉強食、生きるために他者の命を食べる意味。
自然の中にあり、自然と共に生きて、いずれ死んで誰かの糧となる。
自然が親で、家族で、友で、競争相手で、帰るべき家。
その生き方は偶然、ある種族が理想とする生き方だった。
自然の中で生きる俺がそいつらと出会うのは半ば当然の話。
けどあいつとの出会いを俺は運命とか必然とか安っぽい言葉で片付けたくない。
「すごいわ、あなた! 森の声が聞こえるのね!」
焦がれるように、羨むようにあいつは俺を見て花が咲くように微笑んだ。
それがエルフの少女・レスティナと俺との出会い。
それを思えば、なんてことはない。
あのころが俺にとって一番幸福だったのだ。
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「なるほど、聖剣を探しに来たわけね。
そういえばそんな話が族長からあったな。忘れてた」
農作業が終わった夕方。彼のおうちでこちらの要件を伝えました。
勇者さま、ではなく。
ジークさま、ではなく。
ハッ、ジークさんはあっけらかんと他人事のようにいいます。
「忘れてたって、いったい誰のせいだと思ってるんですか!?
あなたが聖剣を持ったまま行方不明になるからでしょ!」
「行方不明って、故郷に帰っただけだぜ?」
「へ、故郷?」
突然変なことをいわれて戸惑います。
勇者さ、ジークさんの故郷は有名です。何せ勇者の故郷ですから。
私も休暇を利用して何度か行きました!
そこっミーハーとかいわない!!
でも確かそれはここから山ひとつ越えた先の街だったはず。
「ああ、そっちは生まれた街。間違ってはいないけどね。
俺、ガキの頃にあそこ出てエルフの里に厄介になってたからさ」
「ええええぇぇっ!!??」
衝撃の事実です。わたしあの街に何度も観光行ったのに!
勇者お土産たくさん買わされました! 騙したなちくしょう!!
って、そこじゃありません。
エルフとヒューマンは相容れません。
個人的な友好ならあり得ますが里にまで迎え入れるのはあり得ません。
とくにいまの族長さんはヒューマン嫌いで有名なのに。
「俺は自然の中で生きてたからな。その生き方を気に入られたんだ。
エルフはお前らが嫌いなんじゃない。自然に敬意がないヒトが嫌いなんだ。
まあ今はわりとヒューマン嫌いに移行しつつあるけどな」
そうなんですか。と納得しかけた所に放り投げられた爆弾。
徐々にエルフが私たちを嫌いになりつつあると聞いて黙ってられません。
「ど、どうして!?」
「魔族に取られてた土地には自然環境が戻っていた。
けどそれを取り戻した途端、無計画に切り開いたからな。
もちっと後先考えた伐採や開墾だったならまだここまでじゃなかったろうに」
馬鹿な種族だ。とジークさんは語ります。
それはどこかヒューマンを小ばかにする態度で、
彼自身が自身をそうだと思っていないことを端的に物語ってました。
「ジークさんが突然消えたのもそれが原因ですか?
でもそれなら勇者として声高にいえば止められたと……」
生まれた街を出て、自然とエルフの中で育ったジークさん。
彼らと同じ価値観を持ってしまうのは必然だったのでしょう。
ですが勇者の立場を使えば、そういう希望は即座に斬り捨てられます。
「いったけど必要だからと押し切られたよ」
「…………そ、そうですか……」
考えてみれば私も勇者ですがたいした権限はありません。
国に仕える騎士だったからと思いましたが勇者さまの公的な立場って
いまから振り返ると別段なにも決まっていなかったような?
重要な戦力ではあっても国政には口を出せなかったのかもしれない。
「それにこっちに戻ってきたのは別の理由。
族長から新たな里作りを手伝ってほしいといわれたら、
そりゃそっち優先するでしょ?」
え?
ちょっと待って。それが敵前逃亡の理由?
いま私に芽生えた“勇者さまって意外に不自由してたのね”的な同情を返せ!
「しませんよ普通! 世界救うのが勇者の使命でしょ!?」
「だからやったじゃん。元々持ってた国土は取り返して“やった”。
引き分けでもきちんと魔王にダメージ与えて倒して“やった”。
あとはもうお前らでなんとかしろよ」
「………もともとあなたはそこまでしかやらないつもりだったと?
魔族を滅ぼして、神に与えられた大地を取り戻す気はないと?」
「当たり前だろ?
なんで俺が縁もゆかりもなければ恩も義理もないヒューマンのために
恨みもなければ怒りも憎しみもない魔族を滅ぼさなきゃならないんだよ」
“馬鹿らしい”
そういってジークさんは席を立って台所まで引っ込んでしまいました。
言い方に少しムッとしてしまう所があったもののその通りだとも思う。
ジークさんはヒューマンではなくエルフなんだ。血筋ではなく中身が。
ならばこれ以上戦ってくれというのは身勝手な要求に思えます。
確かに彼はここまでのことはやってくれたのだから。
「……わかりました。ならばせめて聖剣を。
それを持ち帰らせてもらえればあとは私がなんとかします!」
意気込んでそう訴えた私にジークさんは唖然とした顔をしました。なぜ?
「………………あんた、物わかり良過ぎ。
絶対誰かに騙されたり良いように使われる口だろ?」
「うっ、それは……」
人が折角かっこつけたのに!
気にしてることをいわないでよ!!
確かによく雑用押し付けられてたし、人が良いってよくいわれるけど!
「はぁ、とりあえず今日はここで飯食ってけ。二階の部屋も使っていいぞ」
私の態度で察せられてしまった。
それに呆れられたのか同情されたのか。
台所から出てきた彼は私の分までも食事を机に並べてくれました。
あれ、でも。
「それならジークさんはどこで寝るんですか?」
彼のおうちは小さな一軒家です。
二階建てですが一階に寝れるようなスペースはありません。
「外に物置がある。
さっきもいったが俺は野宿のほうが好きでね。
気にしなくていい」
では、いただきます。といって勝手にひとりで食事を始めてしまいます。
遠慮する暇がないまま私もつられるように食べ始めました。
「あ」
な、なんて美味!!!
グルコ猪のお肉の煮込み料理とエルフの里原産の野菜スープ。
舌やほっぺどころか全身蕩けてしまいそうです!!
あ、このルーンキャベツ甘い!
カイロキャロットもおいしいです!
このお肉、隠し味にオルグガ実使ってる!
ナイスアイディア!!
「…………よくわかったな」
「はいっ、私食いしん坊ですから!」
あれ、ジークさんの顔をびっくりしてます。なんで?
「それ自分でいうか?」
「え、なにか問題あります?
それよりジークさん料理上手なんですね。びっくりしました!」
戦場の活躍は耳にしてもこういう特技があったなんて知りませんでした。
「……そこまでじゃないよ。教えてくれた奴が、うまかっただけさ」
「つまり、ジークさんの料理の師匠はもっと美味しいと?」
これより、美味?
それはなんて天国の味ですか!?
「何か言葉を間違えている気がするが、あいつのはもっとうまかったよ」
「いつかそのヒト紹介してください! 食べてみたいです!」
「いつかな…………ってか主語が抜けてるせいかやっぱ微妙だぞ言い方」
はて、何か言い間違えたでしょうか?
少しばかりジークさんのご機嫌がナナメになっているような?
「はぁ、わかんないなら別にいいよ。好きなだけ召し上がれ」
「はい!」
お許しをえたのでたくさん食べます!
結局それからお腹いっぱいになるまで食べた私はその満腹感のまま。
いわれるがまま二階に昇って、小さなベッドで眠りにつくのでした………
…………あれ、なにかわすれ…………Zzzz
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二代目勇者と名乗った黒髪のヒューマン族のティアという女が寝たのを確認する。
俺は宣言通り家に隣接している物置に入って積み上げられてる藁に身体を預けた。
〈予想外の子だったわね、あなたの後任〉
「まったくだ。もっと強気なヒューマン至上主義者かと思いきや。
馬鹿なようでいて、話が通じすぎてかえって哀れに見えたよ」
壁にたてかけてあるクワからの言葉に正直な感想をもらす。
どうやら神の勇者選定基準に人格や主義主張は関係ないらしい。
でなければ最初の勇者が俺になるわけもないしな。
おそらく勇者の力って奴は誰にでも与えられないのだろう。
素質のある者だけってところか。神も運がない。
〈確かにあれじゃ騙されることはあっても、道は踏み外さない。
言動はバカっぽいけど、聞く耳のない愚か者じゃない。
神々の思惑通りに動いてはくれないでしょうね、あなたのように〉
「ふ、なんだ。ずいぶん肩持つじゃないか。気に入ったか?
なんなら明日にでも渡してやろうか?」
そのほうが口やかましい相棒と邪魔な二代目がここから去ってくれる。
〈冗談、私のマスターはあなただけよ。それ以外はお断りするわ〉
「クワの分際で偉そうに」
〈クワにしたのはあなたでしょうに。
ひどいわ、女が自らを変異させてでもついてきたというのに捨てるのね〉
オイオイ、とへたくそな泣き真似をするクワ。もとい。
「まあ、これが聖剣ナナシバの今の姿っていっても誰も信じないだろうな」
神が与えた聖剣ナナシバ。その正体は不定形の剣。
刃さえあるならどんな形にもなる名無しの七変化する刃。ゆえにナナシバ。
ずいぶんと神とやらはネーミングセンスがない。
もっとも。
〈…………そういえば私、そんな名前の聖剣だったわね〉
「忘れてたのかよ!?」
本クワ、いや本剣にすら忘れられているのだから、このざまぁ、だが。
〈……まあ冗談はさておいて、ようやくここまできたわね。
まさか5年でここまでの品種改良が進むとは思わなかったけど〉
「聖剣効果さまさまだな。聖なる生き物には祝福を、ってか?」
ああ、それだけは感謝してやろう。ヒューマンの神。
〈で、本当にやる気なの、それ……世界は間違いなく大混乱に陥るわよ?〉
「はっ、今更なにを。
神とやらが望むように勇者として、世界を救ってやるだけさ」
ただし俺流のやり方でな。くくっ。
〈それ絶対善良な勇者さまの笑い方じゃないわよ。
お主も悪よのぉ、御用聞き〉
「いえいえご領主さまこそ、ってなんで俺が悪徳商人役だよ!?」
立場的に逆だろうが!
といえば先にいったもん勝ちだという聖剣さまである。
おのれ、明日もこき使ってやる!
無論、クワとしてな!
〈え、聖剣? なにそれおいしいの?〉
「お前がいうな!!」
こいつクワとして使い過ぎたか。
もしかしてもうこいつ聖剣に戻れないんじゃなかろうか?




