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サテライト生まれの評価A

 2350年現在、AIと科学技術の発展が行き過ぎた結果人類は使う側と使われる側に分かれることになった。


 政府が21世紀初頭に掲げた「22世紀ミライ計画」は、当時急速に発展を始めたAI産業を活用した新しい日本の形だった。少子高齢化によって働き手は不足し、介護を必要とする高齢者は増える一方だったが、AIや機械技術の活用によってそれらを上手く解消することが主要な目的のはずだった。


 しかし、AIと人間の調和によってよりよい社会を目指すという理想は達成されなかった。


 ・

 

 「真田、今回の定期検査のけっかはどうだった?」

 

 検査結果の入った封筒を開けた時から隣でソワソワしていたクラスメイトの桜井が、真田が結果にひとしきり目を通したであろうタイミングでようやく声をかけてきた。


 「A。今回もA。行けそうだぜ。俺」


 「そっかぁ。遂にだな。俺も自分のことのように嬉しいよ。真田はサテライトの誇りだよ」

 

 桜井は真田の返答に目を輝かせ、安堵の声とともに肩を掴んで抱き寄せた。真田もホッとし、桜井に身を委ねて二人で抱き合って喜びをかみしめた。


 真田は抱き合う桜井の背中越しに、机の上にむき出しで置かれたままの桜井の定期検査の結果の紙が目に入った。


 B。検査結果用紙の右上には周りの文字よりも太字で書かれたBの字が印字されていた。その意味を知っている真田はあえて桜井に対して結果を問うようなことはしなかった。


 「寂しくなるな」


 ボソッと真田が呟くと、桜井も少しだけ俯いた。が、それも一瞬のことだった。


 「真田、応援してるよ。本当に」


 「あぁ」


 力強く真田は相槌を打った。


 ・


 真田は定期検査の結果を受け取った後、諸々の書類や手続きを済ませる必要があり、気がつけば帰宅する頃には外は真っ暗になっていた。


 それというのも、真田は定期検査で3回連続Aの評価を手に入れたからである。現在の日本ではAIや科学技術の発展により残酷なまでに社会の状況は変化した。AIによって仕事の大多数が奪われることになり、結果としてAIよりも劣ると判断された人間は失敗作の烙印を押されることになる。それがこの定期検査である。


 高校生までの子供は1年毎に定期検査が義務付けられ、AIが遺伝子情報を正確に解析し、その人間が持つ潜在能力、現在の能力を評価として与えるシステムである。基本的には努力で評価が上がることはない。もっとも、定期検査には学力検査もあり、遺伝子検査より比重は低いものの、一定の評価は与えられる。

 

 評価はアルファベットのAからEまであり、与えられた評価によって高校生の時点ですでに将来の自分の就くべき職業が拒否権なく割り振られる。が、それもここ「サテライト」での話である。


 「サテライト」とは、日本の旧東京23区外全ての地域を指す蔑称である。今でこそ蔑称と言いつつサテライトという呼び名が定着したが、この定期検査の制度が始まった当初は大きな問題となったらしい。


 そして、かつての東京23区、現在の「ミライ地区」には一部の評価Aの者からSSSの人間が暮らしている。つまり、評価A以下のものはサテライトに追いやられ、中央に位置するミライ地区には高評価を有する優秀な人物だけが集められたのである。


 ミライ地区とサテライトに分断されてからというもの、サテライトは荒廃した。建物は老朽化し、住む場所も公営団地に強制され、贅沢は許されなくなった。AIと科学技術によってよりよい社会を築くという構想は、当初期待した未来とは違う方向へと進み続けてしまったのである。対象的に、ミライ地区には高層ビルや遊園地、娯楽施設が並び、夜には街の明かりが夜が明けるまで街を照らしている。夜になると明かりがなくなるサテライトの人間は、ミライ地区を「電気の惑星」と呼ぶほどである。


 先ほど一部の評価Aの者もミライ地区で暮らすことが出来ると説明したが、真田が今回それに当たる。3回連続で評価Aを得たものは、ミライ地区へ立ち入ることを許可されるのである。これは、怠惰なS評価の人間よりも勤勉なA評価の人間の方が価値があるという実力主義的側面が反映されている。しかし、評価は遺伝的要素が強いだけに、本来サテライトの人間はせいぜいB +が良いところである。そして、サテライト出身でA以上が取れる人間は突然変異的にS評価以上の遺伝子を持って生まれた場合か、B +の評価を持った上で学力検査で高得点を取る以外にはない。つまり、結局のところ生まれた時点で評価B以下ではどんなに学業に心血を注いでもミライ地区へは辿り着けない。


 高校3年生に上がる直前、Aを2連続で獲得していた真田にとって今回は最後のチャンスだった。自分の人生を変えるため、何がなんでもAを取る必要があった。


 そして結果はA。遺伝子検査B +に学力検査満点のS評価。総合評価Aとなった。


 真田は明かりのない家までの道を慣れた足取りで足早に進む。早く帰って両親に伝えたかったのだ。真田がミライ地区へ進めば両親も共にミライ地区への移住が許される。選べる仕事は制限されるがそれもサテライトでの暮らしに比べればなんのことはない。


 4月から真田はミライ地区の高校に編入し、両親と共に新しい生活を始めるのだ。長い手続きも面倒臭い書類も、帰りが遅くなってしまったことも全てどうでも良くなるほどに真田は心底安堵し、歓喜していた。


 新生活を想像しながら歩き、自宅まであと数分というところで、真田は異変を感じた。


 サテライトの住宅街では車や電車の類のものは近くにないはずなのであるが、電動式の何かが動く駆動音のようなものが背後から聞こえてきたのである。そう、学校や検査場にいる管理ドロイドが動く時のような音である。


 振り返ると、遠くから円筒形の1.5mほどのドロイドが目を赤く光らせてこちらに向かってスピードを上げながら直進してくる。


 「警備用ドロイド!?どうしてここに」


 真田は近づいてくるドロイドが警備用のドロイドだということに気がついた。それも、ミライ地区とサテライトの境界を警備する高性能なS型ドロイドである。


 警察も9割がAIが搭載された多種多様なドロイドによって編成されている現在では、基本的現場の警備は全てドロイドが行っている。そして、ミライ地区にサテライトの人間が入らないよう、高性能AIによる識別センサーがついたS型ドロイドがミライ地区を警備しているが、サテライトにはそんな高性能なドロイドはいない。そのため、真田知識として知っていても直にS型ドロイドを見るのは初めてだった。


 「排除、排除」


 近づいてくるドロイドに戸惑いつつも真田は道の端に避けようとした。が、それが失策だった。S型ドロイドは遠くから真田に向かって、まるで目のように光る2つの赤い識別センサーを向けた。


 「サナダ、サナダ・ジン。確認、サナダ・ジン確認」


 S型ドロイドはセンサーから真田を読み取ると、さらに動きを早めた。


 「カクホ、カクホ」


 「!!!!!」


 真田ははっきりS型ドロイドの口(?)から確保という言葉を聞いて一気に走り出した。


 真田は事態が飲み込めずパニックに陥りながらも考えた。しかし、S型ドロイドに追いかけ回されるようなことは何もしていない。全くどうして今このタイミングで追われているのか理解できなかった。


 しかし、捕まってしまえはどうなるかは分かる。警察にどう弁明しようと判断がひっくり返ることはない。警備用ドロイドを盲信する警察はドロイドの判断を優先するだろう。サテライトの人間ともなればドロイドよりも信頼されていないことは痛いほど分かっている。


 そして、一度捕まれば評価に取り返しのつかない泥が塗られることになる。サテライトの人間は定期検査の評価など諦めている人間が多いためかドロイドに鬱憤ばらしをして捕まる例が後をたたない。そして捕まった人間がどうなるかは誰でも知っている。一生ドロイド工場での服役である。運良く服役を免れても評価の落ちた人間は今まで通りの生活を送ることはできない。


 それを理解している真田は持てる力全てを使って逃げた。現時点でまだ学生であり評価Aの真田はきっと捕まろうが服役はない。もっともそんなことは問題ではない。捕まればやっとの思いで目の前まできたミライ地区での生活はなくなる。


 「カクホ、カクホ」


 前だけ見て全力で逃げる真田だが、背後の音は距離が近くなる一方である。


 「カクホ、カクホ」


 異変に気がついてから時間にして30秒ほど走ったが、振り返らずとも真田の真後ろにS型ドロイドが追いついたことは分かった。


 真田は走るのをやめ、ゆっくりと振り返った。


 「サナダ・ジン。カクホ。これより、移送、カイシ」

 

 「…なんだんだよ。ちくしょう!!」


 真田はどうにもならない状況であることを理解しつつも叫ばずにはいられなかった。


 しかし、その声が誰かに届くことはなく、次の瞬間にはS型ドロイドが円筒形のボディの側面から伸ばした棒状のスタンガンを真田に当てた。


 真田は理解の出来ない理不尽な状況に悔しさを覚えつつも、スタンガンの電撃により一瞬にして意識を失った。

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