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婚約破棄するというなら、こちらにも手がございます。

作者: 菜湖々
掲載日:2026/03/18

展開がポンポン進むので、繋ぎ方が変な可能性が…


 「アレン様?今日は、婚約者は大丈夫なんですかぁ?」

 「あぁ、エリィ。君の為なら僕はすぐにでもあいつなんかとは()()()()して君と一緒に過ごしたいよ。」


 薄暗い路地。男女二人が甘い言葉をささやきながら抱きしめあっている。


 婚約破棄。それは困りますね…それにしてもよくもまあ婚約者がいる身でこんなことできますね…今更ですけれど。


 もはやあきれを通り越して笑いしか出てこない口をふさぎながら、私ーレミアーネ・フィリーナは考え事をしていました。さて、あの二人にどうやって地獄を見せるかー。



 **

 数年前


 わが家ーフィリーナ侯爵家に正式に婚約の申し込みがやってきました。お相手は第1王子アレン様。

 別に断る理由もなかったですし、王子殿下と婚約できるなんて大変な名誉です。お父様はノリノリでした。私も秀才と言われている殿下との婚約はやはりうれしいものでした。


 「レミアーネ様。これからよろしくお願いします。」

 アレン様は初対面の時、丁寧にあいさつをしてくれ、けっこう好感を抱きました。


 「初めまして。レミアーネ・フィリーナと申します。アレン様。婚約しているのですから、レミ、とお呼びくださいませ。」

 「いいですか?じゃあ…レミ。」


 私たちは最初のうちはうまくやっていました。

 週に一回は会っていましたし、おたがい贈り物をしたりして、仲良くやっていました。



 …ですが、いつからでしょう。殿下は、政務で忙しいからといってお茶会を欠席したり、贈り物が適当(ザツ)なものになっていきました。

 私は、最初のうちはおとなしく待っていました。ですが、何日も何日もそれが続くうち、不意にどうでもよくなりました。幸い、彼は公式な場やパーティーなどではきちんと表面をつくろってくれます。

 

 それならば、別にどうでもいいのでは?ビジネスパートナーでも、いいんじゃないかしら?

 そう思うようになっていきました。



 **

 「アレン様、お久しぶりでございます。」

 今日は珍しく殿下がお茶会に参加してきました。さすがに三か月に一回は顔を合わせておかないと思ったのでしょうか?


 「久しぶりだな。だが、今日もあまり長居はしていられない。仕事があるのだ。」

 殿下の仕事がないことくらい知っていましたが、笑顔という名の仮面を張り付けたまま、私は笑っておきました。

 

 「さようでございますか。今日は来月あるマリエンヌ侯爵夫人の舞踏会への参加をするか否かの話をしたく存じます。」

 「俺はどうでもいい。お前が決めろ。」

 はぁ。いつの間にか名前呼びも無くなっていますね。

 

 それにしても自分で決めろとは。参加しないといけないことぐらいわかっているはずなのに。ほんとにどうでもいいのでしょうか?


 そう考えていると、殿下の従者が殿下の耳になにか囁きました。

 「……ッ!ほんとうか、すぐに行く!」

 

 殿下は急に顔を赤くし、急いで立ち上がりました。

 「今日はもう帰らせてもらう。大事な用が入った。」

 へぇ。愛人とかですかね?


 「そうですか。それは残念でございますわ。」

 一応対面として悲しいです~みたいなことは言っておく。


 殿下はそのまま去りかけましたが、不意に立ち止まりました。

 「おい。このことは絶対に父上に言うんじゃないぞ。」

 まぁ。自分の対面だけは崩さないでいたいのですね。


 そんなこんなで私たちの間の愛情はすっかり冷え切り、殿下は別の女性に夢中のご様子です。

 

 それでも私は、表面をつくろってくれる限り何もしないつもりでしたのに…

 さすがに婚約破棄なんてされたら家の名に傷がついてしまいます。そんなことになったら、わが家は墜落するでしょうし、お父様も大変悲しまれるでしょう。



 …はぁ。仕方ないですね。()()しますか…



 **

 数日後


 私は、いつ婚約破棄されても大丈夫なように、殿下の悪事の証拠を調べることにしました。幸い、私は殿下と婚約した際に将来の王妃として勉学は叩き込まれたので、証拠集めに苦労することはありませんでした。


 エリィ男爵令嬢。見た目から大体性格の推測はできました。ピンク色の髪に、クルミ色の瞳。外見から見たらかわいらしい人に見えるのですが、一度口を開けば終わりです。甘ったるーい話し方は一部の人(殿下)には好評のようですが、大体の人からはけむたがられます。頭まで砂糖で出来ているのかというくらい勉強もできないそうです。

 その上、男の人に会ったら必ずと言っていいほど猫なで声ですり寄るのだとか。

 殿下もそれでつられたようです。

 まぁ、要は物珍しさで手を出したということでしょうか。そんな人を一時でも良い人だと思ったなんて。自分の見る目のなさに落胆します…



 というわけで、殿下とエリィ嬢のことを調べ、次のお茶会に備えました。


 **

 お茶会

 案の定また殿下はすぐに帰ってしまいましたが、私の優秀なメイドを後につかせました。

 彼女は密偵に優れているので、必ずや話を盗み聞きしてくれるでしょう。



 **

 あ、帰ってきたようです。

 「どうでした?」

 そう聞くと、彼女は目にうるうると涙をためて

 「お、お嬢様ー!」

 飛びついてきました。


 「どうしたの?」

 彼女の名前はリム。以前は子爵家の令嬢だったのですが、嫌な結婚を強いられようとしていたので、私のメイドとして迎え入れることにしたのです。


 「だって…お嬢様はこんなにお優しくてお綺麗なのに、あんなクズ男が婚約者だなんて。」

 

 クズ男…殿下をそんなふうに言えるのはリムくらいですね。


 「仕方ないわ。それより、いつと言っていました?」

 リムは忘れていたかのように慌てて涙を拭き手帳を取り出しました。


 「え、えーと…あのクズ…殿下とエリィ嬢が話していたことを盗み聞きしました。次のマリエンヌ侯爵夫人の舞踏会で婚約破棄を発表するつもりらしいです。なので、殿下はお嬢様のエスコートをなんやかんや理由を付けて断るつもりです。代わりに、エリィ嬢のエスコートを申し出るみたいです。」


 うん…

 「まさか侯爵夫人が開催する、招かれた立場の舞踏会で婚約破棄を発表するとは…。礼儀というものがなっていないようですね。」

 

 リムは顔を顰めながら

 「当たり前ですよ。あいつはもう秀才でもなんでもないんですから。」

 と吐き捨てました。


 まあとにかくいつ婚約破棄するのかは分かりました。私はその時のために証拠を集めるだけです。


 **

 舞踏会当日

 

 その日、控え室にいた私のところに殿下がノックもなしに入ってきました。

 そして、その傍にはリムが言っていたように、ピン色の髪の女性が立っていました。

 「レミアーネ、今日はお前のエスコートはできない。こちらの女性をエスコートする。」

 

 私は薄笑いを浮かべ言いました。

 「左様でございますか。」

 

 殿下は少し驚いたように身を目開きました。 

 「…何も言わないのだな。いつもなら貴族としてそんな事は常識に反するというだろう。」

 

 …そんな事は当たり前でしょう。

 その時、エリィ嬢が殿下の腕に擦り寄り、猫撫で声で、

 「もういいじゃありませんか?アレン様ぁ。早くいきましょ?」

 と言いました。殿下もそれで満足したようで、二人は部屋から出て行きました。…エリィ嬢がこちらを振り返り、勝ち誇ったような目をしたのは、気のせいではないでしょうね。

 

 **

 きらびやかな部屋に、豪奢なシャンデリアが天井に吊り下がっています。部屋のすみでは、一流のオーケストラが音楽を奏でています。


 マリアンヌ侯爵夫人からの挨拶が終わり、皆がいよいよパートナーと踊り出そうとした時、

 「少しよろしいだろうか!」

 と大声で言う声がありました。そう、殿下です。


 何なんだと目を向けた皆は、殿下の隣に立った女性が私ではないことに驚き、声を上げました。

 殿下は笑みを浮かべ、言い放ちました。


 「レミアーネ・フィリーナ!私は今ここに、お前との婚約破棄を発表する!」

 周りの貴族が驚きに声を上げた。

 …が。


 私は冷静に返事をしました。

 「殿下。どこに言っているのですか?」

 「…は?」

 殿下が声を上げた方向には、私はいません。全く別の女性に対して婚約破棄していたのです。


 はあ。婚約者を間違えるとは。この人の目はどうなっているのですかね…。

 「…それで、理由をお伺いしてもよろしいですか?」

 殿下はハッとしたように言いました。

 「…そ、そうだ!お前は私の可愛いエリィに陰口をたたいたり、物を壊したりしただろう!」

 「そんなことしていません。」

 「しらばっくれるな!何度もエリィから相談されたんだぞ!」

 

 …この人はエリィ嬢が嘘をついているとは考えれないのでしょうか?


 「証拠はございますか?」

 「証拠など必要ないだろう!エリィが言っているのだぞ!…エリィ、君が受けた悲しみを話してごらん。」

 エリィ嬢は可愛らしく震えながら言いました。

 「わ、私…ずっとレミアーネ様にいじめられて…耐えられなくって…」

 

 泣き真似がとってもお上手ですね…

 「そうですか。ですが、否定しておきます。まず、私はエリィ嬢と会ったことがございません。どうやったら私がエリィ嬢をいじめられるのですか?」

 「な、なんども私の家に押しかけてきたではないですか!…早く話してください。そうしたらまだ許す余地があります!」

 「あぁ、なんて優しいんだ!レミアーネ、お前とは大違いだ!」

 

 そこまで言って周りを見渡した二人は、その場の雰囲気に驚いていました。きっと私の事を皆が責めると思ったのでしょう。ですが、皆が訝しげな目を向けていたのは、殿下とエリィ嬢に対してでした。

 「何を言っているんだ?…レミアーネ様は婚約が決まってからずっと王宮に住んでいらっしゃっただろう。」

 そんな言葉が部屋中で囁かれました。

 殿下は何を言っているのかわからない様子です。


 「殿下。あなたはお忘れでしょうが、私はあなたとの婚約が決まってから、ずっと王宮で生活していました。王宮から一人で外に出た事はございません。」

 「そんなはずはない!一度も外に出たことがないなどありえん!…そうだ、一ヶ月に一度視察に出ていただろう!その時にエリィと接触したのだ!」

 「…視察に出ていた事はさすがに覚えていたのですね。ですが、その視察にはあなたも一緒でしたよ。」

 「…は?」

 

 そう。視察の際は、婚約している殿下も一緒に行っていたのです。


 「…そ、そんな…」


 ようやく黙る気になったようですね。

 それでは、こちらからも反撃しますか。


 「エリィ嬢。」

 私が声をかけると、エリィ嬢は目に涙をためてキッとこちらを見ました。

 「ひどいです!いくら私のことが気に入らないからって殿下を侮辱するなんて!」

 侮辱されたのは完全に私の方だと思いますけど。


 「エリィ嬢。あなたはまだ自分がされたことを分かっていないのですね。」

 「え?私が何かしましたか…?あ、()()()した事はごめんなさい!レミアーネ様じゃない人だったんです!勘違いしてたんです!…だから、許してくれますよね?」

 「…あなたは、()()()()という身分で()()()()である私の婚約者を略奪しただけでなく、私にいじめられたという嘘をついたのですよ。ごめんなさいで済むことではありません。」

 

 そこまで言ってようやく私が許す気ではない事が分かったようで、顔がどんどん青ざめていきました。

 「あ、あの…」

 「略奪した事、私に汚名をきせた事、相当な罰がくだるでしょうね。」

 すっかり意気消沈したエリィ嬢を横目に、私は殿下の方を向きました。


 「殿下。」

 殿下はエリィ嬢が嘘をついていた事に落ち込んでいました。

 「な、なんだ。私はエリィ嬢に誘惑されただけだ!私には何の罪もない!」


 「へぇ。そうですか。ですが、私は知っているんですよ。…国家の財産を少しずつ掠め取っているでしょう?」

 「っ…!そ、そんな事していない!証拠はあるのか!」

 図星だったようです。


 「殿下。私は、一日に一度、必ず帳簿を確認する立場にあるんですよ。帳簿が書かれた後、確認する秘書官ですから。」

 会場がざわついた。この事は一部の人間しか知らない事だったので、初耳の人も多かったでしょう。


 ですが殿下は、

 「ふん!そんなの証拠にはならん!お前が帳簿を書き換えれば済む事だ。」

 と反論してきました。


 ですが。

 「殿下…あなたは帳簿を最後に確認する人が誰だか知っていますか?」

 「どうせお前とグルだったんだろう。」


 あーあ。ついに、あってはならない事を口に出しましたね。当然、周りの貴族は知っているので、殿下の問題発言に色めき立っています。


 「私だ。」



 その姿を見た殿下は驚きで顔が赤く染まりました。

 「ち、父上!?」

 そうです。帳簿を最後に確認し、不正がないか見るのは陛下だったのです。

 この国で、陛下を疑うなど死刑当然。殿下の顔色はみるみる悪くなっていきました。


 「ち、違うのです父上!これは、きっと何かの間違いで…」

 「言い訳は無用だ。見苦しい。お前が国家の財産をとっていたのは分かっている。大人しく罪を認めろ。」


 殿下とエリィ嬢は力無く床にへたり込みました。


 「陛下。ご協力いただきありがとうございました。」

 私は陛下にお辞儀をしました。陛下は二人のことを冷たい目で見て、

 「エリィ男爵令嬢。侯爵令嬢の婚約者を略奪し、嘘でレミアーネ嬢を陥れようとした罪。

 アレン。エリィ男爵令嬢の話を証拠もなしに信じ、レミアーネ嬢との婚約を破棄し、さらに国家の財産を盗んだ罪。二人には、城の地下での投獄を命じる。一生罪をつぐなえ。」


 「そ、そんなの嫌ぁぁぁぁ!」

 「ち、父上!どうか、どうか、お許しを!」

 二人はこの世の終わりかのような声で叫び、殿下は私にも縋り付いてきました。

 

 「レミ、すまなかった!どうか許してくれ!」

 「もう婚約者ではないのですから、愛称で呼ばないでくださいませ?」

 二人の泣き叫ぶ声が遠ざかり、私は家族のもとへ向かいました。


 その後、あの二人は毎日許してくれと叫んでいるそうですが、私には関係ありません。


 ーーーーーENDーーーーー


ちょっと罰が重かったかな…?

最後まで読んでくださりありがとうございました!

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